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02:転生の理由は、もしや?
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「まさかモブとして転生することになるとはねえ……」
夜七時。
私は紺色のエプロンを締め、キッチンで人参を短冊切りにしていた。
夕食の献立のメインディッシュは野菜炒めだ。
今日は引っ越しの後片付けで疲れたので、比較的簡単なもので済ませるつもりだった。
「乙女ゲームの世界っていっても、視界に日時が表示されたり、好感度ゲージが表示されたりすることはないんだなあ」
ぼやきながら、刻み終えた人参をボールに入れ、種を取ったピーマンを細切りにしていく。
料理は好きだし、得意なほうだと思う。
家庭環境のおかげだ。
野々原家の食事は当番制で、私も妹も中学に上がった頃から当番に組み込まれた。
といっても、私の担当は土曜日、妹は日曜日の週に一度だけ。
平日はお母さんが作ってくれていた。学校で食べるお弁当も。
お母さんは偉大だ。
炊事に洗濯に掃除等、家のメンテナンスをほとんど一人でしてくれてたもんね。
もちろん外で一生懸命働いてくれているお父さんにだって感謝しなきゃいけない。
私が立派に育ったのも、お父さんが外で働き、お母さんがきちんと家を守ってくれたおかげです。
お父さん、お母さん、本当にありがとう。
うちの学校はアルバイト禁止で、家計の手助けができないのは心苦しいけれど、決して散財せず、学生らしく勉学に励むことを誓います!
私は高ぶる感情のままに、凄まじい速さで次々と野菜を切った。
全ての具材を切り終えて、フライパンにサラダ油を入れ、豚肉を炒めていく。
色が変わったところで豚肉を皿に移し、空いたフライパンに野菜を投入。
人参、玉ねぎ、ピーマン、キャベツ、もやし。
それから肉を戻して調味料を入れ、馴染ませて野菜炒めの完成。
菜箸で野菜を摘み、味見してみる。
うん、美味しい。
野菜はシャキシャキだし、味もよくしみ込んでる。
100点つけてもいいんじゃないかな。
これなら人様に出したって恥ずかしくな……
「………………はっ!?」
その瞬間、天啓のように閃き、私はよろめいた。
手からバラバラと菜箸が落ちて床に転がる。
いくら『カラフルラバーズ』が好きだったとはいえ、何で転生しちゃったんだろ? と不思議に思っていたけれど、その理由がわかった気がする。
必要とされているのは、この料理スキルじゃないか!?
だって拓馬、料理できないもの!
いや、『料理できない』なんて生温い。
彼には『食材を毒に変える』呪いがかかっている。そうとしか思えない。
ゲーム中、新婚カップルよろしく、拓馬が乃亜と一緒に料理するイベントがあるけれど、拓馬が担当したみそ汁の鍋は緑に変色した謎の液体をまき散らしながら大爆発を起こした。
なんで豆腐とわかめと麩と味噌しか入れてないのに汁が緑色に変化するんだよって、突っ込みどころ満載すぎてプレイしながら思わず笑ってしまったけれど、拓馬は料理下手というキャラ設定なんだから仕方ない、そう思っていた。
でも現実では『仕方ない』じゃ済まされない。
噴き上げた煙に髑髏マークが浮かぶような、あんな得体のしれない謎の液体Xを飲んだら、きっと拓馬は死んでしまう。
命を守るためにも、絶対に、拓馬に料理を作らせるわけにはいかない。
「……わかった。私が何故モブとして転生したのか……」
私は愕然としながら額を押さえた。
私が転生したのは、栄養たっぷりの手料理を振る舞ってくれる乃亜が登場するまでの繋ぎ――つまりは乃亜の代役を任されたからだ。
人間の身体は食べ物で出来ているから、ちゃんと栄養バランスの取れた食事をしなきゃいけない。
心身共に疲れ切って料理をする気力もなく、コンビニ弁当やら栄養ドリンクやらゼリーやらサプリメントなんかで日々ごまかし続けた結果、前世の私の体調は常に最低で、肌荒れも酷かった。
拓馬が一年に渡って偏食をすれば、きっと悲惨な状態になる。
それを阻止するために、私がいるんだ!
「昼間に挨拶した拓馬は見惚れるほど美しかった……私の使命は拓馬がより美しく、より格好良くなるように手伝うことなんだ!」
ぐっと拳を握る。
私が拓馬の隣の部屋に住むことになったのも偶然じゃなく、神さまの思し召しに違いない。
「そうか、そういうことだったんだ。ええ、やってやろうじゃない。私、見事にモブとしての使命を果たしてみせるわ!」
拓馬は前世の私を救ってくれた恩人だ。
いまこそ、その恩を返す時!
私は目に使命の炎を燃やし、菜箸を拾ってシンクの洗いかごに入れた。
手を洗ってから、頭上の棚からタッパーを取り上げ、作り立ての野菜炒めを詰め込んだ。
夜七時。
私は紺色のエプロンを締め、キッチンで人参を短冊切りにしていた。
夕食の献立のメインディッシュは野菜炒めだ。
今日は引っ越しの後片付けで疲れたので、比較的簡単なもので済ませるつもりだった。
「乙女ゲームの世界っていっても、視界に日時が表示されたり、好感度ゲージが表示されたりすることはないんだなあ」
ぼやきながら、刻み終えた人参をボールに入れ、種を取ったピーマンを細切りにしていく。
料理は好きだし、得意なほうだと思う。
家庭環境のおかげだ。
野々原家の食事は当番制で、私も妹も中学に上がった頃から当番に組み込まれた。
といっても、私の担当は土曜日、妹は日曜日の週に一度だけ。
平日はお母さんが作ってくれていた。学校で食べるお弁当も。
お母さんは偉大だ。
炊事に洗濯に掃除等、家のメンテナンスをほとんど一人でしてくれてたもんね。
もちろん外で一生懸命働いてくれているお父さんにだって感謝しなきゃいけない。
私が立派に育ったのも、お父さんが外で働き、お母さんがきちんと家を守ってくれたおかげです。
お父さん、お母さん、本当にありがとう。
うちの学校はアルバイト禁止で、家計の手助けができないのは心苦しいけれど、決して散財せず、学生らしく勉学に励むことを誓います!
私は高ぶる感情のままに、凄まじい速さで次々と野菜を切った。
全ての具材を切り終えて、フライパンにサラダ油を入れ、豚肉を炒めていく。
色が変わったところで豚肉を皿に移し、空いたフライパンに野菜を投入。
人参、玉ねぎ、ピーマン、キャベツ、もやし。
それから肉を戻して調味料を入れ、馴染ませて野菜炒めの完成。
菜箸で野菜を摘み、味見してみる。
うん、美味しい。
野菜はシャキシャキだし、味もよくしみ込んでる。
100点つけてもいいんじゃないかな。
これなら人様に出したって恥ずかしくな……
「………………はっ!?」
その瞬間、天啓のように閃き、私はよろめいた。
手からバラバラと菜箸が落ちて床に転がる。
いくら『カラフルラバーズ』が好きだったとはいえ、何で転生しちゃったんだろ? と不思議に思っていたけれど、その理由がわかった気がする。
必要とされているのは、この料理スキルじゃないか!?
だって拓馬、料理できないもの!
いや、『料理できない』なんて生温い。
彼には『食材を毒に変える』呪いがかかっている。そうとしか思えない。
ゲーム中、新婚カップルよろしく、拓馬が乃亜と一緒に料理するイベントがあるけれど、拓馬が担当したみそ汁の鍋は緑に変色した謎の液体をまき散らしながら大爆発を起こした。
なんで豆腐とわかめと麩と味噌しか入れてないのに汁が緑色に変化するんだよって、突っ込みどころ満載すぎてプレイしながら思わず笑ってしまったけれど、拓馬は料理下手というキャラ設定なんだから仕方ない、そう思っていた。
でも現実では『仕方ない』じゃ済まされない。
噴き上げた煙に髑髏マークが浮かぶような、あんな得体のしれない謎の液体Xを飲んだら、きっと拓馬は死んでしまう。
命を守るためにも、絶対に、拓馬に料理を作らせるわけにはいかない。
「……わかった。私が何故モブとして転生したのか……」
私は愕然としながら額を押さえた。
私が転生したのは、栄養たっぷりの手料理を振る舞ってくれる乃亜が登場するまでの繋ぎ――つまりは乃亜の代役を任されたからだ。
人間の身体は食べ物で出来ているから、ちゃんと栄養バランスの取れた食事をしなきゃいけない。
心身共に疲れ切って料理をする気力もなく、コンビニ弁当やら栄養ドリンクやらゼリーやらサプリメントなんかで日々ごまかし続けた結果、前世の私の体調は常に最低で、肌荒れも酷かった。
拓馬が一年に渡って偏食をすれば、きっと悲惨な状態になる。
それを阻止するために、私がいるんだ!
「昼間に挨拶した拓馬は見惚れるほど美しかった……私の使命は拓馬がより美しく、より格好良くなるように手伝うことなんだ!」
ぐっと拳を握る。
私が拓馬の隣の部屋に住むことになったのも偶然じゃなく、神さまの思し召しに違いない。
「そうか、そういうことだったんだ。ええ、やってやろうじゃない。私、見事にモブとしての使命を果たしてみせるわ!」
拓馬は前世の私を救ってくれた恩人だ。
いまこそ、その恩を返す時!
私は目に使命の炎を燃やし、菜箸を拾ってシンクの洗いかごに入れた。
手を洗ってから、頭上の棚からタッパーを取り上げ、作り立ての野菜炒めを詰め込んだ。
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