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反旗
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屈強な兵士に案内され、王城にエイダ達は足を踏み入れる。
(ここが王城…)
エイダは息を飲む、もしかしたらここはすでに敵の手中かもしれない、そう考えると華美な装飾や豪華な芸術は美しさを感じさせるものでなく、威圧感を発する異物のように見えてくる。
「大丈夫だ、緊張すんなエイダ。」
ドンキホーテはエイダが緊張していることを察し、エイダに小声で話しかけ微笑む。エイダは小さく頷くと、気持ちを切り替える。
(いざという時マリデさんの呪文で逃げられる。)
そう自分に言い聞かせ、緊張してもしょうがないとエイダは思い直した。
「こちらになります。」
屈強な兵士は王の執務室の前まで案内すると、もう自分の役割は終わったとばかりに、扉のすぐ近くに立ちまるで石像のように警備を再開した。
では、とマリデは扉に手をかけノックをする。
「入りたまえ」
男性の声が中からする。マリデはノブを回して扉を開けた。扉の向こう側にいたのは、波のある長髪を持った男性だった。ドンキホーテよりは年上のような印象を受けるものの、まだ若いように見えた。しかし確かに王としての威厳を持ち合わせており、前にしただけでその気品を感じられた。
エイダは思わずその気品に酔いそうになり、ひざまづいたほうが良いのではないだろうかなどと考えてしまう。
「久しぶりだな、ライジェル王」
ドンキホーテのその言葉がなかったら本当にエイダは跪いていただろう。その砕けたまるで友人に久しぶりにあったかのような、その挨拶を聞くと王は笑い出す。
「相変わらずだな、ドンキホーテ」
先ほどの気品はどこかへと消え去り、どこか親しみやすい雰囲気を備えた人物が急に現れた。エイダにはそう感じられた。
「もう出てきていいぜ先生。」
ドンキホーテが言うとマントの中から白猫が飛び出してきた。
「ふぅ、やっとか。」
そう言いながら。
「そちらの白猫は?」
ライジェル王が興味ありげに呟いた。やはり王というものは暇つぶしに、飢えているのかその瞳には好奇心が宿っているように見える。
「アレン先生、魔女で俺たちの仲間だ。」
ドンキホーテの答えに王は「そうか」相槌を打ち。
「すまないつい珍しくてジロジロと見てしまった。ところでその少女も?」
エイダを見つめいう。
「そうです。王様、我らの仲間です。」
マリデがそう答えるとライジェル王は納得した。マリデが認めるのなら頼り甲斐のある人物なのだろうと。
「では、早速本題に入りたい。」
王がそう話を切り出した。
「君たちに集まってもらったのは他でもない、グレン卿を追ってもらいたいからだ。場所なら特定してある。ファファン村の近くで目撃情報があったらしいそこに向かってグレン卿を捕縛してほしい。」
「待ってくれ」
ドンキホーテが話に割り込む。
「グレン卿の居場所がわかっているのに、どうして自国の兵士や騎士を向かわせないんだ?どうして俺たちを送り込む?」
王は口をつぐむ、表に出ていないが王は考えを巡らせている。やがて王はつぐんだ口を重々しく開き、こう言った。
「訳は話せん。」
「失礼じゃが王よ、それでは我々も納得できん、グレン卿は強大じゃ、いざ戦闘になった時も考えてせめて騎士団の力を借りたいところなんじゃが。」
アレン先生はそう懇願する。だが王の意見は変わらない。
「すまない。ある事情により力は貸せないのだ。報酬は多額だ、どうか受けてほしい。君たちにしか頼めないのだ。世界を守る、「黒い羊」にしか。」
「わかりました。では謹んでお受けいたしましょう。ですが王よその代わりに答えていただきたいことがあります。」
マリデの提案に、王は快諾した。
「いいだろう。私に答えられることならなんでも答えよう。」
マリデはエイダ達に顔を見合わせたあと、その内容を喋り始める。
「メルジーナというひとりの作家をご存知ですか?」
マリデは全てを話した。メルジーナ先生のこととそしてエイダが読んだあの秘密のことを、それにソール国が関与している可能性があるのではないのかと、その話を聞くと王は目を丸くし、ため息をついたあと観念するかのように、「まいったな」と呟いた。
「そうかそこまで知っていたのか。ならば隠す必要もないな。いや隠せないが正しいか。」
「じゃあ本当なのかライジェル?」
ドンキホーテのその無礼な物言いに王は対して咎めることもなくただ「王をつけろドンキホーテ」とだけ言う。
「我々が歴史を改ざんしてきたのは事実だ。それには訳がある。」
王は立ち上がり窓から外をみる。城下町を見下ろせる、そこの景色は絶景であった。その景色を、見ながら王は口を開き始めた。
「昔々、魔王を討伐しようと4人の若者が立ち上がった。コルナ、ヴァルデ、ザルバ、マリル。強い絆で結ばれたこの若者達は魔王までの魔物が蔓延る道中を力を合わせ突破していった。旅の途中ザルバとマリルが死にコルナとヴァルデのみになった。残った2人は死んだ2人の無念を抱えながら、魔王を打ち滅ぼした。」
それが勇者の伝説なのだろう。しかし今のところそれが何が問題なのかわからない。
「めでたしめでたし、じゃあないのか?」
ドンキホーテのその質問に王は「いいや」と答える。
「魔王は打ち滅ぼしたあと女勇者コルナは国に反旗を翻した。」
(ここが王城…)
エイダは息を飲む、もしかしたらここはすでに敵の手中かもしれない、そう考えると華美な装飾や豪華な芸術は美しさを感じさせるものでなく、威圧感を発する異物のように見えてくる。
「大丈夫だ、緊張すんなエイダ。」
ドンキホーテはエイダが緊張していることを察し、エイダに小声で話しかけ微笑む。エイダは小さく頷くと、気持ちを切り替える。
(いざという時マリデさんの呪文で逃げられる。)
そう自分に言い聞かせ、緊張してもしょうがないとエイダは思い直した。
「こちらになります。」
屈強な兵士は王の執務室の前まで案内すると、もう自分の役割は終わったとばかりに、扉のすぐ近くに立ちまるで石像のように警備を再開した。
では、とマリデは扉に手をかけノックをする。
「入りたまえ」
男性の声が中からする。マリデはノブを回して扉を開けた。扉の向こう側にいたのは、波のある長髪を持った男性だった。ドンキホーテよりは年上のような印象を受けるものの、まだ若いように見えた。しかし確かに王としての威厳を持ち合わせており、前にしただけでその気品を感じられた。
エイダは思わずその気品に酔いそうになり、ひざまづいたほうが良いのではないだろうかなどと考えてしまう。
「久しぶりだな、ライジェル王」
ドンキホーテのその言葉がなかったら本当にエイダは跪いていただろう。その砕けたまるで友人に久しぶりにあったかのような、その挨拶を聞くと王は笑い出す。
「相変わらずだな、ドンキホーテ」
先ほどの気品はどこかへと消え去り、どこか親しみやすい雰囲気を備えた人物が急に現れた。エイダにはそう感じられた。
「もう出てきていいぜ先生。」
ドンキホーテが言うとマントの中から白猫が飛び出してきた。
「ふぅ、やっとか。」
そう言いながら。
「そちらの白猫は?」
ライジェル王が興味ありげに呟いた。やはり王というものは暇つぶしに、飢えているのかその瞳には好奇心が宿っているように見える。
「アレン先生、魔女で俺たちの仲間だ。」
ドンキホーテの答えに王は「そうか」相槌を打ち。
「すまないつい珍しくてジロジロと見てしまった。ところでその少女も?」
エイダを見つめいう。
「そうです。王様、我らの仲間です。」
マリデがそう答えるとライジェル王は納得した。マリデが認めるのなら頼り甲斐のある人物なのだろうと。
「では、早速本題に入りたい。」
王がそう話を切り出した。
「君たちに集まってもらったのは他でもない、グレン卿を追ってもらいたいからだ。場所なら特定してある。ファファン村の近くで目撃情報があったらしいそこに向かってグレン卿を捕縛してほしい。」
「待ってくれ」
ドンキホーテが話に割り込む。
「グレン卿の居場所がわかっているのに、どうして自国の兵士や騎士を向かわせないんだ?どうして俺たちを送り込む?」
王は口をつぐむ、表に出ていないが王は考えを巡らせている。やがて王はつぐんだ口を重々しく開き、こう言った。
「訳は話せん。」
「失礼じゃが王よ、それでは我々も納得できん、グレン卿は強大じゃ、いざ戦闘になった時も考えてせめて騎士団の力を借りたいところなんじゃが。」
アレン先生はそう懇願する。だが王の意見は変わらない。
「すまない。ある事情により力は貸せないのだ。報酬は多額だ、どうか受けてほしい。君たちにしか頼めないのだ。世界を守る、「黒い羊」にしか。」
「わかりました。では謹んでお受けいたしましょう。ですが王よその代わりに答えていただきたいことがあります。」
マリデの提案に、王は快諾した。
「いいだろう。私に答えられることならなんでも答えよう。」
マリデはエイダ達に顔を見合わせたあと、その内容を喋り始める。
「メルジーナというひとりの作家をご存知ですか?」
マリデは全てを話した。メルジーナ先生のこととそしてエイダが読んだあの秘密のことを、それにソール国が関与している可能性があるのではないのかと、その話を聞くと王は目を丸くし、ため息をついたあと観念するかのように、「まいったな」と呟いた。
「そうかそこまで知っていたのか。ならば隠す必要もないな。いや隠せないが正しいか。」
「じゃあ本当なのかライジェル?」
ドンキホーテのその無礼な物言いに王は対して咎めることもなくただ「王をつけろドンキホーテ」とだけ言う。
「我々が歴史を改ざんしてきたのは事実だ。それには訳がある。」
王は立ち上がり窓から外をみる。城下町を見下ろせる、そこの景色は絶景であった。その景色を、見ながら王は口を開き始めた。
「昔々、魔王を討伐しようと4人の若者が立ち上がった。コルナ、ヴァルデ、ザルバ、マリル。強い絆で結ばれたこの若者達は魔王までの魔物が蔓延る道中を力を合わせ突破していった。旅の途中ザルバとマリルが死にコルナとヴァルデのみになった。残った2人は死んだ2人の無念を抱えながら、魔王を打ち滅ぼした。」
それが勇者の伝説なのだろう。しかし今のところそれが何が問題なのかわからない。
「めでたしめでたし、じゃあないのか?」
ドンキホーテのその質問に王は「いいや」と答える。
「魔王は打ち滅ぼしたあと女勇者コルナは国に反旗を翻した。」
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