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1章
恋は盲目
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「ねえ、アレス君って本当はスキルを持ってるんじゃないの?」
露天風呂に癒されていたソシアに、隣に浸かっていたスフィアが不意にそんな質問をした。
ソシアは何故スフィアがそんな質問をするに至ったのかがまるで理解できずに戸惑いを隠せなかった。
「え?なんでそんなことを……そんな訳ないじゃないですか」
「どうして?」
「どうしてって……だって、それってつまりアレス君が私たちを騙しているんじゃないかってことですよね?アレス君がそんなことするなんてありえません」
スフィアの質問にソシアは真っ向からそれを否定した。
それを聞いたスフィアはじっとソシアの瞳をみつめる。
(ソシアには話しているんじゃないかなって思ったけど、どうやら本当に知らないようね)
ソシアにそんな質問をしたスフィアだったが、本当はすでにアレスがスキルを持っていると確信していた。
先のドズカベル山脈での戦い。
魔動兵器を使役していたあの男によってスフィアとアレスはスキルを封じられてしまったのだ。
その時スフィアは元からスキルを持たないアレスならスキルを封じられようが一切問題がないと思っていた。
だが実際はアレスは魔動兵器たちを相手に苦戦を強いられ命に届き得るような深手を負わされた。
(確かにあの時のアレス君もスキルがないにしては相当強かったとは思う。でもそれ以前に見た彼の動きと比べたら明らかに弱体化していた。それはつまり彼がスキルを隠し持っていたという証拠。でもなぜ?)
スフィアにはアレスがスキルを隠している理由がさっぱり理解できなかった。
普通に考えれば弱いスキルを持ちながら見栄を張るために上位のスキルを持っていると偽ることが一般的である。
だから強いスキルを持ちながら自分を弱く見せる理由がわからなかったのだ。
面倒ごとに巻き込まれたくないのならわざわざ冒険者など目指さなければいい。
弱いスキルで他者を圧倒する自分を演出したいという理由なら考えられるが、短いながらアレスと行動を共にしたスフィアにはアレスがそんなことを考える人間には思えなかったのだ。
「それにハズヴァルド学園に入学する前にスキルの鑑定を受けないといけないんです。アレス君がスキルを持っているならそこでバレちゃいますよ」
「……」
(スキル鑑定の儀を誤魔化す方法なんていくらでもある。仲のいいソシアにはスキルのことを話していると思ったけど……相当な事情があるのかしら)
「そうね。私が間違ってたわ。彼の出鱈目な強さを見て本当にスキルがないのかって思っちゃって」
「確かにアレス君はスキルがないなんて信じられないくらい強いですよ。でも私はそれが本当はスキルを持っているおかげかどうかなんてどうでもいいって思うんです」
「ふぅん。それはどうして?」
「だってアレス君はその力を正しいことのため……私たちのために使ってくれているから。もしアレス君が本当はスキルを持っていたとしても、それを話せない深い事情があるのなら私はそれ以上聞こうとしません。スキルがあろうがなかろうが、アレス君は私の大切な友達だから……」
(……そうね。彼が何か悪事を働いたり考えたりするような人間じゃないってことは私もわかっている。それなら無理に聞き出そうとするのは悪いわね。彼は私にとっても命の恩人なんだし)
「ふふっ、それだけ彼のことを信頼してるってことね。ソシアが彼を好きになったわけもわかった気がするわ」
「えっ///!?な、なな、何を言ってるんですか急に///!!」
アレスが隠し持っているスキルを知りたいとソシアに聞いたスフィアだったが、ソシアの考えを聞いてそれを探るのは野暮だとそれ以上の詮索をやめることにしたのだ。
アレスへの信頼を示したソシアに、スフィアはソシアがアレスを好きになった理由を垣間見た。
しかしスフィアが自身の恋心に気付いていたことを気化されたソシアは顔を真っ赤にして分かりやすく取り乱したのだった。
「え?だってそうでしょ?見てたらすぐにわかったわよ」
「え、ああ……そんな、嘘ですよね!?」
「多分オルも気付いてると思うなぁ。当の本人は一切気付いてなさそうだけど」
「オルティナ様にもバレちゃってるんですか!?はぁ~///……でもアレス君に気付かれてないなら何とかよかった……」
「よくないわよ!むしろさっさと告白しちゃいなさいよ!」
「そ、そそそ、そんなことできるわけないじゃないですか///!!」
スフィアに告白するように迫られたソシアは恥ずかしそうにしながら両手を前に出し全力で振った。
だがそんなソシアにスフィアは押せ押せな雰囲気を前面に出しながら迫っていったのだ。
「なんでよ!あなたたち相当いい感じに見えるわよ!告白したら絶対に成功するわよ!」
「無理です無理です!私とアレス君はただの友達ですし!!それに……」
「それに?」
「アレス君の近くには私よりもずっと素敵な人がいるから、きっと私が告白しても断られるに決まってます……」
スフィアから激しく告白を勧められたソシアだったのだが、恥ずかしい以外の告白を言い出せない理由を明かしたのだ。
「どういうことよ?それってソシアのお友達?」
「はい。違うクラスの人なんですけど……その人は私なんかよりもずっと綺麗で可愛いんです。だからきっとアレス君も私なんかよりもその人のことが好きなんだって……」
「何言ってんのよソシア!!あなただって十分可愛いでしょうが!!そんなこと言って告白する勇気が出せない現実から逃げてるだけでしょ!」
「それは……そうかもしれないですけど。その人と私じゃ決定的に違うことがあるんです」
「決定的に違うこと?」
「それは……その人は、アレス君が信頼できるくらい強いんです」
「……っ!」
ソシアが言うその人というのはもちろんティナのことである。
美しさと可愛さを併せ持ち、御三家の長女という身分もあるティナにソシアは恋愛面において劣等感を抱いていたのだ。
さらにそれ以上にソシアを悩ませていたティナとの圧倒的な違いがあった。
それは強さだったのだ。
「その人はアレス君が背中を任せられるくらい強いけど、私はアレス君に守られてばかり……。戦いで役に立てない私はアレス君とその人が信頼し合いながら戦う姿を後ろで見ていることしかできないから……」
「それがあなたが私に攻撃魔法を教わりたいと言ってきた本当の理由だったのね」
「……。はい……」
アレスが絶対に攻撃魔法を会得し戦えるようにならなければいけないと思った本当の理由。
それは戦場でアレスから信頼されながら戦うティナに追いつくため、アレスに守られるだけの存在で居たくなかったというものだったのだ。
ついに本心を曝け出したソシアは消え入りそうな声で頷いたのだった。
「お互いの強さを信頼しながら命すら預け合えるような2人の背中を見ていたら私なんかが絶対に勝てるわけがないって思って……それでせめて私も攻撃魔法でアレス君と一緒に戦えるようにならないといけないと思ったんです。そうじゃないと私はあの2人が親密な関係になっていくのを指をくわえてみていることしかできないんだって……」
「あなたの気持ちはよくわかったわ。でもだからこそ言わせてもらうわね。ソシア、あなたもう攻撃魔法を極めるのは諦めなさい」
「っ!!」
ソシアにとって、命がかかっている危険な現場で信頼し合えるアレスとティナの関係は輝いて見えたのだ。
だから自分はティナに勝てるわけがないと、焦ったソシアは自分でも戦えるようにならないといけないと考えたのだ。
しかしソシアの本心を聞いたスフィアは真剣な表情でソシアに攻撃魔法の修行をすることをやめろときっぱりと言い放ったのだ。
「ど、どうしてですか!?」
「好きになった人と一緒に戦えるように、守られるだけじゃ嫌だって言う気持ちは悪いことじゃないわ。でもはっきり言わせてもらうわ。ソシア、あなたの才能では彼が背中を預けられるだけの攻撃魔術師にはなれない」
「っ!!」
「自衛のためにある程度の攻撃魔法を覚えるって言うならもちろんとめはしないわ。むしろそれはいいことだと思う。でも彼と一緒に戦うってことになると話は別。普通の剣士なら剣で太刀打ちできない相手がいたときに魔法で援護してあげるっていうのは重要よ。でもアレス君が太刀打ちできない相手となるとそれはあなたじゃどうにもならない敵。結局あなたはいつまでも彼に守られる立場のまま。そんな無駄なことに貴重な時間を費やすなんて絶対に勧められないわ」
「そんな……私は……それじゃあ私は……」
「だからねソシア。あなたに必要なことは攻撃魔法を覚えることじゃないの。彼に足りないものを埋められる力を身につけなさい」
「え?」
恋愛感情のせいで自身の才能に見合わない目標を目指し迷走していたソシア。
スフィアはそんなソシアに容赦のない厳しい言葉でその考えを否定したのだ。
現実を叩きつけられ絶望に打ちひしがれるソシア。
しかしスフィアはソシアが本当に目指すべき目標を優しく提案したのだった。
「アレス君に……足りないもの?」
「彼が出来ないことって言い換えたほうが適切かもね。もしも彼が苦戦するような相手が現れた時、あなたがすべきことは中途半端な攻撃魔法で援護することじゃないわ。弱い相手なら完勝しちゃうから見失いがちだけど、彼が強敵と戦って傷ついた時には……」
「私がアレス君の傷を治さないと……」
「ふふっ、そうよ」
ソシアがアレスに匹敵するような攻撃魔術師になれるのなら何の問題もない。
ただ現実はそう上手くいくはずもなく、ソシアにはアレスと並べるだけの戦闘の才能がないのだ。
それなら戦闘以外のことでアレスに信頼してもらえるような力を身につければいい。
アレスがどれだけ強くなろうとも強敵が現れれば怪我をしてしまう。
そして負ってしまった怪我は剣の腕ではどうにもならないことで、必ず誰かを頼らないといけなくなるのだ。
「彼ほどの腕の持ち主が苦戦するとなればその戦いは苛烈なものになるでしょう。とんでもない傷を負うことだってあるはず。その時にどんな傷でも彼を治してあげられるよう、あなたは回復魔法を修業しないといけないのよ」
「でも……それでも、アレス君が苦戦するような相手なら私も戦えるようになって助けてあげたいって……」
「あら?彼の強さならどんな相手にでも必ず打ち勝ってくれる。そんな風に彼を信じてあげるのは難しいことかしら?」
「っ!!……そうか。そうですね。私はアレス君のことを信じてるから。どんな怪我をしても勝ってくれると信じて、その怪我を治してあげられるよう私が回復魔法の腕を磨かないといけないんだ」
「そうよ。人には必ず得手不得手がある。自分のできることを最大限伸ばして、他の誰かの苦手分野を補っていくのよ」
スフィアはそう言い終わると大きく伸びをして改めて露天風呂を堪能し始めたのだ。
そんな癒されて表情の緩んだスフィアに対して、ソシアは自身が目指すべき道を見つけられたことにやる気に満ち溢れたような表情をしていた。
これからは自分が出来ることでアレスの力になれるよう努力しよう。
そう決意を新たにしたソシアは気を引き締めるように自身の頬をぱんぱんと叩いたのだった。
露天風呂に癒されていたソシアに、隣に浸かっていたスフィアが不意にそんな質問をした。
ソシアは何故スフィアがそんな質問をするに至ったのかがまるで理解できずに戸惑いを隠せなかった。
「え?なんでそんなことを……そんな訳ないじゃないですか」
「どうして?」
「どうしてって……だって、それってつまりアレス君が私たちを騙しているんじゃないかってことですよね?アレス君がそんなことするなんてありえません」
スフィアの質問にソシアは真っ向からそれを否定した。
それを聞いたスフィアはじっとソシアの瞳をみつめる。
(ソシアには話しているんじゃないかなって思ったけど、どうやら本当に知らないようね)
ソシアにそんな質問をしたスフィアだったが、本当はすでにアレスがスキルを持っていると確信していた。
先のドズカベル山脈での戦い。
魔動兵器を使役していたあの男によってスフィアとアレスはスキルを封じられてしまったのだ。
その時スフィアは元からスキルを持たないアレスならスキルを封じられようが一切問題がないと思っていた。
だが実際はアレスは魔動兵器たちを相手に苦戦を強いられ命に届き得るような深手を負わされた。
(確かにあの時のアレス君もスキルがないにしては相当強かったとは思う。でもそれ以前に見た彼の動きと比べたら明らかに弱体化していた。それはつまり彼がスキルを隠し持っていたという証拠。でもなぜ?)
スフィアにはアレスがスキルを隠している理由がさっぱり理解できなかった。
普通に考えれば弱いスキルを持ちながら見栄を張るために上位のスキルを持っていると偽ることが一般的である。
だから強いスキルを持ちながら自分を弱く見せる理由がわからなかったのだ。
面倒ごとに巻き込まれたくないのならわざわざ冒険者など目指さなければいい。
弱いスキルで他者を圧倒する自分を演出したいという理由なら考えられるが、短いながらアレスと行動を共にしたスフィアにはアレスがそんなことを考える人間には思えなかったのだ。
「それにハズヴァルド学園に入学する前にスキルの鑑定を受けないといけないんです。アレス君がスキルを持っているならそこでバレちゃいますよ」
「……」
(スキル鑑定の儀を誤魔化す方法なんていくらでもある。仲のいいソシアにはスキルのことを話していると思ったけど……相当な事情があるのかしら)
「そうね。私が間違ってたわ。彼の出鱈目な強さを見て本当にスキルがないのかって思っちゃって」
「確かにアレス君はスキルがないなんて信じられないくらい強いですよ。でも私はそれが本当はスキルを持っているおかげかどうかなんてどうでもいいって思うんです」
「ふぅん。それはどうして?」
「だってアレス君はその力を正しいことのため……私たちのために使ってくれているから。もしアレス君が本当はスキルを持っていたとしても、それを話せない深い事情があるのなら私はそれ以上聞こうとしません。スキルがあろうがなかろうが、アレス君は私の大切な友達だから……」
(……そうね。彼が何か悪事を働いたり考えたりするような人間じゃないってことは私もわかっている。それなら無理に聞き出そうとするのは悪いわね。彼は私にとっても命の恩人なんだし)
「ふふっ、それだけ彼のことを信頼してるってことね。ソシアが彼を好きになったわけもわかった気がするわ」
「えっ///!?な、なな、何を言ってるんですか急に///!!」
アレスが隠し持っているスキルを知りたいとソシアに聞いたスフィアだったが、ソシアの考えを聞いてそれを探るのは野暮だとそれ以上の詮索をやめることにしたのだ。
アレスへの信頼を示したソシアに、スフィアはソシアがアレスを好きになった理由を垣間見た。
しかしスフィアが自身の恋心に気付いていたことを気化されたソシアは顔を真っ赤にして分かりやすく取り乱したのだった。
「え?だってそうでしょ?見てたらすぐにわかったわよ」
「え、ああ……そんな、嘘ですよね!?」
「多分オルも気付いてると思うなぁ。当の本人は一切気付いてなさそうだけど」
「オルティナ様にもバレちゃってるんですか!?はぁ~///……でもアレス君に気付かれてないなら何とかよかった……」
「よくないわよ!むしろさっさと告白しちゃいなさいよ!」
「そ、そそそ、そんなことできるわけないじゃないですか///!!」
スフィアに告白するように迫られたソシアは恥ずかしそうにしながら両手を前に出し全力で振った。
だがそんなソシアにスフィアは押せ押せな雰囲気を前面に出しながら迫っていったのだ。
「なんでよ!あなたたち相当いい感じに見えるわよ!告白したら絶対に成功するわよ!」
「無理です無理です!私とアレス君はただの友達ですし!!それに……」
「それに?」
「アレス君の近くには私よりもずっと素敵な人がいるから、きっと私が告白しても断られるに決まってます……」
スフィアから激しく告白を勧められたソシアだったのだが、恥ずかしい以外の告白を言い出せない理由を明かしたのだ。
「どういうことよ?それってソシアのお友達?」
「はい。違うクラスの人なんですけど……その人は私なんかよりもずっと綺麗で可愛いんです。だからきっとアレス君も私なんかよりもその人のことが好きなんだって……」
「何言ってんのよソシア!!あなただって十分可愛いでしょうが!!そんなこと言って告白する勇気が出せない現実から逃げてるだけでしょ!」
「それは……そうかもしれないですけど。その人と私じゃ決定的に違うことがあるんです」
「決定的に違うこと?」
「それは……その人は、アレス君が信頼できるくらい強いんです」
「……っ!」
ソシアが言うその人というのはもちろんティナのことである。
美しさと可愛さを併せ持ち、御三家の長女という身分もあるティナにソシアは恋愛面において劣等感を抱いていたのだ。
さらにそれ以上にソシアを悩ませていたティナとの圧倒的な違いがあった。
それは強さだったのだ。
「その人はアレス君が背中を任せられるくらい強いけど、私はアレス君に守られてばかり……。戦いで役に立てない私はアレス君とその人が信頼し合いながら戦う姿を後ろで見ていることしかできないから……」
「それがあなたが私に攻撃魔法を教わりたいと言ってきた本当の理由だったのね」
「……。はい……」
アレスが絶対に攻撃魔法を会得し戦えるようにならなければいけないと思った本当の理由。
それは戦場でアレスから信頼されながら戦うティナに追いつくため、アレスに守られるだけの存在で居たくなかったというものだったのだ。
ついに本心を曝け出したソシアは消え入りそうな声で頷いたのだった。
「お互いの強さを信頼しながら命すら預け合えるような2人の背中を見ていたら私なんかが絶対に勝てるわけがないって思って……それでせめて私も攻撃魔法でアレス君と一緒に戦えるようにならないといけないと思ったんです。そうじゃないと私はあの2人が親密な関係になっていくのを指をくわえてみていることしかできないんだって……」
「あなたの気持ちはよくわかったわ。でもだからこそ言わせてもらうわね。ソシア、あなたもう攻撃魔法を極めるのは諦めなさい」
「っ!!」
ソシアにとって、命がかかっている危険な現場で信頼し合えるアレスとティナの関係は輝いて見えたのだ。
だから自分はティナに勝てるわけがないと、焦ったソシアは自分でも戦えるようにならないといけないと考えたのだ。
しかしソシアの本心を聞いたスフィアは真剣な表情でソシアに攻撃魔法の修行をすることをやめろときっぱりと言い放ったのだ。
「ど、どうしてですか!?」
「好きになった人と一緒に戦えるように、守られるだけじゃ嫌だって言う気持ちは悪いことじゃないわ。でもはっきり言わせてもらうわ。ソシア、あなたの才能では彼が背中を預けられるだけの攻撃魔術師にはなれない」
「っ!!」
「自衛のためにある程度の攻撃魔法を覚えるって言うならもちろんとめはしないわ。むしろそれはいいことだと思う。でも彼と一緒に戦うってことになると話は別。普通の剣士なら剣で太刀打ちできない相手がいたときに魔法で援護してあげるっていうのは重要よ。でもアレス君が太刀打ちできない相手となるとそれはあなたじゃどうにもならない敵。結局あなたはいつまでも彼に守られる立場のまま。そんな無駄なことに貴重な時間を費やすなんて絶対に勧められないわ」
「そんな……私は……それじゃあ私は……」
「だからねソシア。あなたに必要なことは攻撃魔法を覚えることじゃないの。彼に足りないものを埋められる力を身につけなさい」
「え?」
恋愛感情のせいで自身の才能に見合わない目標を目指し迷走していたソシア。
スフィアはそんなソシアに容赦のない厳しい言葉でその考えを否定したのだ。
現実を叩きつけられ絶望に打ちひしがれるソシア。
しかしスフィアはソシアが本当に目指すべき目標を優しく提案したのだった。
「アレス君に……足りないもの?」
「彼が出来ないことって言い換えたほうが適切かもね。もしも彼が苦戦するような相手が現れた時、あなたがすべきことは中途半端な攻撃魔法で援護することじゃないわ。弱い相手なら完勝しちゃうから見失いがちだけど、彼が強敵と戦って傷ついた時には……」
「私がアレス君の傷を治さないと……」
「ふふっ、そうよ」
ソシアがアレスに匹敵するような攻撃魔術師になれるのなら何の問題もない。
ただ現実はそう上手くいくはずもなく、ソシアにはアレスと並べるだけの戦闘の才能がないのだ。
それなら戦闘以外のことでアレスに信頼してもらえるような力を身につければいい。
アレスがどれだけ強くなろうとも強敵が現れれば怪我をしてしまう。
そして負ってしまった怪我は剣の腕ではどうにもならないことで、必ず誰かを頼らないといけなくなるのだ。
「彼ほどの腕の持ち主が苦戦するとなればその戦いは苛烈なものになるでしょう。とんでもない傷を負うことだってあるはず。その時にどんな傷でも彼を治してあげられるよう、あなたは回復魔法を修業しないといけないのよ」
「でも……それでも、アレス君が苦戦するような相手なら私も戦えるようになって助けてあげたいって……」
「あら?彼の強さならどんな相手にでも必ず打ち勝ってくれる。そんな風に彼を信じてあげるのは難しいことかしら?」
「っ!!……そうか。そうですね。私はアレス君のことを信じてるから。どんな怪我をしても勝ってくれると信じて、その怪我を治してあげられるよう私が回復魔法の腕を磨かないといけないんだ」
「そうよ。人には必ず得手不得手がある。自分のできることを最大限伸ばして、他の誰かの苦手分野を補っていくのよ」
スフィアはそう言い終わると大きく伸びをして改めて露天風呂を堪能し始めたのだ。
そんな癒されて表情の緩んだスフィアに対して、ソシアは自身が目指すべき道を見つけられたことにやる気に満ち溢れたような表情をしていた。
これからは自分が出来ることでアレスの力になれるよう努力しよう。
そう決意を新たにしたソシアは気を引き締めるように自身の頬をぱんぱんと叩いたのだった。
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