俺! 神獣達のママ(♂)なんです!

青山喜太

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第三十三話 拙者はマザコンではない、ただちょっと母上の面影を年下の少年に見出しただけだ! などと語っており……。

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「どういうこと?」

 顔を顰めるミラナ。

「いや、だからこのサムライ怪我してるし」

「捨ててきなさい」

「いいだろうミラナぁ別に人助けの一つや二つぐらい」

「ダメに決まっているでしょ」とミラナが睨みつける先にはサムライがいた。
 キリエモン・イチカワ、俺たちを襲ったサムライだ。

 まあ、ミラナが警戒するのもわかる。
 先程まで、殺し合いに発展していた関係性、それを簡単に忘れることなどできやしない。

 でもなぁ、死ぬ前に『母さん』って叫ぶような人間を放っておくような事は俺自身あまりしたくなかった。

「大丈夫だ、ミラナこのサムライはお母さんっ子だ、安心だろ?」

「バッ……違う! 拙者は……ッ!」

「どこが安心できる要素があるのよ」

 ミラナは依然としてそういう。だが俺としては十分な理由だ。

「家族を大切にする奴に悪いやつはいねぇ」

「あんた……まさか……情でも湧いたの?」

 ギクリ、俺は身を強張らせる。ミラナの言葉は的を得ていた。
 そしてそんな俺のわずかな動揺を見逃すほどミラナは馬鹿じゃない。

 冷や汗が俺の頬を伝った。

「皆様! 大変です!」

 その時、アンヌが叫び声を上げた。

「どうした!? アンヌ!」

 アンヌは口に手を当て、シクシクと泣くように声を絞り出した。

「このアンヌ・カーン・レバッツ……やらかしましたわ……」

「お、お嬢様?! まさか……どこか……!」

 心配そうに執事のカールさんが駆け寄る、一体なにが……。

「シチューのお鍋をひっくり返してしまいました……」

「お嬢様……ッ! お食事の心配をしている場合ですか!」

「勿体無いじゃない」

「そういう場合ではございません! 死にかけたんですよ!?」

 カールさんの言葉は最もだった。どうやら戦闘の衝撃で鍋がひっくり返り、夕食のシチューを大地の女神に献上してしまったらしい。

 しかし、殺し合いの後まさか鍋の心配をするとは全く肝が据わったお嬢さんだ。

 すると俺のズボンを引っ張られる。

「エルマー、私もお腹まだ空いてる」

 カミネ……お前も大概肝が据わってるよな……。

 ─────────────

 肉の焼ける匂いがする。

「よし、こんなもんか」

 ベーコンを軽く焼き、さらに目玉焼きを追加したものだが今日の夜食はこれで決まりだ。

「エルマー様……本当にありがとうございます……」

 カールさんが深々と頭を下げる。
 どうやら俺たちが再び食事を提供する羽目になったことに対して罪悪感を覚えているようだ。

「気にすることないですよ、執事も大変っすね」

 カールさんはそんな俺の言葉にさらに輪をかけて謝罪の言葉を口にする。
 そしてそんなカールさんの気苦労を知ってか知らずか、アンヌは向こうでカミネと腕相撲をしている。

 カミネは両手どころか全身の筋肉を使ってアンヌの腕を倒そうとしているが、びくともしていない。

「はい……全くです」

 そんな様子を見て、ため息をつくカールさん、胃が痛そうだ。

 ミラナといえば、あんな襲撃の後だというのにわざわざ見張りの役を買って出ている。
 あいつもあいつで、いつも無理をさせてしまっている。

 全く、アンヌのことを笑えないのは俺も同じだ。
 現に今も、俺の情のせいで世話する羽目になったサムライがいる。

 ミラナには後で謝っておかなきゃな。そう感じながらも俺は皿にベーコンと目玉焼きを乗せて、とある男に差し出した。

「ほら、食いなよ」

 俺たちを襲った、キリエモン・イチカワに。

 ─────────────

 どういうことなのだ。
 サムライ、キリエモン・イチカワは当惑していた。

「ほら、食いなよ」

 目の前にいたのは今まで殺し合っていた少年、エルマーだ。
 そんな少年に今度は食べ物を恵まれている。

「いらん……!」

 自分たちはあくまで敵同士それを忘れてもらっては困る。
 そんな意味も込めてキリエモンは食事を拒否した。

 だが、少年は引き下がらない。

「食べないと、傷の治りが遅いぜ?」

 すると少年はキリエモンの座っている岩の近くに皿を置いた、いつでも食べろと言いたいのだろう。

「で、さ? なんでアンタは戦っているんだ?」

 すると少年はキリエモンの岩の隣に座り聞く。
 キリエモンは顔を顰めて尋ね返した。

「なんのつもりだ?」

「興味だよ、興味、なんで戦ってんのかなって」

 キリエモンは悩んだ、なぜなら一時的に仲間になっているとはいえ、ビートストッパーにも本当の理由を言っていないからだ。

「言えん……」

「そうか」

 少年はそういい。そしてキリエモンを見つめる。

「アンタの剣、すげー技術だったよ。きっとその剣技に見合うだけの願いがあるのかなって興味湧いたんだ」

 エルマーのその推測にキリエモンはフッと笑う。
 そんな大層なものではない。ましてや自分の願う願いなど、女々しいものだ。

「なぁ、もしかしてさ、その願いってお母さんと関係あるか?」

 だからこそ、唐突に放たれたエルマーの言葉にキリエモンは動揺した。


「なッ!? ち、違う」

「ふふ、隠さなくていいだろ? さっきも言ったけど母さんが好きなことは別に恥ずかしいことじゃない」

「本当は大好きなんだろう? お母さんが」と、エルマーのその言葉はキリエモンにとってはトドメの一撃だった。

 全てが晒された、この少年に自身の知られたくない弱い部分も、脆い部分もだからキリエモンも半ばヤケになって答えてしまった。

「そうだ、拙者は……不死鳥の羽があれば死んだ母上を蘇らせることができるかもしれんと……そんな幼稚な叶う訳のない、夢を持ってこの狩りに挑んでいる! わ、悪いか!?」

 誰にも言ったことのないこの狩りに対する本当の願い、ここまで言ったからにはもう、この少年を生かしておくわけにはいかなかった。

 もはや、自分のサムライとしての矜持も誇りも粉々に吹き飛んだ。

 残ったのは母を忘れられない女々しい自分だけ、もうこのことを知られては生きてはいけない。

 サムライとしてもキリエモンとしても。

 キリエモンは、立ち上がりその少年の細い首を絞めるべく襲い掛かろうとした。

 その時だった、怪我の失血せいか、それとも恥や情けなさの感情のせいで、不注意だったのか。

 足がもつれた。

「お、おわ!!」

 思わず、キリエモンは体勢を崩し隣に座っていたエルマーを殺すどころか、胸の中に飛び込んでしまっていた。

(し、しまった)

 逆に殺される、そうキリエモンが驚いて離れようとした時だった。

 頭の上にポンと掌が乗せられた。

「そんなに寂しかったのか?」

 エルマーの言葉にキリエモンは驚く。

「な、なにを寂しくなんか」

「それも嘘、だって泣いてるだろうアンタ?」

 そんなわけ、そう否定する前にキリエモンの目から雫が落ちエルマーの胸に落ちていく。

「母さんに会いたかったんだよな、わかるよ、その気持ち」

 屈辱だ。

「俺も母さんに会いたいなって思ったことあるし──」

 屈辱だ。

「だからまぁ胸の一つや二つぐらい貸すぜキリエモン」

 なのになぜ、ここまで……心地よいのか。

「母上ぇ……!」

 キリエモンはエルマーの胸の中で小さくそう呟いた。
 少年の香りも体温も、キリエモンにとってなぜか他人のものには思えなかった。

 少年エルマーの胸の中、キリエモンは確かに母と再会したのだ。
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