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第百二話 家族とは
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「その、ダナノさん」
「なんだ? 改まって」
目的の修道院へと歩き出して、しばらく経った頃だった。
不意に俺はダナノさんに話しかけた、どうしても言わなければならないことがあったからだ。
「ありがとうな、その……庇ってくれてさ」
「そんなことか……別に妾は感謝されるようなことはしていない」
「でも、アンタにとって俺は……その一言じゃ表せないような関係だろう?」
するとダナノさんは、ただ一言納得したように「そうだな」と呟く。
「確かにお前は……そうだな……妾も関係を一言では表せん、だが──」
ダナノさんは目の前で歩くミラナと戯れるケイトネールの姿を見てどこか困ったように笑う。
「──アルバの……あの子の笑う姿を見て……はぁ……認めたくないが認めざるを得ないのだ。お前達が良い保護者であり親であると言うことがな……」
「ダナノさん……」
「だから、アルバのためにも貴様が死ぬのを私は許さん。全く……卵の頃から名付けをしていた可愛い我が子を自分自身で育てられなかったのは心苦しいが……だがそもそも感謝すべきことがあるのは私も同じだ」
ダナノさんが感謝……俺は頭を回転させるが何も思い至ることがない。何か感謝されることがあったか?
悩み続ける俺が可笑しかったのか、ダナノさんはまた笑った。
「アルバを大切にしてくれてありがとうな」
その言葉を聞いた時、俺は面を食らってしまった。なんだそんなことか。
「感謝されるようなことじゃねえよ……結局、俺が不甲斐ないせいであの子が色んなことに巻き込まれたのは事実だしさ……」
「それでも、あの子が求めたのはお前だった。一年も離れ離れになったと言うに、あの子は常にお前のことを信じ続けていた、それはお前の徳の成せる技だろう? 違うか?」
「恥ずかしいからやめてくれ、その俺はあの子たちが必要としてくれたし、可愛いし……つまりその……俺がそうしたかったから、そうしただけなんだ。だから特別なことはしてない」
それを聞くとダナノさんは頬を綻ばせる。
「ハッ……やはりお前が親で良かったよ」
「……そう、か」
俺は歩きながら空を見上げる。雲はない、もう直ぐ夜が訪れる空は若干、青が深くなっており、茜色の光が右から差し込んでいる。
「俺さ」
「なんだ?」
「親なんて物心ついた時からいなくてさ、ずっと家族が欲しかった。だから初めてあの子達に会った時さ不安だったんだよ、結局さ、俺は誰かの母さんみたいにあの子達を腹を痛めて産んだわけでもねえし、あの子を規範となるべき背中なんか見せれるような人間じゃねえしさ」
「貴様……」
「今でも不安だ、結局……俺は今を生きるのに精一杯だ。あの子達を、ケイトネールを完全に守りきれなかった」
ダナノさんは何も言わなかった。
「俺は……だからそのアンタがそう言ってくれて、ちょっと自信がついたよ、ありがとなダナノさん」
「何を言っている馬鹿者!!」
「バカッ……!?」
すると唐突にダナノさんは怒り始めた。
「何を言い出すかと思えば、何をクヨクヨと!! 貴様!! 言っておくが親とは最初から親になるのではない!」
「お、おう」
「と言うか親、と言うのは結果ではないのだ!! わかるかエルマー!」
足を止めダナノさんに詰めら、気圧される俺は思わず半歩下がってしまう。
「お前の悩むその姿勢、その行動が何よりも親そのものだとわからんのか!!」
「だ、ダナノさん?」
「親とは! 結果ではない!! 産んだから親だとか! 血縁があるから親だとか! 長くいたから親だとか! 結果的な存在じゃない!! お前の行為! お前がアルバに費やした時間と行動! その過程そのものが親である証であろうが!!」
「……そう、だな……!」
その言葉を聞いた時、俺は思い出した。そうだ血縁なんて関係ないって自分でも思っていたことじゃないか。
でも思ったのだ、今本当のケイトネールの親が目の前に現れた。
ケイトネールにとってももしかしたらドラゴンの世界に戻してやった方がいいのではないか。俺があの子にとって窮屈な世界に閉じ込める枷になっているのではないかと。
俺は結局、偽物だ。
偽物のママなんだ、でも、
「でも、そっか……ケイトは──」
「母さん!! どうしたの? 早くいこうよ!」
ミラナに抱かれながら小さな白い竜が俺を見つめる。
「いくぞ、エルマー」
「そうだな……」
結局、あの子が俺を必要としてくれるなら望むなら、俺は……いつだって俺は、あの子の望むママになりゃあいいのかもな。
まだママでいてもいいのかもな。
─────────────
二日後。朝日が昇る中俺たちは丘の上から平原を見下ろしていた。
平原の中にポツンとあるのは寂れた、石造りの背の高い建物。
民家と言うには大きすぎ、教会というには、ひとまわり小さい。間違いない俺たちの目的地だ。
「ついたぞアレが例の修道院だ」
ドンキホーテさんは丘の上で地図を見て確認しながらそう言った。
結局、あれからリルクスは襲撃してこなかった。
何事もなく俺たちは目的地の目の前に、たどり着いたと言うわけだ。
それがいいことなのかはわからない、何せ俺たちはリルクスが何をしようとしてるのかすら把握していないのだから。
「敵の気配はなし」
ミラナがそう呟く。
「確かか? ミラナ」
「……こればかりはわからない、気配を巧みに隠しているのかもしれない」
俺の質問にミラナはそう答える。
そもそも俺たちの場所もあいつはわかっているはずだ。
少なくともなんの策も無しに退いて俺たちを見失うような奴だとは思えない。
ミラナの言う通り修道院が目の前だと言うのに少しも安心はできない。
「まいったな、周りは平原。見晴らしはいいが、もし仕掛けられたら遮蔽物も何もない」
ドンキホーテさんはそういう。
皆が一斉に沈黙する。結局のところ良い方法なぞ、都合よく思いつく他はない。
今はダナノさんを竜の世界に送り返すことが先決、ならば俺たちのやることは一つしかないのだ。
「ドンキホーテさん、どうする?」
聞かなくてもわかることを俺は一応聞く。するとドンキホーテさんは自嘲気味に笑いながら言った。
「まぁ……強行突破だな」
ですよね。
「なんだ? 改まって」
目的の修道院へと歩き出して、しばらく経った頃だった。
不意に俺はダナノさんに話しかけた、どうしても言わなければならないことがあったからだ。
「ありがとうな、その……庇ってくれてさ」
「そんなことか……別に妾は感謝されるようなことはしていない」
「でも、アンタにとって俺は……その一言じゃ表せないような関係だろう?」
するとダナノさんは、ただ一言納得したように「そうだな」と呟く。
「確かにお前は……そうだな……妾も関係を一言では表せん、だが──」
ダナノさんは目の前で歩くミラナと戯れるケイトネールの姿を見てどこか困ったように笑う。
「──アルバの……あの子の笑う姿を見て……はぁ……認めたくないが認めざるを得ないのだ。お前達が良い保護者であり親であると言うことがな……」
「ダナノさん……」
「だから、アルバのためにも貴様が死ぬのを私は許さん。全く……卵の頃から名付けをしていた可愛い我が子を自分自身で育てられなかったのは心苦しいが……だがそもそも感謝すべきことがあるのは私も同じだ」
ダナノさんが感謝……俺は頭を回転させるが何も思い至ることがない。何か感謝されることがあったか?
悩み続ける俺が可笑しかったのか、ダナノさんはまた笑った。
「アルバを大切にしてくれてありがとうな」
その言葉を聞いた時、俺は面を食らってしまった。なんだそんなことか。
「感謝されるようなことじゃねえよ……結局、俺が不甲斐ないせいであの子が色んなことに巻き込まれたのは事実だしさ……」
「それでも、あの子が求めたのはお前だった。一年も離れ離れになったと言うに、あの子は常にお前のことを信じ続けていた、それはお前の徳の成せる技だろう? 違うか?」
「恥ずかしいからやめてくれ、その俺はあの子たちが必要としてくれたし、可愛いし……つまりその……俺がそうしたかったから、そうしただけなんだ。だから特別なことはしてない」
それを聞くとダナノさんは頬を綻ばせる。
「ハッ……やはりお前が親で良かったよ」
「……そう、か」
俺は歩きながら空を見上げる。雲はない、もう直ぐ夜が訪れる空は若干、青が深くなっており、茜色の光が右から差し込んでいる。
「俺さ」
「なんだ?」
「親なんて物心ついた時からいなくてさ、ずっと家族が欲しかった。だから初めてあの子達に会った時さ不安だったんだよ、結局さ、俺は誰かの母さんみたいにあの子達を腹を痛めて産んだわけでもねえし、あの子を規範となるべき背中なんか見せれるような人間じゃねえしさ」
「貴様……」
「今でも不安だ、結局……俺は今を生きるのに精一杯だ。あの子達を、ケイトネールを完全に守りきれなかった」
ダナノさんは何も言わなかった。
「俺は……だからそのアンタがそう言ってくれて、ちょっと自信がついたよ、ありがとなダナノさん」
「何を言っている馬鹿者!!」
「バカッ……!?」
すると唐突にダナノさんは怒り始めた。
「何を言い出すかと思えば、何をクヨクヨと!! 貴様!! 言っておくが親とは最初から親になるのではない!」
「お、おう」
「と言うか親、と言うのは結果ではないのだ!! わかるかエルマー!」
足を止めダナノさんに詰めら、気圧される俺は思わず半歩下がってしまう。
「お前の悩むその姿勢、その行動が何よりも親そのものだとわからんのか!!」
「だ、ダナノさん?」
「親とは! 結果ではない!! 産んだから親だとか! 血縁があるから親だとか! 長くいたから親だとか! 結果的な存在じゃない!! お前の行為! お前がアルバに費やした時間と行動! その過程そのものが親である証であろうが!!」
「……そう、だな……!」
その言葉を聞いた時、俺は思い出した。そうだ血縁なんて関係ないって自分でも思っていたことじゃないか。
でも思ったのだ、今本当のケイトネールの親が目の前に現れた。
ケイトネールにとってももしかしたらドラゴンの世界に戻してやった方がいいのではないか。俺があの子にとって窮屈な世界に閉じ込める枷になっているのではないかと。
俺は結局、偽物だ。
偽物のママなんだ、でも、
「でも、そっか……ケイトは──」
「母さん!! どうしたの? 早くいこうよ!」
ミラナに抱かれながら小さな白い竜が俺を見つめる。
「いくぞ、エルマー」
「そうだな……」
結局、あの子が俺を必要としてくれるなら望むなら、俺は……いつだって俺は、あの子の望むママになりゃあいいのかもな。
まだママでいてもいいのかもな。
─────────────
二日後。朝日が昇る中俺たちは丘の上から平原を見下ろしていた。
平原の中にポツンとあるのは寂れた、石造りの背の高い建物。
民家と言うには大きすぎ、教会というには、ひとまわり小さい。間違いない俺たちの目的地だ。
「ついたぞアレが例の修道院だ」
ドンキホーテさんは丘の上で地図を見て確認しながらそう言った。
結局、あれからリルクスは襲撃してこなかった。
何事もなく俺たちは目的地の目の前に、たどり着いたと言うわけだ。
それがいいことなのかはわからない、何せ俺たちはリルクスが何をしようとしてるのかすら把握していないのだから。
「敵の気配はなし」
ミラナがそう呟く。
「確かか? ミラナ」
「……こればかりはわからない、気配を巧みに隠しているのかもしれない」
俺の質問にミラナはそう答える。
そもそも俺たちの場所もあいつはわかっているはずだ。
少なくともなんの策も無しに退いて俺たちを見失うような奴だとは思えない。
ミラナの言う通り修道院が目の前だと言うのに少しも安心はできない。
「まいったな、周りは平原。見晴らしはいいが、もし仕掛けられたら遮蔽物も何もない」
ドンキホーテさんはそういう。
皆が一斉に沈黙する。結局のところ良い方法なぞ、都合よく思いつく他はない。
今はダナノさんを竜の世界に送り返すことが先決、ならば俺たちのやることは一つしかないのだ。
「ドンキホーテさん、どうする?」
聞かなくてもわかることを俺は一応聞く。するとドンキホーテさんは自嘲気味に笑いながら言った。
「まぁ……強行突破だな」
ですよね。
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