S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず

文字の大きさ
65 / 132
1章

憧れの冒険

しおりを挟む
「はぁ……ひぃ……道が険し過ぎますよぉ~」
「ディーネさん、大丈夫ですか?」

エリギュラの居城を離れたアレスとディーネは、彼女の頼みである邪悪な存在を調べに南方の険しい山の中を進んでいた。
その山は先程アレスたちが居た広大な海とは打って変わって木々が生い茂り、ゴツゴツとした岩肌が露出した光景が広がっている。
そんな山の中をアレスは持ち前の身軽さで飛ぶように進んでいたが、ディーネはあまり山を歩き慣れていないようですぐに息を切らせてしまった。
そんなディーネにアレスは手を差し伸べ大きな岩や巨大な木の根を超えていった。

「はい……ありがとうございますアレスさん……ごめんなさい。私、アレスさんの足を引っ張っちゃってますよね」
「気にしなくてもいいですよ。そもそもディーネさんが同行することになったのはエリギュラ様のせいなんですから」

アレスの手を掴み何とか岩の上にのぼるも、ディーネは申し訳なさそうな表情でアレスに謝罪をした。
ディーネ本人も自分が今回の旅で足手まといになるだけの存在なのは当然理解している。
それでもディーネがアレスと行動を共にしているのはエリギュラから2人で行くようにと頼まれたからであった。


遡ること数時間前。
エリギュラにアレスの旅に同行するよう言われたディーネはその理由がわからず抗議の声を上げていた。

『待ってくださいエリギュラさん!私そんな魔物退治なんて出来ませんよ!?アレスさんの足を引っ張っちゃうだけですって!』
『エリギュラ様。ディーネさんを連れていかなければいけない理由が何かあるんですか?』
『無論じゃ。だが申し訳ないが、その訳を話すわけにはいかぬのじゃ。こちらにも都合というものがあるのでな』
『えっ!?これ本当に行かなきゃいけない感じですか!?』
『エリギュラ様。彼女とと行動をするよりも私1人の方が身軽で動きやすいと考えます。それにディーネさんを危険にさらすかもしれません。それでも同行させる必要があるのでしょうか』
『ある。詳しい訳を聞かずに連れていってもらえると助かる。それに其方の力ならそう易々と危機に陥ることなどもないであろう?』
『敵の強さなどもなにもわからないので断言などできませんが……』
『それにディーネよ。其方もこの方とならばやぶさかではあるまい』
『えっ、それは……』
『……、何か事情があることは分かりました。それでは私とディーネの2人で南方に現れたという邪悪な気配の正体を探ってまいります」

自身がアレスに同行することに足を引っ張ることがあってもメリットなどあるはずが無いと言うディーネ。
アレスも彼女を危険にさらす可能性があるため1人のほうが良いとエリギュラに告げたのだが、エリギュラには何やら考えがあるようで詳しい理由は明かさなかったもののディーネの動向を強くお願いしたのであった。

そのためアレスもそれ以上反対することなくディーネを連れていくことに決めたのだった。

「1人の方が速いって言ったのにあなたを連れていけって言ったのはエリギュラ様だ。なにか考えがあるんだろうが、ディーネさんが気にするようなことじゃないですよ」
「ですが……」
「それにディーネさんも、俺への迷惑を考えなければ本当は一緒について行きたいって感じだったじゃないですか」
「っ!それは……」

先程城に向かっていた時とは打って変わり、アレスが森を先導しディーネが後に続いていく。
まだ自分が同行する意義を見いだせずアレスへ申し訳ない気持ちでいっぱいだったディーネだが、アレスに本当は一緒に旅に出たかったのではないかと見抜かれ少し言葉を詰まらせたのだった。

「……実は、アレスさんと一緒にこんな風に陸を散策できればなと考えていました」
(……陸を?)
「そう、だったんですか」
「はい。森の中に1人で入るのは怖くて砂浜の近くでしか遊べませんでしたが、本当はこうして誰かと森の中に入って……おとぎ話で聞くような冒険をしたかったんです」
「おとぎ話?」

アレスに本心を見抜かれたディーネは少しためらうようなそぶりを見せながらも、今回アレスに同行したことは自身も望むことだったことを話し始めたのだ。

「私、小さなころからずっとお母さんに聞かせてもらったおとぎ話に憧れていました。そのおとぎ話はお姫様と勇者様が2人で巨大なドラゴンを退治すための旅に出るお話。聞いているだけで心が躍るような冒険の日々に、共に危機を乗り越えていく2人の絆。私には敵わない願いだとは分かっていても、いつかは私もあのおとぎ話の勇者様みたいな方と冒険に出てみたいなって思っていたんです」
「そういうことか」
「はい。ですが私にはおとぎ話のお姫様みたいに魔の者を滅する力があるわけでも、魔物を倒す剣を振るう力もありません。だからアレスさんの足を引っ張ってしまうだけなのは本当に申し訳ないと思ってしまい……」
「……それなら心配は要らないですよ」
「え?」
「ブモォオオオオオオ!!」

ディーネは幼少の頃より聞かされていた母のおとぎ話に憧れていた。
自分もいつかおとぎ話に出てくるような男性と心躍るような冒険がしたいと願い、そしてそれがアレスとのこの旅で果たせるのではないかと密かに考えていたのだった。
その話を聞いたアレスは穏やかな表情でほほ笑む。
するとその直後、なんと深い木々の奥から巨大な魔物がアレスたちめがけて突進してきたのだ。

「よっと!」
「きゃあ!!」

その魔物は二足歩行の牛のような見た目の魔物で、4メートルはあろうかという巨体で大きな斧を強引に振るったのだ。
だがアレスはその一撃をディーネを担ぎながら軽やかにかわしてしまう。

「ま、魔物!?」
「大丈夫です。自分で言うのもあれですけど、俺強いですから」
「ブモォオオオ!!」
「この程度の魔物、誰が一緒でも障壁にすらなりえませんから!」

魔物の攻撃を鮮やかにかわしたアレスはそのまま綺麗な着地を決めるとディーネを優しく下ろし即座に剣に手をかけた。
アレスが攻撃を躱したのを見た魔物は振り抜いた斧を握る腕に力を籠め、地面にめり込んだ斧を逆袈裟のように跳ね上げようとする。
しかしそんな魔物の追撃よりも早く、アレスは神速の抜刀で魔物の首を跳ね飛ばしたのだ。

「2人で協力して戦いながら進む旅ももちろん素敵ですけど、屈強なナイトが麗しのお姫様を守りながら進む旅もまた乙なものじゃないですか?」
「っ!」

アレスは魔物の胴体の上で剣についた血を手持ちの布で拭きとり、ディーネにそう言った。
そんなアレスの姿はディーネにはまさにおとぎ話に出てきた勇者のように映ったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。 死の淵で覚醒したその能力は、世界の法則(システム)の欠陥(バグ)を読み解き、修正(デバッグ)できる唯一無二の神技だった! 呪われたエルフを救い、不遇な獣人剣士の才能を開花させ、心強い仲間と成り上がるカイト。そんな彼の元に、今さら「戻ってこい」と元パーティーが現れるが――。 「もう手遅れだ」 これは、理不尽に追放された男が、神の領域の力で全てを覆す、痛快無双の逆転譚!

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

処理中です...