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第三部
03:猫又さまと管理人
しおりを挟む眠るミケを起こさないようにベッドから抜け出して、洗濯機を確認しに行く。乾燥したての服はあったかくて、ふわふわしていた。
(うちもドラム式ほしいなあ……)
時間かかっても乾燥までしてもらえるのは助かる。ただ、買える値段かわからないけど。
(それにしても、仕事どうしようかな。今でさえかなり調整したのに……)
納期の迫っているものを思い出して、うーんと唸る。パソコンさえあればどこでも仕事が出来るとはいえ、パソコンがなければ何もできない。
洗濯物を全て取り出して考え込んでいると。
――ピンポ――ン
「!!」
突然インターフォンが鳴り、体が跳ねた。危うく洗濯物を落としそうになったが、なんとか腕に抱える。
(なに……!?)
――ピンポ――ン
再び、インターフォンが鳴る。一瞬、まさか化け犬!? と思ったけど、それならインターフォンを鳴らすわけがない。ひと眠りをして多少の冷静さを取り戻していたわたしは、洗濯ものをベッドの上に置く。――ミケの耳はぴくぴく動いているが、よく眠っている。起こさないように扉を閉めて、玄関へ向かう。
(クロがここは安全って言ってた。大丈夫)
わたしは覚悟を決めた。
『こんばんは~。神崎です』
「……え?」
玄関の近くに立ったことで、声がはっきり聞こえた。――知らない女性の声。けれど、神崎と名乗った。
『花屋敷さん~』
「あ……今開けます!」
『お願いします』
名前を呼ばれ、わたしは玄関の扉を開けた。
「――あの……」
そこに立っていたのは、知らない女性。だけど、笑い方は神崎先生によく似ていた。
「どうも、はじめまして。神崎の娘で、神崎裕子と申します」
ふわっとした茶色の髪。目じりを下げて笑う女性は、神崎先生の娘だと名乗った。
▽
「お食事とられてないと思ったので、少し持ってきました」
「あ、ありがとうございます」
「いいえ~」
「……あの、ここすごいですね」
「ふふ、そうですよね。びっくりしちゃいますよね」
(岡本先生はカチッとしてらしたけど……裕子さん、すごくふんわりした方だなあ……)
動物看護師さんって言われてたし、もう接し方が染みついてるのかな? とわたしは思った。
「ここ、神谷さん――クロの飼主さんの敷地内にある隔離場なんですよ」
「え」
(か、神谷さんの家だったの!?)
――いや、当たり前にそうなるのかな? でもあんな大きな家があって、更に平屋まで敷地内なんて……。
「驚きますよね」
「ええ……」
「神谷さんとクロは、猫又の保護をしてるんですよ」
「保護……」
「やっぱり猫の寿命延びてますからねぇ……猫又になる子も増えてて」
語尾が切れた。でも、予想はついた。猫又が飼主の命を脅かす存在であること。その上で、猫又を狙う猫又の存在もいる。少しでも被害を減らそうと、動いているんだ。
「母屋にもね、二人いるんですよ」
「二人も……」
「ううん。減って、二人だけなの」
――二人も、と驚いたけど。裕子さんは、悲しそうに二人だけ、と言った。ひやりと背中が冷える。化け犬に猫又食い――もしかしたら、まったく別の理由かもしれないけど。
何か――事情があって減ってしまったのだ。
「……そう、なんですね」
わたしはそれ以上言葉に出来なかった。言えなかった。もしかしたらそれは、ミケにも降りかかることかもしれないから。
「――ちなみに、私はここの管理をさせてもらってるの。たまに、母屋の掃除もね。――あ、お給金も貰って、仕事としてしてる」
裕子さんは、重くなった空気を振り払うように、ぱっと顔をあげた。その言葉に、わたしは納得する。
だから、こんなにアメニティが豊富だったのかな。
わたしの表情から伝わったのか、裕子さんは笑った。
「ほんとはね、私の他にもう一人いて。細かな気配りしてくれてたのはその子の方。でもその子が今入院してて――花屋敷さんもよく知ってる人なんだけど――」
裕子さんは、眉を下げた。
「まりなちゃんよ」
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