それなりに怖い話。

只野誠

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せみのこえ

せみのこえ

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 少年は友人らとプールへ行って帰って来たところだった。
 程よく夕方であり、友人らと別れ、家に帰り、疲れた少年はベッドに横になっていた。
 夕飯に呼ばれるときまで、少し寝てようと、そう考えていた。

 だが、蝉の声がミーンミーンとうるさく寝るに寝れない。
 それでも少年には、もう起き上がる気力はなかった。
 うるさいと思いながらも、目を閉じて、うとうととする。
 プールで大はしゃぎした結果、体力の限界が近かった。
 
 だが、蝉も蝉で頑張って鳴いている。
 しかも、少年が寝ているベッドのすぐ脇の窓の近くで、その振動を直に感じるかのような距離で、力の限り鳴いているのだ。

 少年はプールに行った後でなければ、捕まえてやるのに、とそう考えていた。
 それからしばらく、少年は蝉の鳴き声に苦しめられ続けた。

 だが、ある時から、その鳴き声がピタリと止まる。

 あれほどうるさかった蝉が鳴きやみ、少年はやっと一休みできると眠ろうとする。
 その時だ。
 コンコンと窓をノックする音が聞こえる。
 少年は目を開き、窓の外を見る。

 赤い夕陽に照らされて、それはそこにいた。
 浴衣のような着物をきた男だった。
 ただ、開いた浴衣の隙間から見える、上半身から上、つまり胸部から頭部にかけては蝉だった。
 人間の胴体に蝉の頭部がついている、そんな存在が少年のすぐ近くの窓の外に立っていた。

 流石の少年も驚く。
 疲れも、眠気も、すべてどっかへと飛んでいった。

 少年は寝たまま、目を開けたまま、動けない。
 いや、動くということ自体忘れてしまっていたほどの衝撃を受けた。

 少年が呆然としていると、その蝉男は、うるさくしてすまないね、でも、蝉を捕まえるのはやめておいてくれないか? と、人の声で言った。
 それに対して、少年は無言でうなずく。
 そうすると蝉男も頷き、何事もなかったかのように窓から去っていき、見えなくなった。

 少年はすぐさま飛び起きて、窓を開け蝉男が去っていった方を見るが誰もいない。
 誰かいた様子もない。
 その直後、再び蝉の鳴き声が近くから響いてくる。
 少年の手の届く場所で蝉が鳴いている。

 無論、少年は蝉には何もしなかった。
 それどころか、それからは蝉を捕まえるな、と友人らにも言って聞かせていた。

 これは、ただそれだけの話だ。





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