23 / 88
23:エヴァside(3)
しおりを挟む
「どうなさったんですか聖女様、怖いお顔をされて」
付き添っている村人の一人に声をかけられて、私ははっと我に返った。
「いいえ、なんでもありませんわ」
軽く咳払いして、優しい微笑みを浮かべてみせる。
ふわふわと波打つ金髪。ぱっちりとした大きな菫色の瞳。
薔薇色の唇に、磁器の如く艶やかな肌。
私は抜群の美女だ。幼いころから周囲の人間を虜にしてきた自負がある。
『天使の微笑み』と万人に讃えられる微笑を向けられた村人はポッと頬を染めた。
他の村人たちも陶酔したような顔で私を見ている。
表には出さなかったものの、私は村人たちの反応に満足した。
――この私に微笑まれたことを光栄に思いなさい。
何といっても私はレニール様の婚約者。
一年後はレニール様の妃となり、いずれ国母となるのだから!
薄汚れた農民たちと共に居るのは苦痛だけど、頑張って愛想を振りまかなくては。
民草に愛される王妃を目指さなければね。
「そ、それなら良かったです。これをご覧ください」
村人たちは広大な麦畑の前で立ち止まり、そこに生えていた麦の一つを摘まんでみせた。
顔を近づけて見れば、その麦は一部が変色していた。
周りにある麦もそうだ。このままだと遠からず枯れ果ててしまうだろう。
「まあ……報告書で読んだ通りのようですね。なんでも、数日前から麦だけではなく、村中の農作物が枯れ始めているとか……」
「はい。こんなこと、いままでありませんでした」
「是非とも聖女様の力を貸してくだせえ」
「麦はこの村の重要な財源なんです。このまま枯れちまえば税が払えず、ワシら全員領主様にお叱りを受けちまう」
「どうか奇跡の力で私どもをお救いください」
「もちろんです。そのために私はここへ来たのですから」
ニッコリ微笑み、視線だけで辺りを見回す。
麦畑がある辺り一帯は、うっすらと赤い瘴気に覆われている。
赤い瘴気は、動植物に害を成す『悪いもの』だ。
いくら聖女が浄化しても、どこからともなく発生する瘴気は悪魔王がこの世界に放った呪いとも言われている。
私はその場に跪いた。
服が土で汚れるのは嫌だったけれど、立ったまま祈るなんて聖女らしくない。
恭しく跪き、頭を垂れるのが女神の敬虔な信徒としての正しい姿だ。
私は胸の前で手を組み、目を閉じた。
――女神レムリアよ、どうか私に瘴気を祓う力を与えたまえ。
身体中に神秘の力が漲っていくのを感じる。
蓄積された力が最大値に達したと思ったその瞬間、私は力を解き放った。
解き放たれた力は眩い金色の光を放ち、辺り一帯の瘴気を浄化すると同時に麦を蘇らせた。はずだった。
付き添っている村人の一人に声をかけられて、私ははっと我に返った。
「いいえ、なんでもありませんわ」
軽く咳払いして、優しい微笑みを浮かべてみせる。
ふわふわと波打つ金髪。ぱっちりとした大きな菫色の瞳。
薔薇色の唇に、磁器の如く艶やかな肌。
私は抜群の美女だ。幼いころから周囲の人間を虜にしてきた自負がある。
『天使の微笑み』と万人に讃えられる微笑を向けられた村人はポッと頬を染めた。
他の村人たちも陶酔したような顔で私を見ている。
表には出さなかったものの、私は村人たちの反応に満足した。
――この私に微笑まれたことを光栄に思いなさい。
何といっても私はレニール様の婚約者。
一年後はレニール様の妃となり、いずれ国母となるのだから!
薄汚れた農民たちと共に居るのは苦痛だけど、頑張って愛想を振りまかなくては。
民草に愛される王妃を目指さなければね。
「そ、それなら良かったです。これをご覧ください」
村人たちは広大な麦畑の前で立ち止まり、そこに生えていた麦の一つを摘まんでみせた。
顔を近づけて見れば、その麦は一部が変色していた。
周りにある麦もそうだ。このままだと遠からず枯れ果ててしまうだろう。
「まあ……報告書で読んだ通りのようですね。なんでも、数日前から麦だけではなく、村中の農作物が枯れ始めているとか……」
「はい。こんなこと、いままでありませんでした」
「是非とも聖女様の力を貸してくだせえ」
「麦はこの村の重要な財源なんです。このまま枯れちまえば税が払えず、ワシら全員領主様にお叱りを受けちまう」
「どうか奇跡の力で私どもをお救いください」
「もちろんです。そのために私はここへ来たのですから」
ニッコリ微笑み、視線だけで辺りを見回す。
麦畑がある辺り一帯は、うっすらと赤い瘴気に覆われている。
赤い瘴気は、動植物に害を成す『悪いもの』だ。
いくら聖女が浄化しても、どこからともなく発生する瘴気は悪魔王がこの世界に放った呪いとも言われている。
私はその場に跪いた。
服が土で汚れるのは嫌だったけれど、立ったまま祈るなんて聖女らしくない。
恭しく跪き、頭を垂れるのが女神の敬虔な信徒としての正しい姿だ。
私は胸の前で手を組み、目を閉じた。
――女神レムリアよ、どうか私に瘴気を祓う力を与えたまえ。
身体中に神秘の力が漲っていくのを感じる。
蓄積された力が最大値に達したと思ったその瞬間、私は力を解き放った。
解き放たれた力は眩い金色の光を放ち、辺り一帯の瘴気を浄化すると同時に麦を蘇らせた。はずだった。
56
あなたにおすすめの小説
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~
咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】
あらすじ
「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」
聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。
彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。
しかし、エリーナはめげなかった。
実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ!
北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。
すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。
「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」
とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。
以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。
最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?
【完】瓶底メガネの聖女様
らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。
公爵令息様を治療したらいつの間にか溺愛されていました
Karamimi
恋愛
マーケッヒ王国は魔法大国。そんなマーケッヒ王国の伯爵令嬢セリーナは、14歳という若さで、治癒師として働いている。それもこれも莫大な借金を返済し、幼い弟妹に十分な教育を受けさせるためだ。
そんなセリーナの元を訪ねて来たのはなんと、貴族界でも3本の指に入る程の大貴族、ファーレソン公爵だ。話を聞けば、15歳になる息子、ルークがずっと難病に苦しんでおり、どんなに優秀な治癒師に診てもらっても、一向に良くならないらしい。
それどころか、どんどん悪化していくとの事。そんな中、セリーナの評判を聞きつけ、藁をもすがる思いでセリーナの元にやって来たとの事。
必死に頼み込む公爵を見て、出来る事はやってみよう、そう思ったセリーナは、早速公爵家で治療を始めるのだが…
正義感が強く努力家のセリーナと、病気のせいで心が歪んでしまった公爵令息ルークの恋のお話です。
冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜
影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。
けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。
そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。
ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。
※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる