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114:お母さんのみそ汁(1)
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アパートに戻って泥のように眠り、自然に目を覚ましたときにはとうに陽が高く昇っていた。
事件の翌日。日曜日の昼である。
「おはよう、美緒」
服を着替えてリビングに行くと、エプロン姿で台所に立っていた姫子が振り返った。
右手には包丁、左手で押さえているのはキャベツ。
細く綺麗に刻まれたキャベツが小山を作っている。
「……お母さん?」
「あれ、どうしてわかったの?」
姫子は――もとい、姫子に乗り移っている母は笑った。
「姫子ちゃんは料理できないもん」
優に振る舞いたいと言って姫子が料理に初挑戦したときは鍋が爆発し、中身――異臭を放つ緑色のドロドロした何か――が飛び散って悲惨なことになった。
「そうなのねー。うん、正解。姫子ちゃんにお願いして、しばらく身体を借りてるのよ」
母は包丁を置いて手を洗い、鍋に点火した。
鍋の中身はみそ汁だ。
みその香りに刺激されたらしく、腹の虫が小さく鳴いた。
長いこと爆睡していたおかげで胃は空っぽだ。
「朝陽くんと銀太くんは?」
「買い物に出かけてもらったわ。親子水入らずで話したかったの。十年ぶりに会ったわけだし。さ、ぼうっと突っ立ってないで顔を洗っておいで。すぐご飯の支度するから」
「……うん」
懐かしい記憶が蘇る。
朝起きると、母はいつもそう言った。
――顔を洗っておいで。すぐご飯の用意するからね。
(……お母さんだ。本当に、お母さんがいるんだ)
いまさらながら実感した。
顔を洗って戻ると、食卓には和風の料理が並んでいた。
白米にみそ汁、プチトマトを添えたサラダに目玉焼き、塩サーモン。
オプションとして漬物や佃煮もある。
母はにこにこしながら向かいに座った。
嬉しいような照れ臭いような、なんともいえない気分で手を合わせ、いただきますを言ってみそ汁を口に運ぶ。
(――あ)
鼻に抜けたみそ汁の香りと、その味が、一瞬で時間を十年前に引き戻した。
これは母のみそ汁だ。間違いない。
母の顔や声が曖昧になるほどの長い時を経ても、懐かしい匂いを、味を、身体が覚えていた。
(――ああ、やばい)
泣いてしまいそうだ。それも、子どものように声をあげて。
美緒はぐっと腹の底に力を込め、こみ上げる衝動を堪えて箸を進めた。
「あ、あのさ」
「うん?」
一言も喋らず、手料理を食べる自分をただ嬉しそうに見ていた母が首を傾げた。
事件の翌日。日曜日の昼である。
「おはよう、美緒」
服を着替えてリビングに行くと、エプロン姿で台所に立っていた姫子が振り返った。
右手には包丁、左手で押さえているのはキャベツ。
細く綺麗に刻まれたキャベツが小山を作っている。
「……お母さん?」
「あれ、どうしてわかったの?」
姫子は――もとい、姫子に乗り移っている母は笑った。
「姫子ちゃんは料理できないもん」
優に振る舞いたいと言って姫子が料理に初挑戦したときは鍋が爆発し、中身――異臭を放つ緑色のドロドロした何か――が飛び散って悲惨なことになった。
「そうなのねー。うん、正解。姫子ちゃんにお願いして、しばらく身体を借りてるのよ」
母は包丁を置いて手を洗い、鍋に点火した。
鍋の中身はみそ汁だ。
みその香りに刺激されたらしく、腹の虫が小さく鳴いた。
長いこと爆睡していたおかげで胃は空っぽだ。
「朝陽くんと銀太くんは?」
「買い物に出かけてもらったわ。親子水入らずで話したかったの。十年ぶりに会ったわけだし。さ、ぼうっと突っ立ってないで顔を洗っておいで。すぐご飯の支度するから」
「……うん」
懐かしい記憶が蘇る。
朝起きると、母はいつもそう言った。
――顔を洗っておいで。すぐご飯の用意するからね。
(……お母さんだ。本当に、お母さんがいるんだ)
いまさらながら実感した。
顔を洗って戻ると、食卓には和風の料理が並んでいた。
白米にみそ汁、プチトマトを添えたサラダに目玉焼き、塩サーモン。
オプションとして漬物や佃煮もある。
母はにこにこしながら向かいに座った。
嬉しいような照れ臭いような、なんともいえない気分で手を合わせ、いただきますを言ってみそ汁を口に運ぶ。
(――あ)
鼻に抜けたみそ汁の香りと、その味が、一瞬で時間を十年前に引き戻した。
これは母のみそ汁だ。間違いない。
母の顔や声が曖昧になるほどの長い時を経ても、懐かしい匂いを、味を、身体が覚えていた。
(――ああ、やばい)
泣いてしまいそうだ。それも、子どものように声をあげて。
美緒はぐっと腹の底に力を込め、こみ上げる衝動を堪えて箸を進めた。
「あ、あのさ」
「うん?」
一言も喋らず、手料理を食べる自分をただ嬉しそうに見ていた母が首を傾げた。
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