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25:見えない世界
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――ゴトゴトという音が聞こえる。
何の音だろう。
目覚めたばかりの頭でぼんやり考え、馬車の車輪が砂利道を刻む音だと気づく。
身体が揺れているのは、馬車に揺られているせいだ。
「リーリエ。起きたか?」
耳元で聞こえた優しい声が、私の脳を完全に覚醒させた。
目を開けると、私の身体は斜めに傾いていた。
どうやらフィルディス様にもたれかかるようにして眠っていたらしい。
「!! す、すみませんっ」
私は急いで上体を起こし、背筋を伸ばした。
港町ソネットを出立して一週間。
私たちは船に乗って海を越え、アルケンス大陸に上陸していた。
東の果てにある港町から馬車を乗り継ぐこと三日目。
窓の外に広がるこの森を抜ければ、いよいよイリスフレーナだ。
もうすぐ目的地に着くということで、つい気が緩んでしまった。
「謝ることはない。可愛い寝顔が見れて良かった」
微笑まれて、顔が一気に熱くなった。
そんな私を見て、周りにいる精霊たちがくすくす笑っている。
今日も精霊たちは私の傍にいる。
精霊が見える人が見れば、この馬車はやたらと光り輝いて見えるだろう。
馬車の中に入り切らず、外にもたくさんの精霊がいるはずだから。
「……なんていうかさあ。ソネットの一件以来、距離がぐんと近くなったよね、二人とも。それはまあ別に良いんだけど、目の前でいちゃつくのは止めてもらえないかな。見てて砂を吐きそうだ」
向かいに座るエミリオ様は呆れたように言った。
彼の横には見慣れた茶色のリュックが置いてある。
保存食、回復薬《ポーション》、各自の着替えに毛布。その他諸々。
旅に必要なものは何でも出てきた。
あのリュックがなければ、これほど身軽に旅をすることなどできなかった。
「いちゃついたつもりはない。ただ素直な感想を述べただけだ」
フィルディス様が真顔でそんなことを言うものだから、私の顔はますます赤くなった。
「あー、はいはい、そうですか。自分に寄りかかって眠るリーリエを見て幸せそうに笑ってたくせに、何言ってんだか」
エミリオ様は肩を竦めて、窓の外に目をやった。
つられて見れば、窓の外には美しい森が広がっている。
「――あ。いま、精霊が木々の間にいました。あ、あそこにも。この辺りには精霊がたくさんいるみたいですね。やはりイリスフレーナが近いからでしょうか」
「かもね」
はしゃぐ私に対して、エミリオ様は素っ気ない。
熱量に差が生まれるのは仕方ないところだろう。
エミリオ様たちは有形精霊が見えない。
見えないものを主張されても困るだけだと悟り、私は口をつぐんだ。
でも、私の目には、空を渡る白い鳥のような精霊たちや、木の枝に座る小さな少女にも似た精霊たちの姿が見えている。
――エミリオ様たちにも、精霊の姿が見えればいいのに。
「リーリエの目にはどんな精霊の姿が映ってるんだろう。同じ世界を共有できればいいのにな」
私と全く同じことを思ったらしく、フィルディス様が呟いた。
「はい。本当に」
私は右手を持ち上げ、自分の頭の近くで人差し指を床と平行に伸ばした。
すると、宙で戯れていた精霊たちは競うように私の人差し指にとまった。
「それは何の真似?」
エミリオ様は怪訝そう。
「いま、私の人差し指に三体の精霊がとまっているんです」
「ああ。トンボをとまらせてる感じね」
エミリオ様は納得したように言って、また窓の外を眺めた。
隣を見ると、フィルディス様は無言で微笑んだ。
何をしているかはわからないけれど、私が楽しければそれで良い、という感じだ。
私が《聖紋》を取り戻したことでフィルディス様は満足してしまっているのだろう。
同じ世界を共有したいと言ったものの、それはただの願望で、本気で精霊を見たいとは思っていないらしい。
自分は聖女ではなく、ただの人間だからと線を引いてしまっているのかもしれない。
何の音だろう。
目覚めたばかりの頭でぼんやり考え、馬車の車輪が砂利道を刻む音だと気づく。
身体が揺れているのは、馬車に揺られているせいだ。
「リーリエ。起きたか?」
耳元で聞こえた優しい声が、私の脳を完全に覚醒させた。
目を開けると、私の身体は斜めに傾いていた。
どうやらフィルディス様にもたれかかるようにして眠っていたらしい。
「!! す、すみませんっ」
私は急いで上体を起こし、背筋を伸ばした。
港町ソネットを出立して一週間。
私たちは船に乗って海を越え、アルケンス大陸に上陸していた。
東の果てにある港町から馬車を乗り継ぐこと三日目。
窓の外に広がるこの森を抜ければ、いよいよイリスフレーナだ。
もうすぐ目的地に着くということで、つい気が緩んでしまった。
「謝ることはない。可愛い寝顔が見れて良かった」
微笑まれて、顔が一気に熱くなった。
そんな私を見て、周りにいる精霊たちがくすくす笑っている。
今日も精霊たちは私の傍にいる。
精霊が見える人が見れば、この馬車はやたらと光り輝いて見えるだろう。
馬車の中に入り切らず、外にもたくさんの精霊がいるはずだから。
「……なんていうかさあ。ソネットの一件以来、距離がぐんと近くなったよね、二人とも。それはまあ別に良いんだけど、目の前でいちゃつくのは止めてもらえないかな。見てて砂を吐きそうだ」
向かいに座るエミリオ様は呆れたように言った。
彼の横には見慣れた茶色のリュックが置いてある。
保存食、回復薬《ポーション》、各自の着替えに毛布。その他諸々。
旅に必要なものは何でも出てきた。
あのリュックがなければ、これほど身軽に旅をすることなどできなかった。
「いちゃついたつもりはない。ただ素直な感想を述べただけだ」
フィルディス様が真顔でそんなことを言うものだから、私の顔はますます赤くなった。
「あー、はいはい、そうですか。自分に寄りかかって眠るリーリエを見て幸せそうに笑ってたくせに、何言ってんだか」
エミリオ様は肩を竦めて、窓の外に目をやった。
つられて見れば、窓の外には美しい森が広がっている。
「――あ。いま、精霊が木々の間にいました。あ、あそこにも。この辺りには精霊がたくさんいるみたいですね。やはりイリスフレーナが近いからでしょうか」
「かもね」
はしゃぐ私に対して、エミリオ様は素っ気ない。
熱量に差が生まれるのは仕方ないところだろう。
エミリオ様たちは有形精霊が見えない。
見えないものを主張されても困るだけだと悟り、私は口をつぐんだ。
でも、私の目には、空を渡る白い鳥のような精霊たちや、木の枝に座る小さな少女にも似た精霊たちの姿が見えている。
――エミリオ様たちにも、精霊の姿が見えればいいのに。
「リーリエの目にはどんな精霊の姿が映ってるんだろう。同じ世界を共有できればいいのにな」
私と全く同じことを思ったらしく、フィルディス様が呟いた。
「はい。本当に」
私は右手を持ち上げ、自分の頭の近くで人差し指を床と平行に伸ばした。
すると、宙で戯れていた精霊たちは競うように私の人差し指にとまった。
「それは何の真似?」
エミリオ様は怪訝そう。
「いま、私の人差し指に三体の精霊がとまっているんです」
「ああ。トンボをとまらせてる感じね」
エミリオ様は納得したように言って、また窓の外を眺めた。
隣を見ると、フィルディス様は無言で微笑んだ。
何をしているかはわからないけれど、私が楽しければそれで良い、という感じだ。
私が《聖紋》を取り戻したことでフィルディス様は満足してしまっているのだろう。
同じ世界を共有したいと言ったものの、それはただの願望で、本気で精霊を見たいとは思っていないらしい。
自分は聖女ではなく、ただの人間だからと線を引いてしまっているのかもしれない。
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