19 / 52
19:恋愛に発展する兆しは?
しおりを挟む
ラスファルの領主バートラムはエンドリーネ伯爵家の私設軍隊、ラスファル軍の総司令官だ。
兵士志願者の入隊の可否の最終決定権は彼にあるため、彼に認められれば入隊試験は免除となる。
ノエルと互角の勝負をしたジオはその実力を高く評価され、一足飛びでユリウスの近衛騎士に抜擢された。
濃紺の軍服に着替え、その腰に剣を佩いたジオは昼食を摂った後、ユリウスと共に伯爵家の馬車に乗ってエスロの街へと向かった。
エスロの街はロドリー王国でも有数の景勝地で、そこにはラザフォード侯爵の別荘がある。
今日ユリウスはラザフォード侯爵の別邸で令嬢エマとお茶会をする予定だった。
「ユーリ様、大丈夫かしら……」
小雨が降って来たため洗濯物を取り込んだセラがサロンにやってきて、窓の外を見ながら呟くように言った。
今年の春、結婚式当日に花嫁に逃げられたユリウスは女性不信となり、同時に女性恐怖症にもなった。
セラのおかげでかなり克服できたらしいが、それでも完全とは言えない。
ルーシェはおとついの夜、厨房で水を飲んでいた彼を見つけて挨拶した。
すると彼は驚いて悲鳴を上げ、転んで調理台に頭をぶつけた。
頭を押さえて悶絶する彼にルーシェは平謝りしたのだった。
「大丈夫だろう。お茶会といっても今日は簡単な挨拶程度に留めるだろうし、ユーリの具合が悪そうだったらジオが強制的に中断させるはずだ。今朝のメグとのやり取りを見ただろう。あいつは驚くほど人を良く見てる。剣の腕はもちろん、人格的にも信頼して良いと思う」
リュオンはセラの肩を叩いた。
「……そうね。信じましょう」
セラは目を伏せた後で、ふと微笑んでルーシェを見た。
「ルーシェ、良かったわね。ジオがユーリ様の近衛騎士になって。もし一般兵となっていたら、ジオは寮生活をすることになっていたもの。これで離れ離れにならなくて済んだわね」
「べっ、別にわたしは離れ離れになっても全然問題なかったわよ!?」
頬を赤くし、上擦る声で言う。
「あら。これからもジオと一緒に暮らせるとわかったとき、私にはルーシェがすごく嬉しそうに見えたけれど?」
セラはくすくす笑う。
「嬉しそうな顔なんてしてないし!! 全然ちっともしてないし!!」
「いや、おれも嬉しそうだと思ったけど」
「わかりやすいわよね。ルーシェもジオも――」
「止めて! 違うから!! 本当にあいつとわたしはなんでもないからっ!!」
辺りが真っ暗に染まった雨の夜。
そろそろ夕食、という時刻にユリウスとジオは帰ってきた。
「お帰りなさい、兄さん。お茶会はどうだった?」
玄関ホールで出迎えた面々のうち、真っ先に尋ねたのはノエルだ。
「ああ。ラザフォード侯爵と夫人にご挨拶もできたし、実りのある良いお茶会だったぞ。着替えてくる」
首にクラヴァットを締めているユリウスは自分の部屋へ向かった。
「……。それだけ?」
兄の感想に物足りなさを感じたらしく、ノエルはジオを見た。
「ねえジオ、遠目から見ていてどうだった? 兄さんとラザフォード嬢が恋愛に発展するような兆しはなかったの?」
「いや、そんな兆しは全くなさそうだったぞ。エマは終始顔を赤くして恥ずかしそうにしてたけど、ユリウスは鉄壁の笑顔だったな。そつなく愛想を振りまいて、適度に話題を振って、『私はいま伯爵家嫡男として人脈作りに励んでます』って感じがありありと……なんつーか、見てて恋心が丸わかりな分、エマが可哀想だったわ……まあ、それでもエマは幸せそうだったけどな。最後にまたお会いしましょうってユリウスが笑顔で挨拶したとき、背後に花が咲いてたし」
「うーん。そうか……でも、初回ならそんなものかな……」
難しい顔で唸り、ノエルは顎に手を当てた。
「……ノエルは二人に結婚してほしいのか?」
ジオが尋ねると、ノエルは銀色の髪を揺らして首を振った。
「いや、特別ラザフォード嬢にこだわってるわけじゃないよ。相応の身分があって、兄さんを心から愛し、幸せにしてくれる女性ならそれでいいんだ。ラザフォード嬢が駄目なら他の貴族女性を探せばいいと思ってる」
「……私はエマ様と結ばれて欲しいと思っていますけども……」
小さな声でセラが言った。恋の対象は違えど、同じく恋する女性としてはエマに肩入れせずにはいられないらしい。
皆で相談した結果、ユリウス本人にエマをどう思っているのか聞いてみることになった。
兵士志願者の入隊の可否の最終決定権は彼にあるため、彼に認められれば入隊試験は免除となる。
ノエルと互角の勝負をしたジオはその実力を高く評価され、一足飛びでユリウスの近衛騎士に抜擢された。
濃紺の軍服に着替え、その腰に剣を佩いたジオは昼食を摂った後、ユリウスと共に伯爵家の馬車に乗ってエスロの街へと向かった。
エスロの街はロドリー王国でも有数の景勝地で、そこにはラザフォード侯爵の別荘がある。
今日ユリウスはラザフォード侯爵の別邸で令嬢エマとお茶会をする予定だった。
「ユーリ様、大丈夫かしら……」
小雨が降って来たため洗濯物を取り込んだセラがサロンにやってきて、窓の外を見ながら呟くように言った。
今年の春、結婚式当日に花嫁に逃げられたユリウスは女性不信となり、同時に女性恐怖症にもなった。
セラのおかげでかなり克服できたらしいが、それでも完全とは言えない。
ルーシェはおとついの夜、厨房で水を飲んでいた彼を見つけて挨拶した。
すると彼は驚いて悲鳴を上げ、転んで調理台に頭をぶつけた。
頭を押さえて悶絶する彼にルーシェは平謝りしたのだった。
「大丈夫だろう。お茶会といっても今日は簡単な挨拶程度に留めるだろうし、ユーリの具合が悪そうだったらジオが強制的に中断させるはずだ。今朝のメグとのやり取りを見ただろう。あいつは驚くほど人を良く見てる。剣の腕はもちろん、人格的にも信頼して良いと思う」
リュオンはセラの肩を叩いた。
「……そうね。信じましょう」
セラは目を伏せた後で、ふと微笑んでルーシェを見た。
「ルーシェ、良かったわね。ジオがユーリ様の近衛騎士になって。もし一般兵となっていたら、ジオは寮生活をすることになっていたもの。これで離れ離れにならなくて済んだわね」
「べっ、別にわたしは離れ離れになっても全然問題なかったわよ!?」
頬を赤くし、上擦る声で言う。
「あら。これからもジオと一緒に暮らせるとわかったとき、私にはルーシェがすごく嬉しそうに見えたけれど?」
セラはくすくす笑う。
「嬉しそうな顔なんてしてないし!! 全然ちっともしてないし!!」
「いや、おれも嬉しそうだと思ったけど」
「わかりやすいわよね。ルーシェもジオも――」
「止めて! 違うから!! 本当にあいつとわたしはなんでもないからっ!!」
辺りが真っ暗に染まった雨の夜。
そろそろ夕食、という時刻にユリウスとジオは帰ってきた。
「お帰りなさい、兄さん。お茶会はどうだった?」
玄関ホールで出迎えた面々のうち、真っ先に尋ねたのはノエルだ。
「ああ。ラザフォード侯爵と夫人にご挨拶もできたし、実りのある良いお茶会だったぞ。着替えてくる」
首にクラヴァットを締めているユリウスは自分の部屋へ向かった。
「……。それだけ?」
兄の感想に物足りなさを感じたらしく、ノエルはジオを見た。
「ねえジオ、遠目から見ていてどうだった? 兄さんとラザフォード嬢が恋愛に発展するような兆しはなかったの?」
「いや、そんな兆しは全くなさそうだったぞ。エマは終始顔を赤くして恥ずかしそうにしてたけど、ユリウスは鉄壁の笑顔だったな。そつなく愛想を振りまいて、適度に話題を振って、『私はいま伯爵家嫡男として人脈作りに励んでます』って感じがありありと……なんつーか、見てて恋心が丸わかりな分、エマが可哀想だったわ……まあ、それでもエマは幸せそうだったけどな。最後にまたお会いしましょうってユリウスが笑顔で挨拶したとき、背後に花が咲いてたし」
「うーん。そうか……でも、初回ならそんなものかな……」
難しい顔で唸り、ノエルは顎に手を当てた。
「……ノエルは二人に結婚してほしいのか?」
ジオが尋ねると、ノエルは銀色の髪を揺らして首を振った。
「いや、特別ラザフォード嬢にこだわってるわけじゃないよ。相応の身分があって、兄さんを心から愛し、幸せにしてくれる女性ならそれでいいんだ。ラザフォード嬢が駄目なら他の貴族女性を探せばいいと思ってる」
「……私はエマ様と結ばれて欲しいと思っていますけども……」
小さな声でセラが言った。恋の対象は違えど、同じく恋する女性としてはエマに肩入れせずにはいられないらしい。
皆で相談した結果、ユリウス本人にエマをどう思っているのか聞いてみることになった。
239
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
【本編完結済み】二人は常に手を繋ぐ
もも野はち助
恋愛
【あらすじ】6歳になると受けさせられる魔力測定で、微弱の初級魔法しか使えないと判定された子爵令嬢のロナリアは、魔法学園に入学出来ない事で落胆していた。すると母レナリアが気分転換にと、自分の親友宅へとロナリアを連れ出す。そこで出会った同年齢の伯爵家三男リュカスも魔法が使えないという判定を受け、酷く落ち込んでいた。そんな似た境遇の二人はお互いを慰め合っていると、ひょんなことからロナリアと接している時だけ、リュカスが上級魔法限定で使える事が分かり、二人は翌年7歳になると一緒に王立魔法学園に通える事となる。この物語は、そんな二人が手を繋ぎながら成長していくお話。
※魔法設定有りですが、対人で使用する展開はございません。ですが魔獣にぶっ放してる時があります。
★本編は16話完結済み★
番外編は今後も更新を追加する可能性が高いですが、2024年2月現在は切りの良いところまで書きあげている為、作品を一度完結処理しております。
※尚『小説家になろう』でも投稿している作品になります。
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~
放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」
最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!?
ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる