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26 リデル
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「……会いに来て、ごめん」と。
リデルの手を握り、ジェレマイアは謝った。
「どうして謝るの」と。
ジェレマイアに手を握られた、リデルは呟いた。
彼はわたしで、遊びたいだけだ。
そう思って。
傷付きたくないから、そう思おうとして。
2度と会いたくない、と自分自身に思い込ませたけれど。
もう認めてしまおう。
素直になろう。
リデルは、決心した。
「本当は会いに来てはいけない、と分かってる。
だけど、ケールからリィが花を受け取って、髪に挿してくれた、と聞いたら」
どうしても、その姿が見たくて。
ケールに頼んで、馬車の馭者として来た、とジェレマイアは続けた。
「時間になってもリィが出てこないから、ケールに見に行かせたけど、出来るなら俺があの男を」
きっと彼は、自分がクラークを追い払いたかった、と言ってくれようとしたのだろうが、リデルはもうクラークの話なんかで、この貴重な時間を使いたくないと、彼の腕を引いた。
「教えてジェレミー、何処に行けば、貴方の話を聞けるの?」
「……ジェレミー、って呼んでくれるのか?」
昔のように、ジェレミーと彼に呼び掛けたのは、彼女なりに覚悟をしたからだ。
彼は変わらずに、リィと呼んでくれたのに、リデルは頑なに一線を引こうとしていた。
でも、もう素直になると決めた。
ジェレマイアが贈ってくれたのは、白いビオラだけじゃない。
馬車は勿論そうだろうし、メイド達を使って、ドレスの手直しをする事を許してくれたのは、ジェレマイアだ。
ガイルズ夫人はドレスの手直しを、どちらの工房で? と尋ねた。
あれは言い換えれば、多くの人が関わっていないと、半日ではあの仕上がりにはならない、と女性向けの洋品店を営む専門家が断言したということ。
そんな工房並みの技術を持つ本邸のメイドを、何人も動かすのは、エルザにもエラにも無理だ。
そして、多分。
エラが借り物だと言ったこのコートとこの靴も、彼が購入してくれた物だ。
リデルのサイズに合った新しい品を、どこの誰が無料で貸し出してくれると言うのだろう。
何より、深く被ったフード……その意味は。
ジェレマイアは、リデルのために自分だとは分からないようにして。
自分と関わっていると知られることで、リデルに不利益な事になると心配して、彼は……
表立っては出来ないけれど、ジェレマイアは全てリデルのためを考えてくれていた。
今日、無事に戻れるか、ずっと心配してくれていたひと。
そんな様々な、あれこれが。
一気にリデルの中に流込んで、溢れ出す。
彼の真実を教えて欲しい。
彼から逃げるのではなく話し合って、これからの事を決めたい。
「今日の御礼だって、言いたかった。
ジェレミーに会いたかった。
だから、謝ったりしないで。
貴方と話がしたい。
わたし、何処でも、貴方に付いていくから」
「……」
リデルが彼の話を聞く前に、先ずは自分の気持ちを伝えれば。
ジェレマイアは無言で、口元を掌で覆った。
その表情は、深くおろされたフードによって隠れて見えないが、それが子供の頃からジェレマイアが照れた時にする仕草だとリデルは覚えている。
自分から何処でも付いていく、と言ったのは、ここケール家の前から離れた方がいい、と思ったからだ。
往来で、ドレス姿の娘と分厚いマントを羽織った馭者が、いつまでも手を取り合って見つめ合っていたら、目立ってしまう。
「ね、ジェレミー聞こえてる?」
「はぁー……聞こえてる、聞こえてるから。
も、もうちょっと……離れ……はぁあ、ここじゃ無理だ。
……やはり本邸に戻ろう。
俺もこれまでの事、王都での事、全部聞いて欲しいから」
大きな深呼吸を2回、彼はした。
◇◇◇
本邸へと走る馬車の中で、自分がこれからしようとしている事に、リデルは罪悪感を覚えていた。
帰る時間は大丈夫か、と馬車に乗る前に確認されて、頷いたけれど。
エラと約束した迎えの時間を横で聞いていたデイヴが、リデルの帰宅が遅くなれば心配するだろうとは、想像がつく。
しかし、今のリデルは気持ちを通わせたジェレマイアと離れ難くて、彼に付いていくと決めた。
嘘をつくので父には申し訳ないが、エラと話し込んでいた事にすれば、多少遅くなっても誤魔化せると思った。
エラも聞かれたら、合わせてくれるだろう、と都合よく考えた。
自分では自覚していなかったが、クラークと交際していた半年間では、時間が来たら、さっさと切り上げて帰っていた。
どんなにクラークに引き留められても、彼とまだ一緒に居たいからとか、離れがたいからとか。
それが理由で、デイヴに嘘をついた事もない。
そんな感じだったから、クラークに言わせれば『可愛げがない』リデルが、ジェレマイアになら。
デイヴに嘘をついてまで。
エラに嘘をつかせてまで。
一緒に居たい、と思ってしまう。
今じゃなければ、彼に聞けない事もある。
今じゃないと、わたしが言えない事もある。
このタイミングを逃したくない。
これからでも、ジェレマイアに帰ると言えば、黙って彼は送り届けてくれる。
けれど。
引き留められなくても、離れたくないと思い。
強制されなくても、自ら嘘もつく。
恋は人を愚か者にしてしまい、そうなることを躊躇わせない、と。
リデルは初めて知った。
リデルの手を握り、ジェレマイアは謝った。
「どうして謝るの」と。
ジェレマイアに手を握られた、リデルは呟いた。
彼はわたしで、遊びたいだけだ。
そう思って。
傷付きたくないから、そう思おうとして。
2度と会いたくない、と自分自身に思い込ませたけれど。
もう認めてしまおう。
素直になろう。
リデルは、決心した。
「本当は会いに来てはいけない、と分かってる。
だけど、ケールからリィが花を受け取って、髪に挿してくれた、と聞いたら」
どうしても、その姿が見たくて。
ケールに頼んで、馬車の馭者として来た、とジェレマイアは続けた。
「時間になってもリィが出てこないから、ケールに見に行かせたけど、出来るなら俺があの男を」
きっと彼は、自分がクラークを追い払いたかった、と言ってくれようとしたのだろうが、リデルはもうクラークの話なんかで、この貴重な時間を使いたくないと、彼の腕を引いた。
「教えてジェレミー、何処に行けば、貴方の話を聞けるの?」
「……ジェレミー、って呼んでくれるのか?」
昔のように、ジェレミーと彼に呼び掛けたのは、彼女なりに覚悟をしたからだ。
彼は変わらずに、リィと呼んでくれたのに、リデルは頑なに一線を引こうとしていた。
でも、もう素直になると決めた。
ジェレマイアが贈ってくれたのは、白いビオラだけじゃない。
馬車は勿論そうだろうし、メイド達を使って、ドレスの手直しをする事を許してくれたのは、ジェレマイアだ。
ガイルズ夫人はドレスの手直しを、どちらの工房で? と尋ねた。
あれは言い換えれば、多くの人が関わっていないと、半日ではあの仕上がりにはならない、と女性向けの洋品店を営む専門家が断言したということ。
そんな工房並みの技術を持つ本邸のメイドを、何人も動かすのは、エルザにもエラにも無理だ。
そして、多分。
エラが借り物だと言ったこのコートとこの靴も、彼が購入してくれた物だ。
リデルのサイズに合った新しい品を、どこの誰が無料で貸し出してくれると言うのだろう。
何より、深く被ったフード……その意味は。
ジェレマイアは、リデルのために自分だとは分からないようにして。
自分と関わっていると知られることで、リデルに不利益な事になると心配して、彼は……
表立っては出来ないけれど、ジェレマイアは全てリデルのためを考えてくれていた。
今日、無事に戻れるか、ずっと心配してくれていたひと。
そんな様々な、あれこれが。
一気にリデルの中に流込んで、溢れ出す。
彼の真実を教えて欲しい。
彼から逃げるのではなく話し合って、これからの事を決めたい。
「今日の御礼だって、言いたかった。
ジェレミーに会いたかった。
だから、謝ったりしないで。
貴方と話がしたい。
わたし、何処でも、貴方に付いていくから」
「……」
リデルが彼の話を聞く前に、先ずは自分の気持ちを伝えれば。
ジェレマイアは無言で、口元を掌で覆った。
その表情は、深くおろされたフードによって隠れて見えないが、それが子供の頃からジェレマイアが照れた時にする仕草だとリデルは覚えている。
自分から何処でも付いていく、と言ったのは、ここケール家の前から離れた方がいい、と思ったからだ。
往来で、ドレス姿の娘と分厚いマントを羽織った馭者が、いつまでも手を取り合って見つめ合っていたら、目立ってしまう。
「ね、ジェレミー聞こえてる?」
「はぁー……聞こえてる、聞こえてるから。
も、もうちょっと……離れ……はぁあ、ここじゃ無理だ。
……やはり本邸に戻ろう。
俺もこれまでの事、王都での事、全部聞いて欲しいから」
大きな深呼吸を2回、彼はした。
◇◇◇
本邸へと走る馬車の中で、自分がこれからしようとしている事に、リデルは罪悪感を覚えていた。
帰る時間は大丈夫か、と馬車に乗る前に確認されて、頷いたけれど。
エラと約束した迎えの時間を横で聞いていたデイヴが、リデルの帰宅が遅くなれば心配するだろうとは、想像がつく。
しかし、今のリデルは気持ちを通わせたジェレマイアと離れ難くて、彼に付いていくと決めた。
嘘をつくので父には申し訳ないが、エラと話し込んでいた事にすれば、多少遅くなっても誤魔化せると思った。
エラも聞かれたら、合わせてくれるだろう、と都合よく考えた。
自分では自覚していなかったが、クラークと交際していた半年間では、時間が来たら、さっさと切り上げて帰っていた。
どんなにクラークに引き留められても、彼とまだ一緒に居たいからとか、離れがたいからとか。
それが理由で、デイヴに嘘をついた事もない。
そんな感じだったから、クラークに言わせれば『可愛げがない』リデルが、ジェレマイアになら。
デイヴに嘘をついてまで。
エラに嘘をつかせてまで。
一緒に居たい、と思ってしまう。
今じゃなければ、彼に聞けない事もある。
今じゃないと、わたしが言えない事もある。
このタイミングを逃したくない。
これからでも、ジェレマイアに帰ると言えば、黙って彼は送り届けてくれる。
けれど。
引き留められなくても、離れたくないと思い。
強制されなくても、自ら嘘もつく。
恋は人を愚か者にしてしまい、そうなることを躊躇わせない、と。
リデルは初めて知った。
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