俺! 神獣達のママ(♂)なんです!

青山喜太

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第三十五話 吸血鬼

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「おい! 大丈夫か!?」

 ミラナの目視した二つの横たわる人影に俺は近づく。
 一人は木陰で、木にもたれかけるようにして、もう一人は陽にさらされた道の隅でまるで捨てられたゴミのように野晒しでうつ伏せ倒れている。

 俺はまず、その野晒しの奴に近づく。簡素な鎧をつけているのを見るに冒険者……の筈だ。

「意識は……!」

 まずそれを確かめるべく、俺は陽だまりに晒された一人の体の向きを変えた。

 仰向けになり陽の下に顔が晒される。

「これは……!」

「どうしたんですの? エルマー?」

「アンヌ! 見ない方がいい! カミネにも見せないでもらっていいか……?」

 その一言で察したのか、アンヌは頷き、心配そうに馬車の後部スペースにいるカミネに話しかけた。

「くそ……なんだこりゃ……!」

 俺の目の前に晒されたのは、干し肉のように干からびた冒険者の顔だった。
 眼窩は落ち込み、肌に艶はなく、身体中の水分という水分を抜き取られた、そんな顔だ。

 おそらく生きてはいないだろう。

 参ったな……。

 俺はチラリとカミネやカールさん達を見る。

 適当に探索をして、ファムファームの手がかりをある程度、見つけられたら、また適当な理由をつけて、カミネとカールさんを街に帰そうとでも思ったんだが……。

 この死に方……おそらく吸血鬼だ。

 知識はないが……多分、死後それほど経っていないように見える……おそらく日の出るギリギリの時間帯を狙われて殺されたのだろう。

「チッ……当たってやがる……」

 倒れ伏し干からびている、おそらく冒険者であろう奴の首筋には二本の噛み跡。
 誰もが知る吸血鬼の後だった。

 俺も吸血鬼のことはもちろん知っているだがここまであからさまなステレオタイプの跡があるとは。

「ここまで小説や絵本通りなのか……? 作者には感謝しなくちゃな」

 そんな自分でも笑えない冗談を言っている場合ではない。
 確かもう一人いた筈だ、そいつも死んでいるとは限らない。

「エル、こっちは生きてる!」

 するとミラナの声がした。どうやら戸惑う俺に先んじてもう一人の様子を見てくれたらしい。

「こっちはダメだ、生き残ったのはそいつだけ──」

 逡巡。
 俺は、違和感を覚えた。この状況、木陰に倒れたもう一人の人間。

 果たしてそいつは人間なのか?

「ミラナ……そいつから離れてくれ……!」

「エル……?」

 訝しげに俺を見るミラナ。
 それでも説明している暇はない、と俺の意思がアイコンタクトで伝わったのだろうか。

 ミラナは急いで木陰で木にもたれかかっている人物から距離をとった。

「……エルマー……敵か?」

 カチりと、キリエモンが刀の鍔に指をかける。
 アンヌも鋭い目つきで、拳を握りしめた。

 全員が、警戒体制をとったところで、俺はじっと木陰で木にもたれかかっている奴を見つめる。

 赤茶けたローブを纏い、肌は極力みせていない。
 顔は見えず、風貌から察するに魔法使いといったところだろうが……。

 そのローブはフード付きだ、全身を日光を遮れる。現に今も、顔も体もその人物は覆い尽くしている。

「エル! 説明して!」

「俺が見た死体は、吸血鬼に吸われたような、痕跡があった」

「じゃあ、もしかして……!」

 さすがミラナは察しがいい、キリエモンも理解したようだ、刀に手をかけた。

「ど、どう言うことですの?!」

「アンヌ、あの木にもたれかかってるやつが吸血鬼かもしれない……」

「まぁ! 大変ではないですか!」

 アンヌだけはいつも通りだが……とにかく確認する必要がある。

「なにをしている! エルマー!」

 キリエモンが怯えるように叫ぶ。
 俺がおもむろに吸血鬼疑惑のフード付き野郎に近寄ったからだろう。

「ミラナ、息はしてるんだな?」

「ええ」

「そういうことだと確認するだけだぜ、キリエモン」

 そう大丈夫だ、確認するだけだ。ただの怪我人ならば助けなければ。
 俺は木にもたれかかっている謎の人物のフードを……めくった。

「これは……」

 青い髪に艶やかな唇。
 随分と可愛らしい少女だ、歳は俺と同じぐらいか?

 俺はふとその瑞々しい唇を指で強引にこじ開けた。

 牙は……ない。吸血鬼の特徴である牙はないから……つまり、この子は吸血鬼では……。

「むふぁ?」

「あ……?」

「ぶあ! なんですか! 貴方!!」

 しまった目を覚ましてしまったらしい。

「寝てる少女のく、唇を……!」

「ああ、いやすまない! ちょっと確認したくてな!」

「な、なにをですか!」

 ああ、いや……その……と俺が言い淀んでいると、青髪の少女がわなわなと震え出した。

「ケイル!!」

 少女は駆け出し陽の元に出て、干からびた死体に向かって近寄る。どうやら俺の肩越しに死体を見てしまったようだ。

「ケイル! しっかりして! ケイル!」

 どうやら、干からびた死体は青髪の少女の知り合いだったらしい。

「君……名前は……?」

 泣き崩れる少女を前に俺は尋ねた。

「カーセナ……」

 少女は涙をこぼしながらそう答えた。
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