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2章
光芒神聖教会教皇テキーラ・メルヴァーミャ
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「彼が……ヴィルハート・レーンさん、か?」
「おそらく。ですがアレスさんは今何を……」
地獄の苦しみに悶え死の淵に居ながらもお互いのことを優先しようとしたエトナとノヴァの優しさに、2人を助けることにしたヴィルハート。
そして聖職者としての誇りをわずかに取り戻したヴィルハートをみて、今なら彼を助けられると剣を振るったアレスにより呪いに支配されていたヴィルハートはようやくその呪縛から解放されることとなったのだ。
「何とかうまくいったようでよかった!この技を人に向けて放つのは初めてで緊張したぜ」
「呪いの気配が完全に消えた。君は一体……」
「ぁ……ぐぁ……」
「ノヴァ君!しっかりしてノヴァ君!!」
「っ!!」
魂に染み付いた呪いからはもう解放されることはないと覚悟していたヴィルハートは、アレスがその呪いを斬り伏せたことに驚きを隠せなかった。
そんなヴィルハートの様子を見てなんとか呪いだけを斬ることに成功したと安堵したアレスだったのだが、直後に聞こえたソシアの叫びに表情を曇らせたのだった。
「どうかしたのかソシア!?」
「ノヴァ君の傷が酷すぎて……回復魔法が効かないの!」
「なんだって!?」
ソシアは急いでノヴァの傷を治そうと回復魔法を施そうとしたのだが、すでにノヴァの傷は命に届きかけておりソシアの回復魔法を受け付けなかったのだ。
回復魔法は術者が魔力を消費することは当然であるが、回復させられる側もそれと同様に自身の生命力も激しく消費してしまう。
呪いを口にしたノヴァの傷は重傷で、すでに瀕死の状態であった彼にはもはや回復魔法で傷を治すための生命力が足りていなかったのだ。
「どうしようアレス君!私の魔法じゃもうどうにもならない!」
「くそっ!!今すぐ誰かもっと凄い回復魔法が使える人を探さないと……」
「おそらく、術者の力量の問題ではないと思います。もう彼に……傷を治すだけの生命力が足りていないんだと……」
「そんな……すまない。私が……私が彼に戦いを要求しなければこんな事には……」
(くそっ!くそっ!!どうすればいい!?このままじゃノヴァは助からない……)
「すまぬが、ちょいとどいてはくれぬか?」
「っ!?」
ノヴァの命の灯が今にも消えてしまいそうだったその時、突如アレスたちの元に異様な雰囲気を纏った女性が姿を現したのだ。
彼女の登場に文字通り空気が変わったことを感じ取ったアレスたちは思わず彼女に視線を集中させる。
この世の穢れなど一切寄り付かせないような白い衣装に身を包んだ彼女は、感情が読み取れないような虚ろな瞳をしていた。
その容姿は絶世の美女と評するに足ると言えるものであったが、彼女の肌はまるで血が通っていないかのように白くまるで幽霊のように生命の気配が感じられなかった。
「あ、あなた様は!!」
「ヴィルハートさん!この人知り合いなのか!?」
「ああ、この人は……」
「時間がないのだろう?緑髪の少女よ、そこをどきなさい」
「え……あ、はい……」
「……慈悲の光」
そんな彼女はゆらりとノヴァの元にやってくると、慈悲深い表情でノヴァに手をかざしたのだった。
直後、彼女の掌からはまる天から差し込んだかのような光が発せられる。
その光は瀕死のノヴァを白く包み込み、なんと回復魔法すら受け付けなかった彼の傷を瞬く間に治してしまったのだ。
「うそっ!あの傷が綺麗さっぱりなくなった!?」
「あ、ありがとうございます。本当になんとお礼を行ったらいいか」
「なに。お主たちにはこの街を守ってもらった恩があるからの。本来ならわらわが対応すべきところを、申し訳なく思うておるのだ」
「それで……失礼ですが、あなたは一体どちら様ですか?」
「わらわはテキーラ・メルヴァーミャである」
「っ!?テキーラ様!?」
「なんだジョージ、知ってるのか?」
「知ってるもなにもこの方は……」
「この方こそ、光芒神聖教会の数多くいる聖職者の頂点であられるお方です」
「この人が……!」
テキーラと名乗った女性は、ノヴァの傷を治すとアレスたちに向き直ってドラゴンゾンビを討伐してくれたことを静かに頭を下げ感謝の意を伝えたのだった。
そんな彼女の名前にジョージは反応を示す。
そう、彼女こそがこの国で実質1番の権力を持つとまで言われる光芒神聖教会のトップを務める女性、テキーラ・メルヴァーミャであったのだ。
「しかし……お主であるな?あの厄災を退けたのは」
「え?俺ですか?いやぁ、俺1人じゃ空を飛ぶあのドラゴンを斬ることなんて出来もしなかったですよ」
「本当に助かったぞ。あれほどの穢れを纏った厄災ともなれば今のわらわでは祈りが足りなかったと思うのでな」
「祈りが足りなかった……?」
「テキーラ様のスキルは【祈り】。神々への祈りを心を込めて、長時間行うほど神力が増し強力な魔力を扱えるというものなのです」
(なるほど。ノヴァの傷を治せたのもそのスキルのおかげか……)
「であったとしても、本来ならあれが街に来た時点でわらわが表に出るべきであった。祈りの間が外界の情報を一切遮断してしまうことは考え物じゃの。本当にすまなかった」
テキーラは自分がこの街を守らなければいけなかったところを、アレスたちにその役割を任せてしまったことに深く謝罪と感謝を繰り返した。
光芒神聖教会本部の中央塔最上階にて祈りを行っていたテキーラは、儀式を行う部屋が外界の情報を遮断してしまうせいでこの騒動に気付くのが遅れてしまったのだ。
本来なら有事の際は中央塔に出入りできる上位の聖職者……主にヒーナッツェが彼女への情報伝達を行わなければいけなかったのだが……
「しかも、よりにもよってこの事件の引き金が教会の聖職者だったとは……のう?ヒーナッツェよ」
「テキーラ様……」
微かではあるが声を荒らげたテキーラの呼びかけに、ヒーナッツェは顔面を蒼白させながら恐る恐るこの場に姿を現したのだった。
「事情は大方聞かせてもらった。ヒーナッツェ。わらわが祈りを捧げている間にずいぶんな行いをしていたそうじゃな」
「も、申し訳ありませんでした……この件に関しましては深く反省しておりますので、どうかお許しを……」
「限度というものがあるだろう。貴様のした行いは決して赦されるものではないぞ」
「ひぃ!」
テキーラはヒーナッツェのした行いに怒りを燃やし、跪き許しを乞っていたヒーナッツェに静かに手をかざしたのだ。
それを見たヒーナッツェの表情が絶望の色に染まる。
「ま、待ってください!」
「……ほう。何事かの?」
「ティナ?」
だがテキーラがヒーナッツェに裁きを下そうとしたその時、なんとそれを見ていたティナが直前で制止したにだった。
「お主らはこの街の救世主。何か考えがあるというのなら聞いてはみるが……どうしたのじゃ?」
「ティナ……お前は知らなくて当然だがあいつはこの事件を引き起こした張本人だ。それでも命までは奪うなって言うのか?」
「いや、この状況を見ていれば彼が悪事を働いたのは理解できる。どちらかと言うと君を気遣っただけなんだが」
「俺を?」
「以前言っていただろう。君はもう誰も死なせたくはないと。そんな君が悪人とはいえ命まで奪うのは気が進まないんじゃないかと思ってな」
ティナがヒーナッツェへの裁きを制止したのは以前彼女がアレスの本心を聞いたからであった。
もう誰も死なせないと決意したアレスが裁きであったとしても人の命を奪うことに抵抗があるのではないかと気遣っての言葉だったのだ。
「なるほどな。俺のために言ってくれたのか。ありがとな」
「た、助けていただけるのですか……」
「でもな、俺は法の裁きであればそれは仕方がないことだと思ってるよ」
「ッ!!」
ティナがテキーラの裁きを制止したことに、ヒーナッツェは助かるかもしれないと考えその表情に希望を灯した。
だがその希望はアレスの発言によって粉々に砕かれることとなったのだ。
「もちろん罪のない人が理不尽に法で裁かれるのは見過ごせない。でもテキーラ様にはあいつを裁く権利があるんだろう?そして奴に裁かれるだけの理由があるなら俺は何も思わない」
「そ、そんな……」
「そうか。君さえよければ私も大丈夫だ」
「あ、ああ……どうか!!どうかお許しを!!これまでの自分の行いを深く悔い改め罪を償いと誓いますので……」
「ならぬ……断罪の光!」
「テキーラ様ぁああああああ!!」
一瞬生への希望をみせられたヒーナッツェは、その梯子を外されたことで深い絶望の沼へと叩き落とされることとなったのだ。
最後の望みをかけてテキーラに許しを乞うヒーナッツェ。
だがその懇願も虚しくテキーラの掌から放たれた眩い光が瞬く間にヒーナッツェの体を焼き焦がしてしまったのだ。
「ああああ!!!ああ、あああ……あ……あ……」
「……っ!」
「断罪の光はその魂に背負った業により肉体が辿る運命が決まる。悪事を重ねてきた貴様の魂では肉体は灰も残らぬだろうて」
テキーラの放った断罪の光によって、ヒーナッツェの体は一片のチリも残さず綺麗さっぱり焼かれてしまったのだ。
その様子に呪いから解放され復讐の念を断ったはずのヴィルハートは、どこか気持ちが軽くなったような表情をしていた。
「さて、奴の傍で甘い汁を吸っていた者もまだ多く残っているだろう。その者たちの処遇は後程決めるとして……ヴィルハート・レーンよ。貴様への処分も言い渡さねばな」
「っ!?なっ……そんな!!」
そうしてヒーナッツェへの処分を終えたテキーラだったが、その後振り向くと地面に跪いていたヴィルハートへ無機質な視線を送ったのだ。
「待ってくださいテキーラ様!この人はドラゴンゾンビの呪いのせいで正常な判断が出来なかっただけです!!」
「ならば問うぞ。ヴィルハートよ、貴様は自分がした行いに何の罪悪感も感じておらぬか?」
「……いいえ、テキーラ様。全ては私の心の弱さと無知が招いた結果です」
「ヴィルハートさん!」
「わらわも何の落ち度もなく、意識のなかった人間に罰を言い渡すほど無常ではない。だがお主はそうではないだろう?この未来を変える選択肢はいくつかあったはずじゃ」
「はい……それに、私は呪いに侵されていたとはいえ4人の聖職者を手に掛けました。自分に何の罪もないとは思いません」
「……!」
「うむ。それでは貴様への処遇を言い渡すとしよう。ヴィルハート・レーン……貴様は聖職者でありながら穢れに堕ち4人の命を奪っただけでなく、複数名の聖職者に対して殺害を計画し教会から追放されたのち教会本部への侵入を行った。よって……」
「……」
「ヴィルハート・レーン。貴様を国外追放とする」
「……え?」
ヴィルハートを庇おうとするアレスに対し、自らの行いを悔いテキーラの裁きを受け入れるつもりのヴィルハート。
だがそんなヴィルハートにテキーラが下した判決は国外追放というものであった。
「国外追放って……テキーラ様、それはあまりにも……」
「わらわに一度下した判決を変えろと申すか?いくら恩人の頼みとあってもそれは出来ぬな。それに……貴様はもう聖職者を続けることは出来ぬだろうしな」
「……?」
「はい。全てお見通しの様で……ですが、私はむしろ罰が軽すぎるのではないかと思うのですが……」
「言ったであろう。一度口にした判決は変えぬ。それに貴様はこの国を出て遊び歩くつもりなのか?」
「っ!!」
「……以上である。この騒動の後始末くらいはわらわに任せてもらおう。改めて、お主らには感謝の意を伝えたい」
「いえ、俺たちは出来ることをやっただけですので」
「うむ。それでは失礼させてもらう。最後に……ヴィルハートよ。これで終わりではないぞ?」
「はっ……本当に、申し訳ありませんでした」
テキーラは最後にアレスたちへの改めての感謝と、ヴィルハートへの助言を残しドラゴンゾンビの被害が生々しく残る街の中心部へと向かって行ったのだった。
そんなテキーラの後ろ姿にヴィルハートは深々と頭を下げ続けた。
「おそらく。ですがアレスさんは今何を……」
地獄の苦しみに悶え死の淵に居ながらもお互いのことを優先しようとしたエトナとノヴァの優しさに、2人を助けることにしたヴィルハート。
そして聖職者としての誇りをわずかに取り戻したヴィルハートをみて、今なら彼を助けられると剣を振るったアレスにより呪いに支配されていたヴィルハートはようやくその呪縛から解放されることとなったのだ。
「何とかうまくいったようでよかった!この技を人に向けて放つのは初めてで緊張したぜ」
「呪いの気配が完全に消えた。君は一体……」
「ぁ……ぐぁ……」
「ノヴァ君!しっかりしてノヴァ君!!」
「っ!!」
魂に染み付いた呪いからはもう解放されることはないと覚悟していたヴィルハートは、アレスがその呪いを斬り伏せたことに驚きを隠せなかった。
そんなヴィルハートの様子を見てなんとか呪いだけを斬ることに成功したと安堵したアレスだったのだが、直後に聞こえたソシアの叫びに表情を曇らせたのだった。
「どうかしたのかソシア!?」
「ノヴァ君の傷が酷すぎて……回復魔法が効かないの!」
「なんだって!?」
ソシアは急いでノヴァの傷を治そうと回復魔法を施そうとしたのだが、すでにノヴァの傷は命に届きかけておりソシアの回復魔法を受け付けなかったのだ。
回復魔法は術者が魔力を消費することは当然であるが、回復させられる側もそれと同様に自身の生命力も激しく消費してしまう。
呪いを口にしたノヴァの傷は重傷で、すでに瀕死の状態であった彼にはもはや回復魔法で傷を治すための生命力が足りていなかったのだ。
「どうしようアレス君!私の魔法じゃもうどうにもならない!」
「くそっ!!今すぐ誰かもっと凄い回復魔法が使える人を探さないと……」
「おそらく、術者の力量の問題ではないと思います。もう彼に……傷を治すだけの生命力が足りていないんだと……」
「そんな……すまない。私が……私が彼に戦いを要求しなければこんな事には……」
(くそっ!くそっ!!どうすればいい!?このままじゃノヴァは助からない……)
「すまぬが、ちょいとどいてはくれぬか?」
「っ!?」
ノヴァの命の灯が今にも消えてしまいそうだったその時、突如アレスたちの元に異様な雰囲気を纏った女性が姿を現したのだ。
彼女の登場に文字通り空気が変わったことを感じ取ったアレスたちは思わず彼女に視線を集中させる。
この世の穢れなど一切寄り付かせないような白い衣装に身を包んだ彼女は、感情が読み取れないような虚ろな瞳をしていた。
その容姿は絶世の美女と評するに足ると言えるものであったが、彼女の肌はまるで血が通っていないかのように白くまるで幽霊のように生命の気配が感じられなかった。
「あ、あなた様は!!」
「ヴィルハートさん!この人知り合いなのか!?」
「ああ、この人は……」
「時間がないのだろう?緑髪の少女よ、そこをどきなさい」
「え……あ、はい……」
「……慈悲の光」
そんな彼女はゆらりとノヴァの元にやってくると、慈悲深い表情でノヴァに手をかざしたのだった。
直後、彼女の掌からはまる天から差し込んだかのような光が発せられる。
その光は瀕死のノヴァを白く包み込み、なんと回復魔法すら受け付けなかった彼の傷を瞬く間に治してしまったのだ。
「うそっ!あの傷が綺麗さっぱりなくなった!?」
「あ、ありがとうございます。本当になんとお礼を行ったらいいか」
「なに。お主たちにはこの街を守ってもらった恩があるからの。本来ならわらわが対応すべきところを、申し訳なく思うておるのだ」
「それで……失礼ですが、あなたは一体どちら様ですか?」
「わらわはテキーラ・メルヴァーミャである」
「っ!?テキーラ様!?」
「なんだジョージ、知ってるのか?」
「知ってるもなにもこの方は……」
「この方こそ、光芒神聖教会の数多くいる聖職者の頂点であられるお方です」
「この人が……!」
テキーラと名乗った女性は、ノヴァの傷を治すとアレスたちに向き直ってドラゴンゾンビを討伐してくれたことを静かに頭を下げ感謝の意を伝えたのだった。
そんな彼女の名前にジョージは反応を示す。
そう、彼女こそがこの国で実質1番の権力を持つとまで言われる光芒神聖教会のトップを務める女性、テキーラ・メルヴァーミャであったのだ。
「しかし……お主であるな?あの厄災を退けたのは」
「え?俺ですか?いやぁ、俺1人じゃ空を飛ぶあのドラゴンを斬ることなんて出来もしなかったですよ」
「本当に助かったぞ。あれほどの穢れを纏った厄災ともなれば今のわらわでは祈りが足りなかったと思うのでな」
「祈りが足りなかった……?」
「テキーラ様のスキルは【祈り】。神々への祈りを心を込めて、長時間行うほど神力が増し強力な魔力を扱えるというものなのです」
(なるほど。ノヴァの傷を治せたのもそのスキルのおかげか……)
「であったとしても、本来ならあれが街に来た時点でわらわが表に出るべきであった。祈りの間が外界の情報を一切遮断してしまうことは考え物じゃの。本当にすまなかった」
テキーラは自分がこの街を守らなければいけなかったところを、アレスたちにその役割を任せてしまったことに深く謝罪と感謝を繰り返した。
光芒神聖教会本部の中央塔最上階にて祈りを行っていたテキーラは、儀式を行う部屋が外界の情報を遮断してしまうせいでこの騒動に気付くのが遅れてしまったのだ。
本来なら有事の際は中央塔に出入りできる上位の聖職者……主にヒーナッツェが彼女への情報伝達を行わなければいけなかったのだが……
「しかも、よりにもよってこの事件の引き金が教会の聖職者だったとは……のう?ヒーナッツェよ」
「テキーラ様……」
微かではあるが声を荒らげたテキーラの呼びかけに、ヒーナッツェは顔面を蒼白させながら恐る恐るこの場に姿を現したのだった。
「事情は大方聞かせてもらった。ヒーナッツェ。わらわが祈りを捧げている間にずいぶんな行いをしていたそうじゃな」
「も、申し訳ありませんでした……この件に関しましては深く反省しておりますので、どうかお許しを……」
「限度というものがあるだろう。貴様のした行いは決して赦されるものではないぞ」
「ひぃ!」
テキーラはヒーナッツェのした行いに怒りを燃やし、跪き許しを乞っていたヒーナッツェに静かに手をかざしたのだ。
それを見たヒーナッツェの表情が絶望の色に染まる。
「ま、待ってください!」
「……ほう。何事かの?」
「ティナ?」
だがテキーラがヒーナッツェに裁きを下そうとしたその時、なんとそれを見ていたティナが直前で制止したにだった。
「お主らはこの街の救世主。何か考えがあるというのなら聞いてはみるが……どうしたのじゃ?」
「ティナ……お前は知らなくて当然だがあいつはこの事件を引き起こした張本人だ。それでも命までは奪うなって言うのか?」
「いや、この状況を見ていれば彼が悪事を働いたのは理解できる。どちらかと言うと君を気遣っただけなんだが」
「俺を?」
「以前言っていただろう。君はもう誰も死なせたくはないと。そんな君が悪人とはいえ命まで奪うのは気が進まないんじゃないかと思ってな」
ティナがヒーナッツェへの裁きを制止したのは以前彼女がアレスの本心を聞いたからであった。
もう誰も死なせないと決意したアレスが裁きであったとしても人の命を奪うことに抵抗があるのではないかと気遣っての言葉だったのだ。
「なるほどな。俺のために言ってくれたのか。ありがとな」
「た、助けていただけるのですか……」
「でもな、俺は法の裁きであればそれは仕方がないことだと思ってるよ」
「ッ!!」
ティナがテキーラの裁きを制止したことに、ヒーナッツェは助かるかもしれないと考えその表情に希望を灯した。
だがその希望はアレスの発言によって粉々に砕かれることとなったのだ。
「もちろん罪のない人が理不尽に法で裁かれるのは見過ごせない。でもテキーラ様にはあいつを裁く権利があるんだろう?そして奴に裁かれるだけの理由があるなら俺は何も思わない」
「そ、そんな……」
「そうか。君さえよければ私も大丈夫だ」
「あ、ああ……どうか!!どうかお許しを!!これまでの自分の行いを深く悔い改め罪を償いと誓いますので……」
「ならぬ……断罪の光!」
「テキーラ様ぁああああああ!!」
一瞬生への希望をみせられたヒーナッツェは、その梯子を外されたことで深い絶望の沼へと叩き落とされることとなったのだ。
最後の望みをかけてテキーラに許しを乞うヒーナッツェ。
だがその懇願も虚しくテキーラの掌から放たれた眩い光が瞬く間にヒーナッツェの体を焼き焦がしてしまったのだ。
「ああああ!!!ああ、あああ……あ……あ……」
「……っ!」
「断罪の光はその魂に背負った業により肉体が辿る運命が決まる。悪事を重ねてきた貴様の魂では肉体は灰も残らぬだろうて」
テキーラの放った断罪の光によって、ヒーナッツェの体は一片のチリも残さず綺麗さっぱり焼かれてしまったのだ。
その様子に呪いから解放され復讐の念を断ったはずのヴィルハートは、どこか気持ちが軽くなったような表情をしていた。
「さて、奴の傍で甘い汁を吸っていた者もまだ多く残っているだろう。その者たちの処遇は後程決めるとして……ヴィルハート・レーンよ。貴様への処分も言い渡さねばな」
「っ!?なっ……そんな!!」
そうしてヒーナッツェへの処分を終えたテキーラだったが、その後振り向くと地面に跪いていたヴィルハートへ無機質な視線を送ったのだ。
「待ってくださいテキーラ様!この人はドラゴンゾンビの呪いのせいで正常な判断が出来なかっただけです!!」
「ならば問うぞ。ヴィルハートよ、貴様は自分がした行いに何の罪悪感も感じておらぬか?」
「……いいえ、テキーラ様。全ては私の心の弱さと無知が招いた結果です」
「ヴィルハートさん!」
「わらわも何の落ち度もなく、意識のなかった人間に罰を言い渡すほど無常ではない。だがお主はそうではないだろう?この未来を変える選択肢はいくつかあったはずじゃ」
「はい……それに、私は呪いに侵されていたとはいえ4人の聖職者を手に掛けました。自分に何の罪もないとは思いません」
「……!」
「うむ。それでは貴様への処遇を言い渡すとしよう。ヴィルハート・レーン……貴様は聖職者でありながら穢れに堕ち4人の命を奪っただけでなく、複数名の聖職者に対して殺害を計画し教会から追放されたのち教会本部への侵入を行った。よって……」
「……」
「ヴィルハート・レーン。貴様を国外追放とする」
「……え?」
ヴィルハートを庇おうとするアレスに対し、自らの行いを悔いテキーラの裁きを受け入れるつもりのヴィルハート。
だがそんなヴィルハートにテキーラが下した判決は国外追放というものであった。
「国外追放って……テキーラ様、それはあまりにも……」
「わらわに一度下した判決を変えろと申すか?いくら恩人の頼みとあってもそれは出来ぬな。それに……貴様はもう聖職者を続けることは出来ぬだろうしな」
「……?」
「はい。全てお見通しの様で……ですが、私はむしろ罰が軽すぎるのではないかと思うのですが……」
「言ったであろう。一度口にした判決は変えぬ。それに貴様はこの国を出て遊び歩くつもりなのか?」
「っ!!」
「……以上である。この騒動の後始末くらいはわらわに任せてもらおう。改めて、お主らには感謝の意を伝えたい」
「いえ、俺たちは出来ることをやっただけですので」
「うむ。それでは失礼させてもらう。最後に……ヴィルハートよ。これで終わりではないぞ?」
「はっ……本当に、申し訳ありませんでした」
テキーラは最後にアレスたちへの改めての感謝と、ヴィルハートへの助言を残しドラゴンゾンビの被害が生々しく残る街の中心部へと向かって行ったのだった。
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