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116:お母さんのみそ汁(3)
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「お母さん、わたしのために人魚姫の絵本を作ってくれたけど、結末を変えたでしょう。小学校で友達に正しい物語を教えてもらったとき、物凄くびっくりしたんだから」
「ごめんごめん」
母は立ち上がり、隣に座って、美緒の頭を撫でた。
姫子の手だ。でも、動かしているのは母だ。母の意思だ。
「だってハッピーエンドじゃなきゃ嫌だったんだもの。物語の結末は、みんな笑顔でめでたしめでたし、が一番良いでしょう?」
「うん。でも、違うの。言いたいことはそうじゃなくて」
泣きながら、美緒は幼い頃、雪の舞う空を見上げたことを語った。
あの雪の日に美緒は人魚姫の正しい結末を知り、友達と人魚姫の話をしたことで、夜に枕元で自作の絵本を広げて読み聞かせてくれた母を思い出した。
だから、恋しくて。
もう一度、会いたくて、空を見上げたのだ。
雪の舞う空を見上げていれば、自分が空高く昇って行けるような気がしたから。
祖母は母が夜空の星になったと語ったから、そこまで昇っていけたら母に会えると思って。
あのとき、美緒は母を想って泣いた。
「ずっと、ずっと会いたかったんだよ。お母さんがいなくて寂しかったんだよ」
涙が後から後から溢れ、頰を濡らす。
「うん、うん。ごめんね」
母は顔を歪めて美緒を抱きしめた。
「我ながら男を見る目がなかったとは思うけど。でも一つだけ感謝してることがあるの。私にこんな可愛い娘を授けてくれたことよ。あの人がいなかったらあんたはこの世に存在しなかったものね。だからまあ、そこだけは素直に感謝しましょう」
美緒を強く抱きしめたまま、ぽんぽん、と母が背中を叩く。
昔も美緒が泣くとそうしてくれた。叩くリズムも変わらない。
懐かしい。同時に寂しい。
もう一度会えただけでも奇跡だとはわかっている。
(でも、叶うことならお母さんの手で、お母さんの声で、慰めて欲しかった)
生きていて欲しかった。
傍にいて欲しかった。
美緒は母の肩に顔を埋めて嗚咽した。
「ほらほら、いつまで泣いてるの。もう十年経ったのよ、小さかったあんたも立派なレディでしょうが」
「れ、レディなんて、大したものじゃ、ないけど」
しゃくりあげながら上体を起こす。
「大したものよお。ヨガクレとかいう異世界で働いて、あやかしから神さままで味方につけてるんだもの! 幼稚園児の頃から『川に河童がいる』とか『電信柱の裏に言葉を喋る狸がいた』とか言ってたからさ、あんたがお母さんと同じ特別な子だってことは知ってたけど、いやほんとびっくりよ。一体何がどうしたらそうなるの」
エプロンの裾を持ち上げて、母は美緒の涙を拭った。
微笑み、幼子に語りかけるような、優しい声で言う。
「だから、いままでのことを聞かせてちょうだい。泣いてる場合じゃないわよ、なにせ十年分よ? 語りつくすには時間がいくらあっても足りないわ。私、いつまでここにいられるかわからないんだから」
「そっか、そうだね。うん。話す。聞いてほしいこと、たくさんあるよ」
美緒は何度も頷いて、目元をこすった。
まずは何を話そうか。
美緒は母と微笑み合い、そして口を開いた。
「ごめんごめん」
母は立ち上がり、隣に座って、美緒の頭を撫でた。
姫子の手だ。でも、動かしているのは母だ。母の意思だ。
「だってハッピーエンドじゃなきゃ嫌だったんだもの。物語の結末は、みんな笑顔でめでたしめでたし、が一番良いでしょう?」
「うん。でも、違うの。言いたいことはそうじゃなくて」
泣きながら、美緒は幼い頃、雪の舞う空を見上げたことを語った。
あの雪の日に美緒は人魚姫の正しい結末を知り、友達と人魚姫の話をしたことで、夜に枕元で自作の絵本を広げて読み聞かせてくれた母を思い出した。
だから、恋しくて。
もう一度、会いたくて、空を見上げたのだ。
雪の舞う空を見上げていれば、自分が空高く昇って行けるような気がしたから。
祖母は母が夜空の星になったと語ったから、そこまで昇っていけたら母に会えると思って。
あのとき、美緒は母を想って泣いた。
「ずっと、ずっと会いたかったんだよ。お母さんがいなくて寂しかったんだよ」
涙が後から後から溢れ、頰を濡らす。
「うん、うん。ごめんね」
母は顔を歪めて美緒を抱きしめた。
「我ながら男を見る目がなかったとは思うけど。でも一つだけ感謝してることがあるの。私にこんな可愛い娘を授けてくれたことよ。あの人がいなかったらあんたはこの世に存在しなかったものね。だからまあ、そこだけは素直に感謝しましょう」
美緒を強く抱きしめたまま、ぽんぽん、と母が背中を叩く。
昔も美緒が泣くとそうしてくれた。叩くリズムも変わらない。
懐かしい。同時に寂しい。
もう一度会えただけでも奇跡だとはわかっている。
(でも、叶うことならお母さんの手で、お母さんの声で、慰めて欲しかった)
生きていて欲しかった。
傍にいて欲しかった。
美緒は母の肩に顔を埋めて嗚咽した。
「ほらほら、いつまで泣いてるの。もう十年経ったのよ、小さかったあんたも立派なレディでしょうが」
「れ、レディなんて、大したものじゃ、ないけど」
しゃくりあげながら上体を起こす。
「大したものよお。ヨガクレとかいう異世界で働いて、あやかしから神さままで味方につけてるんだもの! 幼稚園児の頃から『川に河童がいる』とか『電信柱の裏に言葉を喋る狸がいた』とか言ってたからさ、あんたがお母さんと同じ特別な子だってことは知ってたけど、いやほんとびっくりよ。一体何がどうしたらそうなるの」
エプロンの裾を持ち上げて、母は美緒の涙を拭った。
微笑み、幼子に語りかけるような、優しい声で言う。
「だから、いままでのことを聞かせてちょうだい。泣いてる場合じゃないわよ、なにせ十年分よ? 語りつくすには時間がいくらあっても足りないわ。私、いつまでここにいられるかわからないんだから」
「そっか、そうだね。うん。話す。聞いてほしいこと、たくさんあるよ」
美緒は何度も頷いて、目元をこすった。
まずは何を話そうか。
美緒は母と微笑み合い、そして口を開いた。
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