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23:誰より頼れるのは
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「由香ちゃん!」
慌てて由香ちゃんの身体を抱き留める。
由香ちゃんは私に縋りつくようにしてその場に座り込んだ。
周囲にいた生徒たちが「何」「どうした」と私たちを見ている。
見ているだけで、積極的に関わろうとしてこないのは幸運だった。
「も、もう無理……もうダメ……こうなったら転校するしか……」
私の腕の中で、由香ちゃんは頭を抱えて震えている。
「どうしたの、ののっち、中村さん」
幸太くんの声が聞こえて、私は由香ちゃんを抱いたまま顔を上げた。
登校中に偶然出会ったらしく、幸太くんと拓馬が歩いてくる。
「え、なにこれラブレター? 全部同じ封筒に見えるんだけど。どういうこと?」
「詳しい話は後だろ。中村さん、立てる? 保健室連れて行こうか?」
拓馬が屈んで言う。
「大丈夫……」
由香ちゃんは苦痛に耐えるようにきつく目を閉じた後、封筒を集めて立ち上がり、また弱々しく笑った。青い顔で。
「心配かけてごめんね。大したことじゃないの」
「そんなわけないでしょう。どう見ても」
私が腕を掴むと、由香ちゃんは諦めたように項垂れた。
「ねえ由香ちゃん、どうしたの。何があったの。教えて」
「きっかけは一週間前なの」
朝のホームルーム前の教室で、由香ちゃんは事情を話し始めた。
聞いているメンバーは私と拓馬と幸太くん。
教室の一角から、吉住さんの眼差しをひしひし感じる。
私は拓馬に加えて、拓馬に匹敵するイケメンで人気者の幸太くんまで名前呼びにしているので、さぞ不愉快に違いない。
それでも彼女の一派が何もしてこないのは拓馬ががつんと言ってくれたから。
推測にしか過ぎないけれど、私はそう思っている。
「電車通学の私は朝、ごった返す駅のホームで生徒手帳を拾った。ちょうどその人のポケットから落ちるのが見えたんだ。走って追いかけたのはいいんだけど、問題はその後でね。息を切らして届けた私が女神に見えたとかで……告白されてもきっぱり断ったのに、何度言ってもしつこくて……いまじゃストーカーみたいになっちゃって……もうどうしたらいいのか……」
由香ちゃんは泣きそうだ。
「勘違い野郎につきまとわれて迷惑してるってわけか。中村さん可愛いし、おとなしいからなー。多少強引にでも押せば落ちると思われてんだろうな」
「落ちたくない……」
幸太くんの台詞を受けて、由香ちゃんが顔を覆う。
「名前とクラスはわかるの?」
拓馬が冷静に聞く。
「うん。二年一組の、井田っていう先輩」
「一組か。三組なら知り合いの先輩がいたんだけどな」
拓馬は悔しそうに言って後頭部を掻いた。
「……拓馬が由香ちゃんの彼氏のフリをするっていうのはどうかな? 井田先輩が諦められないのは、由香ちゃんがフリーだからっていう理由が大きいと思うし」
「おれ?」
拓馬が面食らった顔で自分を指さす。
「うん。あなた」
大きく頷く。
「え、でも、迷惑じゃ……」
私はおろおろしている由香ちゃんの背中をぽんと叩いた。
由香ちゃんが口を閉ざす。
「お願い。由香ちゃんは私の大事な友達なの。安心して任せられるのは拓馬しかいないの」
縋るように見つめながら、私はもう一度由香ちゃんの背中を叩いた。
すると、由香ちゃんはきゅっと唇を結んで、
「迷惑かけてごめんね、黒瀬くん。でも本当に困ってるの。どうかお願いしますっ……!!」
身体の前で手を傘ね、腰を折って深く頭を下げた。
幸太くんが拓馬を見る。その口元には面白がるような笑み。
拓馬は仏頂面で頬を掻き、お馴染みの台詞を言った。
「……別に。いいけど」
それなりに付き合いの長い私には、この台詞が拓馬の照れ隠しであることを知っている。
「ありがとうっ……!!」
由香ちゃんは喜びに頬を上気させ、花のような笑みを浮かべた。
慌てて由香ちゃんの身体を抱き留める。
由香ちゃんは私に縋りつくようにしてその場に座り込んだ。
周囲にいた生徒たちが「何」「どうした」と私たちを見ている。
見ているだけで、積極的に関わろうとしてこないのは幸運だった。
「も、もう無理……もうダメ……こうなったら転校するしか……」
私の腕の中で、由香ちゃんは頭を抱えて震えている。
「どうしたの、ののっち、中村さん」
幸太くんの声が聞こえて、私は由香ちゃんを抱いたまま顔を上げた。
登校中に偶然出会ったらしく、幸太くんと拓馬が歩いてくる。
「え、なにこれラブレター? 全部同じ封筒に見えるんだけど。どういうこと?」
「詳しい話は後だろ。中村さん、立てる? 保健室連れて行こうか?」
拓馬が屈んで言う。
「大丈夫……」
由香ちゃんは苦痛に耐えるようにきつく目を閉じた後、封筒を集めて立ち上がり、また弱々しく笑った。青い顔で。
「心配かけてごめんね。大したことじゃないの」
「そんなわけないでしょう。どう見ても」
私が腕を掴むと、由香ちゃんは諦めたように項垂れた。
「ねえ由香ちゃん、どうしたの。何があったの。教えて」
「きっかけは一週間前なの」
朝のホームルーム前の教室で、由香ちゃんは事情を話し始めた。
聞いているメンバーは私と拓馬と幸太くん。
教室の一角から、吉住さんの眼差しをひしひし感じる。
私は拓馬に加えて、拓馬に匹敵するイケメンで人気者の幸太くんまで名前呼びにしているので、さぞ不愉快に違いない。
それでも彼女の一派が何もしてこないのは拓馬ががつんと言ってくれたから。
推測にしか過ぎないけれど、私はそう思っている。
「電車通学の私は朝、ごった返す駅のホームで生徒手帳を拾った。ちょうどその人のポケットから落ちるのが見えたんだ。走って追いかけたのはいいんだけど、問題はその後でね。息を切らして届けた私が女神に見えたとかで……告白されてもきっぱり断ったのに、何度言ってもしつこくて……いまじゃストーカーみたいになっちゃって……もうどうしたらいいのか……」
由香ちゃんは泣きそうだ。
「勘違い野郎につきまとわれて迷惑してるってわけか。中村さん可愛いし、おとなしいからなー。多少強引にでも押せば落ちると思われてんだろうな」
「落ちたくない……」
幸太くんの台詞を受けて、由香ちゃんが顔を覆う。
「名前とクラスはわかるの?」
拓馬が冷静に聞く。
「うん。二年一組の、井田っていう先輩」
「一組か。三組なら知り合いの先輩がいたんだけどな」
拓馬は悔しそうに言って後頭部を掻いた。
「……拓馬が由香ちゃんの彼氏のフリをするっていうのはどうかな? 井田先輩が諦められないのは、由香ちゃんがフリーだからっていう理由が大きいと思うし」
「おれ?」
拓馬が面食らった顔で自分を指さす。
「うん。あなた」
大きく頷く。
「え、でも、迷惑じゃ……」
私はおろおろしている由香ちゃんの背中をぽんと叩いた。
由香ちゃんが口を閉ざす。
「お願い。由香ちゃんは私の大事な友達なの。安心して任せられるのは拓馬しかいないの」
縋るように見つめながら、私はもう一度由香ちゃんの背中を叩いた。
すると、由香ちゃんはきゅっと唇を結んで、
「迷惑かけてごめんね、黒瀬くん。でも本当に困ってるの。どうかお願いしますっ……!!」
身体の前で手を傘ね、腰を折って深く頭を下げた。
幸太くんが拓馬を見る。その口元には面白がるような笑み。
拓馬は仏頂面で頬を掻き、お馴染みの台詞を言った。
「……別に。いいけど」
それなりに付き合いの長い私には、この台詞が拓馬の照れ隠しであることを知っている。
「ありがとうっ……!!」
由香ちゃんは喜びに頬を上気させ、花のような笑みを浮かべた。
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