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フォンスのの集まりの方は通常王都内のとある場所で毎週行っているそうだが、流石に一応貴族の端くれのしかも女であるリサが参加するのは無理だった。リサは時々セレネの商いの話題になる時だけは、フォンスがハウスを抑えてくれるので参加できた。
しかし、それとは別にフォンスは毎回の議題についてリサに伝えて意見を求めた。曰く、集まりに参加できなくてもセレネの商人の意見は欲しいそうな。ついでに「お前の意見は俺の考えに近い」と不敵な笑みを浮かべて褒められた。
商人達の中で孤軍奮闘な訳だから、とどのつまり自分よりの意見の人が側に欲しいという事らしい。話を聞いている限り、商人達の輪に潜んでいるのは彼の独断で、特に上からの指示では無いようだった。虎穴に入らずんばと勇んではいたけれど、リサの耳に入る情報は、はっきり言って良くはない。
鎖国状態で数百年、磐石であった王政の陰りは感じざるを得なかった。
現王ハルム・カイゼルは暗愚では無い。けれど、数百年間確立してきた体制の小さな欠点を全てクリア出来るほどの王でも無かった。平和が続けば王の評価は上がる。けれど、数百年は長すぎた。最早平和は民にとって空気より当然に在るものであり、改革をしない王の価値に疑問を持つ者もいる。
リサですら、ハルムのイメージは黒髪黒目の女性が好きというイメージしか無かった。カイゼルの歴代の王妃は黒目黒髪の者が多く、ハルムの前王妃エリも現王妃セシルも例に漏れない。ハルムはエリを常に側に置いていたというのに、エリが亡くなるとすぐにセシルを側に置いた。どれ程そのタイプが好きなんだと思いながら、黒髪黒目のリサは次の王妃になれるんじゃ無いか?などという軽口をよく叩かれたものだ。
不思議な事に王族に限っては母親が黒くてもその子にその色は受け継がれなかった。
そんなこんなで忙しく過ごしていると以前よりガーデンに足が少しだけ遠のいた。タイミングが合わないのか、行ってもレフィもブロも居ない。居ない時は一人で茶を飲むほど暇ではなかった。
今日もやはり二人とも居なくて、ブロと前に話したのはいつだったかな?いや、そんなに長い期間じゃないんだけどな、などと考えながらガーデンを後にする。リサは最近疲れが出るのか目の前が時々チカチカする時があった。カサブランカとしてのお仕事の前に少し休むべしと帰り道に足を向けようとしたら、ガクンと体勢を崩してしまった。
頭痛と発熱、それから平衡感覚が危うい。風邪にしてはなんだか妙だ。突然過ぎるし視界も暗い。
「こっちです」
ブロの声がして、抱き上げられた。しばらくするとぐらぐら揺れて居たのが、すーっと収まっていくのがわかり、同時に視界も開けた。リサはガーデンの東屋の椅子に寝かされていた。
「最近はこちらに来れずにいたので……すみませんでした」
リサの頭を撫でるブロの背後にある花の色が急激に変わって行くのが見える。
「花が?」
「気がつきましたか?この空間に溜まっている魔力の種類によってこちらの花の色は変わるのです。少し赤の力が余っていたようですね」
レフィは赤の力を、ブロは黄色と青の力を放出しているらしい。ブロがガーデンに来ない間、レフィも来なかったらしいが、リサに溜まっていた赤の力でガーデンは飽和しかかっていたとか。ブロは花を育成して、ガーデンを適正に保っていたそうだ。
「赤の力の比較的強い方と懇意にでもなりましたか?」
頭に浮かぶのはレフィ、フォンス、それからアレッタ。皆さんの目は赤系だし、確実に赤の力が強い。
「アレッタ様と多少……」
フォンスとの事は言えないし、アレッタとの方が会う頻度も高いので嘘ではなかろう。
「ああ、聞き及んでいます。レフィから」
ですよね。
「彼女は大層熱心に学んでいらっしゃるとか。理由は知っていますか?」
「理由、ですか?いえ」
聞かれて初めて思い至った。貴族様の暇つぶしやお遊びでないことは薄々感じていたけれど、ではなんのためかというと全然わからない。
「珍しいですね。あまり根を詰めると貴女の持ち味が消えてしまいますよ」
持ち味ってなんだろう?ブロが労わりながら入れてくれたお茶を飲むと、一気に体調が回復した。ガーデンで採れたハーブティーとの事だから、やはり魔力に何らかの影響を与えるものだろう。使い方によっては毒にも薬にもなる――本当に、ブロは何者なんだろうか。最早誕生日の余興をブロから勝ち取りたいとは考えてはいないけれど、単純に彼が何者かを知りたいと思う。彼が観たいと言うなら、ガーデンで彼のためだけにカサブランカを連れてきて踊って見せてもいいと思っている。レフィに頼めば上手く隠してくれそうだし。でも、そう提案しても彼は名を教えてくれそうに無いように思えた。
それに、このガーデンとは一体何だろうとも思う。魔力の乱れを治す植物とお茶がここに集められているのは魔力が強い者という括りでは説明がつかない。リサに赤の力を溜めさせてしまうくらい、フォンスやアレッタの力は強い。魔力が強い王族は初めからその力の乱れを律する能力があるのかもしれないが、彼ら以外にも魔力の強い人だってもっといるだろうに。
充分に体を癒してハウスに戻ると、カサブランカの予定はキャンセルされていた。当日キャンセルは70%の違約金です。ラッキーと思いながら本日ご利用の客名簿を見ると、ルイサがローズと逢瀬中だった。
さもありなん。彼女は絶対に結ばれない相手に完璧に好意を向けてもらい疑似恋愛を楽しむ事を渇望してたのだから、レフィよりローズの方が適任だ。ルイサは自分の責任は分かっているみたいだけれど、ローズに彼女が破滅しないようにさえ言っておけばウィンウィンでしょう。そう思いながら次のページをめくると、ルイサの金魚の糞の数人はガーネットと他の数人はアイリスと遊んでいる。
それぞれにそれぞれの闇があるのね、と人選を心のメモに記載していると、カルスが部屋に入って来た。
「今日はレフィ様はいらしていないよ」
「そのようですわね。お父様起きていらしても?」
「うむ」
椅子を勧めて、脚台を用意する。足が鬱血して赤黒くなりつつある父親の足をマッサージするためのオイルも忘れない。
「彼が……リサが見初めた方かな?」
「……はい?いいえ、違います!何故ですか?」
「彼は良く周りを見る事の出来る人のようだ。それに私の病気の事を知っていた。リサが話したのだろう?」
「話しておりません。彼はお父様のご病気を知っている事も……知りませんでした……。レフィ様は謎の多い方です。フランセン様の養子でらっしゃいますが、お住まいも異なるようですし、ヨンゴも彼の方の事をそれ以上に調べるのは難しいと」
「ヨンゴが、……そうか」
少し目を瞑って考える父親にリサは慌てて付け加えた。
「けれど、決して怪しい方という訳ではなくて、レフィ様はとても聡い方で、優しい方です。私は助けていただいてばかりで……それから、見た目より誠実な方だと思います……多分」
いつもと異なり年相応な表情を見せたリサに、カルスは「そうか」と笑って頷いただけであった。
色々と手伝ってもらっている手前、父親に悪し様に思われては不味いと思っただけなのに、とリサは少し涙目だ。
レフィは、優しい。親切だし、いつも助けてくれる。顔は好みでは無いけれど、軽薄に見えて意外と遊んでいない事も今は分かる。
レフィはいつも忙しそうに何かしている事をリサは知っていた。取り巻きがいない時、彼は周囲を確認しながら、何かの目的を持って校内を足早に歩いている。そんな姿を幾度となく見ていた。その目的地の が、学院内の王族専用区域の先だという事も分かっていた。
専用区域の先は王宮内に続く。そこには彼のパトロネージュがいる事も、分かっている。
多分、きっと、ブロに頼まれているんだろうな。私の事。何だかんだ言っても、私のポジションは小さな塩菓子だ。甘くない。だいたい、彼は人の事を名前で呼ばない。女の子はお菓子やスイーツで呼ぶし、男子はサーとかタフガイとか呼んでいる。ブロに至っては何の略だか……
そこまで考えて、リサはふと気がついた。
もしかして、『ブロ』って『ブラザー』のブロ?ブロにはレフィと同じ学年に弟がいると言っていたけど、それってもしかしてレフィ本人じゃない?という事は、ブロってフランセン家の嫡男か、もしくは、レフィの実兄という事になる。フランセン家の嫡男は昔カサブランカとして話した事はあるが……多分ブロでは無い。もう少し幼くて、商人っぽい独特の打算的な目と人懐こさがあったはずだ。一、二年でこうも変わらない。
問題はレフィの元の家の名前が分からない訳だけど、それはレフィに聞けばいい。
リサは久し振りにスカッとした気持ち良さに包まれた。
次の日は魔力の調整をしたせいか、気持ちのせいかとても良く周りが見えた。教えている子達へのアドバイスもいつもより的確にできて、仕事がはかどるったら無い。
その後のアレッタの個人レッスンの時に、久し振りに冷静にアレッタの事を見る事が出来た。彼女専用の部屋に行くのにも慣れていたはずなのに、慣れすぎて見過ごしていたのか。
彼女は相変わらず威厳もあり、美しい。だけど、学院の女王様は少しやつれている様だった。
「アレッタ様、少しお疲れではありませんか?」
「……分かるか?スケジュールに稽古の時間が増えて幾日も経つというのに、未だ体が慣れないらしい。他人に気付かれるとは情けない」
「情けの有無では無くて、休息の有無でしょう。しばらく休まれてはいかがですか?」
「実務に支障はない。時間が惜しい故、気にせずレッスンを続けて欲しい」
アレッタの表情は真剣で、とても焦っていた。
「アレッタ様。体に異変が出てから休むのでは、回復に時間がかかるので結局時間を無駄にしてしまいます。特にアレッタ様は芸事全てのレッスンを受けてらっしゃいますから、ドールと同じ程度には休息も必要です。何を焦ってらっしゃるのですか?」
「焦っては……おるのだろうな」
疲れている自覚はやはりあったのか、彼女は今日の舞のレッスンは諦めた様だ。ピンクのふわふわのクッションを腰にあてながら、ソファに腰掛けてベルで給仕を呼んだ。
「よろしければ、何を焦ってらっしゃるのか、いえ、なぜ芸事を習おうとされたのか聞いてもよろしいですか?」
リサの問いにアレッタはしばらく視線を落とした。それから、意を決した様に口を開いた。
「リサはセレナの商人だ。口も固かろう」
「口外はいたしません」
「うむ……。この所の国の動き、そなたらはどこまで知っておる?」
「国の動き、ですか?」
「外交について、商人同士で話は無いのか?」
「一部貿易に興味を持つ方もいると聞いた事のある程度です」
「そうだ。この国は貿易を始めようとしている。そして、その前に国は外交を行う。国同士のルールを決めておかねば、多くの国民を苦しめる結果になるからな」
外交を、行う。鎖国を辞めるという事だ。まさか、国の方もそちらに動いているとは思わなかった。だからフォンスも焦って動いているのか。
「我が国の端には稀に外国の者が流れ着いている。その者達の話や過去の記録を見る限り、外も王政をとっているらしい。……他国と友好を結ぶ場合、最も簡便な方法は知っているだろう?」
「婚姻を結ぶ、という事ですか?」
「そうだ、人質の交換だ。それなりの立場の者が嫁にやられる。今の王家で適齢期にある娘は私だから、当然私が嫁ぐ事になるだろう」
呼ばれたメイドは少しも動揺を見せずにお茶とお菓子を用意していた。つまり、この事は王家の中では知られた事だったのだろう。
「容姿も頭も悪いとは思わないが、相手を籠絡出来る技術は無い。カサブランカを観て、己にその才能は無さそうだと分かった。ならばせめて軽んじられない程度の芸は身につけておきたい。私を通して彼の国はこちらの国事を知る。文化の度合いを測られる。美しい、とさえ思われれば踏みにじられる事はあるまい。国も。私自身も」
「そんな……」
お茶を一口飲んで、アレッタは目を瞑った。
「権力を持つ者が、責を負う。それは当然のことで、だからこそ我ら一族が偉そうに城でふんぞり返っているのだ。自分にもう少し才能があればと思うが、だからといって民に申し訳なく思うわけでも無い。思った所で誰かが代わってくれるわけでも、代わるつもりもないのだから、やるだけの事はやる。その結果あちらで冷遇されたなら、それは自分の努力だか才能が足りなかっただけだからな」
自分よりたった一つしか歳の変わらない彼女の覚悟に、リサは衝撃を受けた。自分が知っている、生まれてからずっと与えられ続けられた常識に則っても間違いがない選択のはずなのに、リサはそれはおかしいと言いたくなった。自分の母体を守るために犠牲になるのは当然で、自分だって家のためにある程度は犠牲になっている。それでも、目の前の女の子がそんな責任を一人で持つのは納得ができない。
だけれどそれを言えるはずも無かった。何の責任も取れない貴族の端くれが、簡単にそんな事を言っては彼女に失礼だという事ぐらいは分かる。
リサはアレッタの手をとった。
「……食事を変えましょう。ドール達は華奢に見ますが、そこら辺の貴族の坊ちゃんより筋力を鍛えています。甘いものは控えて、肉類を摂ってください」
「リサ?」
「それから、ドールが始めに習う事、懐剣の使い方もお教えします」
「それは、相手の命を奪うということか?」
「……いいえ、それも可能ですが、それ以外の事です。痛みも苦しみも無い、確実な方法は彼女達の心の拠り所なのです」
目を見開いて驚いたアレッタは「そなたを師に招いて良かった」と微笑んだ。
しかし、それとは別にフォンスは毎回の議題についてリサに伝えて意見を求めた。曰く、集まりに参加できなくてもセレネの商人の意見は欲しいそうな。ついでに「お前の意見は俺の考えに近い」と不敵な笑みを浮かべて褒められた。
商人達の中で孤軍奮闘な訳だから、とどのつまり自分よりの意見の人が側に欲しいという事らしい。話を聞いている限り、商人達の輪に潜んでいるのは彼の独断で、特に上からの指示では無いようだった。虎穴に入らずんばと勇んではいたけれど、リサの耳に入る情報は、はっきり言って良くはない。
鎖国状態で数百年、磐石であった王政の陰りは感じざるを得なかった。
現王ハルム・カイゼルは暗愚では無い。けれど、数百年間確立してきた体制の小さな欠点を全てクリア出来るほどの王でも無かった。平和が続けば王の評価は上がる。けれど、数百年は長すぎた。最早平和は民にとって空気より当然に在るものであり、改革をしない王の価値に疑問を持つ者もいる。
リサですら、ハルムのイメージは黒髪黒目の女性が好きというイメージしか無かった。カイゼルの歴代の王妃は黒目黒髪の者が多く、ハルムの前王妃エリも現王妃セシルも例に漏れない。ハルムはエリを常に側に置いていたというのに、エリが亡くなるとすぐにセシルを側に置いた。どれ程そのタイプが好きなんだと思いながら、黒髪黒目のリサは次の王妃になれるんじゃ無いか?などという軽口をよく叩かれたものだ。
不思議な事に王族に限っては母親が黒くてもその子にその色は受け継がれなかった。
そんなこんなで忙しく過ごしていると以前よりガーデンに足が少しだけ遠のいた。タイミングが合わないのか、行ってもレフィもブロも居ない。居ない時は一人で茶を飲むほど暇ではなかった。
今日もやはり二人とも居なくて、ブロと前に話したのはいつだったかな?いや、そんなに長い期間じゃないんだけどな、などと考えながらガーデンを後にする。リサは最近疲れが出るのか目の前が時々チカチカする時があった。カサブランカとしてのお仕事の前に少し休むべしと帰り道に足を向けようとしたら、ガクンと体勢を崩してしまった。
頭痛と発熱、それから平衡感覚が危うい。風邪にしてはなんだか妙だ。突然過ぎるし視界も暗い。
「こっちです」
ブロの声がして、抱き上げられた。しばらくするとぐらぐら揺れて居たのが、すーっと収まっていくのがわかり、同時に視界も開けた。リサはガーデンの東屋の椅子に寝かされていた。
「最近はこちらに来れずにいたので……すみませんでした」
リサの頭を撫でるブロの背後にある花の色が急激に変わって行くのが見える。
「花が?」
「気がつきましたか?この空間に溜まっている魔力の種類によってこちらの花の色は変わるのです。少し赤の力が余っていたようですね」
レフィは赤の力を、ブロは黄色と青の力を放出しているらしい。ブロがガーデンに来ない間、レフィも来なかったらしいが、リサに溜まっていた赤の力でガーデンは飽和しかかっていたとか。ブロは花を育成して、ガーデンを適正に保っていたそうだ。
「赤の力の比較的強い方と懇意にでもなりましたか?」
頭に浮かぶのはレフィ、フォンス、それからアレッタ。皆さんの目は赤系だし、確実に赤の力が強い。
「アレッタ様と多少……」
フォンスとの事は言えないし、アレッタとの方が会う頻度も高いので嘘ではなかろう。
「ああ、聞き及んでいます。レフィから」
ですよね。
「彼女は大層熱心に学んでいらっしゃるとか。理由は知っていますか?」
「理由、ですか?いえ」
聞かれて初めて思い至った。貴族様の暇つぶしやお遊びでないことは薄々感じていたけれど、ではなんのためかというと全然わからない。
「珍しいですね。あまり根を詰めると貴女の持ち味が消えてしまいますよ」
持ち味ってなんだろう?ブロが労わりながら入れてくれたお茶を飲むと、一気に体調が回復した。ガーデンで採れたハーブティーとの事だから、やはり魔力に何らかの影響を与えるものだろう。使い方によっては毒にも薬にもなる――本当に、ブロは何者なんだろうか。最早誕生日の余興をブロから勝ち取りたいとは考えてはいないけれど、単純に彼が何者かを知りたいと思う。彼が観たいと言うなら、ガーデンで彼のためだけにカサブランカを連れてきて踊って見せてもいいと思っている。レフィに頼めば上手く隠してくれそうだし。でも、そう提案しても彼は名を教えてくれそうに無いように思えた。
それに、このガーデンとは一体何だろうとも思う。魔力の乱れを治す植物とお茶がここに集められているのは魔力が強い者という括りでは説明がつかない。リサに赤の力を溜めさせてしまうくらい、フォンスやアレッタの力は強い。魔力が強い王族は初めからその力の乱れを律する能力があるのかもしれないが、彼ら以外にも魔力の強い人だってもっといるだろうに。
充分に体を癒してハウスに戻ると、カサブランカの予定はキャンセルされていた。当日キャンセルは70%の違約金です。ラッキーと思いながら本日ご利用の客名簿を見ると、ルイサがローズと逢瀬中だった。
さもありなん。彼女は絶対に結ばれない相手に完璧に好意を向けてもらい疑似恋愛を楽しむ事を渇望してたのだから、レフィよりローズの方が適任だ。ルイサは自分の責任は分かっているみたいだけれど、ローズに彼女が破滅しないようにさえ言っておけばウィンウィンでしょう。そう思いながら次のページをめくると、ルイサの金魚の糞の数人はガーネットと他の数人はアイリスと遊んでいる。
それぞれにそれぞれの闇があるのね、と人選を心のメモに記載していると、カルスが部屋に入って来た。
「今日はレフィ様はいらしていないよ」
「そのようですわね。お父様起きていらしても?」
「うむ」
椅子を勧めて、脚台を用意する。足が鬱血して赤黒くなりつつある父親の足をマッサージするためのオイルも忘れない。
「彼が……リサが見初めた方かな?」
「……はい?いいえ、違います!何故ですか?」
「彼は良く周りを見る事の出来る人のようだ。それに私の病気の事を知っていた。リサが話したのだろう?」
「話しておりません。彼はお父様のご病気を知っている事も……知りませんでした……。レフィ様は謎の多い方です。フランセン様の養子でらっしゃいますが、お住まいも異なるようですし、ヨンゴも彼の方の事をそれ以上に調べるのは難しいと」
「ヨンゴが、……そうか」
少し目を瞑って考える父親にリサは慌てて付け加えた。
「けれど、決して怪しい方という訳ではなくて、レフィ様はとても聡い方で、優しい方です。私は助けていただいてばかりで……それから、見た目より誠実な方だと思います……多分」
いつもと異なり年相応な表情を見せたリサに、カルスは「そうか」と笑って頷いただけであった。
色々と手伝ってもらっている手前、父親に悪し様に思われては不味いと思っただけなのに、とリサは少し涙目だ。
レフィは、優しい。親切だし、いつも助けてくれる。顔は好みでは無いけれど、軽薄に見えて意外と遊んでいない事も今は分かる。
レフィはいつも忙しそうに何かしている事をリサは知っていた。取り巻きがいない時、彼は周囲を確認しながら、何かの目的を持って校内を足早に歩いている。そんな姿を幾度となく見ていた。その目的地の が、学院内の王族専用区域の先だという事も分かっていた。
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多分、きっと、ブロに頼まれているんだろうな。私の事。何だかんだ言っても、私のポジションは小さな塩菓子だ。甘くない。だいたい、彼は人の事を名前で呼ばない。女の子はお菓子やスイーツで呼ぶし、男子はサーとかタフガイとか呼んでいる。ブロに至っては何の略だか……
そこまで考えて、リサはふと気がついた。
もしかして、『ブロ』って『ブラザー』のブロ?ブロにはレフィと同じ学年に弟がいると言っていたけど、それってもしかしてレフィ本人じゃない?という事は、ブロってフランセン家の嫡男か、もしくは、レフィの実兄という事になる。フランセン家の嫡男は昔カサブランカとして話した事はあるが……多分ブロでは無い。もう少し幼くて、商人っぽい独特の打算的な目と人懐こさがあったはずだ。一、二年でこうも変わらない。
問題はレフィの元の家の名前が分からない訳だけど、それはレフィに聞けばいい。
リサは久し振りにスカッとした気持ち良さに包まれた。
次の日は魔力の調整をしたせいか、気持ちのせいかとても良く周りが見えた。教えている子達へのアドバイスもいつもより的確にできて、仕事がはかどるったら無い。
その後のアレッタの個人レッスンの時に、久し振りに冷静にアレッタの事を見る事が出来た。彼女専用の部屋に行くのにも慣れていたはずなのに、慣れすぎて見過ごしていたのか。
彼女は相変わらず威厳もあり、美しい。だけど、学院の女王様は少しやつれている様だった。
「アレッタ様、少しお疲れではありませんか?」
「……分かるか?スケジュールに稽古の時間が増えて幾日も経つというのに、未だ体が慣れないらしい。他人に気付かれるとは情けない」
「情けの有無では無くて、休息の有無でしょう。しばらく休まれてはいかがですか?」
「実務に支障はない。時間が惜しい故、気にせずレッスンを続けて欲しい」
アレッタの表情は真剣で、とても焦っていた。
「アレッタ様。体に異変が出てから休むのでは、回復に時間がかかるので結局時間を無駄にしてしまいます。特にアレッタ様は芸事全てのレッスンを受けてらっしゃいますから、ドールと同じ程度には休息も必要です。何を焦ってらっしゃるのですか?」
「焦っては……おるのだろうな」
疲れている自覚はやはりあったのか、彼女は今日の舞のレッスンは諦めた様だ。ピンクのふわふわのクッションを腰にあてながら、ソファに腰掛けてベルで給仕を呼んだ。
「よろしければ、何を焦ってらっしゃるのか、いえ、なぜ芸事を習おうとされたのか聞いてもよろしいですか?」
リサの問いにアレッタはしばらく視線を落とした。それから、意を決した様に口を開いた。
「リサはセレナの商人だ。口も固かろう」
「口外はいたしません」
「うむ……。この所の国の動き、そなたらはどこまで知っておる?」
「国の動き、ですか?」
「外交について、商人同士で話は無いのか?」
「一部貿易に興味を持つ方もいると聞いた事のある程度です」
「そうだ。この国は貿易を始めようとしている。そして、その前に国は外交を行う。国同士のルールを決めておかねば、多くの国民を苦しめる結果になるからな」
外交を、行う。鎖国を辞めるという事だ。まさか、国の方もそちらに動いているとは思わなかった。だからフォンスも焦って動いているのか。
「我が国の端には稀に外国の者が流れ着いている。その者達の話や過去の記録を見る限り、外も王政をとっているらしい。……他国と友好を結ぶ場合、最も簡便な方法は知っているだろう?」
「婚姻を結ぶ、という事ですか?」
「そうだ、人質の交換だ。それなりの立場の者が嫁にやられる。今の王家で適齢期にある娘は私だから、当然私が嫁ぐ事になるだろう」
呼ばれたメイドは少しも動揺を見せずにお茶とお菓子を用意していた。つまり、この事は王家の中では知られた事だったのだろう。
「容姿も頭も悪いとは思わないが、相手を籠絡出来る技術は無い。カサブランカを観て、己にその才能は無さそうだと分かった。ならばせめて軽んじられない程度の芸は身につけておきたい。私を通して彼の国はこちらの国事を知る。文化の度合いを測られる。美しい、とさえ思われれば踏みにじられる事はあるまい。国も。私自身も」
「そんな……」
お茶を一口飲んで、アレッタは目を瞑った。
「権力を持つ者が、責を負う。それは当然のことで、だからこそ我ら一族が偉そうに城でふんぞり返っているのだ。自分にもう少し才能があればと思うが、だからといって民に申し訳なく思うわけでも無い。思った所で誰かが代わってくれるわけでも、代わるつもりもないのだから、やるだけの事はやる。その結果あちらで冷遇されたなら、それは自分の努力だか才能が足りなかっただけだからな」
自分よりたった一つしか歳の変わらない彼女の覚悟に、リサは衝撃を受けた。自分が知っている、生まれてからずっと与えられ続けられた常識に則っても間違いがない選択のはずなのに、リサはそれはおかしいと言いたくなった。自分の母体を守るために犠牲になるのは当然で、自分だって家のためにある程度は犠牲になっている。それでも、目の前の女の子がそんな責任を一人で持つのは納得ができない。
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「……食事を変えましょう。ドール達は華奢に見ますが、そこら辺の貴族の坊ちゃんより筋力を鍛えています。甘いものは控えて、肉類を摂ってください」
「リサ?」
「それから、ドールが始めに習う事、懐剣の使い方もお教えします」
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「……いいえ、それも可能ですが、それ以外の事です。痛みも苦しみも無い、確実な方法は彼女達の心の拠り所なのです」
目を見開いて驚いたアレッタは「そなたを師に招いて良かった」と微笑んだ。
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もしよかったら宜しくお願いしますね!
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