俺! 神獣達のママ(♂)なんです!

青山喜太

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第三十話 世の中に、母性に勝てる男というものは果たしているのだろうか?②

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 目の前のサムライを前にして俺はごくりと、息を呑み込んだ。
 右手に握られている一本の刀から溢れ出る殺意から解る。

 マズい……コイツかなり強い。
 マシラウスと同程度だろうか、いやマシラウスには若干の手加減と俺に対する侮りがあった。

 だがコイツは違う、完璧に俺を仕留める気だ。

 俺は背後で震えるカミネを横目で見る。

「カミネ! じっとしてろ! アンヌ! 悪いがカミネを頼む!」

「わかりましたわ!」

 執事のカールさんに至ってはもはや、戦意もやる気も何もかもを喪失し真っ白な髪と一緒に思考も真っ白になってしまったようだ。ただ呆けたように虚空を見つめている。

「ミラナ!」

「わかってる……! 相手は一人、速攻で──!」

「一人? 拙者がそんな不用心に思えるか?」

 目の前のサムライは笑う。
 黒髪の長髪を後ろで結んだそのサムライの威風堂々たるや。

 いかにも死地を潜り抜け、自信をつけて来たのだろう、東洋のいわゆるキモノと言われる、スカートに紛うようなズボンから見える足や、巨大な袖から見える手は無駄な力がたぎっていない。

 まるで、その漢が一本の剣そのものかのようにすら錯覚させられる。

 そしてそんな、男は懐から、巻物を取り出した。

「魔法のスクロール……!」

「いでよ……!!」

 俺がその巻物の正体を見破った時には遅かった。
 ドンと小規模な爆発がしたかと思いきや、唐突に煙と共に現れたのは二匹の獣だった。


 一匹は巨岩に見紛うほどの筋肉と身長を持む茶色の毛の猿。
 もう一匹は、大木のような胴体を持つ巨大な黒い狼であった。

 サムライが出した巻物、それはどうやら二匹の獣をその中の封じていたようだ。

「召喚魔法……?!」

 ミラナもどうやらその巻物が巻き起こした現象をやっと理解したようだ、これで状況は五分。

 すると、サムライは言った。

「行け、女どもを足止めせよ」

 まずい、狙いは……。

「貴様の相手は拙者だ」

 狙いは俺だ。
 猿と犬の姿が残像を残して消える。

「エル!」

「わかってる! サムライを倒しに行く!」

 このままではマズい、どちらにしろ呼び出された使い魔か何かの力はどれほどのものかわからない。

 俺の背後から、金属音や打撃音が炸裂するが、それを無視して俺は前に進む。

「そうだな、召喚者である拙者を倒すことが後方の女達の安全を確保することに繋がる」

 サムライのその呟きはそのまま俺の考えていることを完全にアウトプットされたのかと勘違いするほどに正確だった。

「だとしても!!」

 これ以上の定石が俺には思いつかない。
 俺は言霊の剣を解放する。

「言の葉を以て、切り結ぶ!!」

 その一言と共に包帯は解かれ、言霊の剣の刀身が世界に晒された。

「……!! ほう……めずらしい刀だ」

 脈動し、静止し、枝分かれ、光のように真っ直ぐなその言霊の剣をサムライはそう表現する。

 刀……言霊の剣のことをはっきりとそう認識した人間は珍しい。
 だが、認識はさせた。ならば切ることができる。


 俺は言霊の剣を袈裟斬りに振るった。
 奴の心という紙に斬撃という情報を書き殴る。

 次の瞬間、サムライの胸が切り裂かれる──。

「ほう?」

 筈だった。

「な……ッ!」

 金属音と共に言霊の剣は止まった。
 防がれた、言霊の剣が。サムライの右手に持つ刀によって。

「なるほど、情報の剣か……」

 サムライが再びそう呟く。
 コイツは、このサムライはまさか今の一瞬でこの言霊の剣の特性を理解したというのだろうか。

「解るぞ、その剣。なぜならその剣自身が情報を敵に送りつけるという特性を持ち、さらにその情報を現実化させる能力を持っている──」

「──故にその剣は己の情報を拙者に送った、己がどのような剣なのか、どのような性質を持っているのか事細かくな? お陰で容易く防げた」

 サムライの言うことは本当だ、この言霊の剣は情報の剣。斬撃という情報を相手に送りつけ、相手を切る。

 だがそれにはまずこの言霊の剣自体を剣として認識させる必要がある。
 そう、これは剣であると認識できない者ならば、では切ることができない。

 そして、言霊の剣を剣だとわかった者には無敵かと言われれば、それも違う。

 言霊の剣には明確な弱点がある。
 それは、この剣の特性を相手に情報として送ってしまうということ。

 つまりこの剣の能力を切った時に同時に伝えてしまうのだ。
 情報を具現化するという強力な剣の反動……この剣は己の特性すら情報として相手に伝わってしまう。

 だが、その情報を処理できるのは、簡単なことではない。
 ましてや咄嗟に防御法を気付くのは不可能に近い……筈だ。

「くっ!!」

 俺はもう一度、言霊の剣を今度は横薙ぎに払う。もう一度、『横一直線の斬撃』の情報をサムライに送った。

「甘いな」

 しかし、サムライはその斬撃を明確に刀で

「心に斬撃が届き、具現化するというのならば同じく、心で剣を弾けば良い。簡単なことだ」

 言ってることがめちゃくちゃだ。
 が、言霊の剣の対処としては道理がとっている。

 つまり奴は己の刀を振るってる己の心に「自分は防御している」という情報を植え付けたのだ。

 言霊の剣は情報で相手を切る。ならば、同時に情報で妨害すれば良い。

 心で体を切る剣は己の心で防ぐしかない。

 そのためにあのサムライは一瞬で見抜いたのだ。

「……ヤバいな、アンタ……!」

「なに、所詮は初見殺し……見切れば簡単だ」

 戸惑う俺に対して、サムライは飄々とそう言う。
 ちくしょう、まるで初歩的な算数だ、みたいな顔をしている。

 だが、この剣は俺がヤクザの奴隷時代に何度か使わせてもらったことがあるが、コイツを避けられた奴なんて……まして防いだ奴はいない。

「どうした、何を固まっているこちらから行くぞ?」

 次の瞬間だった、サムライの刀が夕暮れに照らされた。

「ッ!」

 斬撃がくる、全てを裂く純粋なる殺意が。
 それはただの斬撃ではない、明らかに刀の刀身よりも範囲が大幅に延長された物だ。

 森を切り刻んだその巨大、広範囲の斬撃に──。

「ぐッ……ぁぁ!」

 俺は防御が間に合わなかった。
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