異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした？！〜

召喚士

　何を言っているのか、エイダには理解できなかった。このグレン卿の口から吐かれた、馴れ馴れしく嫌悪感のある言葉を単語は間違いなく、エイダの神経を逆なでするものであったからだ。

「何を言っているの…！」

　エイダは格子の向こう側にいるグレン卿を睨みつける。こいつはこの男は私のことをなんと呼んだのだろうか。

「聞こえなかったか、我が子よ。娘といったのだ。」

　グレン卿のその一言にエイダは怒りとともに口から言葉を発した。

「私はあなたは父じゃない！ホムンクルスの製作を指揮していたからと言って父親面しないで！」

「ほぅそこまで、知っているのか、育ての親から聞いたな？だがそれでも君は私の娘なのだよ。」

　グレン卿は言う。

「ホムンクルスの作り方は知っているな？男女の血を分け与えて作るのだ。」

　もちろん知っていた。エイダの胸がなぜかざわつき始めた。

「そんな、まさか…」

「そうだ、君の体は半分、私の血が流れているのだよ、エイダ。」



「ここはどこじゃ？」

　アレン先生は1人でそう呟いた。先ほどの光に包まれ気づけば森の中にアレン先生だけが佇んでいた。
　アレン先生は察する、恐らく先ほどの魔法は転移魔法だと。

（しかもこれほどまで大規模な転移魔法、恐らく村人たちの魔力を使ったようじゃな。）

　そうと分かればまずは周囲の状況を確認せねばと、アレン先生は歩き始めるその時だった。

「どこに行くのかしら、魔女アレン？」

　後ろから男の声が聞こえた。アレン先生は振り返る。

「何者じゃお主…」

　声の主の男は筋骨隆々な体型をしており、肩にかかるくらいの髪をたなびかせながら、赤い目を光らせていた。

「お初にお目にかかるわね、私はカミル。」

　そして、男の、カミルの陰から1人の少女が出てくる。その少女にアレン先生は見覚えがあった、飛空挺で会った、エイダを連れ去ったあの少女だ。

「久しぶりね魔女アレン。」

「お主ら、そうか…あの飛空挺を襲った。」

　アレン先生は身構える。

「理解が早くて助かるわぁ、リーダーやっちゃっていいのね？」

「待って、カミル。少しだけ試してもいい？」

　アンの提案にカミルは肯定した。

「アレン、私はネクロマンサーのアン・テラーン、私たちの仲間にならない？」

　いきなり手の内を晒してきた、アンに対しアレン先生は警戒しながら、聞き返す。

「なぜじゃ？なぜわしがお主らの仲間なんぞにならねばならない？」

「だってあなたも魔女でしょ？私もなの、魔女なら争いのない世界に行きたいそう願うものでしょ、魔女狩りをあなたも経験してるはず。私たちはねグレン卿と共にはいう世界を目指しているの。」

「ほう、そのためならば、ファファンの村の村人にあのようなに操って利用しても良いというのか？」

　アンは目を細めて笑う。

「あれは仕方ない犠牲よ、それにしても私が操っていたってわかったんだ。すごいね。さすが魔女アレン。」

「フン、大方、死霊術の応用じゃろ。」

「すごいすごい！そこまでわかるのね！そうよちなみに記憶を改竄したのも私！すごいでしょ！」

　アンは無邪気に笑う。だがその笑みの向こう側には何か底知れぬ闇を感じさせた。

「それで、返答は？なってくれるのかしら？私たちの仲間に。」

「ならんわボケ！」

　アレン先生は叫ぶ。

「そう、なら仕方ないね、殺してカミル。」

　アンは先ほどの笑顔の仮面を取り払い残酷にそう言った。カミルは命令に従い頷く。

「わかったわリーダー。」


　カミルが両手を合わせると足元に魔法陣が現れ、背の高い木々と同じくらいの背丈の犬がどこからともなく禍々しい墨のような黒いモヤとともに現れる。その犬は頭部の一部が透明なゲル状になっており、まぶたがなく二つの眼球が肉眼で見て取れた。

「召喚の魔法か…！」

　アレン先生は魔法を放つべく、後方に下がる。詠唱するのは雷の魔法だ。しかしそれを見逃すカミルではない。召喚した犬の魔物に指示を出す。

「行きなさい、ベールニギス。」

　ベールニギスと呼ばれた犬の魔物は駆ける。猫の魔女アレンを食い殺すために。
　アレン先生は襲いかかるベールニギスを済んでのところでかわししつつ、魔法の詠唱を完了させる。

「いかづちの槍！」

　アレン先生がそう叫ぶと巨大な雷球が凄まじい速度でベールニギスに襲いかかった。ベールニギスはそれでもカミルの命令を守ろうと、電撃を纏いながらアレン先生に襲いかかる。

「痛覚がないのか！この犬は！」

　悪態をつきながらアレン先生はベールニギスの牙から逃れる。もともと猫という身軽で小柄な動物であるのが幸いしたのか。ベールニギスの牙はなかなかにアレン先生の喉笛には届かない。
　カミルは思う。

（なかなかやるわねでも…）

　カミルは足を一定の間隔でふみ鳴らす。まるで何かの合図を送るように、すると、突如、地響きが鳴る。その地響きの音の主は、カミルの元からアレン先生の足元へと移動していく。
　そしてアレン先生が地響きの音に気がついた時にはもう遅かった。
　アレン先生の足元からワニの魔物が現れ、アレン先生を飲み込んでしまった。