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1章
恩返し
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戦いが終わり、ヴァルツェロイナの相手をしたアレスの元にはソシアたちが集まっていた。
王都が襲撃されるという重大な事件から始まったこの騒動が幕を閉じたとこに、全員が少なからず感じていた重圧感から解放されていた。
「あ、あの!皆さん本当に……ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
そんなアレスたちの元に祭壇の上で儀式を行っていたウェンとミルがやってきて深々と頭を下げたのだった。
ウェンは頭を下げたまま言葉を続ける。
「皆さんに儀式の準備を手伝ってもらい、散々守っていただいてヴァルツェロイナ様を鎮めることまでやってもらっちゃいました。僕たちだけでは何も成すことができませんでした……本当に……」
「ウェン君。実はさっき俺が戦っている最中、ヴァルツェロイナ様が頭の中に話しかけてきたんだ」
「えっ!?ヴァルツェロイナ様が!?」
「それであなた、戦ってる最中になんか喋ってたのね。ついに本格的にボケたのかと思ったわ」
「本格的って何ですか。そもそも俺はボケてませんし、なんでスフィア様俺に対して当たりが強いんですか?」
「知らないわ。ソシアに聞いてみたら?」
「ソシアなんで?」
「えっ!?私!?えっと……私もわかんないなぁ……」
「あの!ヴァルツェロイナ様が話しかけて来たって本当ですか!?」
「ああ、そうだ。それでヴァルツェロイナ様は、君たちの儀式のおかげで自我を取り戻すことが出来たって言ってたんだ。ヴァルツェロイナ様の助言のおかげで俺もヴァルツェロイナ様を救う方法を知ることができたから、君たちの儀式はヴァルツェロイナ様をお救いするためには必要不可欠だったよ。ウェン君もミルちゃんも、本当によく頑張った。君たちは役目を全うしたよ」
「そう……だったんですか。ありがとうございます。僕……お父さんとお母さんの代わりに頑張るって決めたのに、何もできなかったって思ってて……うわぁああん!」
「ひっぐ!うぇええん!」
ウェンとミルは、自分たちが何の役にも立てなかったと思いつめていたのだ。
そんな2人の思いを読み取ったアレスは2人の儀式のおかげでヴァルツェロイナ様を救う方法を知れたと2人の活躍を褒めたのだった。
その言葉に両親を亡くし、それでも自分たちの役割を全うするべく気丈に振舞い続けた2人はアレスの言葉に報われた気持ちとなり大きな声で泣きだしたのだ。
そうしてヴァルツェロイナを鎮めるための戦いは終わり、アレスたちは戦いでボロボロになった祭壇の元から去っていったのだ。
ウェンとミルはこれからも両親と暮らした家に残ることを決めた。
スフィアとオルティナがそのことをラージャの里の住民に伝え、兄妹のことを気遣ってあげるようにお願いを終えたのちにアレスたちも王都へと戻ることとなったのだ。
スフィアの飛行魔法の上で、アレスは事件が何とか収まったことにほっと胸をなでおろした。
こうしてまた平和な学園生活に戻れると思った……のだが、現実はそう甘くはなかったのだ。
「アレス!!お前連絡もなしに一体何をしてたんだ!!」
ヴァルツェロイナとの戦いから一夜明け、ハズヴァルド学園に登校したアレス。
しかしそこでとある問題に直面したのだった。
それは無断で学園を休み寮にも戻らなかったということ。
アレスは職員室で担任のレハート先生からきつくお叱りを受けることになってしまったのだ。
「すみません。ほんとにすみませんでした!!」
「お前なぁ、あんまり問題を起こすと進級が出来なくなるぞ」
「本当に反省しています。ですがこれには深い事情がありまして……」
「そりゃあるだろうよ。でもそれを事前に学園に報告することはできなかったのか?」
「えっと……たぶんできたと思います」
「じゃあダメじゃねえか。お前は集団生活をしてるんだぞ?ちゃんと規則を守らねえと痛い目を見るのはお前なんだぞ?」
「はい、もうほんとにおっしゃる通りでございます」
丸1日以上王都から離れていたアレス。
ソシアの方は事前にミルエスタ騎士団団長のスフィアと行動を共にすると連絡があったため何の問題もなかったが、当日ノリでラージャの里に行くことを決めたアレスは学園に無断で外出をしていたことになる。
実はレハート先生に怒られる前日には寮でその件でみっちり絞られており、アレスはやつれた状態でここへやって来ていたのだ。
「で?今度は何があったんだよお前」
「はい、実はですね……」
「アレス君!いるかしらぁ!?」
「え?スフィア様?」
しかしそんなアレスへの説教の最中、突如職員室の扉が開きそこへスフィアが姿を現したのだ。
突然のミルエスタ騎士団団長の登場に職員室は分かりやすくざわつきだす。
そんなスフィアの登場にもレハートはあまり驚いた様子は見せなかった。
「あら?先生、お久しぶりね。そっか!アレス君もソシアと同じクラスってことは先生の教え子だったわね」
「おう、元気にしてたか……って聞く必要もなさそうだな。今日は何しに来たんだ?」
(そっか。スフィア様ってレハート先生の教え子って話だったな。でも実際に目にすると驚きだな)
「実はこの前の黒狼王都襲撃事件の話でアレス君を借りたくてね。いいかしら?」
「そりゃあもちろん。ミルエスタ騎士団の団長様の命令なら断りようがないからな」
「やめてよそんな言い方!それと私も完全に忘れちゃってたけど、その事件で必要だったからミルエスタ騎士団の正式な要望でアレス君を数日預かることにしたの」
「なるほど。それでこいつは無断で学園を休んだってわけか」
「それじゃあこの件は許されるってことですか?」
「調子に乗るなよ?強大な権力で無理矢理セーフにしただけでお前は反省しないといけないんだからな?」
「はい。本当に心の底から反省しております」
完全にスフィアに救われる形となったアレスは、そのまま例の事件に関することでミルエスタ騎士団に行くことになったのだ。
職員室を出て中庭に向かうと、そこには早くも見慣れたペンゲン型の飛行魔法とソシアの姿があった。
「アレス君!大丈夫だった?」
「ああ。なんとかな。スフィア様に救われたよ」
「それじゃあ2人とも、早速行くわよ」
「ミルエスタ騎士団本部ですか?俺行くの初めてなんだよな」
「とってもすごい建物なんだよ!私も初めて行ったときは建物の中で迷子になるかと思っちゃった」
「何言ってるの2人とも。これから行くのはミルエスタ騎士団本部じゃなくてダーバルド騎士団の本部よ」
「へ?」
「え?」
スフィアに呼ばれたということで、ミルエスタ騎士団の本部がどんな建物かと興味をそそられるアレス。
しかしスフィアが口にした目的地というのは2人が想定もしていなかったところだったのだ。
ダーバルド騎士団の本部。
ミルエスタ騎士団の団長であるスフィアが居る中そんな場所に行こうとすれば問題が起きるのは明白で……
「なんじゃぁ!?なんでミルエスタ騎士団の団長様がダーバルド騎士団の本部なんかに来やがるんだ!?」
「カチコミかぁ!?たった3人で来るなんて良い度胸じゃねえか!!」
「なんでこんなところに来たんですかスフィア様!!」
ほぼ敵対関係にあると言っていい程関係が最悪なミルエスタ騎士団とダーバルド騎士団。
そんな状況でミルエスタ騎士団の団長であるスフィアが相手の騎士団本部へ行くなど争うに発展してもおかしくないことだった。
「すすす、スフィア様!?事前に行くってちゃんと話してたんですか!?」
「おっかしいわね。オルがちゃんと伝えてたと思うんだけど……」
「いやぁ、すまんすまん!皆には今日ミルエスタ騎士団の団長が訪ねてくると伝え忘れていたよ」
「あっ、噂をすれば何とやらね」
「皆、彼女たちは俺が呼んだんだ!だからそう殺気立ってくれるな!」
いつ襲われてもおかしくないような最悪な空気の中、ダーバルド騎士団本部の入り口から団長であるオルティナが姿を現したのだ。
オルティナはスフィアたちが招かれた客人であることを大きな声で伝えたが、それで納得するほど2つの騎士団の関係は良くない。
「団長殿!!なぜミルエスタ騎士団の人間を呼んだんです!?」
「そうです!!あんな奴らを我らダーバルド騎士団の敷地に入れるなど考えられません」
「俺とスフィアは先日王都を襲った魔物の件で重要な話をするのだ。エメルキア王国のためなのだ、ダーバルド騎士団もミルエスタ騎士団も関係なかろう!」
「しかし団長!こんなことダーバルド家の皆様が黙っちゃいませんよ!」
「なるほど!それは確かにその通りだな!だがな……それで国民の皆様に迷惑をかけるな。お前らの仕事はミルエスタ騎士団と戦争することなのか?」
「っ!!」
「いえ……それは……」
「とにかく!ミルエスタ騎士団も同じエメルキア王国を守る同士なのだ!ならば敵対など無意味!3人は歓迎させてもらう!」
対立の長い歴史が染みついてしまっている他の団員たちはオルティナがスフィア達を招き入れることに抗議の声を上げる。
しかしそんな団員たちにオルティナは普段の笑った表情ではなく冷たい無表情で強烈な圧を浴びせかけたのだ。
そんなオルティナのプレッシャーに屈した団員たちはそれ以上反論の声を上げることが出来なかった。
そんなことでアレスたちは何とかダーバルド騎士団本部の敷地に入ることが出来たのだった。
「はぁ~……ドキドキしたぁ……」
「本当ですよ。トラブルになるってわかっててなんでこんなところで話をすることにしたんですか?」
ダーバルド騎士団本部の応接間にて、アレスとソシアは先程の一触即発の緊張状態から解放されたことにより疲れた表情を見せていた。
そんなアレスたちにオルティナは席に座り話を始める。
「あまり外部に聞かれるのはまずいと考えたからな!セキュリティ面からどちらかの騎士団の建物で話をしようということになったんだ!」
「でもオル、なんで先に私たちが来ることを伝えてくれなかったのよ」
「先に話せばダーバルド家に話が伝わって面倒なことになると思ったからな!」
「まあ、私もミルエスタ家に知られたら面倒だってここに来ることは伝えてなかったから強くは言えないけど」
「それともう1つの理由は、アレス君。君のいう通り国のためを思うなら2つの騎士団は対立すべきではないと考えたからだ」
「っ!」
アレスのなぜこの場所を選んだのかという質問に、オルティナはアレスの顔を見て穏やかな口調でそう答えたのだ。
その表情はどこか申し訳なさそうな雰囲気を纏っており、今まで2つの騎士団の対立を放置してしまっていたことに対するオルティナの反省の気持ちをアレスは感じ取っていた。
「本当はあんなことを君に指摘される前に言えればよかったんだがな。自分ではどうしようもないことだと変えようと努力すらしなかった」
「……ですけど、ダーバルド家の人たちと揉めたりしませんかね?」
「するだろうな!最悪団長をクビになるかもしれん!だが俺もやれることはやってみるつもりだ!もしそれでだめならその時また考えよう!」
「ええ、私もオルにその話を聞いて決断したわ。もうこんな不毛な争いはやめましょうって」
「そうだったんですか……俺は責任がないからそんなことを言えたんです。それをその立場で実行しようって思えるお二人は本当に凄いと思います」
「何とか2つの騎士団が仲直りできればいいですね」
「ああ!全力を尽くしてみるよ!」
「そんな事よりも本題に入りましょう。2人にいつまでも時間を取らせるわけにはいかないし」
「ああ、そうか。何か俺たちに話があって呼んだんですよね?」
スフィアによって話は本題へと移り、アレスの問いにオルティナとスフィアは頷いてみせた。
「昨日までの出来事、実はまだ王国軍には報告していないんだ」
「それで報告内容をまとめていたんだけど、そこで2人のことは伏せようかなってことになったの」
スフィアたちがアレスたちに話したかったのは昨日までの事件の後始末に関すること。
報告を今日中にまとめて王国軍に提出しようとしていたスフィアとオルティナだったのだが、そこでアレスとソシアのことは秘密にしたいと言ってきたのだ。
「一応、まずは理由を聞かせてください」
「今回の一件、まず間違いなくタムザリア王国が関与している。証拠はないため口外は出来ないがな」
「それでタムザリア王国とうちってずっと戦争してるでしょ?それに学生であるあなた達を巻き込みたくなくて、名前を出すことで2人が狙われたりするリスクを無くすために2人のことは伝えないようにしようかなって考えたの」
「えっと……それは私たちにとってもありがたいことだと思うんですけど……なぜわざわざ私たちを呼び出して確認を?」
「だってあの英雄ラーミア様の使い魔であるヴァルツェロイナ様を鎮めたなんて、凄い功績でしょ?それなのにそれを伏せたらあなた達が本来受けられるはずの評価が受けられなくなっちゃうじゃない」
「だから選択肢はないかもしれないが、事前に君たちに確認しておくのが筋だと思ってな。どうだ、納得してくれるか?」
スフィアとオルティナの話を聞いた2人は思ってもみなかった内容に少しあっけに取られてしまったのだ。
騎士団本部に呼ばれるとなればどんな重要な話なのかと身構えてしまっていた。
しかし蓋を開けてみれば自分たちの安全と評価を気遣ってくれたというだけの話で、名誉や対価など望んでいなかった2人にとっては深刻な話ではなかったのだ。
「納得もなにも、俺たちのことを心配してくれて感謝しかありませんよ」
「そうだね。そんなことあんまり考えてなかったから」
「ふふっ、2人なら名誉とか対価とか気にしないだろうと思ってたから安心しちゃったわ」
「ああ!とても素晴らしいことだ!だがそれでも君たちの働きが評価されるべきだということは変わりない!」
「2人は冒険者志望って聞いてたけどもし騎士団に興味があるなら私たちが推薦してあげる。何か困ったことがあれば遠慮なく相談してもらって構わないし、欲しいものなんかがあれば遠慮なく言ってちょうだい」
「そんな!スフィア様とオルティナ様には本当にいろいろとお世話になりましたし、これ以上何か望むものなんてないです!」
「俺も同じです。自分がやるべきことだと思ってやったことなので、報酬はいらないです」
「2人とも謙虚なのね。でも社会に出たら働きに相応しい報酬を貰うこともとっても大事なことなのよ?」
「そ、そうですか?でも私は別に欲しいものとか無いし……」
「……。あの、ちょっと図々しいかもしれないですけど、1ついいですか?」
「なんだ!?ヴァルツェロイナ様を救えたのは君のおかげだと思ってるからな!遠慮なく言ってくれ!」
「実は……」
後日、場所は変わり王都から離れた森の中。
「シスター!!」
「あら?どうしたの?」
「空にでっかい何かが飛んでるのー!」
ここはアレスが暮らしていたモルネ教会。
そこでは今日も教会で暮らす孤児たちのためにシスター・ナタリーが忙しそうに働いていたのだった。
そんなナタリーが教会の外で子供たちの洗濯物を干している時、走ってきた子供たちから空から何かが接近してきたことを知らされたのだ。
ドシィイイイイン!!
「まさか魔物!!みんな早く建物の中へ……」
「ハロー!モルネ教会のみなさーん!」
「っ!?人……?」
やってきたのはペンゲン型の飛行魔法で飛んできたスフィア。
ペンゲンの背には何やら巨大な荷物が積まれており、教会横の空き地に着陸したスフィアは笑顔で子供たちの前に降り立ったのだ。
「初めまして!私はミルエスタ騎士団の団長のスフィア・ラスケラです!あなたがシスター・ナタリーさんね?」
「ミルエスタ騎士団!?なんでそんなお方がこんな辺境の教会に……」
「わぁー!なにこれ!お水?」
「ブヨブヨしてるー!おもしれー!」
「み、皆!?あまり騒いじゃダメよ!」
「大丈夫よ!みんな元気があっていいじゃない!アレス君の言った通り皆良い子そうね」
「アレス?もしかしてアレスの身に何かが起きたんですか!?」
「んー、私がいきなり来ちゃったせいで変な誤解を与えちゃってるようね。安心して、彼は無事よ。元気にしてるわ」
「それはよかった……それでは、スフィア様は一体なぜこのようなところに?」
「そのアレス君に頼まれてね。これを届けに来たの」
スフィアはそう言って指を鳴らすと、ペンゲンの形が変形して背負っていた荷物をナタリーの近くに降ろしたのだ。
派手な魔法に周囲に居た子供たちは大盛り上がり。
まだ少し戸惑っていたナタリーに、スフィアは笑顔で荷物の蓋を開けたのだった。
「これは……大量の食糧!?」
「そうよ。これは私とオル……じゃなくて、ダーバルド騎士団団長のオルティナ・ディラン個人からの贈り物よ。1回だけじゃなくてこれから定期的に届けさせてもらうわ」
「とてもありがたい贈り物ですが……いったいなぜこんなに大量の食糧を?」
「それが彼の……アレス君の願いだったからよ」
シスターの疑問は当然なもの。
その疑問を聞いたスフィアは柔らかな笑みを浮かべると、食糧寄付に至った経緯を話し始めたのだ。
『なんだ!?ヴァルツェロイナ様を救えたのは君のおかげだと思ってるからな!遠慮なく言ってくれ!』
それはスフィアがモルネ教会にやってきた前日、ダーバルド騎士団本部でアレスがスフィア達にとあるお願いをしていたのだった。
『実は……俺が育ったモルネ教会に、食糧を送ってあげたいんです』
『ほう!』
『そのモルネ教会って言うのは貧民地域にある教会で、孤児院も兼ねているからたくさんの子供がいるんですが俺が居た頃からその教会はずっと貧しくて。俺を拾ってくれた恩人のシスターは毎日子供たちに食べさせるご飯のことで悩んでいたんです』
『なるほど。それで悩まなくていいくらいの食糧をあげたいってわけね』
『アレス君……』
『素晴らしい!!自身の働きの報酬で人のための願いができるなんて!!もちろんその願い叶えよう!!』
『アレス君、あなたの恩人のお名前を教えてもらってもいいかしら?』
『はい。シスター・ナタリーです』
『OK!ナタリーさんに、私とオルティナが責任をもって食料の提供をさせてもらうわ』
『図々しいかもしれないと言ったからどんな願いが飛び出るかと思ったが、むしろ感心した!!モルネ教会への食糧寄付は俺たちが生きている限り責任をもって行わせてもらう!!子供たちがひもじい思いをしていると知った以上見捨てることなどできんからな!』
『いえ!それはありがたい話ですけど、食糧寄付の期限は俺が卒業するまでで大丈夫です』
『あら?それはまたどうして?』
『だって……』
「彼、『シスターへの恩返しは自分でしたいから。自分が卒業したら稼いだお金でシスターに楽な暮らしをさせてあげたいんです』って言ってたわよ」
「そっか……アレスがそんなことを……」
「彼は自分の力を人のために使える素敵な人ね。きっと育った環境が良かったんだわ」
「この教会の皆は貧しくても優しい子供たちばかりですから。みんな私の誇りです」
「ねえシスター!このごはん食べていいの―!」
「私お腹ペコペコ!早く食べたいー!」
「そうね。スフィア様に、オルティナ様にも改めて感謝いたします。私たちに恵みを下さりありがとうございます」
「私たちじゃないわ!その言葉はアレスに伝えておくわね」
アレスの願い通り、貧しいモルネ教会にはスフィアとオルティナから十分な食料が届けられるようになったのだ。
そして時は遡り教会に食料が届けられた前日。
ダーバルド騎士団本部での話し合いを終えたアレスとソシアはスフィアの飛行魔法で学園へと送り届けられていた。
(正しいことに力を使えて、人のことを想える優しい心を持っている。確かにソシアが惚れるのも無理はないわね。あとは……)
「アレス君は本当に優しいね」
「え?いや当然のことだよ。それだけシスターにはお世話になったからな。スフィア様とオルティナ様には感謝しています」
「任せてちょうだい!明日にも食料を届けさせてもらうわ!」
(アレス君、本当に凄いな。強くて、かっこよくて、凄く優しくて……そんなアレス君だから私はあなたのことが……)
「ん、どうしたソシア?なんだか顔が赤いぞ。どうかしたか?」
「えっ!?な、なんでもないよ!」
(その鈍感ささえなんとかしてくれれば完璧なんだけどねぇ)
アレスの力と心に感心させられたスフィア。
あとは自身に向けられた好意に気付けるようになって欲しいなと、アレスとソシアのやり取りを見ながら思うのであった。
王都が襲撃されるという重大な事件から始まったこの騒動が幕を閉じたとこに、全員が少なからず感じていた重圧感から解放されていた。
「あ、あの!皆さん本当に……ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
そんなアレスたちの元に祭壇の上で儀式を行っていたウェンとミルがやってきて深々と頭を下げたのだった。
ウェンは頭を下げたまま言葉を続ける。
「皆さんに儀式の準備を手伝ってもらい、散々守っていただいてヴァルツェロイナ様を鎮めることまでやってもらっちゃいました。僕たちだけでは何も成すことができませんでした……本当に……」
「ウェン君。実はさっき俺が戦っている最中、ヴァルツェロイナ様が頭の中に話しかけてきたんだ」
「えっ!?ヴァルツェロイナ様が!?」
「それであなた、戦ってる最中になんか喋ってたのね。ついに本格的にボケたのかと思ったわ」
「本格的って何ですか。そもそも俺はボケてませんし、なんでスフィア様俺に対して当たりが強いんですか?」
「知らないわ。ソシアに聞いてみたら?」
「ソシアなんで?」
「えっ!?私!?えっと……私もわかんないなぁ……」
「あの!ヴァルツェロイナ様が話しかけて来たって本当ですか!?」
「ああ、そうだ。それでヴァルツェロイナ様は、君たちの儀式のおかげで自我を取り戻すことが出来たって言ってたんだ。ヴァルツェロイナ様の助言のおかげで俺もヴァルツェロイナ様を救う方法を知ることができたから、君たちの儀式はヴァルツェロイナ様をお救いするためには必要不可欠だったよ。ウェン君もミルちゃんも、本当によく頑張った。君たちは役目を全うしたよ」
「そう……だったんですか。ありがとうございます。僕……お父さんとお母さんの代わりに頑張るって決めたのに、何もできなかったって思ってて……うわぁああん!」
「ひっぐ!うぇええん!」
ウェンとミルは、自分たちが何の役にも立てなかったと思いつめていたのだ。
そんな2人の思いを読み取ったアレスは2人の儀式のおかげでヴァルツェロイナ様を救う方法を知れたと2人の活躍を褒めたのだった。
その言葉に両親を亡くし、それでも自分たちの役割を全うするべく気丈に振舞い続けた2人はアレスの言葉に報われた気持ちとなり大きな声で泣きだしたのだ。
そうしてヴァルツェロイナを鎮めるための戦いは終わり、アレスたちは戦いでボロボロになった祭壇の元から去っていったのだ。
ウェンとミルはこれからも両親と暮らした家に残ることを決めた。
スフィアとオルティナがそのことをラージャの里の住民に伝え、兄妹のことを気遣ってあげるようにお願いを終えたのちにアレスたちも王都へと戻ることとなったのだ。
スフィアの飛行魔法の上で、アレスは事件が何とか収まったことにほっと胸をなでおろした。
こうしてまた平和な学園生活に戻れると思った……のだが、現実はそう甘くはなかったのだ。
「アレス!!お前連絡もなしに一体何をしてたんだ!!」
ヴァルツェロイナとの戦いから一夜明け、ハズヴァルド学園に登校したアレス。
しかしそこでとある問題に直面したのだった。
それは無断で学園を休み寮にも戻らなかったということ。
アレスは職員室で担任のレハート先生からきつくお叱りを受けることになってしまったのだ。
「すみません。ほんとにすみませんでした!!」
「お前なぁ、あんまり問題を起こすと進級が出来なくなるぞ」
「本当に反省しています。ですがこれには深い事情がありまして……」
「そりゃあるだろうよ。でもそれを事前に学園に報告することはできなかったのか?」
「えっと……たぶんできたと思います」
「じゃあダメじゃねえか。お前は集団生活をしてるんだぞ?ちゃんと規則を守らねえと痛い目を見るのはお前なんだぞ?」
「はい、もうほんとにおっしゃる通りでございます」
丸1日以上王都から離れていたアレス。
ソシアの方は事前にミルエスタ騎士団団長のスフィアと行動を共にすると連絡があったため何の問題もなかったが、当日ノリでラージャの里に行くことを決めたアレスは学園に無断で外出をしていたことになる。
実はレハート先生に怒られる前日には寮でその件でみっちり絞られており、アレスはやつれた状態でここへやって来ていたのだ。
「で?今度は何があったんだよお前」
「はい、実はですね……」
「アレス君!いるかしらぁ!?」
「え?スフィア様?」
しかしそんなアレスへの説教の最中、突如職員室の扉が開きそこへスフィアが姿を現したのだ。
突然のミルエスタ騎士団団長の登場に職員室は分かりやすくざわつきだす。
そんなスフィアの登場にもレハートはあまり驚いた様子は見せなかった。
「あら?先生、お久しぶりね。そっか!アレス君もソシアと同じクラスってことは先生の教え子だったわね」
「おう、元気にしてたか……って聞く必要もなさそうだな。今日は何しに来たんだ?」
(そっか。スフィア様ってレハート先生の教え子って話だったな。でも実際に目にすると驚きだな)
「実はこの前の黒狼王都襲撃事件の話でアレス君を借りたくてね。いいかしら?」
「そりゃあもちろん。ミルエスタ騎士団の団長様の命令なら断りようがないからな」
「やめてよそんな言い方!それと私も完全に忘れちゃってたけど、その事件で必要だったからミルエスタ騎士団の正式な要望でアレス君を数日預かることにしたの」
「なるほど。それでこいつは無断で学園を休んだってわけか」
「それじゃあこの件は許されるってことですか?」
「調子に乗るなよ?強大な権力で無理矢理セーフにしただけでお前は反省しないといけないんだからな?」
「はい。本当に心の底から反省しております」
完全にスフィアに救われる形となったアレスは、そのまま例の事件に関することでミルエスタ騎士団に行くことになったのだ。
職員室を出て中庭に向かうと、そこには早くも見慣れたペンゲン型の飛行魔法とソシアの姿があった。
「アレス君!大丈夫だった?」
「ああ。なんとかな。スフィア様に救われたよ」
「それじゃあ2人とも、早速行くわよ」
「ミルエスタ騎士団本部ですか?俺行くの初めてなんだよな」
「とってもすごい建物なんだよ!私も初めて行ったときは建物の中で迷子になるかと思っちゃった」
「何言ってるの2人とも。これから行くのはミルエスタ騎士団本部じゃなくてダーバルド騎士団の本部よ」
「へ?」
「え?」
スフィアに呼ばれたということで、ミルエスタ騎士団の本部がどんな建物かと興味をそそられるアレス。
しかしスフィアが口にした目的地というのは2人が想定もしていなかったところだったのだ。
ダーバルド騎士団の本部。
ミルエスタ騎士団の団長であるスフィアが居る中そんな場所に行こうとすれば問題が起きるのは明白で……
「なんじゃぁ!?なんでミルエスタ騎士団の団長様がダーバルド騎士団の本部なんかに来やがるんだ!?」
「カチコミかぁ!?たった3人で来るなんて良い度胸じゃねえか!!」
「なんでこんなところに来たんですかスフィア様!!」
ほぼ敵対関係にあると言っていい程関係が最悪なミルエスタ騎士団とダーバルド騎士団。
そんな状況でミルエスタ騎士団の団長であるスフィアが相手の騎士団本部へ行くなど争うに発展してもおかしくないことだった。
「すすす、スフィア様!?事前に行くってちゃんと話してたんですか!?」
「おっかしいわね。オルがちゃんと伝えてたと思うんだけど……」
「いやぁ、すまんすまん!皆には今日ミルエスタ騎士団の団長が訪ねてくると伝え忘れていたよ」
「あっ、噂をすれば何とやらね」
「皆、彼女たちは俺が呼んだんだ!だからそう殺気立ってくれるな!」
いつ襲われてもおかしくないような最悪な空気の中、ダーバルド騎士団本部の入り口から団長であるオルティナが姿を現したのだ。
オルティナはスフィアたちが招かれた客人であることを大きな声で伝えたが、それで納得するほど2つの騎士団の関係は良くない。
「団長殿!!なぜミルエスタ騎士団の人間を呼んだんです!?」
「そうです!!あんな奴らを我らダーバルド騎士団の敷地に入れるなど考えられません」
「俺とスフィアは先日王都を襲った魔物の件で重要な話をするのだ。エメルキア王国のためなのだ、ダーバルド騎士団もミルエスタ騎士団も関係なかろう!」
「しかし団長!こんなことダーバルド家の皆様が黙っちゃいませんよ!」
「なるほど!それは確かにその通りだな!だがな……それで国民の皆様に迷惑をかけるな。お前らの仕事はミルエスタ騎士団と戦争することなのか?」
「っ!!」
「いえ……それは……」
「とにかく!ミルエスタ騎士団も同じエメルキア王国を守る同士なのだ!ならば敵対など無意味!3人は歓迎させてもらう!」
対立の長い歴史が染みついてしまっている他の団員たちはオルティナがスフィア達を招き入れることに抗議の声を上げる。
しかしそんな団員たちにオルティナは普段の笑った表情ではなく冷たい無表情で強烈な圧を浴びせかけたのだ。
そんなオルティナのプレッシャーに屈した団員たちはそれ以上反論の声を上げることが出来なかった。
そんなことでアレスたちは何とかダーバルド騎士団本部の敷地に入ることが出来たのだった。
「はぁ~……ドキドキしたぁ……」
「本当ですよ。トラブルになるってわかっててなんでこんなところで話をすることにしたんですか?」
ダーバルド騎士団本部の応接間にて、アレスとソシアは先程の一触即発の緊張状態から解放されたことにより疲れた表情を見せていた。
そんなアレスたちにオルティナは席に座り話を始める。
「あまり外部に聞かれるのはまずいと考えたからな!セキュリティ面からどちらかの騎士団の建物で話をしようということになったんだ!」
「でもオル、なんで先に私たちが来ることを伝えてくれなかったのよ」
「先に話せばダーバルド家に話が伝わって面倒なことになると思ったからな!」
「まあ、私もミルエスタ家に知られたら面倒だってここに来ることは伝えてなかったから強くは言えないけど」
「それともう1つの理由は、アレス君。君のいう通り国のためを思うなら2つの騎士団は対立すべきではないと考えたからだ」
「っ!」
アレスのなぜこの場所を選んだのかという質問に、オルティナはアレスの顔を見て穏やかな口調でそう答えたのだ。
その表情はどこか申し訳なさそうな雰囲気を纏っており、今まで2つの騎士団の対立を放置してしまっていたことに対するオルティナの反省の気持ちをアレスは感じ取っていた。
「本当はあんなことを君に指摘される前に言えればよかったんだがな。自分ではどうしようもないことだと変えようと努力すらしなかった」
「……ですけど、ダーバルド家の人たちと揉めたりしませんかね?」
「するだろうな!最悪団長をクビになるかもしれん!だが俺もやれることはやってみるつもりだ!もしそれでだめならその時また考えよう!」
「ええ、私もオルにその話を聞いて決断したわ。もうこんな不毛な争いはやめましょうって」
「そうだったんですか……俺は責任がないからそんなことを言えたんです。それをその立場で実行しようって思えるお二人は本当に凄いと思います」
「何とか2つの騎士団が仲直りできればいいですね」
「ああ!全力を尽くしてみるよ!」
「そんな事よりも本題に入りましょう。2人にいつまでも時間を取らせるわけにはいかないし」
「ああ、そうか。何か俺たちに話があって呼んだんですよね?」
スフィアによって話は本題へと移り、アレスの問いにオルティナとスフィアは頷いてみせた。
「昨日までの出来事、実はまだ王国軍には報告していないんだ」
「それで報告内容をまとめていたんだけど、そこで2人のことは伏せようかなってことになったの」
スフィアたちがアレスたちに話したかったのは昨日までの事件の後始末に関すること。
報告を今日中にまとめて王国軍に提出しようとしていたスフィアとオルティナだったのだが、そこでアレスとソシアのことは秘密にしたいと言ってきたのだ。
「一応、まずは理由を聞かせてください」
「今回の一件、まず間違いなくタムザリア王国が関与している。証拠はないため口外は出来ないがな」
「それでタムザリア王国とうちってずっと戦争してるでしょ?それに学生であるあなた達を巻き込みたくなくて、名前を出すことで2人が狙われたりするリスクを無くすために2人のことは伝えないようにしようかなって考えたの」
「えっと……それは私たちにとってもありがたいことだと思うんですけど……なぜわざわざ私たちを呼び出して確認を?」
「だってあの英雄ラーミア様の使い魔であるヴァルツェロイナ様を鎮めたなんて、凄い功績でしょ?それなのにそれを伏せたらあなた達が本来受けられるはずの評価が受けられなくなっちゃうじゃない」
「だから選択肢はないかもしれないが、事前に君たちに確認しておくのが筋だと思ってな。どうだ、納得してくれるか?」
スフィアとオルティナの話を聞いた2人は思ってもみなかった内容に少しあっけに取られてしまったのだ。
騎士団本部に呼ばれるとなればどんな重要な話なのかと身構えてしまっていた。
しかし蓋を開けてみれば自分たちの安全と評価を気遣ってくれたというだけの話で、名誉や対価など望んでいなかった2人にとっては深刻な話ではなかったのだ。
「納得もなにも、俺たちのことを心配してくれて感謝しかありませんよ」
「そうだね。そんなことあんまり考えてなかったから」
「ふふっ、2人なら名誉とか対価とか気にしないだろうと思ってたから安心しちゃったわ」
「ああ!とても素晴らしいことだ!だがそれでも君たちの働きが評価されるべきだということは変わりない!」
「2人は冒険者志望って聞いてたけどもし騎士団に興味があるなら私たちが推薦してあげる。何か困ったことがあれば遠慮なく相談してもらって構わないし、欲しいものなんかがあれば遠慮なく言ってちょうだい」
「そんな!スフィア様とオルティナ様には本当にいろいろとお世話になりましたし、これ以上何か望むものなんてないです!」
「俺も同じです。自分がやるべきことだと思ってやったことなので、報酬はいらないです」
「2人とも謙虚なのね。でも社会に出たら働きに相応しい報酬を貰うこともとっても大事なことなのよ?」
「そ、そうですか?でも私は別に欲しいものとか無いし……」
「……。あの、ちょっと図々しいかもしれないですけど、1ついいですか?」
「なんだ!?ヴァルツェロイナ様を救えたのは君のおかげだと思ってるからな!遠慮なく言ってくれ!」
「実は……」
後日、場所は変わり王都から離れた森の中。
「シスター!!」
「あら?どうしたの?」
「空にでっかい何かが飛んでるのー!」
ここはアレスが暮らしていたモルネ教会。
そこでは今日も教会で暮らす孤児たちのためにシスター・ナタリーが忙しそうに働いていたのだった。
そんなナタリーが教会の外で子供たちの洗濯物を干している時、走ってきた子供たちから空から何かが接近してきたことを知らされたのだ。
ドシィイイイイン!!
「まさか魔物!!みんな早く建物の中へ……」
「ハロー!モルネ教会のみなさーん!」
「っ!?人……?」
やってきたのはペンゲン型の飛行魔法で飛んできたスフィア。
ペンゲンの背には何やら巨大な荷物が積まれており、教会横の空き地に着陸したスフィアは笑顔で子供たちの前に降り立ったのだ。
「初めまして!私はミルエスタ騎士団の団長のスフィア・ラスケラです!あなたがシスター・ナタリーさんね?」
「ミルエスタ騎士団!?なんでそんなお方がこんな辺境の教会に……」
「わぁー!なにこれ!お水?」
「ブヨブヨしてるー!おもしれー!」
「み、皆!?あまり騒いじゃダメよ!」
「大丈夫よ!みんな元気があっていいじゃない!アレス君の言った通り皆良い子そうね」
「アレス?もしかしてアレスの身に何かが起きたんですか!?」
「んー、私がいきなり来ちゃったせいで変な誤解を与えちゃってるようね。安心して、彼は無事よ。元気にしてるわ」
「それはよかった……それでは、スフィア様は一体なぜこのようなところに?」
「そのアレス君に頼まれてね。これを届けに来たの」
スフィアはそう言って指を鳴らすと、ペンゲンの形が変形して背負っていた荷物をナタリーの近くに降ろしたのだ。
派手な魔法に周囲に居た子供たちは大盛り上がり。
まだ少し戸惑っていたナタリーに、スフィアは笑顔で荷物の蓋を開けたのだった。
「これは……大量の食糧!?」
「そうよ。これは私とオル……じゃなくて、ダーバルド騎士団団長のオルティナ・ディラン個人からの贈り物よ。1回だけじゃなくてこれから定期的に届けさせてもらうわ」
「とてもありがたい贈り物ですが……いったいなぜこんなに大量の食糧を?」
「それが彼の……アレス君の願いだったからよ」
シスターの疑問は当然なもの。
その疑問を聞いたスフィアは柔らかな笑みを浮かべると、食糧寄付に至った経緯を話し始めたのだ。
『なんだ!?ヴァルツェロイナ様を救えたのは君のおかげだと思ってるからな!遠慮なく言ってくれ!』
それはスフィアがモルネ教会にやってきた前日、ダーバルド騎士団本部でアレスがスフィア達にとあるお願いをしていたのだった。
『実は……俺が育ったモルネ教会に、食糧を送ってあげたいんです』
『ほう!』
『そのモルネ教会って言うのは貧民地域にある教会で、孤児院も兼ねているからたくさんの子供がいるんですが俺が居た頃からその教会はずっと貧しくて。俺を拾ってくれた恩人のシスターは毎日子供たちに食べさせるご飯のことで悩んでいたんです』
『なるほど。それで悩まなくていいくらいの食糧をあげたいってわけね』
『アレス君……』
『素晴らしい!!自身の働きの報酬で人のための願いができるなんて!!もちろんその願い叶えよう!!』
『アレス君、あなたの恩人のお名前を教えてもらってもいいかしら?』
『はい。シスター・ナタリーです』
『OK!ナタリーさんに、私とオルティナが責任をもって食料の提供をさせてもらうわ』
『図々しいかもしれないと言ったからどんな願いが飛び出るかと思ったが、むしろ感心した!!モルネ教会への食糧寄付は俺たちが生きている限り責任をもって行わせてもらう!!子供たちがひもじい思いをしていると知った以上見捨てることなどできんからな!』
『いえ!それはありがたい話ですけど、食糧寄付の期限は俺が卒業するまでで大丈夫です』
『あら?それはまたどうして?』
『だって……』
「彼、『シスターへの恩返しは自分でしたいから。自分が卒業したら稼いだお金でシスターに楽な暮らしをさせてあげたいんです』って言ってたわよ」
「そっか……アレスがそんなことを……」
「彼は自分の力を人のために使える素敵な人ね。きっと育った環境が良かったんだわ」
「この教会の皆は貧しくても優しい子供たちばかりですから。みんな私の誇りです」
「ねえシスター!このごはん食べていいの―!」
「私お腹ペコペコ!早く食べたいー!」
「そうね。スフィア様に、オルティナ様にも改めて感謝いたします。私たちに恵みを下さりありがとうございます」
「私たちじゃないわ!その言葉はアレスに伝えておくわね」
アレスの願い通り、貧しいモルネ教会にはスフィアとオルティナから十分な食料が届けられるようになったのだ。
そして時は遡り教会に食料が届けられた前日。
ダーバルド騎士団本部での話し合いを終えたアレスとソシアはスフィアの飛行魔法で学園へと送り届けられていた。
(正しいことに力を使えて、人のことを想える優しい心を持っている。確かにソシアが惚れるのも無理はないわね。あとは……)
「アレス君は本当に優しいね」
「え?いや当然のことだよ。それだけシスターにはお世話になったからな。スフィア様とオルティナ様には感謝しています」
「任せてちょうだい!明日にも食料を届けさせてもらうわ!」
(アレス君、本当に凄いな。強くて、かっこよくて、凄く優しくて……そんなアレス君だから私はあなたのことが……)
「ん、どうしたソシア?なんだか顔が赤いぞ。どうかしたか?」
「えっ!?な、なんでもないよ!」
(その鈍感ささえなんとかしてくれれば完璧なんだけどねぇ)
アレスの力と心に感心させられたスフィア。
あとは自身に向けられた好意に気付けるようになって欲しいなと、アレスとソシアのやり取りを見ながら思うのであった。
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