社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花

文字の大きさ
62 / 70

62:ようやく迎えたハッピーエンド

しおりを挟む
「…………ええー……?」
 長い話を聞き終えて、頭痛でも感じたのか、拓馬は額を押さえた。

「信じられないよね、やっぱり……」
「……信じられない。でも、この一週間狂ってた自覚はあるし。何よりお前が言うなら、信じるしかないだろ」
 私が言うなら。その言葉に、心臓が余計な音を刻む。

「日記にもモブとかヒロインとか意味わかんねえこと書いてあったしな」
「う……」
 やっぱり読んだのか。

 いや、そうでなければ拓馬の目も覚めなかったんだろうけれど。
 すっかり冷めていたはずの頬の温度が再び上がった。

「……うん。わかった。理解した」
 どうにか自分の中で折り合いをつけたらしく、拓馬は額を押さえていた手を下ろした。

「でも、いくら操られていたとはいえ、お前に暴言を吐いたのは事実だし。告白されたときも泣かせたし……おれもお前のことが好きなんだけど、何もなかったことにしてこのまま付き合うってわけにもいかないよな」
「へ」
 いまさらっと何か言いませんでしたかこの人。

 口をあんぐり開けている私に気づかず、拓馬は俯き加減に、暗い表情で続けた。

「お前が納得するまで償いたいけど、嫌気がさしたって言うなら仕方ない。他の男を探し――」
「ちょっと待てぇぇええ!!」
 全力で突っ込み、私は拓馬に詰め寄ってその両腕を掴んだ。
 拓馬が目をぱちくりさせる。

「何。あ、ごめん返すの忘れてた」
「いま日記帳なんてどうでもいいわっ!!」
 私は受け取った日記帳を最前列の机に叩きつけるようにして置き、再び拓馬の腕を掴んだ。

「私のことが好きって言ったよね? 言ったよね!?」

 一週間前、私は拓馬に告白し、暴言を吐かれて泣きながら帰った。
 けれど、私が立ち去った後、公園で拓馬も泣いたと大福は言った。

 心を操られても、拓馬は意識の奥底でずっと私のことが好きだったと。
 本心とかけ離れた言葉を言わされて、苦しんで泣いていたと。

「もう一回言って。あんな、会話の流れでつい口にしたような、適当な感じじゃなくて。私の目を見て、ちゃんと言って」
 拓馬の腕を握る手に力を込め、真正面から彼の目を見つめる。

「……でも」
 拓馬は躊躇っている。
 悪夢のような一週間の記憶が彼に余計な罪悪感を抱かせているのだ。
 乃亜がここまで計算して彼の心を操ったのだとしたら大したものだ。
 もどかしい。彼の罪悪感を引っぺがして叩き潰したい。一週間の記憶を消せるものならそうしたい。

 でも私にそんな力はない。
 だったら、いま私ができることは何か。拓馬のためにできること。
 必死に考えた末、私は拓馬から手を離し、両手で思いっきり自分の頬を叩いた。

 べちんっ、と、いい音が弾けた。
 衝撃も凄まじい。頬がじんじんする。ちょっぴり涙目になった。

「……何してんの?」
 私の突然の奇行に、拓馬は面食らっている。

「大変! わたしいまの衝撃で一週間の記憶が飛んじゃったみたい!」
 頬を押さえて大きく首を振り、さも困った顔を作ってみせる。

「…………は?」
 拓馬は唖然としている。

「拓馬が私に何をしたのか全然思い出せないわ! 何かあったかしら? ねえ拓馬は覚えてる?」
「…………いや」
「いや本当に覚えてないんだってば。信じてもらえないならもう一回頬を引っ叩くしかないんだけど、私にまた痛い思いをさせる気なの?」
「…………………ぶはっ」
 拓馬は噴き出して、口元を押さえ、笑いながらもう一方の手で私の肩を叩いた。

「わかった。おれの負けだ。だからもう止めろ。見てるだけで痛い」
「良かった、信じてくれたのね!」
 顎の下で手を組み、手と首を横に右に傾け、にっこり笑う。

「もう演技はいいって。全く……お前にはほんと敵わねえ」
 拓馬は私の頬に両手を添わせ、そっと触れた。
 胸の高鳴りを感じながら、顔を持ち上げられるまま、まっすぐに拓馬を見返す。

「お前は日記で自分がモブだと嘆いてたけど、そんなことねえよ。おれにとってのヒロインは野々原悠理、お前だ。お前しかいないんだ」

「………っ」
 喜びが胸いっぱいに広がって、目の奥が熱くなる。

「毎日手の込んだ料理を作って、おれが寝たら布団をかけて、風邪を引かないように気を遣ってくれて。食材を腐らせる呪いも諦めずに解いてくれた。いつだって笑顔で傍にいて、おれを愛してくれた。そんな上等な女、お前しかいねえよ」
 涙が溢れて、頬をいくつも滑り落ちていく。
 拓馬は笑って私の頬を親指で拭い、こつんと額と額をくっつけた。

「乃亜なんてどうだっていい。悠理、お前が好きだ。これからもずっとおれの傍にいてくれ」

「…………はい」
 声を震わせて返答すると、拓馬は嬉しそうに笑い、私を抱き寄せた。
 腕を回して拓馬を抱き返す。
 もう二度と離れることがないよう、願いを込めて。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

高嶺の花屋さんは悪役令嬢になっても逆ハーレムの溺愛をうけてます

花野りら
恋愛
花を愛する女子高生の高嶺真理絵は、貴族たちが通う学園物語である王道の乙女ゲーム『パルテール学園〜告白は伝説の花壇で〜』のモブである花屋の娘マリエンヌ・フローレンスになっていて、この世界が乙女ゲームであることに気づいた。 すると、なぜか攻略対象者の王太子ソレイユ・フルールはヒロインのルナスタシア・リュミエールをそっちのけでマリエンヌを溺愛するからさあ大変! 恋の経験のないマリエンヌは当惑するばかり。 さらに、他の攻略対象者たちもマリエンヌへの溺愛はとまらない。マリエンヌはありえないモテモテっぷりにシナリオの違和感を覚え原因を探っていく。そのなかで、神様見習いである花の妖精フェイと出会い、謎が一気に明解となる。 「ごめんねっ、死んでもないのに乙女ゲームのなかに入れちゃって……でもEDを迎えれば帰れるから安心して」 え? でも、ちょっと待ってよ……。 わたしと攻略対象者たちが恋に落ちると乙女ゲームがバグってEDを迎えられないじゃない。 それならばいっそ、嫌われてしまえばいい。 「わたし、悪役令嬢になろうかな……」 と思うマリエンヌ。 だが、恋は障壁が高いほと燃えあがるもの。 攻略対象者たちの溺愛は加熱して、わちゃわちゃ逆ハーレムになってしまう。 どうなってるの? この乙女ゲームどこかおかしいわね……。 困惑していたマリエンヌだったが真相をつきとめるため学園を調査していると、なんと妖精フェイの兄である神デューレが新任教師として登場していた! マリエンヌはついにぶちキレる! 「こんなのシナリオにはないんだけどぉぉぉぉ!」 恋愛経験なしの女子高生とイケメン攻略対象者たちとの学園生活がはじまる! 最後に、この物語を簡単にまとめると。 いくら天才美少女でも、恋をするとポンコツになってしまう、という学園ラブコメである。

彼氏がヤンデレてることに気付いたのでデッドエンド回避します

恋愛
ヤンデレ乙女ゲー主人公に転生した女の子が好かれたいやら殺されたくないやらでわたわたする話。基本ほのぼのしてます。食べてばっかり。 なろうに別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたものなので今と芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただけると嬉しいです。 一部加筆修正しています。 2025/9/9完結しました。ありがとうございました。

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

断罪された挙句に執着系騎士様と支配系教皇様に目をつけられて人生諸々詰んでる悪役令嬢とは私の事です。

甘寧
恋愛
断罪の最中に前世の記憶が蘇ったベルベット。 ここは乙女ゲームの世界で自分がまさに悪役令嬢の立場で、ヒロインは王子ルートを攻略し、無事に断罪まで来た所だと分かった。ベルベットは大人しく断罪を受け入れ国外追放に。 ──……だが、追放先で攻略対象者である教皇のロジェを拾い、更にはもう一人の対象者である騎士団長のジェフリーまでがことある事にベルベットの元を訪れてくるようになる。 ゲームからは完全に外れたはずなのに、悪役令嬢と言うフラグが今だに存在している気がして仕方がないベルベットは、平穏な第二の人生の為に何とかロジェとジェフリーと関わりを持たないように逃げまくるベルベット。 しかし、その行動が裏目に出てロジェとジェフリーの執着が増していく。 そんな折、何者かがヒロインである聖女を使いベルベットの命を狙っていることが分かる。そして、このゲームには隠された裏設定がある事も分かり…… 独占欲の強い二人に振り回されるベルベットの結末はいかに? ※完全に作者の趣味です。

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処理中です...