虐げられた聖女は精霊王国で溺愛される~追放されたら、剣聖と大魔導師がついてきた~

星名柚花

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26:イリスフレーナの騎士たち

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「……、やっぱり、見えるようになってほしいです……」
 歯がゆさを覚えながら、人差し指を下ろす。
 精霊たちはそれぞれ私の頭と肩に移動して座った。
 精霊たちはいつだって好き勝手にお喋りしているのだけれど、この騒々しさもエミリオ様たちの耳には入っていない。

 エミリオ様の金髪を人型の精霊が引っ張ったり、フィルディス様の肩の上でふわふわの毛玉のような精霊が飛び跳ねている。

 それでも二人は気づかない。
 たとえ精霊たちが何をしようと気づけないのだ。

 こっそりため息をついた、そのときだった。
 馬のいななきが耳を劈き、馬車が急停止した。

「!?」
 いきなりのことに何もできず、私の身体は進行方向に投げ出されそうになった。
 痛みと衝撃を覚悟して身体を縮め、目を瞑る。

 でも、その必要はなかった。
 とっさに、フィルディス様が横から手を伸ばして私を抱き留めてくれたから。

 衝撃が過ぎ、固く閉じていた目を開ければ、私はフィルディス様の腕の中にいた。

 逞しい腕と胸の感触。
 目の前にある整った顔に戸惑いつつも、私は窓の外を見ようとした。

 でも、動けない。
 フィルディス様はしっかりと私に密着していて、身動きを許さなかった。
 絶対に私を守るという強固な意志が伝わってくる。

「どうしたの!?」
 御者台に続く小窓を開けてエミリオ様が尋ねた。

「わ、わかりません! 前方からイリスフレーナの王国軍が現れて、馬車を止められました!」
「王国軍!? なんで――」

「――馬車に乗っている者は速やかに出てきてください!! これはイリスフレーナの王命です!!」

 エミリオ様の台詞を遮って、凛とした男性の声が耳朶を打った。
 男性が話したのはこの大陸の公用《アルケンス》語ではない。
 聞き慣れたルミナス語だった。

「……。ルミナスの手配だと思うか?」
 私を抱きしめたまま、フィルディス様がエミリオ様に硬い声で聞いた。

「ありえない。いくら何でも手を回すのが早すぎる。イリスフレーナの独自判断でしょう。きっと狙いはリーリエだよ。この馬車は大勢の精霊たちが取り巻いてるって言ってたよね。遠目で見ても物凄く目立つって」
 険しい顔をしたエミリオ様に見つめられ、私は戸惑いながらも頷いた。

「はい。精霊たちを見て中に聖女がいると知り、馬車を止めたのでしょう」
「リーリエを確保して何をする気だと思う?」
 フィルディス様が私を抱く手に力がこもる。ちょっと苦しい。

「さあ。ろくでもない目的ならぶっ飛ばして逃げよう。怯えなくても大丈夫だよ。ぼくたちがいるからね」
 エミリオ様は不敵に笑って、馬車の扉を開けた。

「……行こう。リーリエ。大丈夫だ。絶対に守るから」
「……はい」
 私はフィルディス様にエスコートされて馬車を下りた。

 馬車の外には三頭の馬と、三人の騎士がいた。
 腰に剣を佩いた彼らの襟元には日差しを浴びて輝く徽章があった。
 太陽と蔓を象ったような紋章は、恐らくイリスフレーナの紋章だろう。

「おお……本当に大聖女様が現れたぞ。アンネッタ様の予言通りだ」
「すげえ、金色の《聖紋》なんて初めて見た。伝承の中の存在だと思ってたけど、実在するんだなー」
「なんて神々しいお姿なのかしら……これほど多くの精霊を引き連れておられるとは、まさしく大聖女様……私はいま神話を目の当たりにしている……」
 三人の騎士たちは何やらいたく感激している。

 私たちは顔を見合わせた。
 思っていた反応と違うことに、誰もが困惑の色を隠せない。

「あの。どのようなご用件でしょうか?」
 尋ねると、騎士たちはハッとしたようにお喋りを止め、一斉にその場に跪いた。

「突然のご無礼、お許しください。私たちはイリスフレーナ王国の第一王女アンネッタ様にお仕えする近衛騎士でございます」
「大聖女様、どうか我が主をお助けください!」
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