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2章
ドラゴンゾンビ
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「ソシア!!」
それはアレスが宿を飛び出して10数分ほどたった時のこと。
ひとまず教会の様子を確認しようと走っていたアレスの目の前に宿に戻る途中だったソシアが現れたのだ。
「アレス君!!よかった、目が覚めたんだね」
「ああ。それより状況は!?」
「……ごめん。私になりにヴィルハートさん探してみようと頑張ってけど全然見つけられなくて」
「仕方ないだろう。奴も昨晩の件で身を隠してるだろうから見つけるのは容易じゃないはず。俺は一度教会に行ってみようと思うんだがソシアも来るか?」
「エトナさんはどうしたの?」
「彼女にはティナたちがいつこの街に来てもいいように待合掲示板に行ってもらってる」
「わかった。それじゃあ私もヴィルハートさんを探す……」
カンカンカンカン!!
「っ!?」
「この音は……昨日の魔物の襲来を報せる鐘の音!?」
まだエトナの痛み止めポーションの効き目が切れるまでには時間があると思っていたアレスとソシアはヴィルハートを探すために僅かな情報でも集めようと再び光芒神聖教会の本部へ向かうことにした。
しかし合流した2人が教会本部に向けて走り出そうとしたその時、昨日テスクトーラの街の城壁にグレートコングが接近してきたときと同じ魔物の襲来を報せる鐘の音が周囲に響き渡ったのだ。
「また魔物の襲来か?昨日の今日で事件が起きすぎだろこの街は」
「その事件ってもしかしてグレートコングと教会への侵入事件のこと?だとすると3分の2がアレス君のせいだと思うけど……」
「まあ王国騎士が何とかするだろうし俺たちには関係がないこと……っ!?」
「どうしたのアレス君?」
「違う……この気配は……くっ!!」
「アレス君!?」
テスクトーラの街にとっても緊急事態かもしれないが、自分たちは今それどころではないと魔物の襲来を気にせず教会に向かおうとしたアレス。
しかし遠くから迫るその魔物の気配に覚えがあったアレスは、その気配の正体を確認するべく建物の壁の凹凸や街灯を伝って建物の屋根の上へと駆け上がっていった。
「嘘だろ……まさか、ドラゴン!?」」
そこでアレスが目撃したのは遠方より迫る巨大な魔物。
その魔物の外見にアレスはその正体がドラゴンではないかと思い至り驚きの表情を浮かべたのだった。
「ドラゴン!?ドラゴンって伝説に伝わるあの!?」
「いや、それだけじゃねえ……あのドラゴンの気配。昨日ヴィルハートさんから感じた闇の気配と全く同じだ!!」
さらにアレスはそのドラゴンが放つ気配が昨晩戦闘したヴィルハートから感じられたものと全く同じであることに気付いたのだ。
「なんだあの魔物は!?」
「撃墜しろ!!街に入られるぞ!!」
「そんなこと言ったって、あんなものどうすれば……」
「ブォオオオオオ!!」
「っ!?」
「ぎゃぁああ!!」
空を飛び城壁を無視して街に侵入しようとしていたドラゴンだったが、城壁の上に集まった騎士の存在に気付くと口からどす黒いヘドロのような何かを吐き出し攻撃を仕掛けたのだ。
そのヘドロは城壁の上に直撃。
その後ヘドロが触れた城壁の部分は不気味な音と煙を吐き出しながら腐食していったのだ。
「おいおい、流石にまずいぞ!」
「どうするアレス君!?」
「くそ!本当は戦ってる時間なんてないけど……アレを放っておいたら街は壊滅するぞ」
「ねえアレス君……あのドラゴン……こっちに向かってきてない?」
「ブギャァアアアア!!」
「危ないソシア!!」
「えっ……きゃあああ!!」
空を飛び容易に街に侵入したドラゴンは人口が密集する街の中心へと飛んでいく。
その途中ドラゴンはアレスたちの上空を通過したのだが、その際ドラゴンの体から崩れ落ちたヘドロが地上へと降り注ぎ、その1つがソシアに向けて落下してきたのだ。
「大丈夫かソシア?」
「っ!?/// う、うん……大丈夫、だけど……///」
「地面が溶けてる……見た目は確かにドラゴンっぽいが、アレはほんとにドラゴンなのか?」
落花してきたヘドロがソシアに直撃すると予見したアレスは建物の屋根から飛び降りるとソシアを抱きかかえヘドロを回避したのだった。
ソシアを横抱きに抱え上げたアレスはそのまま地面に落ちたヘドロを観察しその腐食性の高さに肝を冷やす。
一方のソシアはアレスに所謂お姫様抱っこをしてもらったことに顔を真っ赤にしており、緊張のあまりに全身を強張らせていたのだった。
「まずいな。街の中心に向かってるみたいだ……」
「……な、なんであっちに行くのかな」
「呪いを振り撒く系の魔物は基本人が多いところを目指して厄災を振り撒こうとするからな。あれも同じような習性なんだろう。それよりこうなったら俺はあいつを追いかけることにする」
「わ、私も行く!」
「いや、ソシアは危ないから先に避難しててくれ。待合掲示板の所にエトナが居るはずだからそっちに寄って彼女と一緒にな」
「……、わかった!でもアレス君もくれぐれも気を付けてね!」
「ああ。わかってるよ!!」
ソシアを下ろしたアレスは教会のある側にドラゴンが向かったことを確認し、自分もあのドラゴンを追いかけることに決めたのだった。
そして自分に同行したい意思を示すソシアにエトナの保護を理由に安全なところに避難するよう指示したのだ。
反論している時間もないと考えたソシアはアレスの意見に従い避難を開始する。
こうして2人は二手に分かれて走り始めたのだった。
「ぎゃぁああああ!」
「ぐっ……あああ!!」
「おい大丈夫か!?……ぎゃぁあ!!」
「気を付けろ!!この黒いのに触るな!!」
(たった数分で地獄絵図だな)
アレスは飛び去ったドラゴンを追いかけ、ドラゴンが飛行した経路を地上で沿って進む。
ドラゴンは肉体が腐っているのか、巨大な翼で羽ばたきながら崩れ落ちた腐肉を地上にばら撒いて進んでいる。
それが地上に降り注ぎ、建物を溶かし触れた人間に呪いを広めていた。
「ブォオオオオオ!!」
「止まれ……ドラゴンッ!!!」
「ブオッ!!」
「は!?躱した!?」
「ブォオオオオオ!!」
「このバケモンが……波濤突牙!!」
ドラゴンの飛行スピードはあまりにも遅く、アレスは地上から空飛ぶドラゴンとの距離を瞬く間に縮めていった。
ドラゴンを射程に収めたアレスはこれ以上被害を拡大させないため斬撃を飛ばしドラゴンを撃墜しようと試みる。
しかしなんとドラゴンは鈍間な飛行スピードからは考えられないような動きで身を翻し、アレスの斬撃を交わすと反撃のブレスをアレスに向けて放ったのだ。
アレスはこれを剣を力強く振るい、衝撃波で弾き飛ばす。
だがそれ後街に落ちたブレスはまた呪いを広める種となってしまった。
「くっそ!!なんだあいつ、存在自体が厄災そのものじゃねえか!!」
安易な攻撃は被害を広めるだけだとアレスはひとまず屋根の上から降り、広場でドラゴンの動きを観察することにしたのだ。
ドラゴンは体の一部を地面に振りまきながらも、その驚異的な再生能力で欠損した肉体を徐々に再生させていった。
つまりただ眺めているだけではあのドラゴンは半永久的に呪いを孕んだ肉片を地面にばら撒き続けることになる。
(さすがに伝説に語られるドラゴンは厄災の規模が半端じゃない……一体どうすりゃいいんだ……)
「な、なんだこれは!?なぜあのドラゴンの死体が動いているんだ!?」
「……あん?」
手を出すだけで呪いを返すドラゴンの対処に手を焼いていたアレスだったのだが、その時アレスが居た広場の端からあのドラゴンについて何か知っていると思われる人物の声が聞こえてきたのだ。
アレスはすぐにその声がした方向に視線を向ける。
するとなんとそこには教会の上層部と思われる職員数名に囲まれた光芒神聖教会大聖教ヒーナッツェの姿があったのだ。
(あの野郎……このドラゴンもてめぇの仕業かよ……)
「おいこらてめぇ、ふざけたことしやがって。あのドラゴンについて知ってることを洗いざらい喋ってもらおうか」
「なんだ貴様は!?あのドラゴンについてなど何も知っている訳ないだろう!!それとも私があのドラゴンに関わっているという証拠でもあるのか!?証拠でも……うっ!?」
「悪事を働いてる奴ほど真っ先に証拠だのなんだのとほざくもんだ。それに証拠ならてめぇのどす黒く濁ったその目を見れば一目瞭然なんだよ」
ヒーナッツェはこの騒ぎを見て思わず自分があのドラゴンに関わっているかのような言葉を口にしてしまったのだが、この騒ぎでしかも大声ではなかったため誤魔化すことができると考えたのだ。
しかし研ぎ澄まされたアレスの聴覚をもってすればこの程度の距離ならその発言を拾うことはたやすく、ヒーナッツェがこの大惨事の元凶であると悟ったアレスは全ての事情を話させるためヒーナッツェの首を掴み鋭い視線を浴びせかけたのだ。
「だ、大聖教様!?」
「貴様!ヒーナッツェ様になにを……」
「黙れ。てめぇらこいつを助けようとするなら殺す。死にたくなければそこを動くんじゃねえ」
「うっ……」
(な、なんという圧だ……)
「おいヒーナッツェ。それであのドラゴンは一体何なんだ?」
「し、知らない!貴様に話すことなど何も……ひぃ!?」
「返答には気を付けろよ。俺にはお前を生かしておく理由を探す方が難しいんだ」
(な、なんだこいつの目……さ、逆らえば間違いなく殺される……)
アレスはヒーナッツェの首を掴むと、全身の血管が浮き出るほどに力を籠めぶくぶくと太ったヒーナッツェの体を持ち上げたのだ。
ヒーナッツェはアレスに寄ってつま先がかろうじて地面につくくらいの高さに持ち上げられ、苦しみのあまりに無様に手足をばたつかせた。
周りに居た教会職員たちはすぐにアレスを止めようとしたのだが、アレスが放つ殺気に当てられその場から動くことが出来なくなってしまったのだ。
「たた、助けてくれ!何でも話すから……一回下ろして……苦しい……」
「じゃあさっさと話せ」
「うげっ!?はぁ……はぁ……」
「おい時間がねえんだ。全部話すんだぞ?こっちはお前の悪事をもういろいろと知ってるんだからな。国際条約で禁止されてる奴隷を買ってるとか」
「な、なぜそれを……」
「質問してるのはこっちだ。早く話さないとあのドラゴンの餌にするぞ」
「は、はいぃ!あのドラゴンはですね、もともととある洞窟の最深部で発見されたドラゴンの死体だったんです!」
「死体?ありゃどう見ても死体には見えないが」
「恐らく呪いを集め過ぎたことで動き出したんだと思います!」
「そうか……ようやく全部繋がったよ。レンテーナの村に呪いを振り撒いたってのはあのドラゴンの死体を使ったんだろう?ヴィルハートさんから同じ気配を感じた。つまり彼を貶めるために罠ってのはあれのことだ」
ヒーナッツェの話を聞いて、アレスは昨晩ヴィルハートから聞いた話を合わせてこの事件の全貌を掴むことが出来たのだ。
あのドラゴンが放つ呪いの気配はヴィルハートが纏っていたものと同じ、つまりレンテーナの村で呪いを貰ったというヴィルハートの話からレンテーナの村の呪い騒動はあのドラゴンの死体を使ったものだということが判明する。
呪いは周囲に呪いを振り撒くことで自身の呪力も強力になるという性質がある。
つまりあのドラゴンの死体が動き出したのも、ドラゴンの死体で村に呪いをばら撒こうとしたヒーナッツェが元凶だったのだ。
「よーくわかったよ。てめぇが自分の私腹を肥やすために呪いを振り撒くことを何とも思わないクソ野郎だってな」
「し、正直に話したから殺さないでください!」
「本当ならこのまま斬り捨ててやりたいってのが本音だが……てめぇは後でしかるべき裁きを受けてもらう。それよりも今は……」
ヒーナッツェの悪行にはらわたが煮えくり返りそうなアレスだったが、感情的に剣を振るうことなく一度はその怒りを鎮めたのだ。
そしてヒーナッツェを放置し広場に歩き出す。
「ブォオオオオオ!!」
「あれを先になんとかする」
そんなアレスの視線の先には依然として呪いを振り撒き続けるドラゴゾンビの姿があった。
「これは大変なことになったねぇ……まあ、私にはもうどうでもいいことだけど」
一方そのころドラゴンが暴れる中心街から少し離れた場所では、この騒ぎを聞きつけ行動を開始したヴィルハートの姿があったのだ。
ヴィルハートはこの騒動に乗じれば教会の上層部の人間を楽に抹殺できるのではないかと思い、1人ドラゴンが暴れる中心街へと向かっていた。
「あ、あなたは……もしかして……」
しかしその道中でヴィルハートは偶然とある人物に出会ったのだ。
「君は……危ないよ?ここに居たら呪いに巻き込まれて死んでしまうかもしれない」
「私は……う”ぁ”!!……ぐぅ……」
その人物というのはドラゴンの騒ぎを聞いて逃げようとしていたエトナであった。
しかし奴隷の刻印に蝕まれ始めていた彼女は逃げ遅れ、ゆっくりと城壁の方へ歩いていた所だったのだ。
「可哀想に。すでにドラゴンの呪いを貰ったか……いや、違うな。ドラゴンの呪いの気配ではない……病気か、怪我か……まさか君、昨日あの少年が話していた奴隷の刻印に苦しむ少女かい?」
「はぁ……はぁ……」
「なんと悲惨な。その年で奴隷となり、必死で逃げ出したというのに命を蝕む苦痛に苛まれるなんて。やはりこの世界に神などいないのだ」
偶然ヴィルハートと遭遇したエトナだったが、すでに奴隷の刻印の症状は深刻で痛みに耐えかねそのまま地面に倒れてしまったのだ。
その様子にヴィルハートは表情を一切変えることなく上辺だけの同情の言葉を並べた。
「もう私は誰の命も救わないと決めていたが、これでも元聖職者だ。せめてこれ以上苦しむことがないようにその命を私の手で終わらせてあげよう」
苦しみ続けるエトナにヴィルハートはゆっくりと歩み寄ると、その命を奪おうと手刀を振り上げたのだ。
そしてエトナの心臓に向けてその手刀を突き立てようとした……その時だった。
「姉ちゃんに近づくなぁ!!」
「ぐっ!?」
突然黒い獣のような影が飛び出したかと思うと、ヴィルハートを蹴飛ばしエトナの命を救ったのだ。
蹴られた衝撃で後方へ吹き飛んだヴィルハートは倒れることなく踏ん張りすぐに体勢を立てなおす。
「ノ……ヴァ……」
「大丈夫か姉ちゃん!?俺がすぐに助けるからな!」
現れたのは街に到着していたノヴァ。
間一髪でエトナを助けたノヴァはヴィルハートとの間に立ちふさがったのだった。
それはアレスが宿を飛び出して10数分ほどたった時のこと。
ひとまず教会の様子を確認しようと走っていたアレスの目の前に宿に戻る途中だったソシアが現れたのだ。
「アレス君!!よかった、目が覚めたんだね」
「ああ。それより状況は!?」
「……ごめん。私になりにヴィルハートさん探してみようと頑張ってけど全然見つけられなくて」
「仕方ないだろう。奴も昨晩の件で身を隠してるだろうから見つけるのは容易じゃないはず。俺は一度教会に行ってみようと思うんだがソシアも来るか?」
「エトナさんはどうしたの?」
「彼女にはティナたちがいつこの街に来てもいいように待合掲示板に行ってもらってる」
「わかった。それじゃあ私もヴィルハートさんを探す……」
カンカンカンカン!!
「っ!?」
「この音は……昨日の魔物の襲来を報せる鐘の音!?」
まだエトナの痛み止めポーションの効き目が切れるまでには時間があると思っていたアレスとソシアはヴィルハートを探すために僅かな情報でも集めようと再び光芒神聖教会の本部へ向かうことにした。
しかし合流した2人が教会本部に向けて走り出そうとしたその時、昨日テスクトーラの街の城壁にグレートコングが接近してきたときと同じ魔物の襲来を報せる鐘の音が周囲に響き渡ったのだ。
「また魔物の襲来か?昨日の今日で事件が起きすぎだろこの街は」
「その事件ってもしかしてグレートコングと教会への侵入事件のこと?だとすると3分の2がアレス君のせいだと思うけど……」
「まあ王国騎士が何とかするだろうし俺たちには関係がないこと……っ!?」
「どうしたのアレス君?」
「違う……この気配は……くっ!!」
「アレス君!?」
テスクトーラの街にとっても緊急事態かもしれないが、自分たちは今それどころではないと魔物の襲来を気にせず教会に向かおうとしたアレス。
しかし遠くから迫るその魔物の気配に覚えがあったアレスは、その気配の正体を確認するべく建物の壁の凹凸や街灯を伝って建物の屋根の上へと駆け上がっていった。
「嘘だろ……まさか、ドラゴン!?」」
そこでアレスが目撃したのは遠方より迫る巨大な魔物。
その魔物の外見にアレスはその正体がドラゴンではないかと思い至り驚きの表情を浮かべたのだった。
「ドラゴン!?ドラゴンって伝説に伝わるあの!?」
「いや、それだけじゃねえ……あのドラゴンの気配。昨日ヴィルハートさんから感じた闇の気配と全く同じだ!!」
さらにアレスはそのドラゴンが放つ気配が昨晩戦闘したヴィルハートから感じられたものと全く同じであることに気付いたのだ。
「なんだあの魔物は!?」
「撃墜しろ!!街に入られるぞ!!」
「そんなこと言ったって、あんなものどうすれば……」
「ブォオオオオオ!!」
「っ!?」
「ぎゃぁああ!!」
空を飛び城壁を無視して街に侵入しようとしていたドラゴンだったが、城壁の上に集まった騎士の存在に気付くと口からどす黒いヘドロのような何かを吐き出し攻撃を仕掛けたのだ。
そのヘドロは城壁の上に直撃。
その後ヘドロが触れた城壁の部分は不気味な音と煙を吐き出しながら腐食していったのだ。
「おいおい、流石にまずいぞ!」
「どうするアレス君!?」
「くそ!本当は戦ってる時間なんてないけど……アレを放っておいたら街は壊滅するぞ」
「ねえアレス君……あのドラゴン……こっちに向かってきてない?」
「ブギャァアアアア!!」
「危ないソシア!!」
「えっ……きゃあああ!!」
空を飛び容易に街に侵入したドラゴンは人口が密集する街の中心へと飛んでいく。
その途中ドラゴンはアレスたちの上空を通過したのだが、その際ドラゴンの体から崩れ落ちたヘドロが地上へと降り注ぎ、その1つがソシアに向けて落下してきたのだ。
「大丈夫かソシア?」
「っ!?/// う、うん……大丈夫、だけど……///」
「地面が溶けてる……見た目は確かにドラゴンっぽいが、アレはほんとにドラゴンなのか?」
落花してきたヘドロがソシアに直撃すると予見したアレスは建物の屋根から飛び降りるとソシアを抱きかかえヘドロを回避したのだった。
ソシアを横抱きに抱え上げたアレスはそのまま地面に落ちたヘドロを観察しその腐食性の高さに肝を冷やす。
一方のソシアはアレスに所謂お姫様抱っこをしてもらったことに顔を真っ赤にしており、緊張のあまりに全身を強張らせていたのだった。
「まずいな。街の中心に向かってるみたいだ……」
「……な、なんであっちに行くのかな」
「呪いを振り撒く系の魔物は基本人が多いところを目指して厄災を振り撒こうとするからな。あれも同じような習性なんだろう。それよりこうなったら俺はあいつを追いかけることにする」
「わ、私も行く!」
「いや、ソシアは危ないから先に避難しててくれ。待合掲示板の所にエトナが居るはずだからそっちに寄って彼女と一緒にな」
「……、わかった!でもアレス君もくれぐれも気を付けてね!」
「ああ。わかってるよ!!」
ソシアを下ろしたアレスは教会のある側にドラゴンが向かったことを確認し、自分もあのドラゴンを追いかけることに決めたのだった。
そして自分に同行したい意思を示すソシアにエトナの保護を理由に安全なところに避難するよう指示したのだ。
反論している時間もないと考えたソシアはアレスの意見に従い避難を開始する。
こうして2人は二手に分かれて走り始めたのだった。
「ぎゃぁああああ!」
「ぐっ……あああ!!」
「おい大丈夫か!?……ぎゃぁあ!!」
「気を付けろ!!この黒いのに触るな!!」
(たった数分で地獄絵図だな)
アレスは飛び去ったドラゴンを追いかけ、ドラゴンが飛行した経路を地上で沿って進む。
ドラゴンは肉体が腐っているのか、巨大な翼で羽ばたきながら崩れ落ちた腐肉を地上にばら撒いて進んでいる。
それが地上に降り注ぎ、建物を溶かし触れた人間に呪いを広めていた。
「ブォオオオオオ!!」
「止まれ……ドラゴンッ!!!」
「ブオッ!!」
「は!?躱した!?」
「ブォオオオオオ!!」
「このバケモンが……波濤突牙!!」
ドラゴンの飛行スピードはあまりにも遅く、アレスは地上から空飛ぶドラゴンとの距離を瞬く間に縮めていった。
ドラゴンを射程に収めたアレスはこれ以上被害を拡大させないため斬撃を飛ばしドラゴンを撃墜しようと試みる。
しかしなんとドラゴンは鈍間な飛行スピードからは考えられないような動きで身を翻し、アレスの斬撃を交わすと反撃のブレスをアレスに向けて放ったのだ。
アレスはこれを剣を力強く振るい、衝撃波で弾き飛ばす。
だがそれ後街に落ちたブレスはまた呪いを広める種となってしまった。
「くっそ!!なんだあいつ、存在自体が厄災そのものじゃねえか!!」
安易な攻撃は被害を広めるだけだとアレスはひとまず屋根の上から降り、広場でドラゴンの動きを観察することにしたのだ。
ドラゴンは体の一部を地面に振りまきながらも、その驚異的な再生能力で欠損した肉体を徐々に再生させていった。
つまりただ眺めているだけではあのドラゴンは半永久的に呪いを孕んだ肉片を地面にばら撒き続けることになる。
(さすがに伝説に語られるドラゴンは厄災の規模が半端じゃない……一体どうすりゃいいんだ……)
「な、なんだこれは!?なぜあのドラゴンの死体が動いているんだ!?」
「……あん?」
手を出すだけで呪いを返すドラゴンの対処に手を焼いていたアレスだったのだが、その時アレスが居た広場の端からあのドラゴンについて何か知っていると思われる人物の声が聞こえてきたのだ。
アレスはすぐにその声がした方向に視線を向ける。
するとなんとそこには教会の上層部と思われる職員数名に囲まれた光芒神聖教会大聖教ヒーナッツェの姿があったのだ。
(あの野郎……このドラゴンもてめぇの仕業かよ……)
「おいこらてめぇ、ふざけたことしやがって。あのドラゴンについて知ってることを洗いざらい喋ってもらおうか」
「なんだ貴様は!?あのドラゴンについてなど何も知っている訳ないだろう!!それとも私があのドラゴンに関わっているという証拠でもあるのか!?証拠でも……うっ!?」
「悪事を働いてる奴ほど真っ先に証拠だのなんだのとほざくもんだ。それに証拠ならてめぇのどす黒く濁ったその目を見れば一目瞭然なんだよ」
ヒーナッツェはこの騒ぎを見て思わず自分があのドラゴンに関わっているかのような言葉を口にしてしまったのだが、この騒ぎでしかも大声ではなかったため誤魔化すことができると考えたのだ。
しかし研ぎ澄まされたアレスの聴覚をもってすればこの程度の距離ならその発言を拾うことはたやすく、ヒーナッツェがこの大惨事の元凶であると悟ったアレスは全ての事情を話させるためヒーナッツェの首を掴み鋭い視線を浴びせかけたのだ。
「だ、大聖教様!?」
「貴様!ヒーナッツェ様になにを……」
「黙れ。てめぇらこいつを助けようとするなら殺す。死にたくなければそこを動くんじゃねえ」
「うっ……」
(な、なんという圧だ……)
「おいヒーナッツェ。それであのドラゴンは一体何なんだ?」
「し、知らない!貴様に話すことなど何も……ひぃ!?」
「返答には気を付けろよ。俺にはお前を生かしておく理由を探す方が難しいんだ」
(な、なんだこいつの目……さ、逆らえば間違いなく殺される……)
アレスはヒーナッツェの首を掴むと、全身の血管が浮き出るほどに力を籠めぶくぶくと太ったヒーナッツェの体を持ち上げたのだ。
ヒーナッツェはアレスに寄ってつま先がかろうじて地面につくくらいの高さに持ち上げられ、苦しみのあまりに無様に手足をばたつかせた。
周りに居た教会職員たちはすぐにアレスを止めようとしたのだが、アレスが放つ殺気に当てられその場から動くことが出来なくなってしまったのだ。
「たた、助けてくれ!何でも話すから……一回下ろして……苦しい……」
「じゃあさっさと話せ」
「うげっ!?はぁ……はぁ……」
「おい時間がねえんだ。全部話すんだぞ?こっちはお前の悪事をもういろいろと知ってるんだからな。国際条約で禁止されてる奴隷を買ってるとか」
「な、なぜそれを……」
「質問してるのはこっちだ。早く話さないとあのドラゴンの餌にするぞ」
「は、はいぃ!あのドラゴンはですね、もともととある洞窟の最深部で発見されたドラゴンの死体だったんです!」
「死体?ありゃどう見ても死体には見えないが」
「恐らく呪いを集め過ぎたことで動き出したんだと思います!」
「そうか……ようやく全部繋がったよ。レンテーナの村に呪いを振り撒いたってのはあのドラゴンの死体を使ったんだろう?ヴィルハートさんから同じ気配を感じた。つまり彼を貶めるために罠ってのはあれのことだ」
ヒーナッツェの話を聞いて、アレスは昨晩ヴィルハートから聞いた話を合わせてこの事件の全貌を掴むことが出来たのだ。
あのドラゴンが放つ呪いの気配はヴィルハートが纏っていたものと同じ、つまりレンテーナの村で呪いを貰ったというヴィルハートの話からレンテーナの村の呪い騒動はあのドラゴンの死体を使ったものだということが判明する。
呪いは周囲に呪いを振り撒くことで自身の呪力も強力になるという性質がある。
つまりあのドラゴンの死体が動き出したのも、ドラゴンの死体で村に呪いをばら撒こうとしたヒーナッツェが元凶だったのだ。
「よーくわかったよ。てめぇが自分の私腹を肥やすために呪いを振り撒くことを何とも思わないクソ野郎だってな」
「し、正直に話したから殺さないでください!」
「本当ならこのまま斬り捨ててやりたいってのが本音だが……てめぇは後でしかるべき裁きを受けてもらう。それよりも今は……」
ヒーナッツェの悪行にはらわたが煮えくり返りそうなアレスだったが、感情的に剣を振るうことなく一度はその怒りを鎮めたのだ。
そしてヒーナッツェを放置し広場に歩き出す。
「ブォオオオオオ!!」
「あれを先になんとかする」
そんなアレスの視線の先には依然として呪いを振り撒き続けるドラゴゾンビの姿があった。
「これは大変なことになったねぇ……まあ、私にはもうどうでもいいことだけど」
一方そのころドラゴンが暴れる中心街から少し離れた場所では、この騒ぎを聞きつけ行動を開始したヴィルハートの姿があったのだ。
ヴィルハートはこの騒動に乗じれば教会の上層部の人間を楽に抹殺できるのではないかと思い、1人ドラゴンが暴れる中心街へと向かっていた。
「あ、あなたは……もしかして……」
しかしその道中でヴィルハートは偶然とある人物に出会ったのだ。
「君は……危ないよ?ここに居たら呪いに巻き込まれて死んでしまうかもしれない」
「私は……う”ぁ”!!……ぐぅ……」
その人物というのはドラゴンの騒ぎを聞いて逃げようとしていたエトナであった。
しかし奴隷の刻印に蝕まれ始めていた彼女は逃げ遅れ、ゆっくりと城壁の方へ歩いていた所だったのだ。
「可哀想に。すでにドラゴンの呪いを貰ったか……いや、違うな。ドラゴンの呪いの気配ではない……病気か、怪我か……まさか君、昨日あの少年が話していた奴隷の刻印に苦しむ少女かい?」
「はぁ……はぁ……」
「なんと悲惨な。その年で奴隷となり、必死で逃げ出したというのに命を蝕む苦痛に苛まれるなんて。やはりこの世界に神などいないのだ」
偶然ヴィルハートと遭遇したエトナだったが、すでに奴隷の刻印の症状は深刻で痛みに耐えかねそのまま地面に倒れてしまったのだ。
その様子にヴィルハートは表情を一切変えることなく上辺だけの同情の言葉を並べた。
「もう私は誰の命も救わないと決めていたが、これでも元聖職者だ。せめてこれ以上苦しむことがないようにその命を私の手で終わらせてあげよう」
苦しみ続けるエトナにヴィルハートはゆっくりと歩み寄ると、その命を奪おうと手刀を振り上げたのだ。
そしてエトナの心臓に向けてその手刀を突き立てようとした……その時だった。
「姉ちゃんに近づくなぁ!!」
「ぐっ!?」
突然黒い獣のような影が飛び出したかと思うと、ヴィルハートを蹴飛ばしエトナの命を救ったのだ。
蹴られた衝撃で後方へ吹き飛んだヴィルハートは倒れることなく踏ん張りすぐに体勢を立てなおす。
「ノ……ヴァ……」
「大丈夫か姉ちゃん!?俺がすぐに助けるからな!」
現れたのは街に到着していたノヴァ。
間一髪でエトナを助けたノヴァはヴィルハートとの間に立ちふさがったのだった。
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定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
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父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
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ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
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清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした
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ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。
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呪われたエルフを救い、不遇な獣人剣士の才能を開花させ、心強い仲間と成り上がるカイト。そんな彼の元に、今さら「戻ってこい」と元パーティーが現れるが――。
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これは、理不尽に追放された男が、神の領域の力で全てを覆す、痛快無双の逆転譚!
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ある日突然世界的に流行した病気。
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