それなりに怖い話。

只野誠

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にわとり

にわとり

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 少女の家には鶏がいる。
 田舎で農家だ。
 そう珍しい事ではない。

 朝はちゃんと目覚まし代わりになるし、慣れるとかわいくもある。
 ただ匂いだけは、鶏の匂いだけは少女は苦手だった。

 鶏は庭の一区画で放し飼いにされている。
 柵で囲まれた区画で、その中に鶏舎もあり、鶏はその中で放し飼いにされていた。
 毎日ではないが卵を産んでくれる。
 生みたての卵は確かに美味しいが、生で食べると少女は親に怒られていた。

 昔はその鶏自体も食べることもあったらしいが、今ではただのペットのような物で食べるようなこともない。
 少女にとっては鶏は、本当にペットのような存在だった。

 そんな鶏が殺された。
 猫の仕業かと少女は思ったが、少女の父の話では猫ではなくもっと大型の獣だという。
 無残に殺された鶏の姿を少女は見ていないが、父がその死体を見て言うのだから、そうなのだろうと少女も思った。

 ただ、大型の獣が庭に入る様な事があるのかは疑問だし、鶏は放し飼いとはいえ柵の中にいた。
 その柵も壊されていない。
 ここいらで大型の獣と言えば熊がすぐに思う浮かぶが、熊が入って来たような形跡もまるでない。
 なので鼬かなにかか、と少女は勝手に考える。
 ただ、少女の父親は大型の獣と言ったのだ。
 鼬と猫ではそう大きさに差があるようには少女には思えなかった。

 まあ、そんなことがあった、鶏が殺されてから数日後の夜だ。
 少女が縁側を歩いているとき、ふと鶏がいた柵の方を見る。
 次の休みには新しい鶏を買いに行くと父が言っていたので、柵も鶏舎もそのままにしてある。
 その区画に影が見える。

 少女とそう変わらない大きな動物の影だ。

 少女にはそれが熊の影のように見えた。
 恐らく鶏を襲った獣だろう、と少女は思った。
 そこで少女は大声を上げる。
 大人を呼び、鶏の敵を取ってもらおうと、そう思ってだ。
 少女にとって父親は誰よりも強い、熊なんかよりも強い、そう信じていたからだ。

 だが、少女はかなり大きな叫び声をあげたのだが、誰も駆け付けて来ない。
 普段なら少女の父がすぐに駆け付けて来てくれるのに、今日は来ない。

 その代わりに鶏舎の近くまでやって来ていた、熊のようなその影が少女に気づく。
 そして、のそりのそりと少女にむかいやってくる。
 物凄い獣臭だ。
 少女はその匂いに顔を歪める。

 そして、それが柵をひょいとこえて、近づいてきたことで少女は気づく。
 それは熊ではない。

 それは人の顔をしていた。
 体は、確かに熊ぽく深い毛皮に覆われている。
 だが、頭部は顔は人の物なのだ。
 しいて言えば人面熊だ。
 熊の体に人の顔が付いているのだ。

 少女はそれを見て再び、いや、今度は本気の叫び声を上げる。
 先ほどよりも大きい叫び声だ。

 それでも誰も来ない。
 来る気配もない。
 そして、その人面熊が少女に近寄ろうとしたとき、コケコッコー、と夜を裂く様なけたたましい鶏の鳴き声が鶏舎からあがる。
 夜なのに鶏の大きな鳴き声がする。
 人面熊が鶏舎の方を振り返る。

 そうするとドタバタと縁側を走る足音がする。
 少女の父親が駆け付けてくると、人面熊は柵どころか、家の塀を飛び越えてどこかへ去って行った。

 少女が父に抱き着ぎ今あったことを告げる。
 父からすれば、流石に人面熊など信じれた話ではないが、鶏の鳴き声が聞こえたことだけは確かだ。
 それに、少女の叫び声を聞いて真っ先に駆け付けて来たのに、縁側までの廊下が妙に長く縁側まで父親はどうしてもたどり着けなかったという。
 けれども、それも鶏の鳴き声が聞こえ、父親は縁側までたどり着けたという。

 少女の父は改めて飼っていた鶏の墓を建て、供養してやった。
 そして、守ってくれてありがとう、と、毎日、餌と線香を供えてやったという。

 まあ、それだけの話だ。



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