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13:エンドリーネ伯爵邸にて(2)
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「兄さん。たったいま奇妙な友情が成立したようなんだけど、この二人、危険じゃない? 恋人のためなら本当に人を殺しそうだよ? 放置して大丈夫かな?」
「まあ、なんだかんだ言っても最後の一線は超えないだろう。多分……そうだといいな……」
ユリウスとノエルが何やら小声で囁き合う一方で、リュオンとジオは何事もなかったように着席した。
「ええと……ところでリュオン?」
呼び掛けると、座ったばかりのリュオンがこちらを向いた。
「答えにくい質問なら答えなくても良いんだけれど。どうしても気になるから、聞くだけ聞かせてちょうだい。どうしてあなたは魔法を使わず、メグがこの街の守護結界を張っているの?」
ぴりっ――と、サロンの空気がひりついた。
問われた当人であるリュオンとメグ、エンドリーネ伯爵夫妻は特に大げさな反応をしなかったが、セラたちは一様に驚いた顔をしている。
(やっぱり)
彼女たちの表情を見てルーシェは確信した。
「ルーシェおねーちゃん、何を言ってるの? メグは人間だよ? ほら、よく見てよ。目に《魔力環》がないでしょ?」
無垢な子どものように、メグは自分の目を指さして首を傾げた。
「ええ、だからわたしも最初は気のせいかもしれないと思ったわ。でもメグの身体からは微弱な魔力を感じるの。隠そうとしても隠しきれない魔力を。どうしてそんなことをしているのかわからないけれど、あなたは人間のふりをしている魔女よね? 恐らくは禁じられた変身魔法を自分に使っているのでしょう? セラはさっきユリウス様を猫にした魔女の名前を言わなかったけれど、犯人はあなたじゃない?」
「………………」
「一応これでも《国守りの魔女》だったから、わかるのよ。あなたの魔力は途方もなく大きい。底が知れない……あなたの本当の名前はドロシー・ユーグレース?」
ドロシー・ユーグレース。それは世界最強と謳われる魔女の名だ。
「……有名になんてなるもんじゃないわねー」
メグはがらりと口調を変えて肩を竦めた。
「お見事、正解よ。ユリウスを猫にした犯人もあたしです。でもさ、この身体でいる間はメグってことにしておいて。あたしがここにいるってバレたら面倒くさいのよ、色々と。ジオも内緒にしてといてよね」
「ああ」
「わかったわ、メグ。どうしてここにいるのか聞いてもいい?」
「んー、なんていうか。リュオンが愛してやまないセラにあたしが余計なちょっかいを出したもんだから、リュオンが本気で怒ってね。その結果、リュオンは一時的に魔法が使えない状態になったのよ。リュオンが再び魔法が使えるようになるまで、あたしは罪滅ぼしに無料奉仕してるってわけ」
「……。リュオンが頭に包帯を巻いているのはそのせいなの?」
包帯に覆われたリュオンの右目を見て言う。
「ええ。外傷を負っているわけじゃないんだけど、ある意味、彼はいま怪我人だからね。包帯を巻いとけば怪我を負ってる自覚が生まれるかなと思って、眼帯じゃなくて包帯を巻かせてるの。セラのためならどんな無茶もやりかねないからね、この子は――じゃない、この人は」
「この子?」
まるで自分がはるかに年上であるかのような物言いだ。
「気にしないで、ただの言い間違いよ。それはともかく、ルーシェとジオはこれからどうするの? ラスファルで職探しするの?」
「ええ、そのつもり。この街にはリュオンがいるのだから《国守りの魔女》――いえ、この場合は《街守りの魔女》かしら。《街守りの魔女》は必要ないでしょう?」
「そんなことはないんじゃないかしら?」
口を挟んだのは軽く身を乗り出したセラだ。
「え?」
「だって、街を守る魔女が何人いても問題はないでしょう? 前から思ってたのよ。リュオンが一人でずっと守護結界を張り続けるのは負担が大きすぎるんじゃないかしらって。他の街や王都では複数の魔女が交代制で結界を張っていると聞いたわ。ラスファルでもそうしたほうがいいと思う」
セラはそこで窺うようにバートラムを見た。
「いかがでしょう、バートラム様。リュオンの交代要員として、ルーシェを雇うのは? ルーシェはエルダークの元・《国守りの魔女》です。有事の際には非常に頼りになるでしょう」
「……ルーシェは私に仕える意思はあるか?」
考えるような顔をした後、バートラムはルーシェをひたと見つめた。
「はい。あります」
ルーシェは迷わず頷いた。
《国守りの魔女》となれるほどに大きな魔力をもって生まれたのだから、有効活用したい。
「ならば雇おう」
「ありがとうございます! 精一杯お仕えいたします!」
あっさり就職先が見つかり、ルーシェは心の中で飛び上がって喜んだ。
「まあ、なんだかんだ言っても最後の一線は超えないだろう。多分……そうだといいな……」
ユリウスとノエルが何やら小声で囁き合う一方で、リュオンとジオは何事もなかったように着席した。
「ええと……ところでリュオン?」
呼び掛けると、座ったばかりのリュオンがこちらを向いた。
「答えにくい質問なら答えなくても良いんだけれど。どうしても気になるから、聞くだけ聞かせてちょうだい。どうしてあなたは魔法を使わず、メグがこの街の守護結界を張っているの?」
ぴりっ――と、サロンの空気がひりついた。
問われた当人であるリュオンとメグ、エンドリーネ伯爵夫妻は特に大げさな反応をしなかったが、セラたちは一様に驚いた顔をしている。
(やっぱり)
彼女たちの表情を見てルーシェは確信した。
「ルーシェおねーちゃん、何を言ってるの? メグは人間だよ? ほら、よく見てよ。目に《魔力環》がないでしょ?」
無垢な子どものように、メグは自分の目を指さして首を傾げた。
「ええ、だからわたしも最初は気のせいかもしれないと思ったわ。でもメグの身体からは微弱な魔力を感じるの。隠そうとしても隠しきれない魔力を。どうしてそんなことをしているのかわからないけれど、あなたは人間のふりをしている魔女よね? 恐らくは禁じられた変身魔法を自分に使っているのでしょう? セラはさっきユリウス様を猫にした魔女の名前を言わなかったけれど、犯人はあなたじゃない?」
「………………」
「一応これでも《国守りの魔女》だったから、わかるのよ。あなたの魔力は途方もなく大きい。底が知れない……あなたの本当の名前はドロシー・ユーグレース?」
ドロシー・ユーグレース。それは世界最強と謳われる魔女の名だ。
「……有名になんてなるもんじゃないわねー」
メグはがらりと口調を変えて肩を竦めた。
「お見事、正解よ。ユリウスを猫にした犯人もあたしです。でもさ、この身体でいる間はメグってことにしておいて。あたしがここにいるってバレたら面倒くさいのよ、色々と。ジオも内緒にしてといてよね」
「ああ」
「わかったわ、メグ。どうしてここにいるのか聞いてもいい?」
「んー、なんていうか。リュオンが愛してやまないセラにあたしが余計なちょっかいを出したもんだから、リュオンが本気で怒ってね。その結果、リュオンは一時的に魔法が使えない状態になったのよ。リュオンが再び魔法が使えるようになるまで、あたしは罪滅ぼしに無料奉仕してるってわけ」
「……。リュオンが頭に包帯を巻いているのはそのせいなの?」
包帯に覆われたリュオンの右目を見て言う。
「ええ。外傷を負っているわけじゃないんだけど、ある意味、彼はいま怪我人だからね。包帯を巻いとけば怪我を負ってる自覚が生まれるかなと思って、眼帯じゃなくて包帯を巻かせてるの。セラのためならどんな無茶もやりかねないからね、この子は――じゃない、この人は」
「この子?」
まるで自分がはるかに年上であるかのような物言いだ。
「気にしないで、ただの言い間違いよ。それはともかく、ルーシェとジオはこれからどうするの? ラスファルで職探しするの?」
「ええ、そのつもり。この街にはリュオンがいるのだから《国守りの魔女》――いえ、この場合は《街守りの魔女》かしら。《街守りの魔女》は必要ないでしょう?」
「そんなことはないんじゃないかしら?」
口を挟んだのは軽く身を乗り出したセラだ。
「え?」
「だって、街を守る魔女が何人いても問題はないでしょう? 前から思ってたのよ。リュオンが一人でずっと守護結界を張り続けるのは負担が大きすぎるんじゃないかしらって。他の街や王都では複数の魔女が交代制で結界を張っていると聞いたわ。ラスファルでもそうしたほうがいいと思う」
セラはそこで窺うようにバートラムを見た。
「いかがでしょう、バートラム様。リュオンの交代要員として、ルーシェを雇うのは? ルーシェはエルダークの元・《国守りの魔女》です。有事の際には非常に頼りになるでしょう」
「……ルーシェは私に仕える意思はあるか?」
考えるような顔をした後、バートラムはルーシェをひたと見つめた。
「はい。あります」
ルーシェは迷わず頷いた。
《国守りの魔女》となれるほどに大きな魔力をもって生まれたのだから、有効活用したい。
「ならば雇おう」
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