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第一部
01:もふもふ、二本しっぽの朝
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わたしは花屋敷桜、二十八歳。職業は在宅のウェブライター。愛しいもふもふと過ごす平穏な日常さえあれば楽しく生きていける。もふもふと離れたくなくて、実家暮らしを続けるほど筋金入りのもふもふ好き。
その『もふもふ』こそが、愛猫ミケだ。
ミケは三毛猫のメス。野良猫が家の隅っこで産んだ猫だ。保護した時には生死をさ迷ったが、回復してからは、元気いっぱい。傍若無人気質の女王様だった。わたしの家という小さな王国の絶対的支配者として君臨してきた。そして、ミケは二十五歳の誕生日を迎えた。人間で言えば百歳を超える老体だ。
朝、目覚めた瞬間、顔の上に何かが乗っている感触があった。いつもはミケがわたしのアゴの下に収まって寝ているのだが、今日は違う。顔全体を、ふわふわで柔らかなものが覆っている。
「うーん……? なんか、しっぽが多い?」
寝ぼけ眼で手を伸ばし、その柔らかな塊を撫でた。いつものミケのしっぽとは違う、妙にボリュームのある、毛足の長いしっぽ。しかも、二本ある。
一本、二本。わたしは数を数えて、ようやく異変に気がついた。
「……ミケ、しっぽ二本もあったっけ……?」
ミケは短めのしっぽがチャームポイントだったはずだ。それが、今、わたしを包み込んでいるのは、まるで上質な羽毛布団のような、長くて豊かな二本のしっぽ。
驚きで飛び起きようとした瞬間、そのしっぽの持ち主が大きく欠伸をした。
「まったく。桜ちゃんは朝から騒がしいにゃ。静かにしないと、わたしの優雅な朝寝が台無しにゃ」
少し低いけど、どこか愛嬌のある、聞き慣れない声。しかし、その語尾についた『にゃ』は聞き慣れたものだった。
反射的に顔を見下ろすと、そこにはいつものミケの顔があった。ただし、その瞳は、これまで見たことのない、深い金色に輝いている。そして、確かに、しっぽが二本に増えている。
「……え、ええええええええええええええええええええええ!? ミケ、喋った!?」
「桜ちゃんうるさいにゃ。今朝、目を覚ましたら、わたしも驚いたにゃ。昨日の夜までは、こんなにフサフサなフタマタのしっぽはなかったにゃあ」
ミケは、前足を器用に使って、顔の毛づくろいを始めた。
「桜ちゃんが決めてくれた誕生日で二十五歳になった瞬間、頭のなかで声が聞こえたにゃ。『汝、長寿の功により、猫又とならん』とかなんとか。面倒くさいにゃ」
……猫又。
その言葉を聞いた瞬間、頭の中でパズルのピースがカチリと嵌った。二本のしっぽ。人語。そして、二十五歳という長寿。
普通の人間なら悲鳴を上げる状況かもしれない。だが、わたしはずっと、ミケの気まぐれに付き合ってきた飼い主だ。
「……そっか。猫又になったんだ。おめでとう、ミケ」
わたしはミケを抱き上げ、二本になったしっぽを、ごく自然に撫でた。手触りは最高だ。
「にゃ? 気味悪くないにゃ?」
「だってミケだもん。ミケが二十五年も生きて、ただの猫でいる方が、逆に不自然だと思わない? わたしは嬉しいよ。長生きしてくれて」
ミケは目を丸くした後、得意げに胸を張った。
「ふむ。さすがはわたしの桜ちゃんにゃ。この神々しき姿を自然に受け入れるとは。これで、わたしの二十五年間の苦労も報われるにゃ」
こうして、わたしとミケの「猫又生活」が始まった。日常に、ふわふわの二本のしっぽと、ちょっと不思議な会話が溶け込んだ、穏やかな朝だった。
その『もふもふ』こそが、愛猫ミケだ。
ミケは三毛猫のメス。野良猫が家の隅っこで産んだ猫だ。保護した時には生死をさ迷ったが、回復してからは、元気いっぱい。傍若無人気質の女王様だった。わたしの家という小さな王国の絶対的支配者として君臨してきた。そして、ミケは二十五歳の誕生日を迎えた。人間で言えば百歳を超える老体だ。
朝、目覚めた瞬間、顔の上に何かが乗っている感触があった。いつもはミケがわたしのアゴの下に収まって寝ているのだが、今日は違う。顔全体を、ふわふわで柔らかなものが覆っている。
「うーん……? なんか、しっぽが多い?」
寝ぼけ眼で手を伸ばし、その柔らかな塊を撫でた。いつものミケのしっぽとは違う、妙にボリュームのある、毛足の長いしっぽ。しかも、二本ある。
一本、二本。わたしは数を数えて、ようやく異変に気がついた。
「……ミケ、しっぽ二本もあったっけ……?」
ミケは短めのしっぽがチャームポイントだったはずだ。それが、今、わたしを包み込んでいるのは、まるで上質な羽毛布団のような、長くて豊かな二本のしっぽ。
驚きで飛び起きようとした瞬間、そのしっぽの持ち主が大きく欠伸をした。
「まったく。桜ちゃんは朝から騒がしいにゃ。静かにしないと、わたしの優雅な朝寝が台無しにゃ」
少し低いけど、どこか愛嬌のある、聞き慣れない声。しかし、その語尾についた『にゃ』は聞き慣れたものだった。
反射的に顔を見下ろすと、そこにはいつものミケの顔があった。ただし、その瞳は、これまで見たことのない、深い金色に輝いている。そして、確かに、しっぽが二本に増えている。
「……え、ええええええええええええええええええええええ!? ミケ、喋った!?」
「桜ちゃんうるさいにゃ。今朝、目を覚ましたら、わたしも驚いたにゃ。昨日の夜までは、こんなにフサフサなフタマタのしっぽはなかったにゃあ」
ミケは、前足を器用に使って、顔の毛づくろいを始めた。
「桜ちゃんが決めてくれた誕生日で二十五歳になった瞬間、頭のなかで声が聞こえたにゃ。『汝、長寿の功により、猫又とならん』とかなんとか。面倒くさいにゃ」
……猫又。
その言葉を聞いた瞬間、頭の中でパズルのピースがカチリと嵌った。二本のしっぽ。人語。そして、二十五歳という長寿。
普通の人間なら悲鳴を上げる状況かもしれない。だが、わたしはずっと、ミケの気まぐれに付き合ってきた飼い主だ。
「……そっか。猫又になったんだ。おめでとう、ミケ」
わたしはミケを抱き上げ、二本になったしっぽを、ごく自然に撫でた。手触りは最高だ。
「にゃ? 気味悪くないにゃ?」
「だってミケだもん。ミケが二十五年も生きて、ただの猫でいる方が、逆に不自然だと思わない? わたしは嬉しいよ。長生きしてくれて」
ミケは目を丸くした後、得意げに胸を張った。
「ふむ。さすがはわたしの桜ちゃんにゃ。この神々しき姿を自然に受け入れるとは。これで、わたしの二十五年間の苦労も報われるにゃ」
こうして、わたしとミケの「猫又生活」が始まった。日常に、ふわふわの二本のしっぽと、ちょっと不思議な会話が溶け込んだ、穏やかな朝だった。
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