S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず

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1章

飛んで火にいる夏の虫

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「ティナ様。もうすぐヘルステラの街に入ります」
「そうか。わかった」

アレスたちが馬車で王都を離れて2日と半日が経過したころ。
馬車はようやくエメルキア王国北西部に位置するヘルステラの街に到着したのだった。

「おお、この街は初めて来たけどかなり大きいんだな」
「ああ。国境に近いこの街は防衛ラインを維持するうえで重要な拠点だからな。王国軍の支部があり商人たちが集まってきたことでこの街が形成されたんだ」

ヘルステラの街は王都ほどではないがかなり栄えた大きな街だった。
レンガ造りの家が立ち並び、石畳の道路を多くの馬車が行き交う賑やかな光景。
さらに大通りに等間隔で設置された街灯が特徴的でとても趣深い街並みとなっていた。

「今は失踪事件のせいでかなりピりついているが、前までは街灯の明かりに照らされた街並みが美しいと観光スポットでもあった街だ」
「そうか。それじゃあ早く犯人を捕まえないといけないな」
「ジョルウェール家の屋敷まではもうそう遠くない。そろそろ気を引き締めていくぞ」

アレスたちを乗せた馬車はヘルステラの街を進んでいく。
そうしてしばらくするとアレスたちの目の前にひと際立派な石造りの豪邸が姿を現したのだった。

「お待ちしておりましたティナ様。遠方からお越しいただき感謝申し上げます」
「いえ。フォルワイル家次期当主として、極悪卑劣な犯人を野放しにすることなどできませんから。私が必ずや、今回の失踪事件の犯人を捕らえてみせます」
「何とも頼もしい限りです。それでは今後の話をさせていただきますので、どうぞ屋敷の中におあがりください」

屋敷に着いたティナたちを出迎えたのはジョルウェール家の当主であるモレラ・ジョルウェール。
40代後半に見える落ち着いた雰囲気の彼は、王都からやってきたティナたちに感謝を述べると早速屋敷の中へと案内したのだった。
ジョルウェール家の屋敷の中はとても広く、絵画や工芸品、甲冑などが至る所に飾られている。

「どうぞ、こちらの部屋へお入りください。まず初めに娘を紹介させていただきます」
「はじめまして皆様。私はジョルウェール家の長女のウラ・ジョルウェールです」

ティナたちが案内された部屋に居たのは今回の警護対象ともいえるモレラの娘のウラだった。
落ち着いた雰囲気で人間離れした美貌を持つ彼女は、ティナたちに丁寧にあいさつをすると深々と頭を下げた。

「皆様すでにご存じだとは思いますが、娘は明後日には18歳となってしまい犯人に狙われてしまう可能性が非常に高いのです。2人の息子を失った私にはもうウラしか残されていないんです。どうか……どうか犯人を捕まえてウラを守ってください!」
「もちろんです、モレラさん。これから我々はこの屋敷を拠点にして、ウラさんを常に守ることができるようにします」
「ありがとうございます!これで凶悪な犯人も簡単には手が出せないでしょう」
「モレラ様。我々はこの街について詳しくありませんので、いろいろと情報共有をしていただけると助かります」
「もちろんです!私たちが知っている情報は全てあなた方にお教えします」

守るべきウラとの対面を終えたアレスたちは、その後場所を移しモレラからこの屋敷や街の情報などを共有してもらった。
翌日からは王国軍支部とも連携して包囲網を強化し、確実に犯人を捕らえるという決意を強める。

「それではモレラさん。連携強化のために私たちのスキルもお伝えしておきます。私はご存じかもしれませんが、【精霊使い】のスキルで剣と氷をあわせて戦います。べリアは【百発百中】のスキルで半径50m以内の的に確実に矢を命中させられます。そしてジェーンが【回復効率上昇】のスキル。そしてアレスは……」
「俺はスキルはありませんが。剣技なら誰にも劣りません」
「スキルがない?いやしかし、少数精鋭のチームに選ばれているということはそれ相応の実力があるということですね。期待しています」

さらにティナは自身のスキルもモレラたちの共有する。
連携するうえで味方のスキルを知らないのは致命的な弱点になり得るからだ。

「それと作戦について1つ提案なんですが、かなりリスクが高いけどあえてウラ様の警護に隙を作り犯人をおびき寄せる策も使ったほうが良いと思います」
「ですが……もしそれで娘が攫われれば……」
「もちろんそのようなことがないように隙があると思わせるだけです」
「なるほど。アレスの言う通り、あえて犯人が動きやすいようにするのも手だ。あまりに警戒を高め過ぎれば犯人が行動を起こさなくなり捕まえる機会がなくなってしまう」
「そうですか……心配ではありますが、私はあなた方を信じています」
「とにかく本番はウラ様が18歳の誕生日を迎えられる当日からだ」
「そうだな。17歳以下の被害者の数は明らかに少ない。ずいぶん拘りがある犯人だろうからウラ様が18歳になる当日まではそこまで気を張る必要もないだろう」
「本当にありがとうございます皆様。ところで、ここらで夕食などいかがですかな?」

議論も着々と煮詰まってきたころ、モレラはアレスたちに夕食を食べないかと提案してきたのだ。
この街に到着したのが16時ごろで、会議をしている間に18時を告げる時計の音が聞こえてきていた。

「よろしいんですか?」
「ええもちろんですよ。ここに滞在している間の皆様の食事は全て我々がご用意させていただきます。さあ、そちらのお二人もご一緒に」
「いえ、我々のことはお気になさらず……」
「あなた方も私たちにとっては大切なお客様なのです」
「モレラさんがそうおっしゃっているんです。べリアとジェーンも一緒に夕飯を頂きましょう」
「はっ、かしこまりました」

モレラは向かいに座るティナとアレスだけでなく壁際に立っていたべリアとジェーンにも食事を勧めた。
遠慮しかけた2人だったが、ティナに食事を頂くように言われて4人揃ってモレラに夕食をご馳走になることにしたのだ。

「うほっ!凄い豪華な食事ですね!」
「こらべリア。行儀が悪いですよ」
「はっはっはっ、かまいませんよ。長旅で疲れたでしょうし、今日は遠慮せず夕食を食べてたっぷり休んでいってください」
「食事の提供感謝しますモレラさん」
「それじゃあ遠慮なく頂きます」

アレスたちの前に並べられたのは特別な客人に振舞われるようなとても豪華な食事。
流石ヘルステラの街で最も力があると言われるジョルウェール家の料理といえるもので、それらを前にして少しテンションが高くなったべリアは真っ先に料理を口に運んだ。

「うおお!モレラ様、これとてもおいしいですね!私は生まれて初めて食べたかもしれません」
「べリア。いい加減にしなさい」
「ジェーンも早く食べてみなよ」
「そう言っていただけて光栄です。ささ、他の皆様もぜひ」
「はい、ではいただきます」

べリアが少しオーバーリアクションともいえる様子で食べ始め、少し遅れてアレスたちも出された食事を食べ始めた。

(ティナは当然として、べリアさんもジェーンさんもテーブルマナーが完璧だなぁ。王宮で学んでてよかった。恥かくとこだったぜ)

フォルワイル家長女のティナに、べリアとジェーンも良い家の出身。
育ちの良さがこれでもかとわかる3人の様子にアレスは自身もテーブルマナーを叩き込まれていたことに内心胸をなでおろしていた。
多少の会話はありつつも、この夕食はとても静かに淡々と時が流れていく。

「ふわぁ……」
「べリア、いい加減に……ふぁ。ごほん、いい加減にして」
「ジェーンもずいぶん眠そうじゃないか。夕食を頂いたらなんだか眠くなってきちゃって……」
「やはりこの街は王都から遠く離れていますので疲れがたまっていたのでしょう」
「そうですね……俺も、ちょっと疲れてるかもしれないです」
「私も……なんだか、急に眠たく……」
「それはいけませんな。ここからお部屋までの行き方は分かりますでしょうか?」
「はい……さっき、荷物を運んだ時に、覚えましたので」

しかしそんな何の変哲もない夕食の時間が終わるころ、アレスたち4人は突然の眠気に襲われたのだ。
そんな4人の様子を見て、モレラはアレスたちに気付かれない程度に口角が上がる。

「それでは何かご要望などありましたら遠慮なく申し付けてください」
「ありがとうございます……」
「すみません……ちょっと、眠気がすごくて……もう失礼させていただきます」
「ええ、わかりましたとも。それでは皆様、ごゆっくりおやすみください」

モレラはそう言うと、今にでもその場に倒れこんで眠ってしまいそうなアレスたちを見送った。
アレスたちは恐ろしい程の睡魔に耐えながら何とか用意してもらっていた部屋に辿り着く。

「はぁ……はぁ……やっぱ、睡眠薬か……ふ、ふふ……」

アレスは部屋に入って数歩の所で限界を迎え、力なく仰向けに倒れた。
先程の食事に睡眠薬が混入されていたことはもはや疑う余地もない。

「わからんもんだな……く、う……すぅ……すぅ……」

どんどん瞼が重くなっていき、アレスの意識は闇へと消える。
そして限界を超えたアレスは小さな寝息をたてながら深い眠りへと落ちていったのだ。



「ふっふっふっ。あまりにもあっけないものだな」

アレスたちが睡眠薬により深い眠りに落ちた頃。
屋敷の中を歩いていたモレラは思う通りに事が運んだことに笑いをこらえきれずにいた。
モレラ・ジョルウェール……そう、彼はヘルステラの街で1番力のある貴族家の当主という立場を利用して今まで何人も街の人間や王国軍を手にかけてきたのだ。

「男2人は殺して……召使の女も明らかに20を超えている、殺してしまって構わないだろう。だがティナ・フォルワイル……くっくっくっ、あの女はいい。まさかあんな上質な女が自分から来てくれるなんてなぁ」

モレラは大量の武器が飾られた部屋にやってきた。
そしてその中から骨ごと肉を切るのにちょうどいい大きめの刃物を取り出すと、再びアレスたちを案内した部屋に戻っていったのだ。
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