婚約破棄された《人形姫》は自由に生きると決めました

星名柚花

文字の大きさ
21 / 52

21:緊急会議

しおりを挟む
 ユリウスが自室に引っ込んだ後、別館のサロンでは緊急会議が開かれた。

 もちろん議題はユリウスのことである。

 生涯独身でも構わないと言っていたが、ユリウスは由緒正しいエンドリーネ伯爵家の長男。

 家を継ぎ、子孫を残すのは貴族として生まれた彼の義務。
 それは彼も重々承知の上のはずで――だからこそ、事態はより一層深刻なのだった。

「どうしたものかなあ……」

 雨が陰気な音を立ててサロンの窓を叩く中。
 兄想いなノエルは向かいの長椅子に座り、眉間に皺を寄せてため息をついている。

 メグは我関せずという顔で静かに紅茶を啜っていた。

「……過去に戻れたらエリシアを事故に見せかけて暗殺するんだけどなあ……」
「ノエル。気持ちはわかるが、そんなことを言っては駄目だ。今日は朝から殺意が高すぎるぞ。少し落ち着け」
 リュオンに指摘され、痛いところを突かれたようにノエルは黙り込んだ。

「ねえ、ノエル。エリシアってどんな女性だったの?」
 ルーシェは思い切って尋ねてみた。
 この家ではその名前自体が禁忌とされていたが、こうなったらとことん彼女のことを知りたかった。

「……顔は良かったよ。顔はね」
 それきり、ノエルは何も言おうとしない。
 兄を裏切った女性のことなど口にするのも嫌らしい。

 ユリウスとは長い付き合いであるリュオンに目を向けると、彼はどう説明したものかな、という顔をして言った。

「陽に透ける薄茶色の髪にエメラルドの瞳。右目の下には特徴的な黒子があって、身長はセラより少し低いくらいかな。確かに美人だったよ。セラには負けるけど」
「私を比較対象にしなくていいから」
 リュオンの隣に座っているセラの頬はわずかに赤い。

「ノエルは絵が上手いから、描いてくれたらすぐに雰囲気が伝わると思うんだが……」
「あの女をぼくに描けと? 何それ新手の拷問?」
 絶対零度の目でノエルはリュオンを見返した。

「……この通りだからな。とにかく、優しくて可愛らしい、おっとりした感じの女性だった。おれの見た限りでは」

「ふうん。親に決められた婚約者同士、初めから愛なんてなかったのかもしれないけど、何も結婚式当日に駆け落ちすることはないのに……あんまりよね。もしわたしがそれをやられたら立ち直れないわよ……」

(そういう意味では、デルニス様に早々に婚約破棄してもらって助かったかもなあ)
 などと考え、雨の音を聞きながら、皆で黙していると。

「あのさ。行方をくらましたエリシアの居場所を突き止めねーか?」
 ジオが口を開いた。

「突き止めてどうするの?」
 ノエルがテーブルの一点からジオへと目の焦点を移動させた。

「決まってる。頭を踏みつけてでもユリウスの前で跪かせて、誠心誠意詫びさせるんだよ」
 とんでもないことをジオは平然と言い放った。

「……そうしたいのはやまやまだけど、レネル伯爵家からは慰謝料を貰ってるし、愚かな娘をどうか許してやってくれ、危害を加えないでくれって、わざとらしく公衆の面前で叫ばれたんだよ。王家も見てる前で跪かれたら許さないわけにもいかず、父上は書類にサインもしてるんだ。下手なことをすればこっちが訴えられる。エンドリーネの名前に傷がつく」

(ああ。レネル伯爵は正しくエンドリーネ伯爵一家のことを評価していたんだ)

 レネル伯爵が先手を打っていなければ、このやたらと血の気の多い親子は――特にスザンヌとノエルは――ユリウスを傷つけたエリシアを地の果てまで追いかけて血祭りにしていたことだろう。

「……面倒くせーな、貴族ってやつは」
 ジオはため息をついて頭を掻いた。

「なら、オレがユリウスの護衛騎士を辞めた後でぶん殴るのも駄目か? 伯爵家に迷惑がかかる?」

「何を言い出すのよジオ。あなた、今日護衛騎士になったばかりでしょ。一時の感情で仕事を失うつもり? 馬鹿なこと言わないで」
 ルーシェはジオの手を引っ張った。

「解雇されてもいーよ。それよりユリウスを傷つけたクソ女を殴りたい」
「ちょっと……」
 手を振り払われたことで本気を悟り、肌が粟立つ。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【本編完結済み】二人は常に手を繋ぐ

もも野はち助
恋愛
【あらすじ】6歳になると受けさせられる魔力測定で、微弱の初級魔法しか使えないと判定された子爵令嬢のロナリアは、魔法学園に入学出来ない事で落胆していた。すると母レナリアが気分転換にと、自分の親友宅へとロナリアを連れ出す。そこで出会った同年齢の伯爵家三男リュカスも魔法が使えないという判定を受け、酷く落ち込んでいた。そんな似た境遇の二人はお互いを慰め合っていると、ひょんなことからロナリアと接している時だけ、リュカスが上級魔法限定で使える事が分かり、二人は翌年7歳になると一緒に王立魔法学園に通える事となる。この物語は、そんな二人が手を繋ぎながら成長していくお話。 ※魔法設定有りですが、対人で使用する展開はございません。ですが魔獣にぶっ放してる時があります。 ★本編は16話完結済み★ 番外編は今後も更新を追加する可能性が高いですが、2024年2月現在は切りの良いところまで書きあげている為、作品を一度完結処理しております。 ※尚『小説家になろう』でも投稿している作品になります。

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~

放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」 最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!? ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...