【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

Mimi

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34 シーナ

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 シーナは酒場で、見知らぬ女に声をかけられて。
 リデルの、いやデイヴとリデルのカーター親子の秘密を聞いた。


「あのふたりは、本当の親子じゃないんだよ」

「何を……証拠はあるの?」

「うーん、それを言われちゃ、あれだけど……」


 思わせぶりに言われて、ついもう1杯と奢りそうになる自分を押し止めた。
 結局、ちゃんとした証拠は無いと白状させて、シーナは期待した分、馬鹿馬鹿しくなった。
 こんな女に騙されて、1杯だけでも酒を奢るなんて、どうかしていた。
 
 酒は男に奢られるものであって、女に奢るものじゃない。
 あれもこれも全部、あいつらのせいだ、とますます腹が立つシーナだった。


「あの婆さんが言ってたんだよ。
 デイヴはリデルが実の娘でも無いのに、頭が下がるね、ってさ」

 席を立ったシーナの袖口を掴み、また女が話し出す。


「もういい、って。
 いい加減にしてよ、あの婆さんが、とか。
 適当に話作ってるんじゃないの」

「もう1杯だけ、飲めたらさ、全部思い出すと思うんだよ、婆さんの名前とか」

「いや、飲まさないから。
 最後まで全部話したら、飲ましてやるけどね」

 シーナが冷たく、袖を振り払うと、女はようやく本腰を入れて話し出した。
 これ以上は引き伸ばせない、と悟ったのだろう。 
 酒臭い息を吐いて、掌をシーナに向ける。
 

「あたしが働いていたとこの婆さんが、何か不思議な力を持ってて、こう手を当てて病人を治す女で。
 治療士の看板はあげてないのに、来るのは色々と訳ありみたいな奴が多かった。
 多分、紹介とかで来てるんだろうけど。
 そこにあのデイヴがよく、高熱を出した娘を助けてくれ、って来てたんだ」


 デイヴ・カーターは本邸に雇われている。
 それはつまり、イングラム領で1番の治療士だ。
 そのデイヴが年寄りの女に、リデルを助けて、って?


「あたしは元々イングラムの女だけど、婆さんもデイヴもよそ者だ。
 15年くらい前に住み着いた時は、デイヴは独り身だった。
 それから2年くらいして急に、5歳くらいの娘が出来ました、だから」

「それ……リデルは養女?」


 そんな話は聞いた事がない。
 この女が知ってるなら、他の人だって知ってるはず。


「リデルは妹の子供で、妹夫婦が亡くなって自分が引き取った、と回りには説明はしてたみたいだけど」

「じゃあ伯父さんと姪じゃない」

 伯父が姪を養女にして、何の問題がある。 
 だから、誰も何も言わなかった。
 如何にも訳ありな感じで話す女にいい加減げんなりしてきた。


「リデルは黒髪で、目は茶色だろ、この国では珍しい。 
 片や、伯父のデイヴは、この国に多い金髪に薄いブルーの目だ。
 婆さんも白髪だったけど、むかしは黒髪で目が茶色だった、と聞いてたのさ。
 それも普通の茶色じゃない。
 力を使うと、少し赤い色が入るのを、何度も見たよ。
 これは北大陸の人間が力を使った時の色だ、って婆さんは言ってたね」

「……」


 シーナはリデルの茶色の瞳が赤くなったところは見たことがない。
 だが、手を当てて貰うと体が楽になる優秀な看護士だと一部では有名なんだ、とシェリーから聞いた覚えはあった。


 北大陸は、ここからは遥か遠い。
 どんな所なのか、シーナには想像さえつかない。 
 女が言うにはデイヴは移住者だが、シーナから見ても彼はこの国の人間だ。
 死んだ彼の妹は、北大陸の人間と結婚したのだろうか。

 
 治療士の伯父が治せない姪の病気。
 それを治せる北大陸出身の老婆。
 老婆が使う力とは何だ…… 
 リデルは老婆と同じ様に、手を当てて……


「……その婆さんは、もしかして……魔女?」


 女はそれに答えず。


「これで全部だよ、あたしは聞いた事や見た事を並べただけさ。
 婆さんの事も魔女なんて言ってない。
 不思議な力を使うと言っただけ。
 ……後は自分で考えな」



  ◇◇◇



 昨日と同じ店、同じ場所に、その男は立っていた。

 昨日と同じマントを着て、フードを被り、背中を向けている。
 そうして昨日と同じ様に同じ女、リデルを待っている。

 治療院の終業時間まで、結構あるのに。
 もうこんな時間から待っているんだと思うと、殊更リデルが恨ましく、妬ましい。

 最初にどう声をかけようか、とここに来るまで悩んでいたが、いざ男の姿を確認すると、成るように成る、と思えた。
 何せシーナは自分から男に声をかけて、邪険になどされた事がない。
 自然と自分に、自信を持っていた。


 それでも、この男の好みがリデルであるのなら、少しそれ風にしてみようか、ちょっと真面目な感じで。
 そう決めて、隣に並ぶ。


「あの……リデルを待っていらっしゃるんですか」


 いつもより、おずおずと遠慮がちに声をかけてみる。
 が、男は手にしている小型の地図本を熱心に読んでいるのか、こちらを見ない。
 仕方がないので、もう一度。


「リデルを、待って、……」

 そこで男がこちらを見た、気がした。
 何せ、フードを深く被っていて、口元しか見えない。
 その唇からは、シーナが話しかけているのに、少しも返事が返ってこない。

 そうか、ちゃんとわたしの顔が見えていないからだ、と気付いて。
 男がそのまま無言で離れようとしたので、マントを掴み、1歩近付いて、フードの中を覗きこんだ。

 そこには想像以上に端正な作りの顔があり、どこかで見たような気もしたが、赤毛でこれ程綺麗な男なのに不思議とはっきりした記憶がない。
 だが、咄嗟に掴んだマントの手触りで、それが高級なものだということは分かった。

 シーナはホテルで働いていて、クロークで預かるコートやマントの手触りで、その人物が裕福か、どうかが分かるようになっていたからだ。


 この時間にあくせく仕事をしなくてもいい男。
 背が高く、容姿は極上。 
 身に付けている物も、高価で。
 そして、女にまめだ。
 出自の分からない、リデル・カーターには勿体ない。


 最初の予定は、直接リデルに会い、
「あんたは娘でも姪でもない、デイヴと血が繋がっていない赤の他人なんでしょ、北大陸から来た魔女だと皆にばらすから」と言ってやるつもりで、昨日待ちぶせをしていた。
 しかし、話しかける前に本屋に入られて、この男の存在を知った。
 それで作戦を変えた。
 リデルにではなく、この男に教えてやろうと思ったのだ。

 きっと男は、魔女であるリデルと別れるだろう。
 昨日まで優しかった男に急にふられるのは、どんなにきついか、シーナはクラークにされて知っている。

 その理由を告げられて、傷付き。
 その理由を教えられなくても、傷付く。
 それを、リデルへの復讐にしようと思った。


 その上で、この綺麗な赤毛の男はわたしが貰うとシーナは決めた。
 回りを見回して、近くに人が居ないか、確認する。
 
 そして、いかにも心配する様子を見せて、男に囁いた。


「わたしはシーナといいます。
 リデルの友人です。
 リデルの事で、大事な話があるんです。
 貴方以外には、知られたくない話です。
 あの子を魔女だという人がいます。
 少し、お時間を貰えません?」 

 
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