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107:一世一代の大勝負(3)
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「いや見事」
「なかなかの余興でしたなあ」
「なんと美しい枝垂桜かしら。さすが茨様、確かな審美眼をお持ちだわ」
賞賛を聞きながら、扇と籠を手に茨の元へ戻ると、茨は口の端を歪めた。
「みすぼらしく卑しい小娘だが、どうやら花祈りとしての評価は上方修正せねばならんようだな。よくあの頑固な枝垂桜を咲かせた、褒めてやろう」
「ありがたき幸せでございます。しかし僭越ながら茨様、どうか労いのお言葉は朝陽くんや協力してくださった皆さまにかけてさしあげてください。皆さまの尽力がなければ成しえなかったことです」
頭を下げると、茨はくっくっと笑った。
「随分と殊勝だな。狐が私の手に落ちたのがよほど堪えたと見える」
「はい。どうか朝陽くんに酷いことはしないでください」
「とのことだが?」
「知りません。おれは茨様の僕です。茨様の気の向くままに」
茨に見つめられ、朝陽は眉一つ動かさずに言った。
これを見ている銀太はどんな顔をしているのだろう。
美緒は少しだけ眉尻を下げて悲しい顔をしてみせ、それから気を取り直すように笑顔を作った。
「……茨様。現世では花見にはお弁当と相場は決まっております。朝陽くんと腕によりをかけて作りましたので、どうぞ召し上がってください。取ってまいります」
美緒は二つの籠と扇を持って紅白幕の前に行き、そこにあった重箱を持って引き返した。
重箱は三重になっていてサイズも大きい。とても一人用ではないが、茨は大食いだと聞いている。これでも足りないくらいだろう。
「どうぞ」
茨は差し出した重箱を受け取って開いた。
一段目にはピリ辛のきんぴらごぼうに安納芋のレモン煮、だし巻き卵、じゃがいもの豚肉巻き、から揚げ、かぼちゃサラダ、ブロッコリー、プチトマト、豆腐と人参のミニハンバーグ、ひじきの煮物や漬物、等々。
二段目は四種類のいなり寿司におにぎり、三段目には三色団子やきなこもちといった和菓子が入っている。
和菓子だけは大量に作って客の分も用意した。
使用人たちが茶を淹れ、おしぼりや団子を配っているのを尻目に、美緒は尋ねた。
「いかがでしょう?」
「見た目は悪くないが、味はわからんな。この料理には毒が入っているのだろう?」
美緒は目を見開いた。
「そんな、まさか」
狼狽えそうになるのを隠し、三色団子を見て、慌てて目を逸らす。
茨はそれを見逃さなかったらしく、愉快そうに笑った。
「ごまかさずとも良いわ。力では敵わぬからと、へりくだって私に取り入り、隙を見て毒を盛るなどいかにも愚かな小娘の考えそうなことよ。お前が離れの屋敷で枝垂桜の精から何かを受け取ったと聞いておるのだ。その様子だと毒が入っているのは団子か」
「なかなかの余興でしたなあ」
「なんと美しい枝垂桜かしら。さすが茨様、確かな審美眼をお持ちだわ」
賞賛を聞きながら、扇と籠を手に茨の元へ戻ると、茨は口の端を歪めた。
「みすぼらしく卑しい小娘だが、どうやら花祈りとしての評価は上方修正せねばならんようだな。よくあの頑固な枝垂桜を咲かせた、褒めてやろう」
「ありがたき幸せでございます。しかし僭越ながら茨様、どうか労いのお言葉は朝陽くんや協力してくださった皆さまにかけてさしあげてください。皆さまの尽力がなければ成しえなかったことです」
頭を下げると、茨はくっくっと笑った。
「随分と殊勝だな。狐が私の手に落ちたのがよほど堪えたと見える」
「はい。どうか朝陽くんに酷いことはしないでください」
「とのことだが?」
「知りません。おれは茨様の僕です。茨様の気の向くままに」
茨に見つめられ、朝陽は眉一つ動かさずに言った。
これを見ている銀太はどんな顔をしているのだろう。
美緒は少しだけ眉尻を下げて悲しい顔をしてみせ、それから気を取り直すように笑顔を作った。
「……茨様。現世では花見にはお弁当と相場は決まっております。朝陽くんと腕によりをかけて作りましたので、どうぞ召し上がってください。取ってまいります」
美緒は二つの籠と扇を持って紅白幕の前に行き、そこにあった重箱を持って引き返した。
重箱は三重になっていてサイズも大きい。とても一人用ではないが、茨は大食いだと聞いている。これでも足りないくらいだろう。
「どうぞ」
茨は差し出した重箱を受け取って開いた。
一段目にはピリ辛のきんぴらごぼうに安納芋のレモン煮、だし巻き卵、じゃがいもの豚肉巻き、から揚げ、かぼちゃサラダ、ブロッコリー、プチトマト、豆腐と人参のミニハンバーグ、ひじきの煮物や漬物、等々。
二段目は四種類のいなり寿司におにぎり、三段目には三色団子やきなこもちといった和菓子が入っている。
和菓子だけは大量に作って客の分も用意した。
使用人たちが茶を淹れ、おしぼりや団子を配っているのを尻目に、美緒は尋ねた。
「いかがでしょう?」
「見た目は悪くないが、味はわからんな。この料理には毒が入っているのだろう?」
美緒は目を見開いた。
「そんな、まさか」
狼狽えそうになるのを隠し、三色団子を見て、慌てて目を逸らす。
茨はそれを見逃さなかったらしく、愉快そうに笑った。
「ごまかさずとも良いわ。力では敵わぬからと、へりくだって私に取り入り、隙を見て毒を盛るなどいかにも愚かな小娘の考えそうなことよ。お前が離れの屋敷で枝垂桜の精から何かを受け取ったと聞いておるのだ。その様子だと毒が入っているのは団子か」
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