S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず

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1章

タムザリア王国の脅威

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ドズカベル山脈中腹。
そこは無数の洞窟の入り口がぽっかりと大きな口を開けており、その先にはまるで迷路のような空洞が広がっている。

「アレス君、気を引き締めなさい」
「はいっ!行きましょう!」

先にやってきた何者かが残した魔物の骸の道をたどり、アレスとスフィアはレムルテ草を探すため洞窟へと足を踏み入れたのだった。
ドズカベル山脈にある洞窟内は何の明かりもなく漆黒の闇に閉ざされていた。

「うおっ!まぶし!」
「あらごめんね?明かりを灯す前に一言いうべきだったわ」

だがスフィアが発動した無数の光源魔法により2人の周辺は昼間の外よりも明るくなったのだ。

(ずっと思ってたけどこの人、本当に魔法の腕がとんでもないな。詠唱もなしに魔法をどんどん使って、普通ならとっくに魔力切れを起こしてるはず)

何の躊躇いもなく魔法の使用を繰り返すスフィアを見て、アレスは改めてこの人の異常さに疑問を持ったのだ。
スフィアが今までアレスの前で使用した攻撃魔法や飛行魔法はかなり上位の魔法で消費魔力量も尋常ではない。
さらに加えてスフィアは今まで一切魔法の詠唱を行っていない。
魔法を使用する際に詠唱が必要な理由は大きく2つあり、魔法の発動難度を下げることと消費魔力を抑えることだ。
下位の魔法ならば正式な詠唱をせずとも簡易詠唱や無詠唱でもほとんど問題なく魔法を使用できる。
しかし上位の魔法になると詠唱なしで発動させることの難易度が跳ね上がる上、詠唱をしたときに比べて消費魔力が10倍以上にも膨れ上がるのだ。
難易度の観点だけ見れば修練により詠唱の必要はなくなる。
しかし莫大な魔力の消費はどうしようもなく、スフィアのように魔法を使用すれば一瞬で魔力が枯渇してしまうはずだった。

「魔力探知をしてるけど、遠くに魔物が居るくらいで周囲に敵の存在は確認できないわ」
「あいつら生き物じゃないっぽいですけど問題ないんですか?」
「ええ、実は昨晩捕獲した奴らをちょっと弄ってみたんだけど、どうやら魔力で動いてるっぽかったの」
「そんなこといつの間に……」
「だから魔力探知さえ怠らなければ奴らが傍に来てもいち早く気付ける……」
「対象確認 排除シマス」
「なっ!?」
「スフィア様!!」

光源魔法の使用と共に、魔力感知で敵を探しながら不意打ちを警戒していたスフィア。
しかしスフィアが洞窟の分かれ道に差し掛かったその時、魔力感知で捉えられるはずのカラクリ人形がその存在をスフィアに気取られることなく構えていた刀を勢いよく振り下ろしたのだ。

「くっ!!」
(あっぶな……でも何とか躱した。こいつらの性能ならすぐさま追撃は……)

完全に虚を突かれたスフィアだったが素早いバックステップで頭上から振り下ろされた一撃を紙一重で回避してみせる。
余裕がなく回避後の体勢が悪かったスフィアだが、昨晩カラクリ人形と相対していた経験から追撃が来る前に安全圏まで十分動けると踏んでいた。
しかし激しく刀を地面に打ち付けたカラクリ人形は昨晩までの機体たちからは考えられない刀捌きでスフィアに追撃を浴びせたのだ。

(まずい!これはぎりぎり……)
「させるわけねえだろぉが!!」

だがカラクリ人形が追撃の刀を振り抜くよりも速く、アレスはスフィアとカラクリ人形の間に割って入るとカラクリ人形を切り刻んだのだった。
研ぎ澄まされたアレスの連撃にカラクリ人形は反応すらできずにガラクタと化した。

「ご、ごめんなさいアレス君。助かったわ」
「いえ、間に合ってよかったです。それよりこいつ、昨日戦った奴より格段に強い」
「ええ。魔力探知に引っかからないよう隠密も出来るみたいだし」
「生き物じゃないからじっとされると気配が感じられなくて厄介ですね……」

なんとか不意打ちを凌いだ2人だったが、昨晩出会ったメイド人形よりもかなり高性能だったことに自分たちの認識を改めたのだった。

「どうやら本気でいかなきゃ命はないみたいね」
「スフィア様。俺が先行します」
「あら、私を守ってくれるの?」
「後衛職を敵の攻撃から守るのも前衛職の役割ですから」
「ふふっ、基礎がしっかりしてるわね。それじゃあ気を抜かず本気で行きましょう」

アレスは魔法使いを敵から守る前衛の仕事を忠実にこなすため、スフィアの前に出て周囲への警戒を最大に引き上げた。
ドズカベル山脈はすでに多くの敵が潜んでおり一切気を抜けない危険地帯となっていた。
そして多数の敵が押し寄せたのはアレスたちの側だけではない。

「ふっはっはっはっ!この数の敵を貴様一人で相手するつもりか!?とんでもない馬鹿者だなぁ!」
「貴様こそ!この状況ではそれ以外ありえないだろう!」

儀式の準備のために残ったオルティナとソシアの元にも大量のカラクリ人形を引き連れた敵がやって来ていたのだ。
ソシアたちが残る家を背にしたオルティナは堂々とした笑みを浮かべると自身の背丈にも勝るとも劣らない大剣を敵に見せつけるようにゆっくりと抜いたのだ。

「戦う前に聞きたいことがある!貴様ら一体何者だ!」
「わざわざ教えてやるほど俺は親切じゃないんだよ」
「ふむ!そうか!それなら質問を変えよう!貴様が連れているソレらは昨日俺たちが戦った物とは様子が違うようだな!」
「貴様はずいぶんお喋りのようだな。まあいい。少しくらいお喋りに付き合ってやる慈悲くらいくれてやろう」

そう言った男はカラクリ人形への攻撃の指示の準備として右手を上げる。
それに伴いカラクリ人形たちはオルティナに照準を合わせながら砲撃の体勢に入った。

「その通りだ。貴様らが知る由もないだろうが今日のこいつらは昨日までの奴らとは物が違う。なぜなら昨日まで貴様らを苦しめていたのはただの汎用型魔動兵器・ゲルマであり、今日連れてきたのは戦闘に特化した戦闘型魔動兵器・グラーヴィンなのだからな!!」

自身の優位を信じて疑わない男は上機嫌に自身が連れていた兵器についてオルティナに語り始めたのだ。
その話をオルティナは大剣を構えたまま静かに聞いている。

「おっと!技術が全く発展してないこの国の人間じゃそもそも魔動兵器が何かすらわからないだろうな。魔動兵器とは魔法と科学を融合させた新時代の兵器だ!鉄の肉体に魔力の動力で動く無敵の兵士!貴様ら生身の人間が勝てる道理などないのだ!」
「これは単純な疑問なのだがその兵器が皆麗しい女性の見た目をしているのは何故なのだ?」
「それは魔動兵器の開発部門の最高責任者の趣味だ。まあ完全な機械の見た目よりもこっちの方が日常生活にも溶け込みやすいからな。こいつらはもともとそういった用途で作られ始めたものだからその名残ってわけだ」
「ふむ!疑問が解けた!礼を言うぞ!」
「なあに、礼には及ばないさ。どうせ貴様はこれから死ぬんだから……これがほんとの冥途の土産ってな!!」

そこまで話した男は口角を釣り上げると、上げていた右手を勢いよく振り下ろし攻撃態勢に入っていた魔動兵器たちに攻撃指示を出したのだ。

「剣1本でどうにかなるものか!!さようならぁ!!」

男の指示で一斉にオルティナに砲撃を開始しようとする魔動兵器たち。
しかし……

「警告 魔力残量ガ低下シテイマス システムヲ終了シマス」
「はっ!?」

攻撃態勢に入っていた魔動兵器たちは一切攻撃することなくそのまま活動を止めてしまったのだ。
その光景に男は先程までの下卑た笑みが嘘のように焦りの表情を見せる。

「なぜだっ!?まだここまでの移動しかしていないぞ!!それなのに魔力が空になるなんて絶対にありえない!!」
「そいつらの動力が魔力なら、この俺との相性は最悪だったな!」
「貴様か!?貴様、なにをした!!」
「なんてことはないさ!先ほど貴様と楽しくおしゃべりしている間にそいつらの魔力を全て頂いただけさ!」
「なんだと!?」
「冥途の土産に教えてやろうか?俺のスキルは【魔力吸収】。人、魔物、物体を問わず魔力を奪い取ることができるのだ」

オルティナの持つスキルは自身以外の全てのものから魔力を奪い取ることができるというもの。
気が付くとオルティナが持っていた大剣は魔力を大量に吸収し紫色に薄く輝いていた。
魔力を動力源にしている魔動兵器たちは男がオルティナと話をしている間にほぼすべてのエネルギーを吸い取られてしまっていたのだ。

「ふざけるなぁ!!こんなことがありえてたまるか!!ファイアボール!!」
「俺に向かって魔力の塊である魔法を放つなど吸収してくださいと言っているようなもの」

先程までとは一転不利な状況に陥った男は逆上してオルティナに向かって火炎魔法を放つ。
しかしそれはあっけなくオルティナが持つ大剣に吸収されてしまう。

「そして俺のスキルは魔力を吸収するだけではない。吸収した魔力を放出することができるのだ。こんな風にな」
「ぎゃぁあああああ!!」

そうして男の魔法を吸収したオルティナはそのまま男に向かって集めた魔力を放出した。
男はその攻撃を避けることが出来ず悲鳴をあげながら地面に転がったのだ。



無傷で敵を退けたオルティナだったが、一方のアレスとスフィアも順調に魔動兵器の襲撃を退けドズカベル山脈の洞窟で儀式に必要なレムルテ草を探していた。

「アレス君!右斜め上の通路から2体来るわよ!」
「了解です!月影流、秘伝……」
「対象ヲ発見」
「排除シマス」
「叢雲一閃!!」
「ナイスよアレス君!」
「ありがとうございます。ですが下に降りるほどこいつら数が増えていきますね」
「つまりこの先に何かが待っているって考えるのが自然ね。洞窟の最奥までもう少し、調べてみるわ」
「……。どうですか?」
「ええ、予想は大当たりね。嫌になるほどうじゃうじゃいるわ」

洞窟を進むほどに待ち構えている魔動兵器の数が増えていくが、油断の一切ない2人にはかすり傷1つ負わせられない。
そうしてアレスとスフィアは順調に洞窟最深部へとたどり着いたのだが、そこで信じられない光景を目撃したのだ。

「なんだあいつら……ここで何をしてやがる?」
「あれは、レムルテ草よ!奴らレムルテ草を全て回収するつもりなんだわ!」

ドズカベル山脈の洞窟最深部はアリの巣のように張り巡らされた多くの通路が合流し巨大な空間が広がっていた。
その巨大な空間に50はゆうに超えるほどの大量の魔動兵器が壁に張り付いたレムルテ草を回収していたのだ。

「間違いないわね。奴らどうやって知ったかはわからないけど私たちの儀式を妨害するつもりなのね」
「そんなこと黙って見てるわけにはいかないですね」
「ええ。突入して奴らを即座に制圧しましょう」
「どうしたんですか?そんなところに隠れていないで出てきたらどうです?」
「っ!?」

岩陰に隠れ突入のタイミングを伺っていたアレスとスフィア。
しかし2人が潜んでいることに気付いていた敵が岩陰に隠れていたアレスとスフィアに声をかけてきたのだ。

「……まさかバレていたなんてね」
「貴様らがこの洞窟に入ってきたことは分かっていた。魔動兵器の通信が絶えず消えていたのが収まったんだ。ここまでたどり着いて不意打ちを狙っていると考えるのが自然だろう?」

アレスとスフィアの存在に気が付いた敵は魔動兵器たちにレムルテ草の採集を中断させ戦闘の準備を整えたのだ。
完全に存在を気取られた2人は奇襲を諦め正面から堂々と姿を現したのだ。

「一応聞いておくけれど、あなた達ここで何をしているのですか?」
「決まっているじゃないですか。穢れに堕ちた犬を救うための儀式を妨害するためレムルテ草を全て回収しているんですよ」
「とぼける気はないらしいな。回りくどい問答をせずに済んで助かるぜ」

大量の魔動兵器に囲まれた中、それらに指示を出している男に2人は警戒心を引き上げた。
その男が放つ雰囲気はアレスたちを前にしても非常に落ち着いており、ただの小悪党とは到底思えないものだった。

「じゃあこの質問も無意味かしら?無駄な抵抗をせずに大人しくするか、私たちと戦って大人しくさせられるか」
「くっくっくっ、貴様ら何か勘違いしているようだな」
「何の話だ?」
「まさかお前ら、まだ自分たちが勝てると思い込んでいるのか?」
「っ!!」
(なんだ!?何か仕掛けてくる!)

その直後、男は異様ともいえるオーラを纏い始めたのだ。
それを見たアレスは剣を構え、スフィアは自身の背後から大量の水を生成する。
しかし次の瞬間、2人が予想だにしない事態が発生したのだ。

バシャァアアアアン!!
「スフィア様!?」

大量の水を浮かべて攻撃の準備をしていたスフィアだったのだが、突如その水の塊が制御を失いただの水として地面に落下したのだ。

「なに……急に魔法の制御が……」
「スフィア様!一体何が!?」
(いや、この感覚俺は知ってるぞ。忘れるわけがねえ。俺が王宮を追い出されたあの日の夜と同じ……)
「さあ、これで貴様らのスキルは封じたぞ?これでもまださっきまでの威勢を保っていられるかな?」
((スキルが……使えない!!))

男が大きく手を広げた直後、アレスとスフィアにとんでもない異変が襲ったのだ。
それは戦場に置いてあまりにも絶望と言える事態。
アレスとスフィアは突如スキルが全く使用できない事態に陥ってしまったのだ。
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