それなりに怖い話。

只野誠

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かゆみ

かゆみ

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 男は背中が痒かった。
 チクチクとした痒みがある。
 痛みではなく痒みだ。

 男は手をまわして背中を掻こうとするが、微妙に届かない。
 どうにか手が届かないか背中に手をまわしてみていると、なんとか痒い場所に手が届く。

 そうするとわかる。
 少し腫れているような感じだ。
 ただ触っても痛みはない。ただただチクチクとした痒みがあるくらいだ。

 けれど、腫れているとなると掻くのは良くないか、と、男は背中に回していた手を引っ込める。

 そして、上半身の服を脱ぎ、脱衣所にある鏡の前へ行く。
 首を捻り背中がどうなっているのか確認する。

 五百円程度の赤い腫れが背中の肩甲骨と肩甲骨の間で右側の辺りにあるのが見える。

 虫刺されにしても、出来物にしても、少し大きい腫れに男には思えた。
 明日にでも病院へ行ったほうが良いか、そんなことを男は考える。

 男は服を着なおして、もう寝ることにした。
 先ほどは明日にでも病院にと思っていたが、明日も仕事だ。
 恐らく行けるのは週末になってしまうだろうし、週末には治っているかもしれない、男はそんなことを考える。
 痒いだけで痛みもないのだから、と。

 男はそのまま寝てしまう。
 だが、夜中に目が覚める。

 ジュクジュクとした疼きが背中から感じられる。
 あの腫れが悪化したか、と、男はすぐにそう考える。
 痛みも多少あるが、それよりもひどい痒みを感じる。
 今すぐにでも掻きむしらないとおかしくなってしまうような、猛烈な痒みだ。

 寝ぼけていた男は何も考えず背中を掻きむしる。
 何度か掻いたところでドロッとした感触を指に感じる。
 掻きむしって血でも出てか、と、男は掻くのを止て、起き上がり部屋の電気をつける。
 そこで気づく男が寝ていたベッドには黄色いしみができていて、男の手には膿のような物がべっとりとついていた。

 男はすぐに服を脱ぎ棄て、脱衣所の鏡の前までいく。
 腫れが真ん中からぱっくりと割れ、そこから黄色い膿がドロドロと流れ出ている。
 しかも、男の目には、腫れが、まるで人間の顔のように、しかも大きく開いた口から膿を垂れ流しているように見えた。

 男は短く悲鳴を上げ、どうするか迷う。
 とりあえず今も膿が垂れてきているので、テッシュを何枚も重ねて、なんとか背中に当てる。
 なんか酷い病気にでもなったのかと、男はテッシュを背中に当て続ける。
 病院が開く時間になったら男は寝巻に外着を羽織っただけの姿で病院へと向かう。

 そして、病院の先生に診てもらう。
 だが、病院の先生は首をかしげる。
 男が着ていた寝巻にはたしかに膿がべったりとついているし、傷口を抑えていたテッシュにも膿はついているのだが、肝心の傷口がない。
 消毒液で男の背中を拭いてやり、もう一度傷口や腫れの跡をさがすのだが、それらしきものはない。

 看護師に鏡を持ってこさせ、男にも確認してもらう。
 男は昨日腫れがあった場所を指さして見せるが、確かに傷跡もなにもない。
 ただ寝間着やテッシュに付着した膿は医者の目からみても本物の膿だったそうだ。

 これは、ただ、それだけの話だ。




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