それなりに怖い話。

只野誠

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はかばのまえ

はかばのまえ

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 女が会社から帰る時、墓場の前を通らなくてはならない。
 それ以外の道もあるのだが、どうしても治安があまり良くなく、そこを避けると墓場の前を通らないとならない。

 墓場といっても綺麗な物ではなく、誰が管理しているのかもわからないボロボロでおどろおどろしい場所だ。
 そんな場所の前を毎日朝晩と通らなければならないのが、女の悩みだ。

 しかも、その墓場にはよく出る、という噂があるのだ。

 その日、女は残業があり、帰りが遅く、帰り道も一人だった。
 そんな日に限ってすぐにわかる。
 墓場の前に誰かが立っているのが。
 頭に深く笠をかぶり、白い昔ながらの服装で、片手には杖、もう片方には鈴を持って、その鈴をチリンチリンと鳴らしていた。
 ただでさえ、墓場の前なのに、そんな人が立っていたのだ。

 それを見た女は来た道を引き返したくなる。

 引き返したくなったが、実際に引き返すわけにもいかず、女は警戒しながらその、変な格好、しいて言えばお遍路さんのような恰好をしている人に近づいていく。
 笠を深くかぶっているので、顔は見えないし、男か女かも判断がつかない。

 ある程度近づくと、今まで鳴らされていた鈴の音が止まる。
 そして、男にしては高く、女からすると低いそんな声で、夜分遅くに申し訳ない、道に迷ってしまいまして、それを尋ねたいのですが、と話しかけられる。

 それに対して女は、自分はこの辺りに住んではいないのでそれほど詳しくはない、と告げる。
 そうすると、墓場の前に立つ人物は、駅を訪ねたかったのですが、とそう言った。

 女はその言葉に安心する。
 幽霊が駅を訪ねる訳がないと。
 そして、最寄りの〇〇駅ですよね? と聞き返す。
 だが、墓場の前の人物は、いいえ、△△ヶ△駅です、と答える。
 女はそんな駅名を知らない。少なくとも、この近くにはそんな駅はないはずだ。

 そのことを告げると、墓場の前の人は、そうですか、と返事をして、墓場のほうへ、墓場へと繋がる階段を登って墓場の中へと消えていった。
 女が呆気に取られていると、すぐにその人物は視界から消えていく。
 追ってどこへ行くのか確かめたい気分も少しだけあったが、女は夜の墓場に入っていく勇気はなかった。

 女は家に帰ってから、△△ヶ△駅のことを調べるが、そんな駅は存在しない。
 地名では見つけることはできたが他の遠い県であり、その場所とも思えなかった。
 だが、もう会うこともないだろう、そう女も思った次の日だ。

 墓場の前に昨日と同じような人が、やはり鈴を鳴らしながら立っている。

 女はドキドキしながらも、墓場の前に立つ人の近くまで歩く。
 そうすると、昨日と同じく鈴の音が止まり話しかけられる。
 昨日と同じく、夜分遅くに申し訳ない、道に迷ってしまいまして、それを尋ねたいのですが、と話しかけられる。

 女は調べておいたことを伝える。
 この辺りに△△ヶ△駅などなく、△△ヶ△という地名ならあったが別の遠い場所だと、そう伝えたのだ。
 そうすると、墓場の前に立つ人は深々と女に頭を下げて、無言で墓場へと続く階段を登っていった。

 女はその墓場の前に立つ人のことがとても気になりだし、一応、最寄りの駅からその△△ヶ△という地域までの行き方を調べ、印刷しておいた。

 次の日も墓場の前に、同じ格好の人が立っているし、近くまで行くと、鈴の音が止まり、同じことを聞かれる。
 女は印刷しておいた、△△ヶ△へまでの行き方の書かれた紙をその人物に手渡す。
 そうすると、その人物は墓場へと続く階段を登らず駅の方へと歩き出していった。

 女はそれを見送ったあと、しばらくしてから自分も駅へと向かっていった。

 これで良かったのだ、女はそう思っていたが、翌日、会社からの帰り道、墓場の前で同じ格好の人物がいるのを見つける。
 流石に女ももうかまってられない、そう思い、来た道を引き返し、タクシーを呼んでその日は家に帰った。

 それ以来、女は会社から最寄りの駅まで決して一人で帰らず、誰かと共に帰るようになった。
 そのおかげかどうかはわからないが、墓場の前に立つ人物を見ることはなくなった。

 その人物が何者であったのか、人ですらなかったのか、それも分からずじまいだ。
 風の噂で無縁仏の墓の前に、△△ヶ△までの行き方が印刷された紙が置かれていたと、聞いたくらいだ。




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