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41:そうだといいな
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「……悠理ちゃん」
まずい。非常にまずい。
でも、どうやって妨害すればいいのかわからない。
私がいくら妨害したって、二人のアパートは隣同士。
学校が終わればいつだって二人きりになれる環境だ。私がこれまで何度もそうしてきたように。
しかも乃亜と私では決定的な違いがある。
拓馬は私に対して恋愛感情を抱くことはなかったけれど、乃亜は別。
その気になればキスとかそれ以上のことだって……
……ずびしっ!
「痛っ!?」
予期せぬ頭への一撃を受けて、私は額を押さえてのけ反った。
涙目になって見れば、私の額に手刀をお見舞いしたそのままのポーズで由香ちゃんが私を見ている。
「あ、良かった。悠理ちゃん。戻って来たね」
「う、うん」
私は額を摩りながら、目を白黒させた。
なんだいまの一撃は。とてもか弱い由香ちゃんが繰り出したとは思えないほど良い一撃だったんだけど。衝撃が脳天まで突き抜けて言ったんだけど。
「気持ちはわかるけど、ご飯はちゃんと食べましょう。眉間に皺を寄せて黙り込んだきり、箸が進んでないよ?」
由香ちゃんは既に食べ終えたらしく、巾着袋の紐を綺麗に結んでいた。
「……そうだね」
私は弁当箱を持ち上げ、おかずを口に運んだ。
食べながら、ちらりと二人を見る。
二人は昼食を終えても談笑していた。
いつの間にか幸太くんまでその輪の中に加わっている。
幸太くんは乃亜を「いっちゃん」と呼び、話題は学習進度に移っていた。
これまで通っていた高校よりも藤美野のほうが数学の学習進度が早く、ついて行くのが大変そう、と言って乃亜が笑う。
それならおれが教えようか、と何気に数学が得意な拓馬が提案し、いいの、と乃亜が食いついている。
……この分だと早速今日から放課後特別授業を始めるんだろうか。
拓馬か、あるいは乃亜の部屋で。二人きりで。
「もう。悠理ちゃん? 昼休憩終わっちゃうよ?」
「えっ。あ」
気づけばまた箸が止まっていた。
由香ちゃんが私を睨んでいる。これはまずい。
もう知らない、と言って机を離し、放置されるかも。
私は拓馬たちの声を耳に入れないようにした。三人がどんなに楽しそうに笑っていても聞こえないふり、知らないふり。
お茶で強引に口の中の物を飲み下し、甘い味付けの卵焼きを箸で切り裂き、口に運ぶ。
おかかのかかった白米をまとめて箸で摘まみ、無心で食べていると、由香ちゃんがふと私の手元を見つめて笑った。
「いつも思うけど、悠理ちゃんのお弁当って本当に手が込んでるよね。手間のかかるから揚げだって手作りで、冷凍食品使ってないでしょう」
「……うん」
私はお弁当を見つめた。
早起きして、拓馬の分もまとめて作っているお弁当。
色合いに気を付けて。赤・緑・黄の基本の三色は必ず入れるようにして。できれば黒と白も入れて。
余裕があれば飾り切りやデコレーションもしている。
そうすると拓馬が「今日の人参は花だったな」とか「うずらがヒヨコで笑ったんだけど」とか、楽しそうに報告してくれるから。
「こんなに愛情込めてるんだもん。悠理ちゃんの気持ちは、きっと黒瀬くんにも伝わってるよ」
由香ちゃんは私を安心させるように、優しく微笑んだ。
不安に沈んでいた心が、ほんの少し軽くなる。
「……そうかな」
私は拓馬のほうを見た。
変わらず拓馬は乃亜と笑っているけれど。
「……そうだといいな」
心から呟いた。
まずい。非常にまずい。
でも、どうやって妨害すればいいのかわからない。
私がいくら妨害したって、二人のアパートは隣同士。
学校が終わればいつだって二人きりになれる環境だ。私がこれまで何度もそうしてきたように。
しかも乃亜と私では決定的な違いがある。
拓馬は私に対して恋愛感情を抱くことはなかったけれど、乃亜は別。
その気になればキスとかそれ以上のことだって……
……ずびしっ!
「痛っ!?」
予期せぬ頭への一撃を受けて、私は額を押さえてのけ反った。
涙目になって見れば、私の額に手刀をお見舞いしたそのままのポーズで由香ちゃんが私を見ている。
「あ、良かった。悠理ちゃん。戻って来たね」
「う、うん」
私は額を摩りながら、目を白黒させた。
なんだいまの一撃は。とてもか弱い由香ちゃんが繰り出したとは思えないほど良い一撃だったんだけど。衝撃が脳天まで突き抜けて言ったんだけど。
「気持ちはわかるけど、ご飯はちゃんと食べましょう。眉間に皺を寄せて黙り込んだきり、箸が進んでないよ?」
由香ちゃんは既に食べ終えたらしく、巾着袋の紐を綺麗に結んでいた。
「……そうだね」
私は弁当箱を持ち上げ、おかずを口に運んだ。
食べながら、ちらりと二人を見る。
二人は昼食を終えても談笑していた。
いつの間にか幸太くんまでその輪の中に加わっている。
幸太くんは乃亜を「いっちゃん」と呼び、話題は学習進度に移っていた。
これまで通っていた高校よりも藤美野のほうが数学の学習進度が早く、ついて行くのが大変そう、と言って乃亜が笑う。
それならおれが教えようか、と何気に数学が得意な拓馬が提案し、いいの、と乃亜が食いついている。
……この分だと早速今日から放課後特別授業を始めるんだろうか。
拓馬か、あるいは乃亜の部屋で。二人きりで。
「もう。悠理ちゃん? 昼休憩終わっちゃうよ?」
「えっ。あ」
気づけばまた箸が止まっていた。
由香ちゃんが私を睨んでいる。これはまずい。
もう知らない、と言って机を離し、放置されるかも。
私は拓馬たちの声を耳に入れないようにした。三人がどんなに楽しそうに笑っていても聞こえないふり、知らないふり。
お茶で強引に口の中の物を飲み下し、甘い味付けの卵焼きを箸で切り裂き、口に運ぶ。
おかかのかかった白米をまとめて箸で摘まみ、無心で食べていると、由香ちゃんがふと私の手元を見つめて笑った。
「いつも思うけど、悠理ちゃんのお弁当って本当に手が込んでるよね。手間のかかるから揚げだって手作りで、冷凍食品使ってないでしょう」
「……うん」
私はお弁当を見つめた。
早起きして、拓馬の分もまとめて作っているお弁当。
色合いに気を付けて。赤・緑・黄の基本の三色は必ず入れるようにして。できれば黒と白も入れて。
余裕があれば飾り切りやデコレーションもしている。
そうすると拓馬が「今日の人参は花だったな」とか「うずらがヒヨコで笑ったんだけど」とか、楽しそうに報告してくれるから。
「こんなに愛情込めてるんだもん。悠理ちゃんの気持ちは、きっと黒瀬くんにも伝わってるよ」
由香ちゃんは私を安心させるように、優しく微笑んだ。
不安に沈んでいた心が、ほんの少し軽くなる。
「……そうかな」
私は拓馬のほうを見た。
変わらず拓馬は乃亜と笑っているけれど。
「……そうだといいな」
心から呟いた。
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