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62:ようやく迎えたハッピーエンド
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「…………ええー……?」
長い話を聞き終えて、頭痛でも感じたのか、拓馬は額を押さえた。
「信じられないよね、やっぱり……」
「……信じられない。でも、この一週間狂ってた自覚はあるし。何よりお前が言うなら、信じるしかないだろ」
私が言うなら。その言葉に、心臓が余計な音を刻む。
「日記にもモブとかヒロインとか意味わかんねえこと書いてあったしな」
「う……」
やっぱり読んだのか。
いや、そうでなければ拓馬の目も覚めなかったんだろうけれど。
すっかり冷めていたはずの頬の温度が再び上がった。
「……うん。わかった。理解した」
どうにか自分の中で折り合いをつけたらしく、拓馬は額を押さえていた手を下ろした。
「でも、いくら操られていたとはいえ、お前に暴言を吐いたのは事実だし。告白されたときも泣かせたし……おれもお前のことが好きなんだけど、何もなかったことにしてこのまま付き合うってわけにもいかないよな」
「へ」
いまさらっと何か言いませんでしたかこの人。
口をあんぐり開けている私に気づかず、拓馬は俯き加減に、暗い表情で続けた。
「お前が納得するまで償いたいけど、嫌気がさしたって言うなら仕方ない。他の男を探し――」
「ちょっと待てぇぇええ!!」
全力で突っ込み、私は拓馬に詰め寄ってその両腕を掴んだ。
拓馬が目をぱちくりさせる。
「何。あ、ごめん返すの忘れてた」
「いま日記帳なんてどうでもいいわっ!!」
私は受け取った日記帳を最前列の机に叩きつけるようにして置き、再び拓馬の腕を掴んだ。
「私のことが好きって言ったよね? 言ったよね!?」
一週間前、私は拓馬に告白し、暴言を吐かれて泣きながら帰った。
けれど、私が立ち去った後、公園で拓馬も泣いたと大福は言った。
心を操られても、拓馬は意識の奥底でずっと私のことが好きだったと。
本心とかけ離れた言葉を言わされて、苦しんで泣いていたと。
「もう一回言って。あんな、会話の流れでつい口にしたような、適当な感じじゃなくて。私の目を見て、ちゃんと言って」
拓馬の腕を握る手に力を込め、真正面から彼の目を見つめる。
「……でも」
拓馬は躊躇っている。
悪夢のような一週間の記憶が彼に余計な罪悪感を抱かせているのだ。
乃亜がここまで計算して彼の心を操ったのだとしたら大したものだ。
もどかしい。彼の罪悪感を引っぺがして叩き潰したい。一週間の記憶を消せるものならそうしたい。
でも私にそんな力はない。
だったら、いま私ができることは何か。拓馬のためにできること。
必死に考えた末、私は拓馬から手を離し、両手で思いっきり自分の頬を叩いた。
べちんっ、と、いい音が弾けた。
衝撃も凄まじい。頬がじんじんする。ちょっぴり涙目になった。
「……何してんの?」
私の突然の奇行に、拓馬は面食らっている。
「大変! わたしいまの衝撃で一週間の記憶が飛んじゃったみたい!」
頬を押さえて大きく首を振り、さも困った顔を作ってみせる。
「…………は?」
拓馬は唖然としている。
「拓馬が私に何をしたのか全然思い出せないわ! 何かあったかしら? ねえ拓馬は覚えてる?」
「…………いや」
「いや本当に覚えてないんだってば。信じてもらえないならもう一回頬を引っ叩くしかないんだけど、私にまた痛い思いをさせる気なの?」
「…………………ぶはっ」
拓馬は噴き出して、口元を押さえ、笑いながらもう一方の手で私の肩を叩いた。
「わかった。おれの負けだ。だからもう止めろ。見てるだけで痛い」
「良かった、信じてくれたのね!」
顎の下で手を組み、手と首を横に右に傾け、にっこり笑う。
「もう演技はいいって。全く……お前にはほんと敵わねえ」
拓馬は私の頬に両手を添わせ、そっと触れた。
胸の高鳴りを感じながら、顔を持ち上げられるまま、まっすぐに拓馬を見返す。
「お前は日記で自分がモブだと嘆いてたけど、そんなことねえよ。おれにとってのヒロインは野々原悠理、お前だ。お前しかいないんだ」
「………っ」
喜びが胸いっぱいに広がって、目の奥が熱くなる。
「毎日手の込んだ料理を作って、おれが寝たら布団をかけて、風邪を引かないように気を遣ってくれて。食材を腐らせる呪いも諦めずに解いてくれた。いつだって笑顔で傍にいて、おれを愛してくれた。そんな上等な女、お前しかいねえよ」
涙が溢れて、頬をいくつも滑り落ちていく。
拓馬は笑って私の頬を親指で拭い、こつんと額と額をくっつけた。
「乃亜なんてどうだっていい。悠理、お前が好きだ。これからもずっとおれの傍にいてくれ」
「…………はい」
声を震わせて返答すると、拓馬は嬉しそうに笑い、私を抱き寄せた。
腕を回して拓馬を抱き返す。
もう二度と離れることがないよう、願いを込めて。
長い話を聞き終えて、頭痛でも感じたのか、拓馬は額を押さえた。
「信じられないよね、やっぱり……」
「……信じられない。でも、この一週間狂ってた自覚はあるし。何よりお前が言うなら、信じるしかないだろ」
私が言うなら。その言葉に、心臓が余計な音を刻む。
「日記にもモブとかヒロインとか意味わかんねえこと書いてあったしな」
「う……」
やっぱり読んだのか。
いや、そうでなければ拓馬の目も覚めなかったんだろうけれど。
すっかり冷めていたはずの頬の温度が再び上がった。
「……うん。わかった。理解した」
どうにか自分の中で折り合いをつけたらしく、拓馬は額を押さえていた手を下ろした。
「でも、いくら操られていたとはいえ、お前に暴言を吐いたのは事実だし。告白されたときも泣かせたし……おれもお前のことが好きなんだけど、何もなかったことにしてこのまま付き合うってわけにもいかないよな」
「へ」
いまさらっと何か言いませんでしたかこの人。
口をあんぐり開けている私に気づかず、拓馬は俯き加減に、暗い表情で続けた。
「お前が納得するまで償いたいけど、嫌気がさしたって言うなら仕方ない。他の男を探し――」
「ちょっと待てぇぇええ!!」
全力で突っ込み、私は拓馬に詰め寄ってその両腕を掴んだ。
拓馬が目をぱちくりさせる。
「何。あ、ごめん返すの忘れてた」
「いま日記帳なんてどうでもいいわっ!!」
私は受け取った日記帳を最前列の机に叩きつけるようにして置き、再び拓馬の腕を掴んだ。
「私のことが好きって言ったよね? 言ったよね!?」
一週間前、私は拓馬に告白し、暴言を吐かれて泣きながら帰った。
けれど、私が立ち去った後、公園で拓馬も泣いたと大福は言った。
心を操られても、拓馬は意識の奥底でずっと私のことが好きだったと。
本心とかけ離れた言葉を言わされて、苦しんで泣いていたと。
「もう一回言って。あんな、会話の流れでつい口にしたような、適当な感じじゃなくて。私の目を見て、ちゃんと言って」
拓馬の腕を握る手に力を込め、真正面から彼の目を見つめる。
「……でも」
拓馬は躊躇っている。
悪夢のような一週間の記憶が彼に余計な罪悪感を抱かせているのだ。
乃亜がここまで計算して彼の心を操ったのだとしたら大したものだ。
もどかしい。彼の罪悪感を引っぺがして叩き潰したい。一週間の記憶を消せるものならそうしたい。
でも私にそんな力はない。
だったら、いま私ができることは何か。拓馬のためにできること。
必死に考えた末、私は拓馬から手を離し、両手で思いっきり自分の頬を叩いた。
べちんっ、と、いい音が弾けた。
衝撃も凄まじい。頬がじんじんする。ちょっぴり涙目になった。
「……何してんの?」
私の突然の奇行に、拓馬は面食らっている。
「大変! わたしいまの衝撃で一週間の記憶が飛んじゃったみたい!」
頬を押さえて大きく首を振り、さも困った顔を作ってみせる。
「…………は?」
拓馬は唖然としている。
「拓馬が私に何をしたのか全然思い出せないわ! 何かあったかしら? ねえ拓馬は覚えてる?」
「…………いや」
「いや本当に覚えてないんだってば。信じてもらえないならもう一回頬を引っ叩くしかないんだけど、私にまた痛い思いをさせる気なの?」
「…………………ぶはっ」
拓馬は噴き出して、口元を押さえ、笑いながらもう一方の手で私の肩を叩いた。
「わかった。おれの負けだ。だからもう止めろ。見てるだけで痛い」
「良かった、信じてくれたのね!」
顎の下で手を組み、手と首を横に右に傾け、にっこり笑う。
「もう演技はいいって。全く……お前にはほんと敵わねえ」
拓馬は私の頬に両手を添わせ、そっと触れた。
胸の高鳴りを感じながら、顔を持ち上げられるまま、まっすぐに拓馬を見返す。
「お前は日記で自分がモブだと嘆いてたけど、そんなことねえよ。おれにとってのヒロインは野々原悠理、お前だ。お前しかいないんだ」
「………っ」
喜びが胸いっぱいに広がって、目の奥が熱くなる。
「毎日手の込んだ料理を作って、おれが寝たら布団をかけて、風邪を引かないように気を遣ってくれて。食材を腐らせる呪いも諦めずに解いてくれた。いつだって笑顔で傍にいて、おれを愛してくれた。そんな上等な女、お前しかいねえよ」
涙が溢れて、頬をいくつも滑り落ちていく。
拓馬は笑って私の頬を親指で拭い、こつんと額と額をくっつけた。
「乃亜なんてどうだっていい。悠理、お前が好きだ。これからもずっとおれの傍にいてくれ」
「…………はい」
声を震わせて返答すると、拓馬は嬉しそうに笑い、私を抱き寄せた。
腕を回して拓馬を抱き返す。
もう二度と離れることがないよう、願いを込めて。
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