34 / 88
34:蝕むオルゴール(3)
しおりを挟む
――さあ、ここからが勝負。
オルゴールを見据えて深呼吸する。
両手を組み、神聖力を解き放つ。
まっすぐに放たれた金色の光はオルゴールにぶつかり、弾けた。
その瞬間、堪らぬとばかりにオルゴールに憑いていた悪魔が悲鳴を上げた。
オルゴールから赤黒い靄のようなものが噴き上がり、空中で固まっていく。
やがて形を成したそれは、ダニと蜘蛛を足して割ったような、不気味な姿をしていた。
悪魔は全身から邪気をまき散らしている。
やはりこの悪魔がアンネッタ様を蝕む呪いの根源だ。
私は続けて神聖力を放ち、悪魔を空中で拘束した。
対抗するように、悪魔は凶悪な邪気を放った。
「っ……ぐ……!」
まるで血の気を吸い取られるような――否、魂そのものが削られていくような感覚。
とても立っていられず、私は絨毯に座り込んで身体を丸めた。
それでも悪魔の拘束が解けなかったのは、ひとえに気力によるものだ。
悪魔を野放しにしてしまっては、また悲劇が繰り返されてしまう。
「う、うぅ……」
見えない大きな手で握り潰されているかのように、胸が苦しい。
呼吸をしようとしても空気が喉を通らない。
必死に息を吸おうともがくたび、悪寒が全身を駆け巡った。
皮膚が――痒い。痛い。爪を立てて掻きむしりたい衝動に駆られる。
無数の虫が這い回っているかのような不快感に、吐き気がこみ上げてくる。
冷や汗が噴き出し、全身をべったりと覆っている。
それなのに、体温は容赦なく上がり続けている気がする。
焼けるように熱いのに、骨の芯まで凍えるような寒さ――相反する感覚が身体を引き裂いていくようだ。
悍ましい邪気が私を侵し、五感を奪っていく。
まるで底なし沼に引きずり込まれていくように、意識が闇の底へと沈み込んでいく。
霞む視界の中で、アンネッタ様は寝台に横たわったまま動かない。
私は彼女を助けるためにここに来たのに。
お任せください、なんて大見得を切っておいて、結局、助けられないのか。
私では力不足だったのか。
私もアンネッタ様のようになってしまうのか。
私は――私は……。
――大丈夫。リーリエならできるよ。
フィルディス様の言葉が蘇り、私はカッと目を開けた。
「……私はっ……負けない……!」
負けて堪るものか、という強烈な意思が腹の底から湧き上がってくる。
ラザード様とシルヴィア様は私に礼を尽くし、「どうかアンネッタを頼む」と頭を下げた。
ラザード様たちだけではない。
皆が私に期待している。
私は期待に応えたい。
そのためには、呑気に倒れてなどいられない……!!
苦痛にあえぎながらも、私は手をついて上体を起こした。
そして、震える手をもう一度組み直し、全身全霊で神聖力を放った。
オルゴールを見据えて深呼吸する。
両手を組み、神聖力を解き放つ。
まっすぐに放たれた金色の光はオルゴールにぶつかり、弾けた。
その瞬間、堪らぬとばかりにオルゴールに憑いていた悪魔が悲鳴を上げた。
オルゴールから赤黒い靄のようなものが噴き上がり、空中で固まっていく。
やがて形を成したそれは、ダニと蜘蛛を足して割ったような、不気味な姿をしていた。
悪魔は全身から邪気をまき散らしている。
やはりこの悪魔がアンネッタ様を蝕む呪いの根源だ。
私は続けて神聖力を放ち、悪魔を空中で拘束した。
対抗するように、悪魔は凶悪な邪気を放った。
「っ……ぐ……!」
まるで血の気を吸い取られるような――否、魂そのものが削られていくような感覚。
とても立っていられず、私は絨毯に座り込んで身体を丸めた。
それでも悪魔の拘束が解けなかったのは、ひとえに気力によるものだ。
悪魔を野放しにしてしまっては、また悲劇が繰り返されてしまう。
「う、うぅ……」
見えない大きな手で握り潰されているかのように、胸が苦しい。
呼吸をしようとしても空気が喉を通らない。
必死に息を吸おうともがくたび、悪寒が全身を駆け巡った。
皮膚が――痒い。痛い。爪を立てて掻きむしりたい衝動に駆られる。
無数の虫が這い回っているかのような不快感に、吐き気がこみ上げてくる。
冷や汗が噴き出し、全身をべったりと覆っている。
それなのに、体温は容赦なく上がり続けている気がする。
焼けるように熱いのに、骨の芯まで凍えるような寒さ――相反する感覚が身体を引き裂いていくようだ。
悍ましい邪気が私を侵し、五感を奪っていく。
まるで底なし沼に引きずり込まれていくように、意識が闇の底へと沈み込んでいく。
霞む視界の中で、アンネッタ様は寝台に横たわったまま動かない。
私は彼女を助けるためにここに来たのに。
お任せください、なんて大見得を切っておいて、結局、助けられないのか。
私では力不足だったのか。
私もアンネッタ様のようになってしまうのか。
私は――私は……。
――大丈夫。リーリエならできるよ。
フィルディス様の言葉が蘇り、私はカッと目を開けた。
「……私はっ……負けない……!」
負けて堪るものか、という強烈な意思が腹の底から湧き上がってくる。
ラザード様とシルヴィア様は私に礼を尽くし、「どうかアンネッタを頼む」と頭を下げた。
ラザード様たちだけではない。
皆が私に期待している。
私は期待に応えたい。
そのためには、呑気に倒れてなどいられない……!!
苦痛にあえぎながらも、私は手をついて上体を起こした。
そして、震える手をもう一度組み直し、全身全霊で神聖力を放った。
37
あなたにおすすめの小説
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~
咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】
あらすじ
「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」
聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。
彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。
しかし、エリーナはめげなかった。
実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ!
北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。
すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。
「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」
とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。
以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。
最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?
【完】瓶底メガネの聖女様
らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。
公爵令息様を治療したらいつの間にか溺愛されていました
Karamimi
恋愛
マーケッヒ王国は魔法大国。そんなマーケッヒ王国の伯爵令嬢セリーナは、14歳という若さで、治癒師として働いている。それもこれも莫大な借金を返済し、幼い弟妹に十分な教育を受けさせるためだ。
そんなセリーナの元を訪ねて来たのはなんと、貴族界でも3本の指に入る程の大貴族、ファーレソン公爵だ。話を聞けば、15歳になる息子、ルークがずっと難病に苦しんでおり、どんなに優秀な治癒師に診てもらっても、一向に良くならないらしい。
それどころか、どんどん悪化していくとの事。そんな中、セリーナの評判を聞きつけ、藁をもすがる思いでセリーナの元にやって来たとの事。
必死に頼み込む公爵を見て、出来る事はやってみよう、そう思ったセリーナは、早速公爵家で治療を始めるのだが…
正義感が強く努力家のセリーナと、病気のせいで心が歪んでしまった公爵令息ルークの恋のお話です。
冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜
影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。
けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。
そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。
ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。
※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる