とある彼女の災難な日々

饕餮

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 その日、あたしは日本に戦闘機を運ぶための任務で上官のケイン・コスナー中将ヴァイス・アドミラルや同僚と一緒に、空母セオドア・ルーズベルトに乗っていた。
 日本と共同で使っている基地の航空祭で、日本にない機体を展示するということで、日本に行く途中に補給としてこのふねに寄ったのだ。
 日本に行く予定の機体は、F-18ライノF-14トムキャットF-22ラプター。ラプターは空軍エアフォースが貸してくれた機体で、他は海軍ネイビー海兵隊マリーンが使ってる機体なんだけど、ライノ――スーパーホーネットは急遽日本行きが決まった機体だったりする。

 まあ、任務を言い渡された本人は、日本に行けることをすごく喜んでいたんだけどね。

 それはともかく、このあとあたしはラプターを日本に運ぶはずだったんだけど……。

「というわけで少佐ルテナント・コマンダー、ラプターを日本に運ぶ仕事が無くなったんだが……【ファルコン】には別口の任務に就いて貰いたい」
「……海軍特殊部隊ネイビーシールズ所属の狙撃手ヒットマン、フランチェスカ・ラングレン、了解しました」

 あたしのコードネームでそう言った中将に頷くと、中将も表情を引き締める。

「それで? ラプターを運ぶ以外の任務とは?」
「……これだ」

 中将が懐から一枚の写真を出すとそれをあたしに渡す。その写真にはくすんだ金髪にヘーゼルの瞳をした壮年の男が写っていたが、その男に見覚えがあった。

「あら……麻薬王、ナッシュ・マッケナーですか。でもなぜシールズがマッケナーを?」
「ネイビーとマリーンの何人かがヤツの手で殺されててね」
「……それは自分ではなく、FBIやNCISの仕事では?」
「その二つの組織の捜査員エージェントですら殺されている。だから俺を通して君に依頼が来た、というわけだ」

 「中将に」と日本行きを命じられた人物が持って来た箱を持ち上げて難しい顔をする中将。箱の包装を解いて中から取り出したのは、小さな封筒だった。その封筒以外にも何か入っていたが、中将が苦笑した様子からすると、先月行われた中将の結婚式に出られなかった連中からのお祝いらしい。もちろんあたしはあの結婚式に出ていた。
 ほとんど知られてはいないけど、彼は元シールズであり、あたしの上官でもある。つまり、『秘密裏に消せ』と言うことよね、これ。

「……つまり、中東の時のように秘密裏に消せ、と? しかも、自分の単独で?」
「単独ではないが……詳しくはこれに入っている。必要なものがあるなら言え。向こうで用意させる」

 そう言った中将に封筒ごと手渡される。封を開けて見れば中にはマイクロSDカードが入っていた。それを自分の端末に入れて情報を読み込み、内容を読んで表情を消す。

「……本国に帰る為の機体はありますか?」
空軍エアフォースからラプターとライトニングを借りて来ているのは知っているな? それでいいなら乗っていけ」
「すごく迷う選択ですね……。そう言えば……なぜラプターと開発中のライトニングを借りたんですか?」
「ラプターに関しては、日本にある基地で共同で使ってるのがあっただろう? あそこの基地の航空祭で日本にない機体を展示したいと、打診という名の命令があってな。ラプターなら映画で何度も使われてるから知ってるだろうし盛り上がりそうだと思って借りたんだが、最初の段階で乗り手がいなくてな……。まあ、日本のF-2のベース機でもあるファントムを持って行くから、それはそれで何とかなりそうではあるが……」
「ああ、なるほど……それでですか。ラプターの乗り手として自分を連れて来たのはいいけれど、たまたまやって来た彼の機体がライノだったし、罰のつもりで彼に話したら逆に喜ばれたと……」
「その通りだ」

 先ほどの彼の状態を思い出して二人して苦笑する。

「ではライトニングは?」
「押し付けられた、と言うのが正しいな。飛行実験を俺か君にやってもらう筈だったんだが、その暇もなく今回の依頼が来てな……。実験データを収集がてら返品してくれると有難いが」

 そう言った中将に、ラプターも捨てがたいけど開発中の機体なんて滅多に乗れないしと思ってライトニングに乗って行くことに頷くと、彼は「やってくれるか」と嬉しそうに笑った。

「なら、エアフォースには連絡を入れておく。準備が出来次第、エリア51に行ってくれ。そこからの方が、ヤツの潜伏先と思われる場所に近い」
「イエス、サー」
「他に必要なものはあるか?」
「でしたら、エリア51からの移動手段を。単独になるようでしたら、バイクがいいんですが……」
「なら、それも頼んでおこう。すぐに行けるか?」

 勿論ですと答えると中将と一緒に部屋を出て格納庫に行き、とある一室で耐Gスーツに着替えて装備を整える。

空軍エアフォースには【ファルコン】で伝えておいたがよかったか?」
「それは当然です。それが自分の作戦行動中のコールサインであり、戦闘機に乗る以上、【ファルコン】を名乗る理由でもありますから」
「……そうか、わかった。健闘を祈る」

 敬礼した中将はあたしから離れるとそのまま何処かへ行ってしまった。耐Gスーツを身に付けて格納庫へと降り、その場にいた整備士の連中とやり取りしてライトニングに乗り込んで発進準備を整えると、機体が格納庫から甲板の滑走路へと上がる。

「とりあえず、垂直離陸から実験開始かしらね?」

 そんなことを呟き、徐々に上がって行くエンジンの爆音を聞きながらあちこち弄って確かめる。

「さて、本国に帰りましょうか」

 垂直離陸で艦から飛び上がると艦の上をしばらく飛び回り、「ラプターにももう少し乗りたかったな……」と呟いてそのまま本国に向かって発進させた。


「すげえ……女だてらにマジかよ……」
「初見で乗りこなすとは……」
「来た時、ラプターも楽々着艦させてたよな……」

 などなど、セオドア・ルーズベルトの整備士やパイロット達が騒いでいたなんて、あたしは全く知らなかった。


 ***


《こちら【ファルコン】。識別コード……》

 エリア51に着くと、コールサインと識別コードを告げて着陸許可を申請する。

《【ファルコン】って……女か?!》
《それに何か問題が? ライトニングの飛行実験用データがいらないなら、このまま山中にでも着陸させるけど?》
《いや、それは困る! 【ファルコン】が乗って来たなら、是非ともデータは欲しい! あ、着陸前に、基地の上空でバレルロールやってくれ!》
《……それはエアフォースの得意技じゃないの?》
《【ファルコン】のバレルロールは綺麗だとあちこちで噂になってるからな。是非とも見たい!》

 なんですか、その噂は。誰がそんなもん流したんだ、エアフォースのプライドはどこ行ったと思いつつ、基地上空でバレルロールをする。コックピットから見えた地上では、基地内にいる筈の沢山の奴等が滑走路に出ていた。しかも、通信の向こうでは、歓声まで上がっている。

(お前ら、暇人なのか……?)

 そう思うものの、すぐに許可が降りてライトニングを着陸させ、指示に従って機体を格納庫に移動させる。女だと知らなかったらしい連中があたしが機体から降りると驚いた顔をしたけどそれも一瞬で、エアフォースの連中が「ライトニングのデータを早く寄越せ」と言わんばかりにわらわらと寄って来て囲まれてしまった。
 もちろん、主観ではあったけど乗った感想や気付いたことを伝えれば、彼らは頷きながらすごい勢いでライトニングに近付いて行ってた。それを横目に見ながら基地内部の方へと歩いていた時だった。

「迎えに行って来いと言われて誰が来るのかと思っていたんだが……フランチェスカ、お前が来るとはね」

 そう声をかけられて振り向けば、ブラウンの髪、グレーの瞳の男が――あたしの恋人で同じ海軍特殊部隊ネイビーシールズ所属の少佐、ダニエル・ブランドンが苦笑していた。ついてこいと言ったダニーの横を歩きながら、小さな声で話す。

「休暇中と聞いてた筈だが?」
「そうだったんだけど、あてが外れたの」

 肩を竦めながら「だからお土産はなしよ」と言えば、ダニーは苦笑していた。

「そうか……。なら、しばらくは一緒の行動だな」
「そうね」
「なら、久しぶりにお前を抱けるな」

 いいだろう? と聞いてきたダニーに「作戦が終わるまではダメよ」と言えば、ダニーはがっかりしたように溜息をついた。

「まあ仕方ないか。別口で頼まれていた準備は整っているぞ?」
「なら、さっさと終わらせて帰りましょう? 着替えるからちょっと待ってて」

 ダニーを待たせてさっさと迷彩服に着替えると、ダニーが乗ってきた車に乗り込んで基地を後にする。


 ――運転しているダニーを見ながら、あたしは中将からもらった情報を思い出して内心で溜息をついた。


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