姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮

文字の大きさ
5 / 15

過去問題と暴かれた実力

しおりを挟む
「それでは、はじめ!」

 学園長の合図で、伏せられていた紙を裏返します。それから問題を読み、次々に答えを書いていきます。
 静まり返る室内には、ペンを走らせる音、話し合いをしているのか小さな声と、見守ってくださっている方の息遣いしか聞こえません。時折ミランダがうーうー唸っておりますが、誰も――兄も話しかけません。
 話しかけた瞬間に、ミランダの制限時間がなくなるとわかっているのでしょう。
 集中しているうちにそれらも聞こえなくなり、どんどん問題を埋めていきます。
 試験問題は歴史、算術、マナーの三種類。学園では国語、歴史、算術、魔術、マナーの五種類を基本とし、あとは自分の能力や将来を考慮したうえで希望する学科をいくつか選び、専門的に学ぶことになります。
 とはいえ、今出されている問題はあくまでも基本のものだけですので、きちんと勉強していればわかる範囲のものばかり。中には今年の試験で見た問題もあります。
 意地悪な問題もいくつかありましたが、なんとか解くことができました。

「そこまで」

 学園長の言葉に我に返り、ペンを置きます。見直す時間がありませんでした……。三分の一とはいえ、一教科の時間で三教科の問題を解かなければならなかったので、仕方がないですね。
 全部の問題を解いたわけではありませんが、それでもわかるものは全て回答したつもりです。……合っているかどうかわかりませんが。
 学園長とオビエス様が手分けして答えの確認作業をしていらっしゃいます。

「ふむ……。差は歴然だな」
「そうですね」

 あっという間に確認を終えたお二人は、ミランダの答案用紙を見て、揃って溜息をついています。そしてまずはミランダの解答用紙を兄に手渡しました。
 それを見た兄が息を呑みます。

「こ、これは」

 ミランダの答案用紙を見て、兄は息を呑みます。さて、ミランダはどれほど問題を解いたのでしょうか。

「アルマス・ジョンパルト。回答できている問題がほぼない。これでもオフィリア嬢が不正をし、ミランダ嬢がSクラスに入れると言うのかね?」
「……っ」

 学園長の言葉に、顔色が悪くなる兄。まさか、ミランダの回答がほぼ白紙だとは思いませんでした。

「そしてこちらがオフィリア嬢のものです。学力の差は歴然としています」
「そ、そんなバカな! オフィリアには教師をつけてなどいなかった! なのに、なぜ!」

 ……それをここで言うんですか、兄は。バカですか?
 兄の言葉を受け、見学していた方たちの目と顔が厳しくなりました。どう聞いても虐待していたと取れる発言ですものね。

「ほう? つまり、オフィリア嬢は家庭教師がいなかったにもかかわらず、独学で勉強したということになる」
「そうですね。オフィリア嬢、勉強はどのようにしていたのですか?」
「一応、八歳までは家庭教師がいたのです。けれど、途中でわたくしだけ勉強しなくていいと、ジョンパルト伯爵とそちらにいらっしゃる令息に言われました。それ以降は、家の書庫にある本で勉強をいたしました」
「嘘をつくな! ぎゃあ!」

 兄が否定すると、雷が落ちました。学習しない人ですね。
 そんな兄の様子を見て、殿下も側近候補の二人も、学園長と教師三人もオビエス様も、呆れたように兄を見ています。殿下に至っては溜息までついていますね。
 その後、オビエス様がわたくしのほうへ向きなおります。

「なるほど。これだけの差があり、ミランダ嬢が怠けていたのであれば、教師もきっとオフィリア嬢を褒めたことでしょう」
「恐らくは。それが気に入らなかったのだろうな」
「ミランダ嬢もきっと何かしらの嘘をついたのでしょうしね」
「そ、そんなことしてな、きゃあ!」

 ああ、ミランダも学習しない子でしたか。……ジョンパルト伯爵家の未来は大丈夫でしょうか。

「実際はどうだったのだ、オフィリア嬢」
「同じ問題を出されたのですが、ジョンパルト伯爵令嬢はわからないと泣きました。教師が噛み砕いて丁寧に説明してくださっても、そのお話を聞くことなく、ただ泣き喚くばかり。その声を聞きつけた伯爵夫人が飛んできて、教師に説明を求めました。そこで伯爵令嬢の状況とわたくしの出来を褒めてくださったのですが、夫人は伯爵令嬢の「先生がっ! お姉様がっ!」との言葉により聞く耳を一切持つことなく、先生は解雇され、別の方になりました」
「そして勉強しなくていいと言われたと」
「はい」
「わたしは、やってないわっ、あああっ!」

 連続で雷を落とされたからなのでしょう。ミランダはとうとう泣き始めてしまいました。その様子に、学園長もオビエス様も、冷ややかな目でミランダを見ています。

「嘘をつくのも大概にしたまえ! まったく……。これで不正はないとわかったな、二人とも」
「学園長のおっしゃる通りです。自分の学力すら把握できないのですか?」
「「……」」

 学園長とオビエス様の言葉に、兄とミランダが黙ります。

「入学早々に問題を起こすなど、前代未聞だ。恥を知れ! これより処分を言い渡す。アルマス・ジョンパルトは十日間、ミランダ・ジョンパルトは一ヶ月間の自宅謹慎を命ずる。その間、しっかりと勉強すりように」
「「そ、そんな!」」
「そんなではない! 謹慎が不服か? ならば退学でもよいのだぞ!」

 十日間と一ヶ月間とは、かなり長いです。それは仕方がないのかもしれません。
 問題行動と制服の横領に加え、虚言を調べもせず鵜呑みにしましたもの。
 怒り心頭な学園長おうぞくの覇気に、兄とミランダがすくみ上り、顔色も真っ青です。

「「……っ」」
「それが嫌であれば、謹慎しなさい。ああ、それと、アルマス・ジョンパルト。次の試験で点数が悪ければ、Cクラス落ちになる。しっかり勉学に励むように」
「……っ! は、はい」

 とうとう兄も学力で咎められてしまいました。身に覚えがあるのか兄は顔色を真っ白にさせ、震えています。

 この学園は、成績が悪くなる、またはよくなるとクラス替えをするという制度があります。軽いものならクラスが変わることはありませんが、大幅な増減はクラスが変わる対象になるのです。
 特に特待生として入学した場合、成績が落ちるということはいろいろと融通や優遇されているものが使えなくなるばかりか、下手をすると退学になる可能性もあるのです。
 まあ、貴族で特待生になる方は滅多におりませんが、家に事情や問題があると特待生になる場合があるのです――わたくしのように。
 ひとまず確認はできたからと、学園長が退室を促します。学園長と三人の教師、オビエス様にお礼を言うと、部屋を出ました。

「オフィリア嬢、制服を取りに行こう」
「そう、ですね。あまり行きたくはありませんが」
「どうしてです? ご自分の家でしょう?」
「ええと、その……。あのお二人の言動からわかるかと思いますが、今までずっと、家族として接していただいた記憶がありません。もちろん、使用人たちもそれに倣っています。なので、行きたくないというか……」
「……」
「やっと入学式を終え、学園の寮に逃げ込むことができるようになったのに、制服のためとはいえ、家に戻るのは憂鬱なのです」

 わたくしの言葉に、殿下をはじめとした三人が黙り込んでしまいました。

しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

私の、虐げられていた親友の幸せな結婚

オレンジ方解石
ファンタジー
 女学院に通う、女学生のイリス。  彼女は、親友のシュゼットがいつも妹に持ち物や見せ場を奪われることに怒りつつも、何もできずに悔しい思いをしていた。  だがある日、シュゼットは名門公爵令息に見初められ、婚約する。 「もう、シュゼットが妹や両親に利用されることはない」  安堵したイリスだが、親友の言葉に違和感が残り…………。

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。

曽根原ツタ
恋愛
 ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。  ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。  その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。  ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?  

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

妹のことが好き過ぎて婚約破棄をしたいそうですが、後悔しても知りませんよ?

カミツドリ
ファンタジー
侯爵令嬢のフリージアは婚約者である第四王子殿下のボルドーに、彼女の妹のことが好きになったという理由で婚約破棄をされてしまう。 フリージアは逆らうことが出来ずに受け入れる以外に、選択肢はなかった。ただし最後に、「後悔しないでくださいね?」という言葉だけを残して去って行く……。

【完結】何でも奪っていく妹が、どこまで奪っていくのか実験してみた

東堂大稀(旧:To-do)
恋愛
 「リシェンヌとの婚約は破棄だ!」  その言葉が響いた瞬間、公爵令嬢リシェンヌと第三王子ヴィクトルとの十年続いた婚約が終わりを告げた。    「新たな婚約者は貴様の妹のロレッタだ!良いな!」  リシェンヌがめまいを覚える中、第三王子はさらに宣言する。  宣言する彼の横には、リシェンヌの二歳下の妹であるロレッタの嬉しそうな姿があった。  「お姉さま。私、ヴィクトル様のことが好きになってしまったの。ごめんなさいね」  まったく悪びれもしないロレッタの声がリシェンヌには呪いのように聞こえた。実の姉の婚約者を奪ったにもかかわらず、歪んだ喜びの表情を隠そうとしない。  その醜い笑みを、リシェンヌは呆然と見つめていた。  まただ……。  リシェンヌは絶望の中で思う。  彼女は妹が生まれた瞬間から、妹に奪われ続けてきたのだった……。 ※全八話 一週間ほどで完結します。

永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~

畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。

処理中です...