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37:不快感の根源へ
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三日後の昼下がり。
「ここです」
緊張した面持ちのアンネッタ様が白い繊手で示したのは、王宮の奥深くに隠された重厚な扉だった。
取っ手のない扉の前に立っているだけで、チリチリと肌が焼かれるような不快感がある。
この先に悪魔王を封じた結晶があるのは間違いない。
「ご覧の通り、この扉には取っ手がありません。この扉を開くことができるのは《聖紋》を持つ者だけ。それも、一定以上の神聖力がなければ反応しません。リーリエ様ならば開けられるはずです。扉に手を押し当ててみてください」
私は恐る恐る、右手を扉に押し当てた。
すると、呼応するように扉の表面に大きな銀色の《聖紋》が浮かび上がり、自動的に扉が開いた。
一体どういう仕組みなのだろう。心底不思議だった。
「さすがリーリエ様ですわ。お兄様には開けられませんでしたのよ」
透き通るようなアイスブルーの目を細めたのもつかの間。
すぐにアンネッタ様は表情を引き締め、扉の中へと入っていった。
私は唾を飲み込み、揺れる蜂蜜色の長い髪を追った。
螺旋階段を上り、その先にあった扉に手のひらを押し当てて封印を解除。
――そこには、常人が決して踏み入れてはならない禁忌の場所があった。
天井の高い石造りの部屋。
その中央に、巨大な赤い結晶が鎮座していた。
その表面はどす黒く変色し、禍々しい模様がまるで心臓の鼓動のように浮かんでは消えている。
目を凝らせば、赤黒い結晶にはいくつもいくつも金色の糸が巻きついているのが見える。
この光り輝く黄金の糸こそ、歴代の聖女たちがこれまで積み重ねてきた祈りだと、直感的に悟った。
「恐ろしいでしょう」
アンネッタ様の声には、微かに震えが混じっていた。
「この結晶を見るたび、身が竦みます。けれど、ここで祈りを捧げることが聖女として生まれたわたくしの務め。わたくしが長く寝込んでいたせいで封印も緩んでしまっていましたが、この三日間でなんとか応急措置は済ませました。差し当たって危険はありません。どうぞ、そこで見ていてください」
アンネッタ様は結晶の前に跪き、目を閉じて手を組んだ。
その全身が淡い光に包まれ始める。
清らかな彼女の存在そのものが、この部屋に漂う邪気をほんの少しだけ和らげているように見えた。
「レムリア様。どうか、わたくしに力をお与えください。わたくしが愛するイリスフレーナの平和を――この世界に生きるすべての人々をお守りください」
アンネッタ様の澄んだ声が、石造りの部屋に響き渡る。
彼女から解き放たれた黄金の光が結晶に触れたとき、地の底から響くような声がした。
《お前の祈りなど無駄だ……女神の封印はやがて崩れ、我が復活する時が来る……》
――これが、悪魔王の声?
完全に封印されているというなら、外部の者に声を届ける力があるのはおかしい。
長い時を経て、女神の封印が解けつつあるのだ。
冷や汗が頬を流れる。
それでも、アンネッタ様は祈りを止めなかった。
「わたくしは負けません。女神の意志と力を継ぐ聖女が世界を混乱に陥れた悪しき存在に屈することなどありません。あなたの封印が解ける日など来ませんよ――永遠に!」
アンネッタ様は力強く吼えた。
結晶を包む黄金の光がさらに強くなり、悪魔王の耳障りな声を結晶の中へと押し戻す。
部屋の隅で立ったままその様子を見ていた私は、無言で両手を握り締めた。
――お疲れでしょうから、見ているだけで良いと言われたけれど。
起きたとき、私はアンネッタ様ご本人はもちろん、国王夫妻やミラさんたちから口々にお礼を言われた。
廊下を歩くだけで使用人や貴族たちに頭を下げられた。
「ここです」
緊張した面持ちのアンネッタ様が白い繊手で示したのは、王宮の奥深くに隠された重厚な扉だった。
取っ手のない扉の前に立っているだけで、チリチリと肌が焼かれるような不快感がある。
この先に悪魔王を封じた結晶があるのは間違いない。
「ご覧の通り、この扉には取っ手がありません。この扉を開くことができるのは《聖紋》を持つ者だけ。それも、一定以上の神聖力がなければ反応しません。リーリエ様ならば開けられるはずです。扉に手を押し当ててみてください」
私は恐る恐る、右手を扉に押し当てた。
すると、呼応するように扉の表面に大きな銀色の《聖紋》が浮かび上がり、自動的に扉が開いた。
一体どういう仕組みなのだろう。心底不思議だった。
「さすがリーリエ様ですわ。お兄様には開けられませんでしたのよ」
透き通るようなアイスブルーの目を細めたのもつかの間。
すぐにアンネッタ様は表情を引き締め、扉の中へと入っていった。
私は唾を飲み込み、揺れる蜂蜜色の長い髪を追った。
螺旋階段を上り、その先にあった扉に手のひらを押し当てて封印を解除。
――そこには、常人が決して踏み入れてはならない禁忌の場所があった。
天井の高い石造りの部屋。
その中央に、巨大な赤い結晶が鎮座していた。
その表面はどす黒く変色し、禍々しい模様がまるで心臓の鼓動のように浮かんでは消えている。
目を凝らせば、赤黒い結晶にはいくつもいくつも金色の糸が巻きついているのが見える。
この光り輝く黄金の糸こそ、歴代の聖女たちがこれまで積み重ねてきた祈りだと、直感的に悟った。
「恐ろしいでしょう」
アンネッタ様の声には、微かに震えが混じっていた。
「この結晶を見るたび、身が竦みます。けれど、ここで祈りを捧げることが聖女として生まれたわたくしの務め。わたくしが長く寝込んでいたせいで封印も緩んでしまっていましたが、この三日間でなんとか応急措置は済ませました。差し当たって危険はありません。どうぞ、そこで見ていてください」
アンネッタ様は結晶の前に跪き、目を閉じて手を組んだ。
その全身が淡い光に包まれ始める。
清らかな彼女の存在そのものが、この部屋に漂う邪気をほんの少しだけ和らげているように見えた。
「レムリア様。どうか、わたくしに力をお与えください。わたくしが愛するイリスフレーナの平和を――この世界に生きるすべての人々をお守りください」
アンネッタ様の澄んだ声が、石造りの部屋に響き渡る。
彼女から解き放たれた黄金の光が結晶に触れたとき、地の底から響くような声がした。
《お前の祈りなど無駄だ……女神の封印はやがて崩れ、我が復活する時が来る……》
――これが、悪魔王の声?
完全に封印されているというなら、外部の者に声を届ける力があるのはおかしい。
長い時を経て、女神の封印が解けつつあるのだ。
冷や汗が頬を流れる。
それでも、アンネッタ様は祈りを止めなかった。
「わたくしは負けません。女神の意志と力を継ぐ聖女が世界を混乱に陥れた悪しき存在に屈することなどありません。あなたの封印が解ける日など来ませんよ――永遠に!」
アンネッタ様は力強く吼えた。
結晶を包む黄金の光がさらに強くなり、悪魔王の耳障りな声を結晶の中へと押し戻す。
部屋の隅で立ったままその様子を見ていた私は、無言で両手を握り締めた。
――お疲れでしょうから、見ているだけで良いと言われたけれど。
起きたとき、私はアンネッタ様ご本人はもちろん、国王夫妻やミラさんたちから口々にお礼を言われた。
廊下を歩くだけで使用人や貴族たちに頭を下げられた。
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