S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず

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1章

2勝1敗

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「ごはっ!!」
「ジジイ!?」

メイド人形が吹き飛んだ隙にこの状況を打破する策をモーリスから聞いていたアレス。
しかしその時突如モーリスは大きく吐血してしまったのだ。

「ごふっ……はぁ……はぁ……。先程の、あなたから貰った傷が思いのほか深く……走ったせいでより悪化してしまいましてね」
「……」
「短距離とはいえ簡易詠唱でワープを使用したのがまずかった。魔力ももうすっからかんだ。私は……もう助からないだろう」
「……じゃあなんでわざわざ俺に助言なんかを?」
「ふふっ……人間死ねばそれまでとは言いますが、こんな日の光の届かない薄暗い土の中に取り残されるのは悲しいじゃないですか。君たちに協力して……せめて地上で眠りたい……ごほっ!」

モーリスは苦しそうに喋りながらさらに大量の血を吐いた。
もうその出血量は誰がどう見ても助かるものではなかった。

「……わかったよ。人間死ねばそれまでだ。あんたの亡骸は地上へ運んでやるよ」
「ふふっ、ありがとう少年。だがそのためには、私も協力は惜しまない」
「ゴシュジンサマァアアアアア!!!」
「私が時間を稼ぎます!その間に君たちは魔法剣を完成させてください!」
「ギギャ」

モーリスはそう言うと最後の力を振り絞るように重力スキルを発動させ、メイド人形の動きを止めたのだ。
それはメイド人形を倒すには程遠いもののその動きを止めることに成功した。

「アリア!!俺の剣に光魔法を!!」
「で、ですが!物に光魔法を付与するなんて私やったことが……」
「俺も魔法剣なんてやったことねえよ!でもやらなきゃ死ぬだけだ!」
「……っ!わかりました。ホーリーライトニング!!」

モーリスが重力スキルでメイド人形の足止めをしている間に、アレスはアリアに駆け寄り剣を差し出す。
初めて行う光魔法の付与にアリアは少したじろいだが、覚悟を決めてアレスの剣に魔法を使用したのだ。

「ぐっ……少年たち、まだですか!?」
「もう少し……あと少しです……」
「ギ……ギギ ゴシュギャンザァアアアア!!」
「ごふっ……もう、限界だ……」
「いや、間に合ったよ。後は任せろ」

深手を負っていたモーリスは限界を迎えたようで、再び吐血するとともにメイド人形の拘束を解いてしまったのだ。
それと同時にアレスたちに襲い掛かるメイド人形。
しかしアレスは不完全ながら光の魔力を帯びた剣を構えメイド人形を迎え撃ったのだ。

「誰に仕えてたかしらないが、あの世にいけるならご主人様に会えるといいな」
「ゴシュジンサマァアアアア」
「合技・聖十文字斬り!」
「ギギャアアアアア!!」

ドス黒い2本の剣を振り上げるメイド人形。
アレスはそれを軽やかな身のこなしで躱して懐に潜ると輝く光の剣を十字に走らせ、メイド人形の体を4つに叩き斬ったのだった。
地面に崩れたメイド人形の残骸から穢れた魂の気配が消えてゆく。
それを感じ取ったアレスは張り詰めていた緊張を解き、大きく息を吐いたのだった。

「ふぅー……終わったか」
「や、やったのか!?」
「さっすがアレス君♡」
「アレスさん!」
「ああ、みんn……っ!!??」
ドガァアアアアアア!!!

しかしアレスが剣を下ろしたその瞬間。
なんとバラバラになったはずのメイド人形の残骸が突然大爆発を起こしたのだ。

「っ!!アレスさん!!」
「……っぶねえ!!爆発で死にかけるの2度目だぞ!?」
「な、なにが起こったんだ?」
「さっきのバケモノの残骸が急に爆発したのよ!」

突然の爆発にアレスは依然マリーシャの爆裂魔法を捌いた時と同様にメイド人形の残骸の爆発を凌いでみせた。
それでも爆発の規模が大きく天井が崩落するんじゃないかと恐怖を覚えるほどだった。

(今の爆発、普通じゃねえな。もとから自爆する設計だったのか?こいつは一体……なんだったんだ)
「大丈夫ですかアレスさん!?」
「なんとかな。そうだ、ジジイは今の爆発で無事だったんだろうな……あれ、あいつはどこいった?」

何とか危機を脱したアレスがモーリスがいた場所に視線を向けたのだが、なんとそこにさっきまでいたはずのモーリスの姿がなかったのだ。
先程の爆発で吹き飛んだのかとも考えたが、部屋のどこにも彼の姿はない。

「奴は動けないほどの重症だったはずだろ?いったいどこへ……」
「ねえあんた!バッグ開いてるわよ?」
「ん?ほんとだ、開けっ放しにしてたのか……って、ポーションがねえ!!」
「なに!?」
「アレスさん!あのお爺さんが吐き出した血……本物じゃありません!」
「っ!!ってことはつまり……あのジジィ!!」

モーリスが消えたという騒ぎの中、マグナは自身が背負っていたバッグからポーションが抜き取られていることに気が付いたのだ。
さらに先ほどモーリスは激しく吐血していたように見えたのだが、アリアによってそれが血糊だったことが判明したのだった。


「ふふっ、流石ハズヴァルド学園生。いいポーションを持っている」

アレスたちの前から姿を消したモーリスだったのだが、なんとマグナからポーションを奪いそのまま地上に向けて颯爽と走っていたのだった。

(最後の駆け引きは私の勝ちと言ったところでしょうか。初めの接触は私の、次の戦闘では君の勝ち。つまりトータル私の2勝1敗。残念ですが今回は私の勝ちのようですな)
「ふふっ、だがもう彼とは会いたくありませんな」

マグナから奪ったポーションを飲み切ったモーリスは多少残る胸の傷の痛みを堪えながらどんどんと遺跡内部を進んでいった。
最後にアレスに一泡吹かせたことに満足したのか、モーリスは思わず口角を上げていたのだった。


「くーそ。なーんか様子がおかしいと思ったんだよなぁ。こんなに綺麗に騙されるなんて」
「まあいいじゃない。みんな無事だったんだからさ♡」
「あー……もう俺はくたくただよ。早く帰って休もうぜ」
「ああ、俺もだ。正直結構限界だったわ」
「え、でもさ皆。ここにはサンドスネークを探しに来たんでしょ?それはどうするの?」
「あー……」
「お前嫌なこと思い出させるなよ。俺もう動きたくないぜ」
「そうだな……これだけ苦労して手ぶらで帰るってのは嫌だけど、今からサンドスネークを探すのはそれはそれで……」
「あの、皆さん。ちょっといいですか?」

戦いを終えたアレスたちが帰ろうとしたその時、メアリーはこの遺跡にやってきた本来の目的を口にしたのだ。
もう疲労が限界に達しようとしていた2人はメアリーのその言葉を聞き思わずげっそりしてしまう。
しかしそんなときアリアが申し訳なさそうな様子でバッグの中から袋を取り出したのだった。

「おお!?」
「アリア、まさかそれは……」
「はい、サンドスネークの牙です。アレスさんを探していた時に偶然サンドスネークの群れを発見して、こんなことしている場合ではないと思ったのですが集めておいたんです。やはり、あの状況でこんなことをしていたのは呑気と言わざるを得ませんよね?」
「ナイスだアリアー!!ありがとう!!」
「女神様ー!!今からサンドスネーク探しは死んでしまう所でしたぁ!!」
「さっすがアリアちゃん!今の今まで忘れてたからほんと助かったわぁ!!」
「ほ、ほんとう?よかったぁ。皆に怒られるんじゃないかって少し心配だったんです」

体力も底をつきかけている今からサンドスネーク探し……かと思われたのだが、なんとアリアが途中でサンドスネークの牙を集めていてくれたのだった。
これにはメアリーは大喜び、マグナに加えアレスまでもが喜びで目に涙を滲ませていた。

「ほんっとに良かった。これで心置きなく学園に帰れる」
「そうですね。帰り道も気を付けていきましょうね」
「ああ、喜んだらドッと疲れが……メアリー、おぶってくんね?」
「嫌に決まってんでしょうが。自分の足で帰らないならここに置いてくわよ」
「わかったよ!歩きゃいいんだろ歩きゃ!」

こうしてアレスたちは当初の目的だったサンドスネークの牙の回収も達成して晴れやかな気持ち地上に向かって歩き始めた。
そして罠を警戒しながら時間をかけて出口に辿り着いたアレスたち一行はメーヴァレア遺跡を後にしたのだった。
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