9 / 48
9 ジェレマイア
しおりを挟む
⚠️ 子供の心身を虐待する人物が出てきます
ご不快な方は、読み飛ばしてください
◇◇◇
第2王子と共に、男爵令嬢ごときに引っ掛かって、篭絡されて。
思惑通りに後継者から外されたのに、直ぐに領地に戻されなかったのは想定外で、王都邸での母親と半年過ごした謹慎生活はキツかった。
息子が国王陛下も臨席する卒業パーティーで起こした醜聞は、それまでの学院内の問題だけで収まっていたケインやゴードンの比ではなく。
社交界で立場が無くなった母親はヒステリー状態に陥った。
「ジェレマイア! 何を考えてるの!
あんな、あんな下等な女に入れ込むなんて!
愚かなテリオスなんかと一緒になって調子に乗って!」
自宅内とは言え、第2王子殿下のお名前を呼び捨てにするくらい、母のイングリットは怒りに打ち震えていて。
その顔が見られただけでも溜飲が下がって、この選択は間違いじゃなかった、と確信した。
ジェレマイアは幼い頃から生傷が絶えなかった。
何も知らない人間はその傷を、騎士団の訓練に参加しているからだろう、と思い込んでいた。
細い物で打ち据えられたようなみみず腫れ。
それが腕にも足にも背中にもある。
一見爽やかな好青年に見える家庭教師からの躾と称した鞭を使った虐待。
そしてその教師を用意したのは、イングラム伯爵夫人。
つまり、王都邸に住むジェレマイアの母親が、息子への虐待を代わりにさせていたのだ。
自分が駄目な子供だから仕方がないのだ、と尊敬する教師から刷り込まれたジェレマイアは、誰にも訴えられなかった。
それに加えてジェレマイアの身の回りの世話をしていたメイドも着替えや入浴時に目にするその傷を見ないようして、リーブスには伝えなかった。
だが、訓練で負うすり傷とは異なる傷を複数確認した治療士のデイヴが報告してくれたのに、息子を守るべき父親は……
「鞭を使った躾は伯爵夫人の指示だった」と言い訳をした家庭教師と、憧れていた彼を庇って傷の報告を怠ったメイドは解雇したが。
「それが教育だと思い込んでいたのだから、仕方あるまい」と母親には何の対処もしてくれなかった。
◇◇◇
当初、ジェレマイアはミネルヴァがテリオスを支持する派閥が用意したハニートラップ要員だろうと踏んでいたのだが。
それを知ると、テリオスは口角を上げて、心底面白そうに笑った。
「あれがハニートラップだと気付いたのは流石だが、残念ながら我が陣営ではないね」
「では、ユーシス殿下の……」
ユーシスはテリオスより2歳年上の第1王子殿下で、共に王妃殿下から生まれたのだが、決して兄弟仲は良いとは言えない関係だ。
「そうだ、あちらの狙いは俺とケイン。
低位貴族の娘には食指が動くはずがないゴードンが引っ掛かったのは、計算外だった」
「ケインは辺境伯家だから、ですか」
「あぁ、ケインは真面目で忠実な奴だ。
学院で親しくしていた俺の支持派閥に辺境伯家が加わるのを恐れて、婿入りを阻止したかったんだろうな」
ジェレマイアは、テリオスから王家の恥部なる話を聞いていた。
そんな話を自分に聞かせてしまって良かったのかと確認すれば、テリオスは黙ったまま、いつもの計算された穏やかに見える微笑みを浮かべた。
母の王妃殿下が偏愛しているのが兄ユーシスで、父の国王陛下が推しているのは弟のテリオスで。
だがそれは、国王陛下が弟王子の資質を認めているから、ではない。
単に王妃と憎しみ合っているので、何であろうと王妃の邪魔をしたいだけなんだ、とテリオスは淡々と語った。
第1王子はもう20歳を迎えたのに、未だに立太子が叶わないのは、わざと国王がそれを先延ばしにしているからで、王妃とユーシスの派閥の忍耐も暴発寸前らしい。
現に、テリオスは度々毒を盛られるようになったが、それを知っても国王は静観している。
お互いに意地を張り続けて、関係を修復出来ない国王夫妻のせいでユーシスとテリオスの派閥争いが激化している現状を、代理戦争だとテリオスは嗤う。
「子供じみた意地とプライドを拗らせて、もうどうしようもない両親、はお前も同じだろ?」
憎い伴侶に嫌がらせをするためだけに、子供を手持ちのカードのように扱う。
テリオスの両親も、ジェレマイアの両親も同じ種類の人間だ。
そんな親も家も捨てるには、どうすればいいか。
鬱屈した思いに苦しかった時、同じ様に足掻くジェレマイアに気付いたのだ、とテリオスがいつもより真面目な表情を見せたから。
ジェレマイアも覚悟を決めた。
あれも、これもと欲張って、手にすることは出来ない。
だったら、余計なものは捨ててしまおう。
ただひとりを、手に入れるために。
ご不快な方は、読み飛ばしてください
◇◇◇
第2王子と共に、男爵令嬢ごときに引っ掛かって、篭絡されて。
思惑通りに後継者から外されたのに、直ぐに領地に戻されなかったのは想定外で、王都邸での母親と半年過ごした謹慎生活はキツかった。
息子が国王陛下も臨席する卒業パーティーで起こした醜聞は、それまでの学院内の問題だけで収まっていたケインやゴードンの比ではなく。
社交界で立場が無くなった母親はヒステリー状態に陥った。
「ジェレマイア! 何を考えてるの!
あんな、あんな下等な女に入れ込むなんて!
愚かなテリオスなんかと一緒になって調子に乗って!」
自宅内とは言え、第2王子殿下のお名前を呼び捨てにするくらい、母のイングリットは怒りに打ち震えていて。
その顔が見られただけでも溜飲が下がって、この選択は間違いじゃなかった、と確信した。
ジェレマイアは幼い頃から生傷が絶えなかった。
何も知らない人間はその傷を、騎士団の訓練に参加しているからだろう、と思い込んでいた。
細い物で打ち据えられたようなみみず腫れ。
それが腕にも足にも背中にもある。
一見爽やかな好青年に見える家庭教師からの躾と称した鞭を使った虐待。
そしてその教師を用意したのは、イングラム伯爵夫人。
つまり、王都邸に住むジェレマイアの母親が、息子への虐待を代わりにさせていたのだ。
自分が駄目な子供だから仕方がないのだ、と尊敬する教師から刷り込まれたジェレマイアは、誰にも訴えられなかった。
それに加えてジェレマイアの身の回りの世話をしていたメイドも着替えや入浴時に目にするその傷を見ないようして、リーブスには伝えなかった。
だが、訓練で負うすり傷とは異なる傷を複数確認した治療士のデイヴが報告してくれたのに、息子を守るべき父親は……
「鞭を使った躾は伯爵夫人の指示だった」と言い訳をした家庭教師と、憧れていた彼を庇って傷の報告を怠ったメイドは解雇したが。
「それが教育だと思い込んでいたのだから、仕方あるまい」と母親には何の対処もしてくれなかった。
◇◇◇
当初、ジェレマイアはミネルヴァがテリオスを支持する派閥が用意したハニートラップ要員だろうと踏んでいたのだが。
それを知ると、テリオスは口角を上げて、心底面白そうに笑った。
「あれがハニートラップだと気付いたのは流石だが、残念ながら我が陣営ではないね」
「では、ユーシス殿下の……」
ユーシスはテリオスより2歳年上の第1王子殿下で、共に王妃殿下から生まれたのだが、決して兄弟仲は良いとは言えない関係だ。
「そうだ、あちらの狙いは俺とケイン。
低位貴族の娘には食指が動くはずがないゴードンが引っ掛かったのは、計算外だった」
「ケインは辺境伯家だから、ですか」
「あぁ、ケインは真面目で忠実な奴だ。
学院で親しくしていた俺の支持派閥に辺境伯家が加わるのを恐れて、婿入りを阻止したかったんだろうな」
ジェレマイアは、テリオスから王家の恥部なる話を聞いていた。
そんな話を自分に聞かせてしまって良かったのかと確認すれば、テリオスは黙ったまま、いつもの計算された穏やかに見える微笑みを浮かべた。
母の王妃殿下が偏愛しているのが兄ユーシスで、父の国王陛下が推しているのは弟のテリオスで。
だがそれは、国王陛下が弟王子の資質を認めているから、ではない。
単に王妃と憎しみ合っているので、何であろうと王妃の邪魔をしたいだけなんだ、とテリオスは淡々と語った。
第1王子はもう20歳を迎えたのに、未だに立太子が叶わないのは、わざと国王がそれを先延ばしにしているからで、王妃とユーシスの派閥の忍耐も暴発寸前らしい。
現に、テリオスは度々毒を盛られるようになったが、それを知っても国王は静観している。
お互いに意地を張り続けて、関係を修復出来ない国王夫妻のせいでユーシスとテリオスの派閥争いが激化している現状を、代理戦争だとテリオスは嗤う。
「子供じみた意地とプライドを拗らせて、もうどうしようもない両親、はお前も同じだろ?」
憎い伴侶に嫌がらせをするためだけに、子供を手持ちのカードのように扱う。
テリオスの両親も、ジェレマイアの両親も同じ種類の人間だ。
そんな親も家も捨てるには、どうすればいいか。
鬱屈した思いに苦しかった時、同じ様に足掻くジェレマイアに気付いたのだ、とテリオスがいつもより真面目な表情を見せたから。
ジェレマイアも覚悟を決めた。
あれも、これもと欲張って、手にすることは出来ない。
だったら、余計なものは捨ててしまおう。
ただひとりを、手に入れるために。
355
あなたにおすすめの小説
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
【完結】一途すぎる公爵様は眠り姫を溺愛している
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
リュシエンヌ・ソワイエは16歳の子爵令嬢。皆が憧れるマルセル・クレイン伯爵令息に婚約を申し込まれたばかりで幸せいっぱいだ。
しかしある日を境にリュシエンヌは眠りから覚めなくなった。本人は自覚が無いまま12年の月日が過ぎ、目覚めた時には父母は亡くなり兄は結婚して子供がおり、さらにマルセルはリュシエンヌの親友アラベルと結婚していた。
突然のことに狼狽えるリュシエンヌ。しかも兄嫁はリュシエンヌを厄介者扱いしていて実家にはいられそうもない。
そんな彼女に手を差し伸べたのは、若きヴォルテーヌ公爵レオンだった……。
『残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました』『結婚前日に友人と入れ替わってしまった……!』に出てくる魔法大臣ゼインシリーズです。
表紙は「簡単表紙メーカー2」で作成しました。
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
瀬月 ゆな
恋愛
ロゼリエッタは三歳年上の婚約者クロードに恋をしている。
だけど、その恋は決して叶わないものだと知っていた。
異性に対する愛情じゃないのだとしても、妹のような存在に対する感情なのだとしても、いつかは結婚して幸せな家庭を築ける。それだけを心の支えにしていたある日、クロードから一方的に婚約の解消を告げられてしまう。
失意に沈むロゼリエッタに、クロードが隣国で行方知れずになったと兄が告げる。
けれど賓客として訪れた隣国の王太子に付き従う仮面の騎士は過去も姿形も捨てて、別人として振る舞うクロードだった。
愛していると言えなかった騎士と、愛してくれているのか聞けなかった令嬢の、すれ違う初恋の物語。
他サイト様でも公開しております。
イラスト 灰梅 由雪(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)様
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
【完結】嫌われ公女が継母になった結果
三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。
わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる