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1章
ヘルステラ連続失踪事件
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「失踪事件……ティナ、詳しく話を聞かせてくれないか」
「もちろんだ。だけどその前に、一応場所を変えさせてもらいたい。時間は大丈夫か?」
「ああ。それじゃあ行こうか」
ティナから失踪事件の解決を手伝って欲しいと頼まれたアレスは真剣な眼差しで話を聞く。
そんなアレスにティナはあまり他の人に話を聞かれるのは良くないと、アレスを連れて別の場所に移動することにしたのだった。
アレスとティナは他の生徒たちがあまり近寄らないような場所を目指し、教室のある新校舎を離れ人気の少ない旧校舎へと向かった。
アレスやティナが所属するクラスのある新校舎から少し離れたところに、ハズヴァルド学園創設当時の面影を残す旧校舎は建っていた。
旧校舎と言っても完全に使われていない訳ではなく新校舎に比べてより歴史を感じさせる趣深い廊下を抜け、アレスたちは屋上へとやってきたのだ。
「よし、誰もいないな。ここならのびのび話が出来そうだ!」
旧校舎の屋上に着いたティナはリラックスした様子で伸びをした。
先程までは他の生徒の目もあり貴族に相応しい振る舞いを心掛けていたティナだったが、アレスと2人きりとなりようやく素の自分を曝け出せるようになったのだ。
「その様子だとよほどストレスがたまってたんだな」
「ほんとよ!屋敷は居心地が悪いったらありゃしないわ!」
「スキルが使えるようになったんならもう差別される理由もないだろうに」
「そうだとは思うけど、流石に急に掌を返すなんてことできないんでしょ」
「それもそうか。それよりも、さっきの話を聞かせてもらおうか」
「ええ、わかったわ。今回の失踪事件が起きているのは王都から北西方向にあるヘルステラの街。その街で2カ月くらい前から街の人が何人も姿を消しているの」
屋上についた2人は雑談もそこそこに先ほどの話の続きを始める。
ティナが持ってきた失踪事件が起きていたのはヘルステラの街と呼ばれるエメルキア王国の北西にある大きな街。
そこは現在戦争状態にあるユガリ帝国に一番近い街であり、軍事的にも重要なその街は王都から遠く離れているがとても栄えている街だった。
「っ!ヘルステラ連続失踪事件か!それなら新聞で何度も報じられてるな」
「ええ。この事件は発生当初から王国軍ヘルステラ支部が総力を挙げて犯人探しをしていたし、最初の事件発生から3週間後くらいには本部からも大量の兵士が送り込まれた。でも犯人を捕まえるどころか手がかりをつかむことも出来ず、失踪事件の被害者は街の人だけじゃなく王国軍の兵士も含め100人にものぼってるわ」
「嘘だろ!?そこまで詳しい話は知らなかったがそんなに被害が大きくなってたのか」
「しかもつい先日には王国軍金将2人の行方がつかめなくなり、いよいよエメルキア王国の長い歴史において史上最悪の失踪事件と呼ばれるほどになってるの」
「なるほどな……事件の話は分かったが、なんでそれをお前が調査することになったんだ?」
ティナが話した事件の詳細は新聞に載っていた情報よりも詳しく、アレスを驚かせるには十分すぎる内容だった。
しかしそこまで話を聞いたアレスは当然の疑問をティナに投げかける。
それは王国軍に所属すらしていない学生であるティナがなぜ事件解決のためにヘルステラの街へ向かうことになったかというものだった。
「私がヘルステラの街に行くことになったのは父上のせいなの」
「ゼギン総軍団長の?」
「私は先日からフォルワイル家の屋敷でスキルを使った特訓をしていたと言っていただろう?実はその相手が父上だったのよ」
「まじでっ!?」
「それで『エメルキア王国軍総軍団長であるこの俺の貴重な時間を浪費させたんだ。その対価として俺がやるはずだった仕事をお前にやってもらうぞ』と言われてしまったんだ」
ティナが明かしたのは衝撃な事実。
それはティナの特訓相手が彼女の父親でありエメルキア王国軍総軍団長のゼギン・フォルワイルだったということなのだ。
いかに自分の娘のためとはいえ、この国の軍隊のトップに立つ男が1人の訓練に付きっきりになるなど考えられない。
(なるほど。ティナのいう嫌な奴って父親のことだったのか。そりゃ嫌でも訓練相手としては破格過ぎるわけだからやらない手はないよな)
「お前が選ばれた理由は分かった。でもそれって俺が手伝ってもいいのか?お前はともかく俺は王国軍とは何のつながりもないぞ?」
「ああ。というかむしろそれが父上の条件だからな」
「条件?」
『ティナ。お前には2か月前から発生しているヘルステラ連続失踪事件を解決してもらう。街へ行くのはお前と、俺が選んだ部下2人と……』
「私が最も信頼する人物だ、と」
「なんだその条件は……」
ティナの父親であるゼギンが言った条件はその意図があまりにも理解できないものだった。
その話を聞いたアレスも当然首をかしげる。
「父上の考えていることは私にもわからん。だがそう言われてしまった以上従うほかあるまい」
「そうか……それでお前は俺を選んだと」
「当然だろう?私が心から信頼できる人物となれば君とソシアとジョージの3人だけ。そして王国軍金将ですら犠牲となるような危険な事件となれば君を選ぶのは必然だ」
「なるほど。それじゃあその期待に応えない訳にはいかないな」
「ああ。期待しているよ。それとこの件で何日か学園を離れることになるが、総軍団長殿の正式な依頼ということで王国軍仮入団のシステムと同じ扱いで学園の成績としてしてもらえるらしい。だからそこは心配しないでくれ」
ヘルステラの街は王都からかなり離れており移動だけでも数日費やすことになる。
その間は学園を離れることになるのだが、移動を含めたすべての活動の期間を王国軍が学園の成績として保証してくれるということになっていたのだ。
王国軍や騎士団に入団することを目的とするならば、仮入団をして活動するのは学園で学ぶこととは比較にならないほどの経験となる。
そのため学園では王国軍と騎士団へ仮入団するという仕組みがあり、そこでの活動は学園の成績として大きくカウントされるのだ。
なお冒険者はハズヴァルド学園において比較的近年にできた選択肢であり、冒険者ギルドへの仮入団はそのシステムがまだ出来ていなかった。
「それはありがたいんだが……その仮入団って、俺将来王国軍に入る気はないんだが大丈夫か?」
「それはもちろんだ。あくまで同じ扱いってだけだ。しかしそれは残念だな」
「え、何が?」
「君が王国軍に入る気がないということだ。私が父上に代わり王国軍の総軍団長になった暁には君を総軍副団長に任命したいくらいなのに」
「悪いが俺はもう王族には近づきたくないんでね……というか、ティナはあれだけ父親に反発しながら総軍団長の地位は継ぐつもりなんだな」
アレスは父親に対しての嫌悪感を隠そうとしないティナがその父親の立場を継ごうと考えていることに少し意外に思った。
「私に兄弟がいれば父上の跡を継ごうなどとは考えなかったかもしれないが、私は一人娘だからな。フォルワイル家に生まれた役割を果たさずに別の道を歩むことは私自身が許せないんだ」
「そうだよな……お前って兄弟がいないんだよな。父親はフォルワイル家の……御三家の当主なのに」
自分の役割を全うしようとするティナの覚悟に感心しつつ、アレスはある違和感を抱いていた。
ティナの家はこの国で最も力のある御三家の一角。
中流以上の貴族なら子供を何人も育てるのが普通で、上流階級の貴族家の当主ともなれば結婚相手が複数いることも当たり前だ。
しかし御三家であるフォルワイル家の現当主、ゼギン・フォルワイルはティナ以外に子供がいなかったのだ。
結婚したのもティナの母親だけで側室はおろか再婚相手もいないというとても稀有な例だったのだ。
「それは私も不思議には思っていたが、父上に直接聞けるわけがないからな」
「そうか。まあ、今そんなこと考えても仕方がないな。改めてだがお前の頼み、引き受けさせてもらうぜ。必ずこの事件の犯人を捕まえよう!」
「ありがとう。本当に助かるよ」
「出発は早いほうが良いだろ?そっちの準備が出来次第すぐに行こう」
「ああ。こうしている今も犠牲者が増え続けているかもしれんからな。今日中に準備をして明日の朝出発しよう」
色々とティナから話を聞いたが、アレスは改めて彼女の頼みを聞き入れ失踪事件を解決すると意気込みをあらわにしたのだった。
こうしてアレスとティナはゼギンが用意する王国軍の兵士2人の合わせて4人でヘルステラの街へと向かうことになったのだ。
「もちろんだ。だけどその前に、一応場所を変えさせてもらいたい。時間は大丈夫か?」
「ああ。それじゃあ行こうか」
ティナから失踪事件の解決を手伝って欲しいと頼まれたアレスは真剣な眼差しで話を聞く。
そんなアレスにティナはあまり他の人に話を聞かれるのは良くないと、アレスを連れて別の場所に移動することにしたのだった。
アレスとティナは他の生徒たちがあまり近寄らないような場所を目指し、教室のある新校舎を離れ人気の少ない旧校舎へと向かった。
アレスやティナが所属するクラスのある新校舎から少し離れたところに、ハズヴァルド学園創設当時の面影を残す旧校舎は建っていた。
旧校舎と言っても完全に使われていない訳ではなく新校舎に比べてより歴史を感じさせる趣深い廊下を抜け、アレスたちは屋上へとやってきたのだ。
「よし、誰もいないな。ここならのびのび話が出来そうだ!」
旧校舎の屋上に着いたティナはリラックスした様子で伸びをした。
先程までは他の生徒の目もあり貴族に相応しい振る舞いを心掛けていたティナだったが、アレスと2人きりとなりようやく素の自分を曝け出せるようになったのだ。
「その様子だとよほどストレスがたまってたんだな」
「ほんとよ!屋敷は居心地が悪いったらありゃしないわ!」
「スキルが使えるようになったんならもう差別される理由もないだろうに」
「そうだとは思うけど、流石に急に掌を返すなんてことできないんでしょ」
「それもそうか。それよりも、さっきの話を聞かせてもらおうか」
「ええ、わかったわ。今回の失踪事件が起きているのは王都から北西方向にあるヘルステラの街。その街で2カ月くらい前から街の人が何人も姿を消しているの」
屋上についた2人は雑談もそこそこに先ほどの話の続きを始める。
ティナが持ってきた失踪事件が起きていたのはヘルステラの街と呼ばれるエメルキア王国の北西にある大きな街。
そこは現在戦争状態にあるユガリ帝国に一番近い街であり、軍事的にも重要なその街は王都から遠く離れているがとても栄えている街だった。
「っ!ヘルステラ連続失踪事件か!それなら新聞で何度も報じられてるな」
「ええ。この事件は発生当初から王国軍ヘルステラ支部が総力を挙げて犯人探しをしていたし、最初の事件発生から3週間後くらいには本部からも大量の兵士が送り込まれた。でも犯人を捕まえるどころか手がかりをつかむことも出来ず、失踪事件の被害者は街の人だけじゃなく王国軍の兵士も含め100人にものぼってるわ」
「嘘だろ!?そこまで詳しい話は知らなかったがそんなに被害が大きくなってたのか」
「しかもつい先日には王国軍金将2人の行方がつかめなくなり、いよいよエメルキア王国の長い歴史において史上最悪の失踪事件と呼ばれるほどになってるの」
「なるほどな……事件の話は分かったが、なんでそれをお前が調査することになったんだ?」
ティナが話した事件の詳細は新聞に載っていた情報よりも詳しく、アレスを驚かせるには十分すぎる内容だった。
しかしそこまで話を聞いたアレスは当然の疑問をティナに投げかける。
それは王国軍に所属すらしていない学生であるティナがなぜ事件解決のためにヘルステラの街へ向かうことになったかというものだった。
「私がヘルステラの街に行くことになったのは父上のせいなの」
「ゼギン総軍団長の?」
「私は先日からフォルワイル家の屋敷でスキルを使った特訓をしていたと言っていただろう?実はその相手が父上だったのよ」
「まじでっ!?」
「それで『エメルキア王国軍総軍団長であるこの俺の貴重な時間を浪費させたんだ。その対価として俺がやるはずだった仕事をお前にやってもらうぞ』と言われてしまったんだ」
ティナが明かしたのは衝撃な事実。
それはティナの特訓相手が彼女の父親でありエメルキア王国軍総軍団長のゼギン・フォルワイルだったということなのだ。
いかに自分の娘のためとはいえ、この国の軍隊のトップに立つ男が1人の訓練に付きっきりになるなど考えられない。
(なるほど。ティナのいう嫌な奴って父親のことだったのか。そりゃ嫌でも訓練相手としては破格過ぎるわけだからやらない手はないよな)
「お前が選ばれた理由は分かった。でもそれって俺が手伝ってもいいのか?お前はともかく俺は王国軍とは何のつながりもないぞ?」
「ああ。というかむしろそれが父上の条件だからな」
「条件?」
『ティナ。お前には2か月前から発生しているヘルステラ連続失踪事件を解決してもらう。街へ行くのはお前と、俺が選んだ部下2人と……』
「私が最も信頼する人物だ、と」
「なんだその条件は……」
ティナの父親であるゼギンが言った条件はその意図があまりにも理解できないものだった。
その話を聞いたアレスも当然首をかしげる。
「父上の考えていることは私にもわからん。だがそう言われてしまった以上従うほかあるまい」
「そうか……それでお前は俺を選んだと」
「当然だろう?私が心から信頼できる人物となれば君とソシアとジョージの3人だけ。そして王国軍金将ですら犠牲となるような危険な事件となれば君を選ぶのは必然だ」
「なるほど。それじゃあその期待に応えない訳にはいかないな」
「ああ。期待しているよ。それとこの件で何日か学園を離れることになるが、総軍団長殿の正式な依頼ということで王国軍仮入団のシステムと同じ扱いで学園の成績としてしてもらえるらしい。だからそこは心配しないでくれ」
ヘルステラの街は王都からかなり離れており移動だけでも数日費やすことになる。
その間は学園を離れることになるのだが、移動を含めたすべての活動の期間を王国軍が学園の成績として保証してくれるということになっていたのだ。
王国軍や騎士団に入団することを目的とするならば、仮入団をして活動するのは学園で学ぶこととは比較にならないほどの経験となる。
そのため学園では王国軍と騎士団へ仮入団するという仕組みがあり、そこでの活動は学園の成績として大きくカウントされるのだ。
なお冒険者はハズヴァルド学園において比較的近年にできた選択肢であり、冒険者ギルドへの仮入団はそのシステムがまだ出来ていなかった。
「それはありがたいんだが……その仮入団って、俺将来王国軍に入る気はないんだが大丈夫か?」
「それはもちろんだ。あくまで同じ扱いってだけだ。しかしそれは残念だな」
「え、何が?」
「君が王国軍に入る気がないということだ。私が父上に代わり王国軍の総軍団長になった暁には君を総軍副団長に任命したいくらいなのに」
「悪いが俺はもう王族には近づきたくないんでね……というか、ティナはあれだけ父親に反発しながら総軍団長の地位は継ぐつもりなんだな」
アレスは父親に対しての嫌悪感を隠そうとしないティナがその父親の立場を継ごうと考えていることに少し意外に思った。
「私に兄弟がいれば父上の跡を継ごうなどとは考えなかったかもしれないが、私は一人娘だからな。フォルワイル家に生まれた役割を果たさずに別の道を歩むことは私自身が許せないんだ」
「そうだよな……お前って兄弟がいないんだよな。父親はフォルワイル家の……御三家の当主なのに」
自分の役割を全うしようとするティナの覚悟に感心しつつ、アレスはある違和感を抱いていた。
ティナの家はこの国で最も力のある御三家の一角。
中流以上の貴族なら子供を何人も育てるのが普通で、上流階級の貴族家の当主ともなれば結婚相手が複数いることも当たり前だ。
しかし御三家であるフォルワイル家の現当主、ゼギン・フォルワイルはティナ以外に子供がいなかったのだ。
結婚したのもティナの母親だけで側室はおろか再婚相手もいないというとても稀有な例だったのだ。
「それは私も不思議には思っていたが、父上に直接聞けるわけがないからな」
「そうか。まあ、今そんなこと考えても仕方がないな。改めてだがお前の頼み、引き受けさせてもらうぜ。必ずこの事件の犯人を捕まえよう!」
「ありがとう。本当に助かるよ」
「出発は早いほうが良いだろ?そっちの準備が出来次第すぐに行こう」
「ああ。こうしている今も犠牲者が増え続けているかもしれんからな。今日中に準備をして明日の朝出発しよう」
色々とティナから話を聞いたが、アレスは改めて彼女の頼みを聞き入れ失踪事件を解決すると意気込みをあらわにしたのだった。
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