48 / 66
決着
しおりを挟むその聞き覚えのある声に俺は喜色を浮かべた。
廃工場の入り口に仁王立ちの女性、その傍らにボコボコの男2人。
恐らくその男たちをボコボコにしたであろう女性は――――白雪部長だった。
「白雪部長!? どうして!」
「おい古坂。何悲しい事を言ってくれる。部下のピンチを助けるのが上司の役目だ。てか、お前から連絡があった癖に何を言ってるんだ」
そう。俺はここに来るタクシーの中で一度会社に連絡をしていた。
内容は、凛が大平清太に襲われていること。その報告を受けた時の部長の驚きは電話越しでも伝わった。
だが俺がその後に言ったのは、別に助けが欲しいって事ではない。
これから俺は、屑野郎をぶん殴りに行く、最悪警察に捕まるかもしれない。
会社には迷惑を掛けたくない。だから俺を今すぐクビにしてくださいと頼み込んだのだ。部長が答える間もなく俺は電話を切った。
部長はボロボロの男たちを放置して、俺の所に闊歩して近づき、思いっきり拳骨する。
「痛っ!?」
拳骨された部分を摩りながら俺は驚くが、白雪部長の表情は不機嫌そのものだった。
「お前な、一丁前に会社に迷惑を掛けたくないからクビにしてくれって言うが。そんな事が世間に通じるわけがないだろ! お前が警察沙汰になったらクビにしてようとしてなくても迷惑かかるわ、馬鹿!」
「す、すみません!」
確かに俺の考えは浅はかだった。
凛が襲われているから冷静さを欠いていての発言だったが、何も言い返せない。
「てか白雪部長……部長がボコボコにしたと思われる男たちは……?」
「ああ、こいつらか? 何か私を見るなりセクハラ発言をしてきたからお仕置きしたまでだ」
お仕置きなんて言葉で済むのだろうか、どちらかと言うか折檻レベルの負傷だ。
「こいつら以外にも外に何人か男はいたが、そいつらは全員、警察のお縄になっているよ」
部長が立てた親指で差した方を見ると、外にはパトカーが何台か止まっていて、警察に男たちが身柄を捕らえられていた。
こいつらが大平清太が言っていた仲間たちか?
別に遅刻していたわけじゃなくて、全員警察に捕らえられたのか、内2人は部長によって負傷しているけど……。
この警察は部長が通報したのか……出来れば、警察の手を借りずに自分で解決したかったけど、自惚れだったか。
部長は肩を落す俺にため息を吐きながら、俺の横を通り。
「貴様が今回の首謀者の大平清太か? 貴様と会うのは今回が初めてだから自己紹介してやる。私は貴様の取引先の1つデリス食品の営業部長、白雪穂希だ。短い間だが宜しく頼むよ」
流石男性よりも力強い白雪部長。野郎相手に毅然な態度だ。
「テメェか、警察を呼びやがったのは!」
「そうだが? 当たり前だろ。事件性があるのなら国家権力を使うのなんて」
身も蓋もないが自分たちで解決しようと自惚れた俺達にとっては痛い一言だ。
「それにしてもよくもまあ、好き勝手してくれたな馬鹿孫。貴様は自分が罪を犯しているという自覚はないのか?」
「黙りやがれ! テメェ、デリス食品って言ったよな。俺にここまでするとか覚悟は出来てるんだよな!?」
この期に及んで強気の態度の大平清太だが、俺も予想外の人物の登場にその表情が一気に瓦解する。
「覚悟は出来ているとは、どういう意味だ、清太」
入口の影から現れた聡明な顔立ちとしたご老人。その人って……。
「な、なんで……爺ちゃんがいるんだよ」
そうだ。この人は『オオヒラスーパー』初代社長、大平源次郎。大平清太の祖父じゃねえか。
「なんでオオヒラの社長が……。確か出張に行っているはずじゃ……」
俺が朝電話した時は社員に社長は出張中と聞かされていた。
行先は何処かは聞いていないが、出張中の人がどうしてこんな所に。
それに答えてくれたのは白雪部長だった。
「オオヒラの社員が事実確認の為に社長に一報を入れてくれてたんだ。社長に取ったら驚天動地だったかもな。自分が知らない間に最も根深い繋がりのデリス食品と契約が打ち切りになっているんだから。それを聞いた後に出張先の仕事を中断して戻って来てたんだ。古坂が私に報告をしてくれただろ? あの時社長も私の隣に居たんだ」
そうだったのか……。
正直予想外の人物の登場だったけど、渡りに船で助かった。
「清太、今一度問うぞ。これはなんだ?」
大平社長は逮捕される男たち、そして俺や凛を見渡し孫である大平清太に問いかける。
奴は祖父の登場を未だに呑み込めてない様で言葉を尻込みしていたが、
「じ、爺ちゃん聞いてくれよ! こいつらが言い掛かりを付けて来たんだ。外にいる奴らは万が一の為に待機していた奴で、決して悪い奴では!」
崖っぷちにも関わらず嘘を並べるコイツの胆力に見兼ねる。
大平社長は孫の第一声が謝罪じゃない事に心底落胆した様子で。
「この期に及んでくだらん嘘を吐きおって。貴様はワシたちが今丁度来たと思っているのか?」
「…………え?」
本気で思っていたのか間抜けな声を漏らす大平清太。
「私たちは古坂の報告を受けてから直ぐに現場に向かったよ。そんで、外にいる奴らを取り押さえた後、お前たちの会話をバッチリ聞いていたぞ」
「そうだ。貴様が恥ずかしげもなく彼らを侮辱した事、そして世間に顔向けできない事を赤裸々と叫んでいたとこ、貴様の本性を全て、この目と耳で知っておる! 馬鹿者が!」
大平社長の一喝で大平清太の表情は絶望一色になり項垂れる。
…………これは、決着が着いたか。
「そう言えば白雪部長。どうしてここが分かったんですか? 俺は場所を教えてないはずですし、俺みたいに電話越しの情報とか無かったはずですが?」
「おい古坂。まさかお前知らなかったのか? 社員に配られる仕事用の携帯は常に探知できるようにGPS機能が備わっているんだぞ。それを使えばお前たちの居場所なんて直ぐに見つかるわ」
…………マジで? 全然知らなかったんだけど。
「……という事は、それを使えば凛が何処にいるのか直ぐに分かったってことですか!?」
「まあ、見る権限は部長や課長しかないが、説明していなかったけ?」
「してないですよ! うわぁ……なんか必死に場所特定に頭を使った事が無駄に思えてきた……」
事件が解決した事で気が緩んだのか、別の事で落胆する俺。
そして完全敗北をして地面に項垂れる大平清太を祖父である社長が見下ろし。
「ワシはお前を甘やかし過ぎたみたいだ。真面目に過ごしていると思っていたが、裏ではこの様な事をしていたとは……何処で道を踏み外したんだ」
大平社長の諫めに大平清太は無言で俯くだけ、そして社長は穴が空いた天井を仰ぎ。
「貴様はとんだ恩知らずだな。この様な馬鹿げた事で貴様の命の恩人であるデリス食品に仇で返すとは」
どういう意味だ、とここにいる全員が困惑する。
大平清太もそうで、俯いていた顔を社長へと見上げる。
「お前は幼少期から体が弱く、高校2年に成った頃、お前は大病を患った。幸いにもその病気には治療法があり、治る可能性があった。だが、治療費は膨大で、当時お金を持っていなかったワシたちは半ば諦めていた。そんな中、治療費の援助をしたのが誰か知っているのか?」
社長はそう言って目を俺達の方へと向けた。その視線と言葉で俺はその誰かなのか察した。
「デリス食品の社長、青葉茂だぞ」
「………………なっ!?」
俺も忘れていたが、当時の事を思い出した。
あれは、俺が入社して半年過ぎた頃に、青葉社長が俺達の所に土下座した事があった。
『親友の所の孫が病気を患い、治療費が必要なんだ。俺はその治療費を援助したい。だが、俺にも金がない。皆には申し訳ないが、会社の金を少し使わせてくれ、頼む!』
と涙ぐみながらに懇願する青葉社長の姿が脳裏に蘇る。
青葉社長は騙されているのかもと怪しんだ者もいたが、人命がかかっているという事で俺達は快く了承した。あの時少し会社が傾きかけたけど、俺達の努力で何とか保たれたんだよな。
そうか、あの時話していた孫が、大平清太だったのか……。
「おかげでお前の病気は治った。そして、それから数年後にワシが開いた小売事業も景気が乗り、生活に余裕ができ始め、援助して貰った治療費も返す事が出来た。そして、その恩に報いる為にワシはデリス食品と取引を結び、良好にして来たのに、お前は!」
大平社長は大平清太の胸倉を掴み持ち上げる。
そして怒りに震える瞳で孫を睨み。
「勝手な独断で取引を打ち切り、剰えその社員を襲うとは! いや、彼女だけではない、多くの者を傷つける様な愚かな事をしておって、この馬鹿者が!」
大平社長の中に幾つもの感情がひしめき合っているだろう。
孫を大切にしている社長にも擁護したい気持ちはあるだろうが、それを覆い隠す程に、孫が犯罪に手を染め、孫と自身の恩人である者達を裏切ったことへの絶望と怒りがあるのだろう。
もし、この場に俺達がいなければ、社長自らの手で孫を殺しかねない程に、その顔は怒りに染まっている。
そして大平清太も、知らなかったのか、自身が助かる切っ掛けを与えてくれた俺達の会社を裏切ったことへの自責の念か、涙を流し。
「ご、ごめんな……さい……う、うわぁああああああ!」
懺悔する奴の叫びが、廃工場に響き渡る。
0
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
∞
桜庭かなめ
恋愛
高校1年生の逢坂玲人は入学時から髪を金色に染め、無愛想なため一匹狼として高校生活を送っている。
入学して間もないある日の放課後、玲人は2年生の生徒会長・如月沙奈にロープで拘束されてしまう。それを解く鍵は彼女を抱きしめると約束することだった。ただ、玲人は上手く言いくるめて彼女から逃げることに成功する。そんな中、銀髪の美少女のアリス・ユメミールと出会い、お互いに好きな猫のことなどを通じて彼女と交流を深めていく。
しかし、沙奈も一度の失敗で諦めるような女の子ではない。玲人は沙奈に追いかけられる日々が始まる。
抱きしめて。生徒会に入って。口づけして。ヤンデレな沙奈からの様々な我が儘を通して見えてくるものは何なのか。見えた先には何があるのか。沙奈の好意が非常に強くも温かい青春ラブストーリー。
※タイトルは「むげん」と読みます。
※完結しました!(2020.7.29)
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺
NOV
恋愛
俺の名前は『五十鈴 隆』 四十九歳の独身だ。
俺は最近、リストラにあい、それが理由で新たな職も探すことなく引きこもり生活が続いていた。
そんなある日、家に客が来る。
その客は喪服を着ている女性で俺の小・中学校時代の大先輩の鎌田志保さんだった。
志保さんは若い頃、幼稚園の先生をしていたんだが……
その志保さんは今から『幼稚園の先生時代』の先輩だった人の『告別式』に行くということだった。
しかし告別式に行く前にその亡くなった先輩がもしかすると俺の知っている先生かもしれないと思い俺に確認しに来たそうだ。
でも亡くなった先生の名前は『山本香織』……俺は名前を聞いても覚えていなかった。
しかし志保さんが帰り際に先輩の旧姓を言った途端、俺の身体に衝撃が走る。
旧姓「常谷香織」……
常谷……つ、つ、つねちゃん!! あの『つねちゃん』が……
亡くなった先輩、その人こそ俺が大好きだった人、一番お世話になった人、『常谷香織』先生だったのだ。
その時から俺の頭のでは『つねちゃん』との思い出が次から次へと甦ってくる。
そして俺は気付いたんだ。『つねちゃん』は俺の初恋の人なんだと……
それに気付くと同時に俺は卒園してから一度も『つねちゃん』に会っていなかったことを後悔する。
何で俺はあれだけ好きだった『つねちゃん』に会わなかったんだ!?
もし会っていたら……ずっと付き合いが続いていたら……俺がもっと大事にしていれば……俺が『つねちゃん』と結婚していたら……俺が『つねちゃん』を幸せにしてあげたかった……
あくる日、最近、頻繁に起こる頭痛に悩まされていた俺に今までで一番の激痛が起こった!!
あまりの激痛に布団に潜り込み目を閉じていたが少しずつ痛みが和らいできたので俺はゆっくり目を開けたのだが……
目を開けた瞬間、どこか懐かしい光景が目の前に現れる。
何で部屋にいるはずの俺が駅のプラットホームにいるんだ!?
母さんが俺よりも身長が高いうえに若く見えるぞ。
俺の手ってこんなにも小さかったか?
そ、それに……な、なぜ俺の目の前に……あ、あの、つねちゃんがいるんだ!?
これは夢なのか? それとも……
網代さんを怒らせたい
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」
彼がなにを言っているのかわからなかった。
たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。
しかし彼曰く、これは練習なのらしい。
それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。
それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。
それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。
和倉千代子(わくらちよこ) 23
建築デザイン会社『SkyEnd』勤務
デザイナー
黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟
ただし、そう呼ぶのは網代のみ
なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている
仕事も頑張る努力家
×
網代立生(あじろたつき) 28
建築デザイン会社『SkyEnd』勤務
営業兼事務
背が高く、一見優しげ
しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く
人の好き嫌いが激しい
常識の通じないヤツが大嫌い
恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる