それなりに怖い話。

只野誠

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ぼうきゃくせん

ぼうきゃくせん

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 とある海辺の風習で、忘却船という祭りがある。
 嫌な思い出や、忘れたいことを小さな紙の船に乗せて海へ流す、というものだ。

 祭りといっても山車が出たり、神輿を担ぐものでもない。
 出店すらも出ない。

 ただ地元の、今もこの風習を憶えている老人達が、忘れたいこと、嫌だったこと、などを紙に書き、その紙で小さな船を折り作る。
 それを小さな浜辺で海に流す、それだけの祭り、というか、風習だ。

 忘却船の祭りが終わった三日後のことだ。
 少女は小さな浜辺に、一隻の小舟が流れ着いているのを発見する。
 その小舟は昔ながらの、木だけで作られた今時珍しい小舟だ。
 少女には、そのすべて木で作られた今時珍しい小舟が少し異様に思えた。
 だから、少女は自分では何もせずに、すぐに近くにいた大人に小舟のことを伝える。

 小さく狭い村だ。
 そんなことでもすぐに人は集まる。
 この村の人たちが一斉に集まったんじゃないか、というくらい人が集まる。
 普段、何も起きないそんな村だ。
 少しでも異常があれば、人が集まってくるのだ。

 村の青年団の一人が小舟の中を確認する。
 といっても、小舟は小舟だ。人二人が乗れるか乗れないかくらいの大きさだ。
 確認といっても覗き込むだけで事足りる。

 覗き込んだ青年団の男は、いやな顔をするだけで何も言わない。
 別の青年団、それと大人たち、それに子供達も小舟を覗き込みに行く。

 そこには水に濡れた紙で作られた小さな船が山のように積まれていた。
 小舟を覗き込んだ大人の一人が、これは俺が流した忘却船だ、と言葉をぽつりと言った。
 それを皮切りに、これは俺のだ、これは爺さんのだ、と、次々に色んな人が発言していく。
 浜辺に遅れてやってきた一番年寄りの爺さんが、その様子を見て喋り出す。

 海の神様が代替わりなされたのだ、それで今まで届いて保管していたものを返してくださったのだ、と。
 それを聞いた大人たちは一応は納得する。
 納得はするが、今更返されても困る、という者がほとんどだ。
 中には人に見られたくない事を書いてしまった者もいる。

 とはいえ、紙で作られた船は海水に浸かっていて、その内容をほとんど確認することはできない。

 ただ、問題はそんな事ではない。
 年寄りの爺さんが、神から送り返されてきた物だと、そう言ってしまい、それを信じてしまった者が多かったため、この小舟と紙の船をどうするかで村では大変揉めた。
 海の神を祀る神社に奉納しろという者もいれば、小舟ごと焼いてしまった方がいい、そう主張する者もいた。

 その結果、小舟ごと、神社の蔵にしまわれることなった。
 それにあたり、海水に浸かってしまっている紙の船を乾かして保管する作業も実施された。
 中にはまだ読めるものもあり、それを書いた者にとっては、ある意味怖い話だった。

 さらに神の元から返ってきた物として博物館に展示するという話もあったが、強い反対意見が多数ありその話も小舟と同じくお蔵入りとなった。
 それから、忘却船の祭りはどんどん下火になっていった。
 忘れたいものが忘れた頃に帰ってくるとなると、海に流す意味はない、そう考えた者が多かったようだ。

 ただそれだけの話だ。

 


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