それなりに怖い話。

只野誠

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うるさいりんじん

うるさいりんじん

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 隣人が真夜中にうるさい。
 そう不動産屋に勤める男はクレームを受けた。
 色々と問題がある。

 クレームを言ってきた人物は、俗にいうところのクレーマーの客だ。
 なにより、そのクレーマーが言う隣の部屋は空き部屋なのだ。

 二重の意味で男は嫌なものを感じる。

 念のためすぐにその空き部屋を確認しに行くのだが、特に変わったところはない。
 それだけに男は嫌な予感がしてならない。
 クレーマーな客の勘違いだった、というのが一番丸く収まる話なのだが、そう簡単にいきはしない。
 ただ、その空き部屋は普通の空き部屋であり、何か事故や事件が起きた部屋でもない。

 そして、昼間確認したが空き部屋におかしなところがないことを、クレーマーの客に伝える。
 そうするとクレーマーの客は隣が空き部屋なことは知っている、なのに、夜中になると大きな言い争いの声が聞こえて来るから、言っているんだ、とそう言ってきた。
 男はなんで隣が空き部屋なのを知っているんだ、と思いつつも、隣に住んでいれば気づくか、とも思う。

 数時間電話で、あーでもない、こーでもないと話した結果、週末に男が客の家に泊まるという話になってしまった。
 なんでこうなったか男にもわからない。
 そのことを不動産屋の社長、まあ、個人でやっている不動産屋なので、男の父親なのだが、に言うと、それもいい経験だ、と了承されてしまう。

 クレームを言っている客は、中年の独身男性だ。
 男が週末に行くと、部屋自体は意外と綺麗に使ってくれている。
 不動産屋として、それはうれしい限りだ。

 そして、深夜になる。
 男があくびをかみ殺していると、クレーマーの客が始まった、と急に言った。
 何も男には聞こえない。
 もしかして、この客がヤバいのではないか、そう思った直後だ。
 ゴポゴポと空き部屋のはずの隣から、奇妙な音が聞こえて来て、それから男女の言い争いが始まる。
 ただ壁越しだからだろうか、何を言っているのかまで聴き取れない。

 それでも確かに声量は大きく、十分に睡眠を妨害するような声の大きさだった。
 男も確かにこれが毎晩続くなら、クレームを言いたくなる、と感じるし、本当に聞こえてきたと嫌な顔をする。
 隣は空き部屋なのだ。人の声が聞こえてくるとなると、いろんな意味で問題だ。

 クレームの客は男に鍵を持っているんだろ? と聞いてきた。
 確かに隣の鍵を男は持っている。
 だが、相手が人間だったとして、空き部屋に毎夜侵入するような相手に危険すぎる。
 人間じゃなかった場合は考えたくもない。

 ただ実際に声が聞こえることは事実なので、男は警察を呼ぶことにした。
 クレームの客は、一言でも文句を言わなくちゃ気が済まない、とすぐにでも隣に行こうとしている。
 男がなんとか客を宥めていると、警察がやって来て、警察もその声を聞いて顔を顰める。
 更に不動産屋が隣は実は空き部屋で、というと、応援を呼ぶ、とそう言ってくれた。

 ただクレームの客はもう我慢の限界だったのか、男と警官が話している間に、空き室のチャイムを連打していた。

 誰も出てこないし、空き部屋の言い争いは続いている。
 クレームの客が真夜中にも関わらず大声を出し始めたので、男は警官と相談し、仕方なく空き部屋を開けた。
 空き部屋は真っ暗だった。
 空き部屋らしく何もない。
 誰もいない。
 誰かいるような気配もない。

 だが、男女の言い争う声はどこからともなく聞こえて来る。
 男と警官が呆気に取られていると、クレームの客はずかずかと部屋に上がり込み、耳を澄ます。
 そして、台所の流し、その排水溝に向かい文句を言い始めた。

 その後、警官の応援が来たころには、男女の言い争う声は聞こえなくなっていた。

 男がクレーム客になんで流しに文句を? と聞くと、言い争う声が排水溝から聞こえて来た、と、そう言ったのだ。
 それを聞いた男は、何か寒気なようなものを感じた。
 この排水溝はどこへつながっているのかと。

 それから男は、その空き部屋が空き部屋の時は度々訪れ、配管の返しが乾いてどこかとつながらないように、水を流すようになった。
 どことつながっていたのかは分からないままだが、知らないほうがいいのかもしれない。

 ただそれと同時に排水管の返しにちゃんと水がたまっていると、真夜中に男女の言い争いの声は聞こえなくなることだけは確かだ。




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