篠辺のお狐様

梁瀬

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自信過剰な男 Ⅰ

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 此処は、一風変わった神社である。
今時の言い方をするならば、深夜営業である。
 
 午後17時から午前4時の間だけ、門が開く。
神社に門なんて…と思うかも知れないが、この篠辺⦅しののべ⦆神社には、
鳥居を通り参道の途中に門があって、時間外は閉められている。
 
 此処の神主は、真淵 左京まぶち さきょう。巫女は、真瀬 夕霧ませ ゆうぎりという。
この二人が取り仕切っている。
 二人共、歳は若いが仕事は手堅い。とても三年目とは思えない程の落ち着きだ。
長いこと多くの神主や巫女を見てきたが〝仕事の顔〟を持ち、これ程までに
使い分けている二人も珍しい。
 それだけ過酷で、割り切れない事が多いという事なのか、プロ意識が高いのかは、本人達に問うた事がないので分からん。
 
 篠辺は主に狐を祀る神社で、拝殿の手前には、狐と狼 が一対となったがある。
最近では、この一対の石像をまとめて〝狛犬〟と称す事が多いが犬ではないのに、
この呼び方に甘んじるつもりはない。
 何故、狐が一対となったものでないかは、いずれ話してやろう。
そろそろ日も傾いてきた。今夜は、どのような者が来るか楽しみじゃ。

 8月10日午後17時。左京が置石を外し、篠辺門を開ける。
馬酔木鳥居あせびとりいをくぐり、篠辺神社へ参拝する者の多くは、後ろ暗い邪心を抱く者故、
暗くなってからの方が参拝者が増える。

「こんな所に神社なんてあったんだ。」
「なんか怖いよ…。」
好奇心は強いが落ち着いた男。断れなくてついて来た女。

「大丈夫。怖いなんてビビってるから、何か見えた気になるんだよ。」
自信過剰で現実主義の男。そして口数が少ない女。
 午後21時過ぎという灯籠とうろうの灯りだけでは、境内のほとんどが暗くなった頃を
見計らっての参拝。明らかに肝試しに来た男女4人組。

 この時期は参拝者も多いが、大半は物見雄山である。
〝夜だけの神社〟というだけで珍しく、さらに狐を祀っている事に好奇心を
くすぐられるらしい。
 昔から〝化かす〟〝災い〟〝取り憑く〟と、あまりイメージが良くないらしい。
他の狐は知らないが、篠辺の狐に限っては的を射ている。〝天邪鬼〟〝狐憑き〟
〝妖狐〟と加えてもいい程だ。

【毎年、こういう輩が何人も参拝に来るが、今宵は此奴らか。】
物見高いだけで、狐を満足させるものがないと見える。
【つまらん。】
そう言ったかと思うと狐は興味を失い、神楽殿かぐらでんの側にある紅葉もみじを眺めていた。

「さすがに灯籠から離れると、何も見えないね。」
「この時間だからね。」
断れなかった女が、不安気に周りを見回しながら言うと、口数の少ない女が、
興味がないといった口振りで、素っ気なく返した。

「上手く連れて来てくれよ。」
そういうと自信過剰な男は、1人離れていった。
 それを確認してから落ち着いた様子の男は、女達と境内を見て歩いていた。
どうやら自信過剰な男が持って来た藁人形を、あらかじめ木に打ち付けておいて
女達を怖がらせようと企んでいるらしい。

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