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第二十二話 ぶん殴られて、筋肉。
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「ミラナさーん、エルマー!」
ギルド職員の鬨の声からすぐ後、俺たちに向かって、手を振りながら近づいてくる人影が一つ。
アンヌだ。
いや、彼女だけじゃない。よく見るとアンヌに随伴する様に近づいてくる男が一人いる。
初老の細身の男性で汗をかきながら、執事服で一所懸命にアンヌについていこうとしている。
「アンヌ! 待ってた! さ、自動馬車に乗って行こう……。その前にその人は?」
突然アンナと共に現れた、ゼーゼーと息を切らす白髪の老人。
すると、その男は息も絶え絶えになりながらも、言葉を辿々しく紡いでいく。
「ぜー、はっ……ゲホ! 申し訳ございません、ご紹介が遅れましたアンナお嬢様の執事のカールでございます……こ、この度はアンナお嬢様がお世話になるということで……本当にありがとうございます……!」
ああ、思い出した。
そういえば、アンナが街を飛び出す際、一緒に連れてきたという執事か。
「一緒に連れて行っても構いませんか? どうしてもとついていくと、話を聞いてくれませんの」
「え?」
アンナの提案に俺は一瞬、戸惑う。
いや、執事を……旅行じゃないんだぞ……?
運転手であるミラナの顔をチラリと見た。
どうですか? ミラナさん4人乗れそう?
「アンヌ……エルマー」
「はい?」
「はい!」
俺の訝しげな返事と、アンナの元気の良い返事に、ミラナは冷血に返す。
「馬車は二人乗りよ、貴方達二人は走りね?」
やっぱりかよ……。
─────────────
白銀の森、それはその名の通り、白銀人輝く森である。
太陽の光を吸収し、葉から放出するというムーンツリーが多数生えている森で、その名の通り、夜になるとその白い葉から月の如く白銀の輝きを放出する。
太陽由来のそれは夜を照らし、魔を退けるなどという伝説もある。
そんな首都ローゼカールの人々から神聖視すらされているこの森に、俺たちは到着していた。
「葉が、白い……」
俺は前方の自動馬車を追いかけながら、感心していた。
ここにある木々の葉は全てが白い。まるで雪の景色の様だと錯覚するがすぐ様、雪化粧とは完全なる別ものと気がつく。
何せ、葉の根元からまるで結婚式にいく花嫁か、とツッコミを入れたくなるほど白いものだから、雪化粧の様な針葉樹の葉と白のコントラストなど存在しない。
全てが白、そして道に生えている名も知らぬ草でさえ、白。
ムーンツリーに影響を受けているせいなのかどうかはわからぬがとにかくこの場所は白一色だ。
「全くまるで、キャンパスの上を歩いてるみたいだな」
「あら、では私たちは絵の具かしら?」
アンヌはそう言って笑う、この人……全然疲れてない……。
そんな、どうしようもない会話をしていた時だ。唐突にミラナ達の乗る馬車が止まった。
「どうした? ミラナ?」
白一色の銀世界、そこで唐突に止まった俺たちの命綱に一抹の不安を俺は覚える。
すると窓を開けてミラナが言った。
「待ち伏せされてる」
「何……?」
その言葉を聞き、俺は腰に下げた『言霊の剣』を取り出し、辺りを見回した。
「アンナ……気をつけろよ……」
「え、ええ? でも待ち伏せってなんのことです?」
アンヌはイマイチ、ピンと来ていない様だ。あたりは静か、人の気配などない。
それもそのはず、これは恐らく。ミラナの確証のない勘だ。
ウチの相棒は昔からヤクザの殺し屋がわりとして生きてきた人間だ。
なぜ、俺と同年代の少女がそこまで重宝されたかというと理由がある。
ミラナは異常な危機察知能力を持っているのだ。
これはもう天性としか言いようがない。
ウチの相棒はこの洞察力で数多くの危機を乗り越えてきたのだ。
「とりあえず、ミラナの言う通りにしてくれ、ウチの相棒は常に最善手を選んでくれる」
そういうと、アンヌはこくりと頷き、拳を……。
アレ? 待て? なぜファイティグポーズを?
「アンヌ? 武器は?」
「……? 拳ですわ」
「そう……」
一先ず、それは置いておいて俺は馬車の前方へ行く。
「アンヌは馬車の後ろを!」
「ええ!」
とりあえず、これで前後の守りは固めた問題は……。
「ど、どうしたのですか?! これは」
「カールさん落ち着いて、大丈夫。私がついてるから」
問題はそう……敵がどこから出てくるかだ。
「ミラナ、敵の位置は?」
「わからない、でもいる」
「OK!」
そこまでわかれば良い。敵がいるとまで、断言した我が相棒の言葉、それは充分に信用に値する!
「とりあえず、ミラナは馬車とカールさんを気に──」
その時だった、空が見えた。急に視点が….…空に変わったのだ。
(は?)
同時に口に鉄の味。
そして、腹に熱。
「ごはぁ!!」
俺の口から酸素が逃げていく。
俺はここで初めて、理解した。
俺は何者かに殴り飛ばされ宙を待っている、と。
すぐ様、俺は四肢に無意識の命令を送る。
俺を守れ。
その簡素な意識の変化によりすぐ様、俺の筋肉の隅から隅まで、力が行き渡る。
そして俺の手足は迫り来る地上の気配を察知し咄嗟に受け身を取った。
「ぐ!」
まるでボールの様に跳ねる俺の体。そしてそのままうつ伏せに着地してしまう。
杜撰な受け身だが、及第点だ。
「エル!!」
「エルマー!」
ミラナの声とアンヌの声がする。声の拡散具合と聞こえる声量からかなり吹き飛ばされたらしい。
まずは状況確認だ。俺はずきりと痛む腹を抑えながら、顔を上げた。
まず最初に俺の目を埋め尽くしたのは肌色だった。稲妻の様に走る隆起がある肌色。
それが血管の張った筋肉だとわかるまで俺は時間がかかった。
「ほう……私の拳を受けとめて、まさか生きていられるとは……凄まじいマッスルですねぇ……」
俺は、さらに目線を上に上げる。
マジかよ……こいつは……。
「S級冒険者……筋肉の神の子……マシラウスだったか?」
「ご明察でございます……!」
目の前の大男は深々と頭を下げた。
ギルド職員の鬨の声からすぐ後、俺たちに向かって、手を振りながら近づいてくる人影が一つ。
アンヌだ。
いや、彼女だけじゃない。よく見るとアンヌに随伴する様に近づいてくる男が一人いる。
初老の細身の男性で汗をかきながら、執事服で一所懸命にアンヌについていこうとしている。
「アンヌ! 待ってた! さ、自動馬車に乗って行こう……。その前にその人は?」
突然アンナと共に現れた、ゼーゼーと息を切らす白髪の老人。
すると、その男は息も絶え絶えになりながらも、言葉を辿々しく紡いでいく。
「ぜー、はっ……ゲホ! 申し訳ございません、ご紹介が遅れましたアンナお嬢様の執事のカールでございます……こ、この度はアンナお嬢様がお世話になるということで……本当にありがとうございます……!」
ああ、思い出した。
そういえば、アンナが街を飛び出す際、一緒に連れてきたという執事か。
「一緒に連れて行っても構いませんか? どうしてもとついていくと、話を聞いてくれませんの」
「え?」
アンナの提案に俺は一瞬、戸惑う。
いや、執事を……旅行じゃないんだぞ……?
運転手であるミラナの顔をチラリと見た。
どうですか? ミラナさん4人乗れそう?
「アンヌ……エルマー」
「はい?」
「はい!」
俺の訝しげな返事と、アンナの元気の良い返事に、ミラナは冷血に返す。
「馬車は二人乗りよ、貴方達二人は走りね?」
やっぱりかよ……。
─────────────
白銀の森、それはその名の通り、白銀人輝く森である。
太陽の光を吸収し、葉から放出するというムーンツリーが多数生えている森で、その名の通り、夜になるとその白い葉から月の如く白銀の輝きを放出する。
太陽由来のそれは夜を照らし、魔を退けるなどという伝説もある。
そんな首都ローゼカールの人々から神聖視すらされているこの森に、俺たちは到着していた。
「葉が、白い……」
俺は前方の自動馬車を追いかけながら、感心していた。
ここにある木々の葉は全てが白い。まるで雪の景色の様だと錯覚するがすぐ様、雪化粧とは完全なる別ものと気がつく。
何せ、葉の根元からまるで結婚式にいく花嫁か、とツッコミを入れたくなるほど白いものだから、雪化粧の様な針葉樹の葉と白のコントラストなど存在しない。
全てが白、そして道に生えている名も知らぬ草でさえ、白。
ムーンツリーに影響を受けているせいなのかどうかはわからぬがとにかくこの場所は白一色だ。
「全くまるで、キャンパスの上を歩いてるみたいだな」
「あら、では私たちは絵の具かしら?」
アンヌはそう言って笑う、この人……全然疲れてない……。
そんな、どうしようもない会話をしていた時だ。唐突にミラナ達の乗る馬車が止まった。
「どうした? ミラナ?」
白一色の銀世界、そこで唐突に止まった俺たちの命綱に一抹の不安を俺は覚える。
すると窓を開けてミラナが言った。
「待ち伏せされてる」
「何……?」
その言葉を聞き、俺は腰に下げた『言霊の剣』を取り出し、辺りを見回した。
「アンナ……気をつけろよ……」
「え、ええ? でも待ち伏せってなんのことです?」
アンヌはイマイチ、ピンと来ていない様だ。あたりは静か、人の気配などない。
それもそのはず、これは恐らく。ミラナの確証のない勘だ。
ウチの相棒は昔からヤクザの殺し屋がわりとして生きてきた人間だ。
なぜ、俺と同年代の少女がそこまで重宝されたかというと理由がある。
ミラナは異常な危機察知能力を持っているのだ。
これはもう天性としか言いようがない。
ウチの相棒はこの洞察力で数多くの危機を乗り越えてきたのだ。
「とりあえず、ミラナの言う通りにしてくれ、ウチの相棒は常に最善手を選んでくれる」
そういうと、アンヌはこくりと頷き、拳を……。
アレ? 待て? なぜファイティグポーズを?
「アンヌ? 武器は?」
「……? 拳ですわ」
「そう……」
一先ず、それは置いておいて俺は馬車の前方へ行く。
「アンヌは馬車の後ろを!」
「ええ!」
とりあえず、これで前後の守りは固めた問題は……。
「ど、どうしたのですか?! これは」
「カールさん落ち着いて、大丈夫。私がついてるから」
問題はそう……敵がどこから出てくるかだ。
「ミラナ、敵の位置は?」
「わからない、でもいる」
「OK!」
そこまでわかれば良い。敵がいるとまで、断言した我が相棒の言葉、それは充分に信用に値する!
「とりあえず、ミラナは馬車とカールさんを気に──」
その時だった、空が見えた。急に視点が….…空に変わったのだ。
(は?)
同時に口に鉄の味。
そして、腹に熱。
「ごはぁ!!」
俺の口から酸素が逃げていく。
俺はここで初めて、理解した。
俺は何者かに殴り飛ばされ宙を待っている、と。
すぐ様、俺は四肢に無意識の命令を送る。
俺を守れ。
その簡素な意識の変化によりすぐ様、俺の筋肉の隅から隅まで、力が行き渡る。
そして俺の手足は迫り来る地上の気配を察知し咄嗟に受け身を取った。
「ぐ!」
まるでボールの様に跳ねる俺の体。そしてそのままうつ伏せに着地してしまう。
杜撰な受け身だが、及第点だ。
「エル!!」
「エルマー!」
ミラナの声とアンヌの声がする。声の拡散具合と聞こえる声量からかなり吹き飛ばされたらしい。
まずは状況確認だ。俺はずきりと痛む腹を抑えながら、顔を上げた。
まず最初に俺の目を埋め尽くしたのは肌色だった。稲妻の様に走る隆起がある肌色。
それが血管の張った筋肉だとわかるまで俺は時間がかかった。
「ほう……私の拳を受けとめて、まさか生きていられるとは……凄まじいマッスルですねぇ……」
俺は、さらに目線を上に上げる。
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「S級冒険者……筋肉の神の子……マシラウスだったか?」
「ご明察でございます……!」
目の前の大男は深々と頭を下げた。
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