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36:たとえこの先何があっても(2)
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「……すみません。こんなに時間がかかったのは私も予想外でした。ご心配をおかけしました」
私は手を伸ばし、フィルディス様の頬に触れた。
驚いたように目を大きくしたフィルディス様を見つめて、悪戯っぽく微笑む。
「でも、これでおあいこですね。ソネットで倒れたフィルディス様を見たときの私の気持ちが、少しはわかったのではありませんか?」
「……ああ。よくわかった。もう二度とごめんだ。心臓が潰れるかと思った。とにかく、リーリエが無事で良かった」
フィルディス様は私の手を取り、手の甲に口づけをした。
胸がどきりと跳ねる。
「頼むから、これからも無事でいてくれ。リーリエがいなくなったら、おれは生きていけない」
フィルディス様の声は真剣そのものだった。
その瞳には迷いも冗談も一切なく、ただ純粋な想いだけが宿っている。
「……努力します」
心臓がうるさくて、声が裏返りそうになるのを必死に抑えながら、それだけを搾り出すのが精いっぱいだった。
「努力だけじゃ駄目だ。絶対に死なないと約束してくれ」
「それは……難しいですね。人間、いつ死ぬかなんてわからないんですから――」
「なら、リーリエが死んだらおれも後を追う」
「それは駄目ですよ。そんなことを言われたら、何が何でも死ぬわけにはいかなくなります」
「だから言ってるんだよ」
フィルディス様の青い瞳は、まっすぐに私を捕えている。
――どうしてそんなにまっすぐでいられるの?
――どうしてそこまで、私に執着するの?……
フィルディス様のひたむきな愛を、ときに眩しく感じる。
けれど、嫌ではない。
彼のまっすぐな眼差しを嫌だと思ったことは、一度もないのだ。
「……わかりました。死にません。お約束します」
腹を括ってそう言うと、フィルディス様は満足そうに笑った。
これで良し、話はついたと思っているのかもしれないけれど、甘い。
「けれど、私もそっくりそのまま同じ言葉をお返ししますからね」
釘を刺すべく、私は顔をフィルディス様に近づけた。
「……おれが死んだらリーリエも後を追うってことか? いや、それは――」
「自分は良くて私は駄目とか言うのは無しですからね? そんな勝手は許しません」
顔を青ざめさせたフィルディス様の言葉を遮って、にっこり笑う。
「…………」
フィルディス様は眉間に皺を作り、たっぷり十秒は沈黙した後、根負けしたように息を吐いた。
「……わかった。お互い死なないように頑張ろう」
フィルディス様は私の手をしっかりと握った。
「はい。頑張りましょう」
私は微笑んでその手を握り返した。
彼の手の温もりが、心の奥深くまで染み込んでいく。
――たとえこの先何があろうと、この人のために、私は石にかじりついてでも生き延びなければならない。
そんな思いが胸の中に芽生えた瞬間だった。
私は手を伸ばし、フィルディス様の頬に触れた。
驚いたように目を大きくしたフィルディス様を見つめて、悪戯っぽく微笑む。
「でも、これでおあいこですね。ソネットで倒れたフィルディス様を見たときの私の気持ちが、少しはわかったのではありませんか?」
「……ああ。よくわかった。もう二度とごめんだ。心臓が潰れるかと思った。とにかく、リーリエが無事で良かった」
フィルディス様は私の手を取り、手の甲に口づけをした。
胸がどきりと跳ねる。
「頼むから、これからも無事でいてくれ。リーリエがいなくなったら、おれは生きていけない」
フィルディス様の声は真剣そのものだった。
その瞳には迷いも冗談も一切なく、ただ純粋な想いだけが宿っている。
「……努力します」
心臓がうるさくて、声が裏返りそうになるのを必死に抑えながら、それだけを搾り出すのが精いっぱいだった。
「努力だけじゃ駄目だ。絶対に死なないと約束してくれ」
「それは……難しいですね。人間、いつ死ぬかなんてわからないんですから――」
「なら、リーリエが死んだらおれも後を追う」
「それは駄目ですよ。そんなことを言われたら、何が何でも死ぬわけにはいかなくなります」
「だから言ってるんだよ」
フィルディス様の青い瞳は、まっすぐに私を捕えている。
――どうしてそんなにまっすぐでいられるの?
――どうしてそこまで、私に執着するの?……
フィルディス様のひたむきな愛を、ときに眩しく感じる。
けれど、嫌ではない。
彼のまっすぐな眼差しを嫌だと思ったことは、一度もないのだ。
「……わかりました。死にません。お約束します」
腹を括ってそう言うと、フィルディス様は満足そうに笑った。
これで良し、話はついたと思っているのかもしれないけれど、甘い。
「けれど、私もそっくりそのまま同じ言葉をお返ししますからね」
釘を刺すべく、私は顔をフィルディス様に近づけた。
「……おれが死んだらリーリエも後を追うってことか? いや、それは――」
「自分は良くて私は駄目とか言うのは無しですからね? そんな勝手は許しません」
顔を青ざめさせたフィルディス様の言葉を遮って、にっこり笑う。
「…………」
フィルディス様は眉間に皺を作り、たっぷり十秒は沈黙した後、根負けしたように息を吐いた。
「……わかった。お互い死なないように頑張ろう」
フィルディス様は私の手をしっかりと握った。
「はい。頑張りましょう」
私は微笑んでその手を握り返した。
彼の手の温もりが、心の奥深くまで染み込んでいく。
――たとえこの先何があろうと、この人のために、私は石にかじりついてでも生き延びなければならない。
そんな思いが胸の中に芽生えた瞬間だった。
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