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67:夜の鍛錬場で(1)
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月光が降り注ぐ夜の鍛錬場。
昼間は大勢の騎士たちが厳しい訓練を行っていたが、真夜中を過ぎたいま、ここにいるのはフィルディス様ただ一人だけだった。
星々が瞬く空の下、青く輝く刃が宙に複雑な軌跡を描いている。
『精霊眼』を外し、通常の服装に戻ったフィルディス様の手に握られているのは水の精霊の加護を宿す《ミネアの魔剣》。
一心不乱に剣を振るうフィルディス様の動きは鋭く、しなやかで、まるで淀みなく流れる水のよう。
彼の全身から発せられる気迫は、闇夜に潜むどんな魔物でさえ寄せつけないように思えた。
「…………」
人知れず行われる努力は全て私のためだと思うと胸が温かくなる。
さきほど行われた晩餐会で、ラザード様は私に「悪魔王の封印を成し遂げた褒美を与える」と仰った。
私はフィルディス様を自分の専属護衛にしたいと答えた。
フィルディス様の帯剣の許可を願い出ると、ラザード様はそれを予期したかのように「では大聖女を守るに相応しい剣を与えねばならんな」と微笑み、ミネアという指折りの名工が作った魔剣をフィルディス様に与えた。
真面目なフィルディス様のことだから、晩餐会が終わったらすぐに剣の具合を確かめるのではないか……と思って鍛錬場に足を運んでみれば、予想通りの光景が目の前に広がっていた、というわけである。
剣の風切り音が夜の静寂を切り裂き、彼の汗が月光を反射して輝く。
鍛錬に集中するフィルディス様の横顔は、眩しささえ感じさせるものだった。
不意にフィルディス様が動きを止めて剣を下ろした。
腰の鞘に剣を収めた直後、まっすぐに私を見る。
「!!」
いきなり彼がこっちを見たので、私はびっくりしてしまった。
「終わったからもういいよ。遠慮せず出て来てくれ」
優しく微笑まれて、私は木陰から出た。
「いつから私に気づいていたのですか? 精霊たちは夜だと目立ってしまうので、一人でこっそり来ましたのに」
言ってから気づいた。
いまフィルディス様は『精霊眼』をかけていない。
ということは、精霊がいてもその存在には気づかなかったはずだ。
自分が当たり前に見えていると、フィルディス様には精霊が認識できないことを忘れてしまう。
「来たときからだよ。いまリーリエの周りに精霊たちはいないのか。『精霊眼』を外しているからわからなかった。眼鏡はどうしてもズレるから、激しい運動には不向きなんだよな」
フィルディス様はぼやいて、鍛錬場の隅を見た。
鍛錬場の隅には木の樽があり、その上には彼の『精霊眼』が置かれている。
私はフィルディス様に近づき、ハンカチで彼の額の汗を拭った。
「あ、ありがとう……」
照れたらしく、フィルディス様は視線をさまよわせた。
夜でもわかるほど赤くなった顔が可愛い。
「私のために頑張ってくださったのですから、これくらい当然ですよ。もし私ではない他人のための努力だというなら手を下ろしますけれど?」
悪戯っぽく笑ってみせる。
昼間は大勢の騎士たちが厳しい訓練を行っていたが、真夜中を過ぎたいま、ここにいるのはフィルディス様ただ一人だけだった。
星々が瞬く空の下、青く輝く刃が宙に複雑な軌跡を描いている。
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不意にフィルディス様が動きを止めて剣を下ろした。
腰の鞘に剣を収めた直後、まっすぐに私を見る。
「!!」
いきなり彼がこっちを見たので、私はびっくりしてしまった。
「終わったからもういいよ。遠慮せず出て来てくれ」
優しく微笑まれて、私は木陰から出た。
「いつから私に気づいていたのですか? 精霊たちは夜だと目立ってしまうので、一人でこっそり来ましたのに」
言ってから気づいた。
いまフィルディス様は『精霊眼』をかけていない。
ということは、精霊がいてもその存在には気づかなかったはずだ。
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「来たときからだよ。いまリーリエの周りに精霊たちはいないのか。『精霊眼』を外しているからわからなかった。眼鏡はどうしてもズレるから、激しい運動には不向きなんだよな」
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私はフィルディス様に近づき、ハンカチで彼の額の汗を拭った。
「あ、ありがとう……」
照れたらしく、フィルディス様は視線をさまよわせた。
夜でもわかるほど赤くなった顔が可愛い。
「私のために頑張ってくださったのですから、これくらい当然ですよ。もし私ではない他人のための努力だというなら手を下ろしますけれど?」
悪戯っぽく笑ってみせる。
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