それなりに怖い話。

只野誠

文字の大きさ
728 / 769
かわぞいのみち

かわぞいのみち

しおりを挟む
 男が川沿いの道を歩いていると、向こうから真っ黒な人が歩いてくる。
 男も大柄な方だが、その男よりもさらに大柄な人だ。
 しかも全身が真っ黒だ。

 真冬の時期だ、黒い服を着込めばそんな感じにはなる。
 なので異様というほどではないが、不気味ではあった。
 男は少し道の端に寄り、その黒い人物と距離を取った。
 だが、それがいけなかったのかもしれない。

 全身黒い人物は、男が自分を避けたのだと、そう気づいてしまったのだ。

 男はその黒い人物とすれ違う寸前に声を掛けられてしまう。
 そこで男も気づく、この黒く大きなモノは人ではないと。

 人の形はしている。
 だが、明らかに人ではない。
 少なくとも男にはそう感じられていたのだ。

 なにが? と聞かれても上手く説明はできないが、黒く人型の何かとその周りの境界線が曖昧だったり、ものすごい獣臭がしたりと。
 部分的なものであれば挙げていけるが、それらは決定的なものでなく、それが人間ではないと決定づけられる核心的なものは言葉では言い表せない。
 その存在が持つ雰囲気とでもいうのだろうか、とにかく人間ではない、そう感じさせる何かがそれにはあったのだ。

 そんな存在が男に聞いてくる。
 川上はどっちだ、と。
 案外聞きやすい声で、とても印象深い。
 男は体の震えを抑えることができずに、震える手で川上の方を指さした。

 そうするとその存在は男が指さした方へと、それが元々向かっていた方で方向を変えたわけではないが、歩いて行ってしまった。
 周囲にはものすごい獣臭さだけが残っていた。

 しばらく男はその場に立ち尽くし、体の震えが収まるのを待った。
 そうしなければまともに歩けないほど体が震えていたのだ。
 暑くもないのに全身に汗をかき、浅い呼吸を震えながら繰り返していたのだ。

 なんとか男が持ち直し、歩き始めようとした時だ。
 川下のほうから、また黒く大きな何かが歩いてきた。

 今度はその姿を見ただけで男は腰を抜かしてしまう。
 そして全身がどうしようもないほどガタガタと震えだした。
 とにかくその黒い存在が男は怖くて仕方なかった。
 その黒い存在はへたり込んだ男を見て、声をかけてくる。

 似たような者、兄がここを通ったはずだ、どちらへ行った?

 それはそうと男に聞いてきた。
 男は震える手で川上を指さす。
 そうすると、それはさらに男に声をかける。

 また似たような者がくる。妹だ。妹には行き場所を伝えるな。

 そう言い残してそれは川上へと歩いて行った。
 男はまた似たようなものが来ると聞いて、今すぐにでも逃げたかったが足が震え、まともに立つこともできなかった。
 全身がガタガタと震え、へたり込んだまま、まともに動くこともできない。

 そうこうしていると、また、いや、今度は黒い塊がやってくる。
 今度は人の形すらしていない。
 闇そのもののひと塊で、その闇の中に何かが蠢いているように男には見えた。

 その塊は男に声をかけたが、何を言っているのか理解できなかった。
 恐らくは日本語なのだろうが、なぜか聞き取れない。
 何人もの人が同時に別々のことを喋っているかのように、何を言っているのかも分からなかった。

 なので、男は全身を震わせながらもなんとか、わからない、という言葉だけを繰り返した。

 気づけば男は道の端で石のように丸まりながら、わからない、という言葉だけをうわごとのように繰り返していた。
 男が次に気が付いた時、そこは病院のベッドの上だった。
 道で倒れていたと、男は病院へと運ばれていた。

 男は何だかんだで、妹という存在に行き場所を教えなかったから自分は助かったのだと、そう思っていた。
 その夜、男がまだ病院に念のための検査ということで泊まっていた、ベッドで横になっていた時のことだ。

 そこからともなく数人で話しかけられてくるような声が聞こえて来た。
 今度はその全員が同じことを言っていて男にも聞き取れた。

 どこへ行った?

 と。
 男は震えながら、川上へ、川上へ行きました、と言ってしまう。
 そうすると、声は少しずつ遠ざかっていった。

 それ以来、男は川に近づくことは避けている。
 もし次にあれに出会ってしまったら、自分がどうなるかわからないからだ。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

洒落にならない怖い話【短編集】

鍵谷端哉
ホラー
その「ゾワッ」は、あなたのすぐ隣にある。 意味が分かると凍りつく話から、理不尽に追い詰められる怪異まで。 隙間時間に読める短編ながら、読後の静寂が怖くなる。 洒落にならない実話風・創作ホラー短編集。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

きさらぎ駅

水野華奈
ホラー
親友から電話があった。 きさらぎ駅という場所にいるらしい… 日常の中の小さな恐怖が今始まる。 触れてしまったが最後。 二度と戻れない。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

『ショート怪談』訪れるもの

見崎志念
ホラー
一話完結のお話をぽつぽつとしたためております。ドロッとしたよくわからないものに対しての恐怖をお楽しみください

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】 ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。 八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。現在 150話 越え。 === エブリスタ・小説家になろう・カクヨムに同時掲載中 【総文字数 800,000字 超え 文庫本 約8冊分 のボリュームです】 【怖さレベル】 ★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度 ★★☆ ふつうに怖い話 ★★★ 旧2ch 洒落怖くらいの話 ※8/2 Kindleにて電子書籍化しました 『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』

処理中です...